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【82】初めての感情。

「パーティでしたいこと?」


「うん。僕の時は戦争の次の年だったからあんまり壮大にはやらなかったけど、ソフィは特別な理由がある訳でもないし、せっかくだから派手にやってもいいんじゃないかなって思って」


 セドリックの言葉に私は首を傾げる。確かに成人するわけだし何かしらした方がいいかもしれないが、急に言われても思いつかない。強いて言うならお酒が飲みたいが、この身体がお酒に強いのかどうかも分からないし、もしすごい弱かった時恥ずかしい思いをするのは嫌だ。強いとわかっているなら酒池肉林のような真似をするのもありなのだが。


「うーん……特にこれといって……。ほかのみんなはどんなことしてるの?」


「そうだね……。僕はあんまり招待しなかったし、クロムはパーティの規模が桁違いだから比較できないし……」


 そう聞かれると分からないね、とセドリックは苦笑した。彼は私以上に物欲がないし、パーティも重要なものしか出ない。宮廷騎士団になってからは尚更だろう。いずれは公爵を継ぐのだから宮廷騎士団は早めに辞めると思うが、クロムのことだしギリギリまで引き留めるか在籍だけでもさせそうだ。

 それは置いといて、私よりセドリックの方がそういう場に出ているはずだからと聞いてみたが、彼も考えこんでしまった。しばらく沈黙が続く。


「六歳の時みたいに、色んな人呼んでダンスしてご飯食べるみたいなのでいいよ。誕生日パーティ自体大規模なのは六歳のときくらいだったし」


 六歳の頃のパーティは聖誕祝祭(ファンティスタ)前だったのもあって貴族が沢山集まっていたが、その他の年は私が乗り気じゃなかったこともあって身内だけで済ませていた。

 ただ今年からはそうとはいかない。十五の聖誕祝祭(ファンティスタ)を終え、子供の社交界から大人の社交界へと移る準備をして、十六の誕生日を迎え成人して大人のレディとなるのだ。やっぱり派手なものじゃないと駄目なのだろう。


「このままだと父上のおまかせプランになっちゃう」


「え? 全然それでいいよ? むしろそっちの方が有難いし、なんなら何やるか分からないからサプライズみたいで面白そう」


 セドリックの言葉にそう答えると、父上のことだからすごい派手になっちゃよ、と返された。確かにそんな気はする。

 ドレスはあの後マダムの店に行って選んできたし、招待したい人のリストアップも終わっている。当日の料理や飾り付けや内容は全部父に丸投げしたいところだが、さすがに少しくらいは自分で考えないとなと頭を悩ませた。



 色々考えに考えた結果、流れとしては普通のパーティだがひとつひとつに凝っていこうということになった。

 今日は選んだドレスを受け取りにマダムの店に行っている。本当は一人で行く予定だったが、セドリックも見たいと言うので一緒に来た。いつものように扉を開けて中に入ると、カウンターの奥からマダムが出てきて笑顔を浮かべた。


「ソフィ様、今日はセドリック様も一緒なのですね。この前選んでいただいたドレスの調整、終わりましたのでご確認ください」


 そう言ってマダムは奥から一着のドレスを持ってくる。トルソーに飾られた淡い水色のドレスは、光を受けて白く輝く私の銀髪によく似合う。一番上に重ねられたチュールには繊細な刺繍が施されていて、シルエットはシンプルだが全体的に華やかだ。最初に見た時は袖なしだったが、お願いして足してもらった薄く透ける袖は下にいくにつれて広がっており、動かすと揺れる布から見える腕が細く綺麗に見えるようになっている。聖誕祝祭(ファンティスタ)の時のドレスも最高傑作だったが、今回のドレスはそれに勝るとも劣らない。今まで見たどのドレスよりも美しい。


「最後に一度合わせて、調節が終わりましたら屋敷へ送ります」


 マダムはそう言うとドレスの裾の部分を軽く持ち上げて、試着するよう促した。私はそれに従い、カーテンで仕切られているフィッティングルームに入る。ドレスを着て鏡を見ると、自分の姿とは思えないほど美しく輝いていた。


「セドリック様にもお見せしましょう」


 そう言われフィッティングルームを出ると、セドリックはしばらく固まっていたが、こちらを見て口を開く。


「凄く似合ってる。少し早いけど、成人おめでとう」


 セドリックはそう言いながら私の前で膝をつき、手を取って甲に唇を落とした。変な声が出そうになるのを必死に抑えながらありがとうと返すと、立ち上がり当日が楽しみだね、と微笑んだ。

 そのあと元のドレスに着替えて、マダムにお礼を言って屋敷へ戻る。玄関ホールに入ったところで侍従がセドリックを呼び止め、そのまま別れることになった。

 階段を上り自室に入ってドアを閉めると、やっと落ち着くことができた気がする。ドレスを脱いでベッドに倒れ込み天井を見つめた。


(セドリックで瀕死だったのに……ラルークにあんなことされたら、確実に心臓がもたない! あぁもう、誕生日終わってから好きなの気付けばよかった!)


 今更どうしようもない後悔をしながら、じたばたとベッドで暴れ回る。一度好きだと自覚してしまうともうあとは沼に落ちていく一方だ。ふと過去のことを思い出して、そういえばあの時のラルークがかっこよかっただとか、やけにドキドキしたとかを思い出したり、そんなことばっかり考えている。こんな気持ちになるなんて、本当に想定外だ。今なら少女漫画の主人公の気持ちが分かる気がする。人を好きになるって大変だ。ひとしきり悶えた後、ベッドの上で正座をしてこれからのことを考え始める。


 とりあえず、ラルークに伝えるかどうか。私が好き婚約したいなんて言い出したら、彼は立場上私の事がめちゃくちゃ嫌いだったとしても断れないだろう。……だとしたら私から伝えるのは難しいかもしれない。となれば誰かを経由して振られるか、ラルークが言ってくれるのを待つか……。


(……ラルークが好きな人って誰だろう。というか、そもそもそういう人居るのかな? 魔法ラブ人間じゃない)


 三度の飯より魔法が好きみたいな所があるし人間なんかこれっぽっちも好きじゃない可能性はある。研究してる人とか頭がすごい良い人とかは人間嫌いが多いし。


(うわぁーっ、もうだめ、そう考えたら脈ナシじゃん! 私と話す時より魔法のこと話してる時の方が楽しそうな気もしてきた!)



 私は枕を抱え込んで再度ベッドに転がる。そして過去一番大きいため息をついた。

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