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【78】先行き不安。

 あれから数日後、アズィムは爵位剥奪とそれに伴い領地の没収、国境付近の開拓村への追放が決まったらしい。そしてアリサリスは辺境の修道院送りになったとのことだった。本当は父が極刑にしろとベルク陛下に頼みに行っていたからもう少し重い刑になっていた所だが、そこまではしなくていいと止めたのだ。その代わり、慰謝料的な感じで私個人が自由に使えるお金を貰った。公爵家だからお金には困っていないし欲しいものがあったら好きに買っていいとは言われているけど、何となく人のお金を好き勝手使うのは気が引けるところがあって自分のお金でやりくりしたいと思っていてからちょうど良かった。


 少ししてアズィムの事が貴族界で広まったのか、公爵家に手紙が沢山届いた。おそらく大半がアズィム側に居た人間たちからだろう。中にはアズィムに加担した貴族のタレコミなどもあり、そこまでしてご機嫌取りしたいのかと呆れたが当たり障りない返事を書いて二通目以降は送ってこないように各人に伝えた。


 そして何より良かったのが、アズィムを始末したことでラシェルへの嫌がらせが八割ほど減ったのだ。アズィムが指示していたものが多かったというのもあるが、私が嫌がらせにより社交界に出られなくなったと父があの裁判のようなものを起こしたということで、もしラシェルへの嫌がらせにより私に何か被害があったら尻尾を掴まれてアズィムのようになると思ったのかもしれない。まだ少し残ってはいるが、私の護衛になった時点で少し減っていたので、八割減はほぼいなくなったと言っても過言ではない。あと残っているのは騎士団内とかだろう。


 そんなこんなで色々と後始末をしているうちに少し日が開いてしまったが、クロムにラルークを第二書室へ連れていきたいという内容の手紙を飛ばし、返事を待っている間にあの裁判から一ヶ月が経った。もうすぐ私の誕生日で成人を迎えるし、そのパーティに出来れば来てもらいたいから、ラルークの件がダメでもクロムに直接招待状を渡したく、会えたら会いたいとも書いたのだが、皇帝になりやっぱり忙しいのか一週間程音沙汰無しである。アリスとヨルク、サレニアには手紙を送って既に返事を貰っている。ラルークはクロムから第二書室の件を聞いてから送ろうと少し先延ばしにしていたが、返事がまだなので先に招待状だけ送ろうとついこの間送ったばかりなのと屋敷が遠くまだ返事はない。まあ急ぐこともないし気長に待とうとクッキーを食べながら本を読んでいると、ノック音が聞こえた。


「お嬢様、先程陛下からのお手紙が届きました」


 メティスが手紙を持ってきてくれた。早速封を開け中身を取り出し確認すると、クロムも同伴でなら連れてきてもいいとのことだった。ちょうど招待状も渡したかったし良かったと思いながらクロムにお礼の返事を、ラルークに第二書室の許可を貰ったと手紙を書いた。



「よし、私の入館許可証持った、危険物は持ってない……おっけー、行ってきます」


 後日、三人で日程を合わせて図書館へ行くことになった。現地集合なので遅れないように早めに屋敷を出て馬車に乗る。集合場所に着くと、既にラルークが待っていた。


「ラルーク、おはよう。……なんで魔法研究所のローブ?」


「おはようお姫様。これはね……昨日研究所に泊まり込みだったんだ。ほら、屋敷からより研究所からの方がここに近いからさ」


 中は普通の服だよ、とラルークはローブの首元を摘んでひらりと捲る。たしかに普段着ているような服だ。


「あっ、そうだ。パーティ、招待してくれてありがとう。もう成人だね。ちょっと早いけど、おめでとう」


「ありがと。……といっても、成人してもまだ屋敷には居るし特に変わることは無いんだけど……。あ、でも、お酒飲みたいなぁ」


 この世界に来てから十六年、毒入りワインしか飲んでいないのでちゃんとしたお酒を飲んでみたい。あるのはワインとかブランデーとかだろうか。あるか分からないけど、小洒落たバーみたいなところに行ってみたいとかぼんやり考える。


「お姫様はお酒強い? ……って、まだ飲めないよね。イリフィリス卿はあんまり強くないみたいだったけど」


「うーん……どうなんだろう。お父様は強くてお母様は弱いから、どっちもありそう。ラルークは?」


「どうだろう。強いと思うけどね?」


 たまにしか飲まないから、と付け加える。セドリックは……確かに弱そう。酔ってる姿も想像できるけど、ラルークはどっちもありそうで想像できない。

 そんな話をしているとクロムが来たようで、大きな馬車が私たちの前に止まった。


「すまない、待たせたな」


「本日はお忙しい中時間を作ってくださりありがとうございます、陛下」


 ラルークがクロムに向かって丁寧に挨拶をする。私もありがとうとお礼を言うとそのまま図書館へ向かった。


 馬車に乗り、揺られること数分。ラルークとクロムはほぼ初対面だし気まずくなるかなと思っていたが、案外普通にしている。逆に私の方が緊張しているような気がするが気の所為ということにしておこう。もう少しで図書館に着くというときに、あっ、と思い出す。


「あっ、そうだ、これ。もうちょっとで成人するから、都合合えばクロムにも来て欲しいなって思って、招待状」


 クロムの分の招待状を渡すと、クロムはそれを受け取りじっと見つめていた。


「あぁ、もうそんな時期か。時が経つのは早いものだな。初めて会った時から随分大人っぽくなったが……やはりお嬢さんは、変わらず可愛らしいな」


 突然の発言に目玉ひん剥きそうになったがなんとか堪え、そうかな? と苦笑する。時々急に爆弾投下してくるタイプだが未だかつて無い核ミサイル級の威力だったぞ。

 ラルークも居るしこういう空気は早く変えた方がいいと分かっていても、なかなかいい話題が思いつかず少しの間沈黙が流れる。ちらとラルークを見ると、何やら考え事をしているのか顎に手を当てたまま固まっていた。


(さ、先行き不安だ……!)

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