【75】第二書室と怪しい魔法?
会計を済ませ、図書館へ向かうため再度馬車へ乗り込んだ。少しして図書館に着き、クロムが入館証を見せ一緒に第二書室へと向かう。
「そういえば、クロムはどうして第二書室に用があったの? あっ、なんか政治的な事とか機密事項だったら言わなくてもいいよ」
ふと気になりクロムにそう聞くと、クロムはあぁ、と呟いて話し始めた。
「特化魔法について気になることがあってな」
「そうだったんだ。なら、私もクロムの目当ての本があるか探そうかな」
特化魔法についてなら私もちょっと調べてみたいし、今日はそのことが書いてそうな本を見ていこう。
書室の前で入館証をかざすと、部屋の鍵が解除される。扉を開けると、古書のにおいが広がった。特化魔法について書いてそうな本といっても、わざわざ背表紙にタイトルが書いてあるような本はあまり無いので(本といっても流通してるものと言うより記録や資料が多い)、結局一度開けてみないと分からない。端の上の方から見ていこうと決め、まずは一番上にある本を棚から引き抜いてみた。
(これは……古代魔法の本かな? それとも外国の本かな。見慣れない地名が書かれてる)
その本のページをめくると、魔法陣や呪文などが書かれている。何となく求めていた本ではないような気がするので棚に戻し、また隣の本を手に取った。
何度か同じことを繰り返し、ある時手に取った本を読んでいる途中でピタリとページを捲る手を止める。
(特化魔法の性質……子の特化魔法の精度は血の濃さや親の精度に関係なく本人の魔力の質により決まる。異なる特化魔法を持つもの同士の子だと、純度の高い方の特化を受け継ぐ……ここまでは参考書に書いてたけど、その後に書いてあることは初めて見た。へぇ、産む間隔とかも受け継ぐのに影響するんだ)
その後も読み続けていると、またあるページで手が止まる。
(特化を引き継がない場合は以下の可能性が考えられる。・両親ともに特化魔法を弱く受け継いでいる場合・特化魔法を持っているのが女のみで、子を産む際妊産婦が死亡した場合・母体疾患の場合・子が重篤な病に冒されている場合……母の特化魔法は知らないけど、あり得るとするなら母体疾患か私が何かの病気なのか……?)
そこであ、と思い出す。前にラルークが昔から身体が弱かったりたりする? と聞いてきたのはもしかして、このことを知っていて、私が特化魔法を引き継げていないというのと宿屋で熱を出したことで、病気だと判断したのだろうか。
私は自分の手をじっと見つめた。たしかに歳の割には身体が小さいし、体力もそんなに無い。でも気になるほどじゃないと思っていたのだけれど。魔力量は他の人に比べて多いし、そこまで大きな病気を感じるようなことは無い。やっぱり私が特化魔法を使えないのは元々この世界の人間じゃないからだろうか。少し考えたが、よく分からない。
「なにか気になることが書いていたか?」
クロムが後ろから声をかけてきた。振り向くとクロムが私の持っている本を覗き込むようにして見ている。私は持っていた本をクロムに渡した。
「特化魔法がなかなか使えないのってこういう理由があるのかなぁって……お兄様は普通に使えるから、多分私の努力の問題だろうけど」
分からないけどね、と付け加えるとクロムは開いていたページを見たあと考え込み始めた。
(というか、クロムは特化魔法の何を調べてるんだろう。……ま、なんでもいいか)
別の本を読もうと棚に手を伸ばした時、クロムが成程、と呟く。クロムの知りたかったことが書いていたのだろうか、また少しページを捲ったあと、パタリと閉じた。
「興味深かったが……出典が一つだけだと信用出来んな。他にも同じことが書いてあるものがあればいいのだが」
クロムはそう言うと、また棚を見始める。私もクロムと同じように棚を見て回ることにした。一般人立ち入り禁止の割には過激な内容の本はあまりないな、と本を流し見しながら考える。もっと……こう、人体錬成とか死者復活とかそういうのが記された本があるのかと思っていたから意外だった。私には分からないが、きっと何かやばいから一般の人には見られないようになっているのだろう。
しばらくすると、クロムが難しい顔をして本を読んでいるのを見つける。どんな内容なんだろうとクロムの隣に行き、手元にある本のタイトルを覗いた。〈死霊術〉と書かれたその本の表紙には死体を操っているような絵が描かれていて思わずうわっと小さく声が出た。
(グロい……!)
声を出したことでクロムがこちらを振り向いたので、慌てて口を押さえて黙る。その様子を見てくつくつと笑っていた。
「こういうものは怖いか?」
「リビングデッドものはちょっと……人が死ぬだけならまだしも、生き返るのは……」
昔見たゾンビ映画の影響か、うごうごと襲ってくるイメージが頭から離れず嫌だ。
私の答えを聞いてクロムは少し意外そうな顔をする。
「死体を見ても平然としているから、得意な方かと思っていた」
「死体? ……あぁ、戦争の時の? あれは生き返って襲ってきたりしないでしょ。驚かしてきたりとかもしないし……」
「はは、面白い理由だな」
クロムは面白そうに笑うと、手に持っていた本を棚に戻した。
「もう読まないの?」
「あぁ、読み終わったからな」
クロムはそう言ってまた別の本を手に取る。それをちらと横目で見たあと、私も棚へと視線を移した。
(……死霊術……本当にあるとしたら、エルドさんとかも……いやいや、死んだ人間は生き返らない。それこそ異世界転生とかでもしなきゃ、ね)
そんなことを考えながら棚の本を見つめる。そういえば、異世界転生って私以外にもした人がいるのだろうか。漫画や小説みたいに召喚されたり(これだと転移になるのだろうか)私みたいに気付いたら異世界に居たとか……私自身この世界に来て十五年が経つわけだけれど、何一つ分かっていないし誰かに聞くことも出来ないので分からないままなのだ。
そういった内容の本はあるかな、と探してみるが見当たらない。
(やっぱりないかー……ん?)
棚の一番上の段を見ようと背伸びをして手を伸ばすと、本が一冊落ちてきた。本はバサバサと音を立てて床に落ちていく。
(やっちゃった……! 一般人立ち入り禁止の書庫の本とか弁償できない……、傷とか付いてない!?)
慌ててしゃがみ込み落ちた本の状態を確認する。幸い、表紙にも中身にも傷はついていないようだ。ホッと胸を撫で下ろすと同時に元に戻さないと、と私は本を拾い始めた。三冊拾い終わり四冊目に手を伸ばした時、その本の題名が目に入る。
(魂の輪廻転生……?)
ぱらりとページをめくると、そこには肉体を持たず魂だけで生きる者達の話が書かれていた。元は普通の人間だったが、不老不死や死者蘇生、人体実験など様々な理由で肉体と魂を分離させ、別の身体に魂を定着させるという今では禁忌魔法になっているものみたいだ。一度分離させた魂は離れ癖がついてしまい、本来肉体と共に消えることが多いが肉体が朽ちても彷徨い続けるらしい。禁忌魔法を使わなくても稀に魂が輪廻転生する場合があるようだが、そういった場合はせいぜい一回か二回輪廻転生するくらいだと。ただ禁忌魔法を使うと何回も何十回も、下手したら何百何千回と繰り返す場合もあるようだ。
(……分類的にはアンデッドとリビングデッドのどっちになるんだろう……なんて。魔法があるとこんなことまで出来ちゃうのか)
ばたりとその本を閉じ、元あった場所へ戻した。その後少し見て回ると、館内に鐘が鳴る。そろそろ戻ろうか、とクロムに言われて私たちは書庫を出た。




