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【8】力こそパワーですわ。

「ねえ、エルドさんも団長さんで、リルヴェートさんも団長さんなんだね」


 私がそう言うと、メティスが口を開いた。


「騎士団には細かく分けると四つの部隊があるんです。エルド様は全ての騎士団をまとめる総団長で、リルヴェート様は騎士団の中の、魔法騎士の団長です」


「へー、じゃあ、エルドさんが一番の団長さんなんだね」


「はは。でも、私ももう四十なので、そろそろ引退ですね」


 エルドさんが少し困ったように笑った。どうしてだろう、と首を傾げると、エルドさんは話を続ける。


「基本的に総団長は、どこかの部隊の団長が引き継ぐことになっているのですが、どこの部隊も団長が入れ替わらないんです。人手不足が深刻で」


 はぁ、とため息をつくエルドさんの肩をぽんと叩く人が居た。その人は黒い髪をした男の人だった。エルドさんと同じ服を着ているから、きっとこの人もどこかの部隊の団長なんだと思うけど……。

 すごく怖い顔をしているなと思ったら、私の方を見て眉間にシワを寄せて睨んできた。


「やめろ、ジャックス。公爵令嬢だぞ」


「あぁ? そんなこと知ったこっちゃねーよ。それよりエルド、さっさとてめぇの総団長の席空けろよ。オレが入るっつってんだろ」


 エルドさんははぁ、とため息をつく。そして私の方を見た。


「こいつは軍事騎士団のジャックスです。この通り気性が荒いのですが、騎士団の中では一番の実力です」


 私は頭を下げながら挨拶をした。すると、ジャックスはふんっと鼻を鳴らしてから言った。


「このチビがなんだってんだァ? ここはてめぇみてーなチビが来る場所じゃねぇんだよ、さっさと帰ってねんねしとけチビ」


 さっきから黙ってたらチビ、チビとこいつ……。この人だって、エルドさんと比べたら遥かにチビなのに! あざと可愛い作戦をしてなかったら攻撃魔法をぶち込んでいたかもしれないが、ここで今までの努力を無駄にするわけも行かないので、気を落ち着かせる。


「もうすぐ二十になるお前より、まだ六歳の令嬢のほうがよっぽど大人な対応だな」


「あァ? 悔しくて言い返せねぇだけだろ。おいチビ、悔しいならそのへなっこい腕で俺を殴ってみろよ」


 挑発してくるジャックスにムッとしたけれど、我慢する。こんな奴に怒るなんて時間の無駄だし、何よりも相手は団長なのだ。しかし、私が何も言わずにじっとしていると、ジャックスが苛立った様子で言う。


「だんまり決め込んでんじゃねぇよ!」


「止めないかジャックス!」


 怒鳴り声を上げたのはエルドさんだった。彼は険しい表情を浮かべると、私に向かって深くお辞儀をする。


「申し訳ありません、令嬢。部下の不始末は上司である私の責任です。どうかご容赦ください……」


「ううん、ソフィ、気にしてないよ」


 そう言って微笑むと、エルドはほっとしたような顔になった。それからジャックスの方を見る。


「いい加減にしておかないと、本当にクビにするぞ。そんな態度でよく総団長の席を譲れなんて口が叩ける」


「けっ、好きにしやがれ。どうせ俺がいねぇと全滅するくせに。雑魚は敵国のエサにしかならねぇ運命だからな」


 その言葉を聞いてぷちり、と何かが切れたような気がした。それは多分堪忍袋の緒とかそういうものだろう。私はくるりと振り返って、ジャックスの前に立つ。


「ソフィ、試してみたい魔法があるんだぁ。ねね、エルドさん、やってみてもいい?」


 エルドさんは驚いたような顔で私を見たあと小さく構いませんが……と呟いた。一方ジャックスは私を見下し、馬鹿にしたように笑う。

 私はすうっと息を吸った後、詠唱を始めた。……フリをして、手にめちゃくちゃ魔力を込める。どうせ魔法を使ったところでどの属性も大して強くはない。全属性の攻撃オンパレードをしたところで、この無駄に丈夫そうな団長にはただのかすり傷程度だろう。ならば、最初から全力でぶん殴りに行くまで。

 私は拳を振り上げ、ジャックスの股間めがけて思いっきり振り下ろした。本当は顔面に一発決めたかったが、何せ手が届かないから顔以外で痛そうなところにしておいた。他人事だが、かなり痛そう。


「っ〜〜〜!! ざけんな、このチビっ……」


 ジャックスは目を大きく見開いて、その場で膝をつく。そして、両手で自分の大事なところを庇いながら、涙声で叫んだ。

 心做しか、エルドさんも痛そうな顔をしている。


「うーん、物理攻撃に魔力を乗せると、そこそこつよくなるんだね。よかったぁ、()()()()()()()で魔法も上手じゃないけど、あなたを跪かせることは出来るみたい」


 そしてちょうどいい所に頭があったので、ついでに頭にも一発入れておいた。もちろん手加減はしてある。頭踏んづけて足舐めろやチビ連呼マシーンって言わないだけ大目に見て欲しい。これで少しは反省してくれるといいけど……。まぁ、無理だろう。


「ね、あなたは、ソフィに痛いことされたくて攻撃を受けたの?」


「ンなわけねぇだろふざけんな!」


「それとおなじように、死にたくて騎士団入った人なんて、ほとんどいないとおもうよ。みんな、この国のために、戦ってるんじゃないの?」


 私がそう言うと、ジャックスはぐっと押し黙ってしまった。


「さっきは、急に痛くしてごめんなさい。でも、ほかの人を悪くいうのはだめだよ。みんな仲良くしないと」


 私がそう言い終わると、ジャックスは何も言わずに立ち上がって、その場を立ち去った。その後ろ姿を見ながら、私はふうとため息をつく。せっかく世渡り上手に生きていこうと思ってたのに、あっさり感情的になってしまった。

 そう思いながらうんうんと悩んでいると、後ろにいたエルドさんが私の頭をぽんと撫でながら言った。


「ありがとうございます、令嬢。あいつは昔からああなのですが、まさかあんなことをされるとは思ってなかったでしょう。きっと今頃驚いていると思います」


「……ソフィ、やりすぎじゃなかったかな」


「えぇ、大丈夫ですよ。それにしても、ジャックスのやつにあれほどダメージを与えるとは、驚きました。セドリックだけでなく、令嬢にも魔法の才がおありのようですね」


「そ、そんな事ないよ! たまたまうまくいっただけだと思う。だって、まだ特化魔法、出来ないもん……」


 エルドさんの言葉に慌てて首を横に振る。確かに私は全属性持ちだけど、特化魔法も出来なければどれも平均以下レベルだし、そもそも攻撃系の魔法は苦手なのだ。素のよわよわパンチに、有難いことにそこそこ高い魔力をそのまま乗せただけの、ただの物理攻撃である。つまり力こそパワーということだ。

 しかし、エルドさんはふわりと微笑んで私に言った。


「あのジャックス相手にあそこまでやれるのはすごいことです。自信を持ってください」


 エルドさんの笑顔を見て、私は思わずぽかんとする。……魔法関連でこんな風に褒められたのは初めてかもしれない。家庭教師も、私がなかなか特化魔法を習得できないことに困惑していただろうし、それは多分、言葉にしないだけで父も母も兄も、みんな思っていたはずだ。私自身、焦っていたし困っていたから、こうして面と向かって褒めてくれるとすごく嬉しい。


 じわっと目が潤んできた気がして、私は誤魔化すために空を見上げた。



***



 その夜、団長室前。


「おい、ジャックス」


 総団長に声をかけられ、今日ずっと不機嫌だったジャックスはぴくりと反応した。彼は顔を上げエルドを睨みつける。


「チッ……なんだよ」


「お前、いくらなんでも昼間のアレはダメだろう。彼女は公爵家の娘だぞ」


「だから何なんだよ。昼も聞いたぞ」


 はぁ、と大きなため息をつくエルドに苛立ったのか、ジャックスは声を荒らげる。なんだよお前、と言ったところで、今度はエルドが口を開いた。


「彼女の何がそんなに気に食わないんだ?」


「全部だ。何もかも気に入らねェ。俺は貴族なんか嫌いなんだ」


「……」


 理由を述べても口を開かない彼に、ジャックスは舌打ちをして立ち去ろうとする。だがそれはエルドが腕を掴んだことで阻まれた。


「なんだよ。なんで俺にかまうんだ。放っておいてくれよ。どうせまた説教でもするつもりだろう」


「……そんなことはしないさ」


「嘘つけ、いっつもくだらねぇ説教ばっかりのくせに」


 吐き捨てるように言う彼に対して、エルドはその掴んでいた手をゆっくりと離しながら言った。


「お前が貴族をよく思っていないのは知ってる。だが、俺を殺して総団長になりたいなら、嫌いな相手であっても、上手く感情を流せるようになれ。そんなままだと、いつまで経っても俺を殺せるようにはならないぞ」


 そう言い残して、エルドは去って行った。一人取り残されたジャックスは、先程の彼の言葉を頭の中で反駁する。そして眉根を寄せて奥歯を強く噛み締めると、バタンと大きな音を立てて部屋に入っていった。

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