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【74】計画実行。

 結局その後いつセドリックが来ても大丈夫なようにかアリサリスはずっと大人しく、そのままお茶会はお開きとなった。全員を見送ったあと、部屋に戻りベッドへダイブする。

 映像記録魔法の確認をしたいところだが、今日はもう魔力が限界そうだ。明日起きてからすることに決めて、その日はそのまま寝た。


 翌日、食事を終えてから映像記録魔法の確認をする。リリーを呼び、魔法を唱えると光の粒が集まり、スクリーンになった。


「言われた通り、お茶会の準備段階からメイドにくっついて映像記録してたけど……こんなに長く必要なの?」


「うん、後でお茶になにか毒が入れられてたとか言われたら面倒だから……長い時間ありがとね」


 リリーが私の髪の毛を齧りながら聞いてきたので、そう答える。私が直接映像記録魔法を使うと毒を入れる時だけ魔法を止めたとか、なんとでも言われるのでリリーに魔力を流してほぼ一日中記録を残した。


 リリーは光特化なので映像記録魔法は比較的得意ではあるけど、記録自体は特化属性が何かというより魔力量のほうが重要……例えるなら、映像を記録するDVDの容量が魔力量、そのDVDを映すパソコンやテレビの画質は特化属性に左右される、と言ったところだろうか。リリーのおかげでかなり綺麗に記録できているが、ずっと魔力を流しっぱなしだったせいでまだ身体が怠い。映像を確認すると、幸いにも途切れ途切れだが音声も入っていた。早送りや巻き戻しは出来ないので、面倒だが最初から見ていくしかない。一時停止だけは出来るので、のんびり見ようと紅茶を飲みながら再生を始めた。




 あれから約二ヶ月、お茶会やパーティなどでアリサリスと会うことがあれば映像記録魔法を使い、証拠集めに奮闘した。魔力的にも精神的にもしんどい日々だったが、それもようやく終わりが見えてきた。昨日、父がアズィムの筆跡に酷似した毒の購入証明書を手に入れたのだ。この間拘束した給仕の女がようやく吐いたらしい。偽名を使っているうえに筆跡鑑定という概念があまり普及していないのでこれだけでは証拠不十分でアズィムを裁くことは出来ないが、アリサリスのほうは十分悪事の証拠があるので、断罪からの芋づる式アズィム追放大作戦(仮)を実行しようと気合を入れた。


 シナリオはこうだ。まず、アリサリスの悪事が原因で私が社交界に出られなくなったと噂を流すことにした。最低でも二、三ヶ月はお茶会もパーティも参加せず、アリスとサレニアにお願いして徐々に広めてもらう。ある程度広まったところで向こうも何かしらアクションを起こすだろうからそれを待ち、頃合いを見てアリサリスを糾弾し、断罪イベント(?)に持ち込む。アリスには話をつけてあるので、もし私が社交界に顔を出していない間にアリサリスが何か私を貶めるような根も葉もない話をしたら、すぐに知らせてくれることになっている。


 社交界に出ない間、何もしないというのも勿体ないので、この作戦がだめだった時の代替案も考えながら、私はせっせと魔法の勉強をした。ある程度のことはできるようになったしラルークのおかげで魔法についての知識も増えたけど、それでもまだまだ足りない。折角魔力量に恵まれてるのに、生活と魔法が結びつかないのは勿体ない。


 勉強のためにしばらく図書館と屋敷を往復する日々が続いたある日、セドリックがクロムに、最近私が図書館で魔法の勉強をしているという話をしたらしく、一般では閲覧できない地下二階にある古代魔法などもまとめられている第二書室の入館許可証を発行してくれることになった。

 第二書室には魔法研究所でも保管している禁忌魔法がまとめられた本なども置いているみたいだ。入館証と部屋の中には魔法がかかっていて、外に持ち出そうとするともれなく身体が爆発して死ぬ……らしい。魔法研究所でも地下でかなり厳重に保管されているらしいし、そんな書物が置いてあるところにただの公爵令嬢の私が入れるとは思わなかった。


「入館する時と書室に入る時、あとは出る時に入館証が必要だから失くさないようにな」


 そう言ってクロムから渡されたのは、シンプルな銀色のカードだった。名前や性別などの情報が書かれているが、それだけではないようだ。クロムが言うには、魔力を通すと入館した日付、時間、場所がわかるようになっているらしい。


「あれ? これ、私の名前じゃないよ?」


 よくそのカードを見ると、書かれていた名前は私のものではなくクロムの名前だった。


「ああ、お嬢さんは今社交界に出ていないということにしているのだろう? セドリックから聞いたが……あまり記録として残るような行動はしないほうがいいだろう。一応お嬢さんの入館証も作ったが、当分は俺と一緒に行こう」


 クロムの言葉を聞いて、そういうことかと納得した。確かに記録に残るのは何かあった時面倒だ。私の入館証は今度屋敷に送ってくれるらしい。クロムの入館証ならなんで私に渡したんだろうと思ったが、クロムのことなので気にするだけ無駄だと思いとりあえず流しておく。


「なるほど、ありがとね」


「構わん。元々俺も第二書室に用があったからな。今日と明日、来週に二日、あとは来月の頭にも行く予定だから、お嬢さんの予定が合うなら来てくれ。また今度手紙を送ろう」


「うん、分かった」


「では行くか。……と、その前に、食事はもう済ませたか?」


 クロムにそう聞かれ、まだ食べていなかったので首を横に振った。昨日夜遅くまで本を読んでいて、遅めに起きてご飯を食べようと思った時にクロムが入館証を持って屋敷にきたのだ。元々セドリックに用があったのは聞いていたが、まさか今日入館証を持ってきてくれるとは思っていなくて慌てて準備をして今に至る。


「では、食事に行こう。図書館の近くにいい店があってな。そこでいいか?」


「うん、楽しみ。ありがとう」


 クロムと二人きりで食事をするのは初めてなので少し緊張する。今までクロムと会う時は大体セドリックが一緒にいたし、最近ちょくちょく声をかけられるけど、アリスがクロムを好きだと聞いてから極力二人ではなくアリスも含めて三人で過ごすようにしていた。


 馬車に乗り込んでしばらく経ち、見慣れた街並みを過ぎていく。そして着いた場所は立派な門構えのお店で、中へ入ると綺麗なドレスを着た女性達が出迎えてくれた。ご飯を犠牲にしてでもちゃんと着飾っておいて良かった。私だけ浮いてしまうところだった。


 クロムと一緒に案内された席に着くと、給仕係の女性達によって料理が運ばれてきた。どれも美味しそうだ。心の中でいただきます、と手を合わせて食べ始めた。

 この国には食前挨拶の文化がないらしく、私がずっといただきますと言いながら食べていたのは変だったみたいだ。この間言いにくそうにしながらファムが教えてくれた。


 クロムがいい店というだけあって、どれもとても美味しい。屋敷の料理も美味しいのだが、ここは格別だ。少し量は多かったが、美味しくて問題なく完食した。

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