小さな罪
何十年経っても、自分の心が衝撃を受けた言葉は忘れられないものだ。
それは、私がまだ幼い頃、母はまるで呼吸をするように自然に言った。「お前は橋の下から拾ってきた子なんだよ。」
私を拾うことで母に何か利益はあったのだろうか、何の為に拾ったのだろうかなんて、幼い私は考えることもせず、ただ母の言葉に傷付き、いつからか母に関心を持ってもらうにはどうしたらいいのか考えるようになった。
ただでさえ嫌われているのだから、迷惑はかけるまいと、必要以上に母を心配させてはいけないと思い、不細工な容姿を理由にいじめられても、学校は1日も休まず通った。「ブス」、「気持ち悪い」などの単語は、私のためにあるものだと思った。誰にも顔を見られないよう、いつも下を向いてあるいた。有名な上向きの曲とは正反対だが、下を向いて歩けば、涙が溢れても誰も気付かない。
今となっては無駄だと思えるものでも、【友達】が持っているから欲しかったものってあるよね。例えば、いい香りのする消しゴムや、無駄に可愛い鉛筆のキャップ。それらの【無駄】なモノを一切買ってもらったことはない。
近所の飛美ちゃんは言った。「里佐ちゃんの家は貧乏だから、買ってもらえないんでしょう?」
そうか、うちは貧乏なのか。
可愛い消しゴムが欲しいと母に数えきれないほどお願いし、ある時聞いてみた。「うちが貧乏だから、私は買ってもらえないと飛美ちゃんに言われたんだけど、本当なの?」
母は一言、「飛美ちゃんとあんたの家比べてごらん?」
飛美ちゃんは、平屋建てのオンボロ賃貸住まいだった。一方、我が家も古くはあるが、持ち家だった。
相変わらず、母は私に無駄なモノ、無駄なお金は持たせなかった。それでも、友達と集まったりすると、皆でお店に行ってお菓子を買って食べたりするから、本当に少しでもいいからお金が必要だった。私は友達とお店に行っても何も買えないから、いつも見ているだけだったが、ある日、ほんの出来心で、母の財布から小銭を盗んだ。いくらだったか金額は覚えていないが、盗んだことは確かだ。盗んだ小銭で自由を得た気がした。私も皆と同じようにお菓子を買ったのだった。