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【77】判決。

「何を……仰っているのですか?この私が?」


 アズィムは心底驚いたとでも言いたそうな表情で裁判長を見る。


「ソフィが飲んだ毒と一致する毒の購入証明書……この受取人のサインの筆跡が子爵のものと酷似しています。この文字もそうですが、最後の独特な線の抜き方は一致していると言っても過言ではありません」


 父が毒の購入証明書とアズィムの領地であるストリナ地区の領主印とサインの入った紙を差し出し、それを受け取った裁判長はまじまじと筆跡を見比べる。


「筆跡が似てる? 閣下はそのような曖昧なものを証拠として提出したのですか? そんなもの、確たる証拠とは呼べませんよ」


 アズィムは父の話を聞き終えると、鼻を鳴らしながらそう言った。確かに、筆跡鑑定という概念がない以上有効な証拠にはならないだろう。ただ、これで終わるほど私も半年もかけて準備をしたわけではない。


「証人の追加を要請します」


 私がそう言うと、アズィムは眉間にシワを寄せたが、その後小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。だが、証人として現れた人物を見て、その笑みはすぐに消えた。


「魔法騎士団のリルヴェート団長と魔法研究所のラルーク・ハルベルトです」


 魔法研究所の黒いローブを着たラルークと団長服のリルヴェートさんが壇上に上がる。騎士団長が出てくるのは予想外だったのか、アズィムはじっと見てしばらく固まっていた。


「では証人、証言を開始してください」


「魔法騎士団団長、リルヴェートと申します。まず、令嬢が聖誕祝祭(ファンティスタ)の際使用していたピアスですが……こちらをご覧下さい」


 リルヴェートさんはそういって私が聖誕祝祭(ファンティスタ)で使った赤いピアスが入った箱を机の上に置いた。そして、そのピアスに魔法陣が書かれた紙を置く。すると、ぼんやりと映像記録魔法より荒い映像が浮かび上がった。


「これは……」


 会場に居た人々がどよめき、食い入るようにピアスを見つめる。ラルークが先程映像記録魔法を映すときに使ったスクリーンに、ピアスに置いたものと同じ魔法陣が書かれた紙を置くと、ピアスの映像がスクリーンに映る。映像はアリサリスがラルークにドリンクをかけた場面やダンスの時、そして私がワインを飲む所までを映した。


「こちらは一体何なのですか?」


「まず、こちらの本来の用途は……このように、ピアスに魔力を流し込むと、こちらのブレスレットが連動して光る仕組みになっています」


 ラルークが説明しながらピアスとブレスレットを見せる。赤く光ったのを確認してさらに説明を続けた。


「このピアスとブレスレットの仕組みが気になり少し調べていたのですが……これを作った者に話を聞くと、このピアスの原石は映像石で出来ているようなのです。そして、そのひとつの映像石から出来たのが、このピアスとブレスレットで、元は同じ映像石から出来ているので魔力を流すと二つとも光るようになっているのです」


「実際にこの場で映像石を磨いてみせるのが一番なのですが、なにぶん時間がかかるので……片面だけ磨いたものを用意しました」


 そういってリルヴェートさんがひとつの石を取り出す。磨かれていない片面は普通の映像石だが、磨かれている面は私のピアスと同じく、赤っぽくなっていた。


「映像石は魔石の一種で一定の魔力を流すと光るのは皆さんご存知だと思います。このピアスとブレスレットもそれと同じ原理であると言えます。……そして、元は映像石であるため、魔力を流すと映像が記録され、また流すと止まる。こうしてこの映像が残されたという訳です」


 そしてラルークはまたピアスに魔力を流し込む。そして、先程と同じように魔法陣の書いた紙を下に置き、手をかざすと今度はさっきこのピアスの原理を説明していたラルークの映像が映し出された。これであのピアスの元が映像石であることは証明された。


 でもどうしてあのアリサリスの場面が残ったのだろうと最初かなり不思議だったが、その後調べるとこのピアスの製作者が何度かピアスとブレスレットが上手く光るか試していたらしく、その回数と私が聖誕祝祭(ファンティスタ)の時にちゃんと光るかラシェルと試した時の二回目がたまたま記録開始の順番だったらしい。そして、私が倒れた時にラルークが魔力を込めて記録が止まったのでは無いかとのこと。


「そして、先程見ていただいた映像の中に子爵令嬢がドリンクをかける様子が映されていたかと思います。その時公爵令嬢がそのドリンクを拭いたハンカチから、子爵の筆跡と酷似した証明書と同一の毒……令嬢が飲んだ毒と同じものが検出されました」


 袋の中にはソフィと刺繍が入った白いハンカチがある。私が持っているハンカチのひとつだ。


「あのタイミングで毒の入ったドリンクをかけるという行為は、ダンスの直前だったことから着替えるタイミングがなく、染みを抜くために魔法を使用していれば毒を摂取したことと同じであり、悪質で計画的なものだと判断できます」


 会場がざわつく中、ラルークは説明を続ける。ここまで来ればアズィム本人に罪がなくてもアリサリスが毒を入手した経路を調べるために家宅捜索や尋問が行われる。そうすればアズィムが購入したものだと証明されるだろう。それに、万が一アリサリスが購入したものだとしてもまだ彼女は未成年なので、責任は父であるアズィムにも課される。ラルークの説明が終わると会場には静寂が訪れた。


「では、判決を言い渡す。被告は有罪。二人の処分は、陛下に今回の内容を報告したのち決められますが、ストリナ地区の領主交代の間、屋敷にて謹慎とする」


 裁判長の言葉に私はほっとした。やっと終わった。父の調べで毒の購入証明書が見つけられていなかったら、ラルークがあのピアスが映像石で出来ていると気付かなかったら、きっと解決しなかっただろう。来てくれたリルヴェートさんにもお礼を言わないと。そう思いながら父と共に部屋を出る。

 外にはラルークとリルヴェートさんが待っていてくれて、すぐにお礼を言うと二人は大丈夫だよ、と言ってくれた。


「正直俺は付き添いみたいなものだったし……セドリックからこの事を頼まれた時はびっくりしたけど、役に立てて良かったよ」


 リルヴェートさんはそう言って、セドリックに伝えてくるから先行くね、と騎士団の本部へ戻って行った。


「ソフィ、パパはベルクのところへ行ってくるけど、今日は疲れただろう? 先に帰って休んで、あとはパパに任せて」


 父はそういって私の頭を撫でる。お言葉に甘えて先に帰る、と伝えると父はベルク陛下の居る皇宮へと向かった。


「ラルーク、今日はありがとね。ラルークがあの映像石のこと気付いてくれなかったら、解決しなかったよ」


 ラルークと二人になり、馬車へ向かいながらお礼を言う。映像石のことが分かる前も色々作戦は立てていたが、それだけだと勝率は低かったと思う。こうして無事に終わったのはみんなのおかげだ。


「そんなことないよ。お姫様が色々考えて、僕たちがそれを手伝っただけだし。……それより、お姫様の体調が悪そうなのが心配で」


 ラルークは少し困ったような表情をして言う。やっぱり不調系メイクの効果は抜群のようだ。化粧と運動不足のせいだよ、と笑っておいたが、それでも心配そうにしていた。


「それに、屋敷にこもっていた時期も悪くはなかった……というか、聖誕祝祭(ファンティスタ)前の生活に戻っただけだし。それよりね、この前クロムが国立図書館の第二書室の入館証を作ってくれて、たくさん魔法の本読んでちょっと楽しかったまである……」


「第二書室の!? ということは、古代魔法とか禁忌魔法についての本もあったよね」


 私が言い切る前にラルークが目を輝かせながら食い気味に言った。たしかに、第二書室は魔法関連の本がまとめられているしラルークは好きそうだ。


「私はよく分からなかったけど……クロムが第二書室に用があるって言ってたからついでに作ってもらったみたいなもので。今度ラルークも一緒に行っていいか聞いてみるよ。駄目だったらごめんね」


「第二書室には魔法研究所が持ってない禁忌魔法の本や、古代魔法の魔導書もあるんだ。魔法研究所だと所長にならないと入館証は発行してもらえないから……。あっ、でも、僕が所長になればいいだけの話だから、駄目だったとしてもお姫様は気にしないで、もちろん行けるならすごく行きたいけど!」


 ラルークが興奮しながら早口で言う。魔法のことを話している時はいつもとても楽しそうでなんだか可愛らしくも思えてきた。聞いたらすぐに手紙送るね、と約束して私たちは別れた。

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