【72】寝ても覚めてもティーパーティー。
「ソフィ! 元気そうで何よりです……。今日は招待してくださってありがとうございます」
到着するなり駆け寄ってきたアリスに心配かけてごめんね、と謝るとぶんぶん首を振る。
今日は食ちゅ……アリサリスを招待する前にアズィム家について情報収集をしようと思い、幅広い家を招待して茶会を開いたのだ。とりあえず前から交流のある侯爵家のアリスと、伯爵家のサレニア。あとは二人の友人などを招待し、私を含めて七人になった。
聖誕祝祭で私が倒れたことはじわじわと広まっていっているみたいで、みんな知っているようだ。何故倒れたとかは知らないみたいだが。
「今日の紅茶はローズティーにしたの。庭の薔薇が綺麗に咲いているから、ちょうどいいと思って。ケーキも薔薇をイメージしたものにしてもらったから、庭の薔薇と一緒に楽しんでいってね」
全員が着席したのを確認して、メティスに合図を出すとすぐに用意してくれた。赤やピンクで統一された可愛らしいケーキは見た目だけでもう美味しそうだ。テーブルに置かれたものを見て、招待した令嬢達が目を輝かせる。
「まぁ、とても素敵ですわ」
一人の令嬢が頬に手を当てながら言う。その言葉を皮切りに、他の人も口々に感想を言い出した。私が主催するお茶会なんて数える程しか無かったから私も含めてみんな緊張していたみたいだったけど、だいぶ解れてきたようだ。貴族の噂話や恋愛話など、色々な話題が飛び交う。
しばらく他愛のない会話をして、話題が途切れたタイミングで私は本題を切り出すことにした。
「皆さんは……アズィム子爵はご存知ですか?」
私がそう聞くと、ほとんどの人が知っていますと返事をした。
「アズィム子爵は……あまり良い噂は聞きませんわ」
伯爵家の令嬢が少し不安そうな表情で言った。ラシェルに対してだけ変なことをしているのかと思っていたが、そうじゃ無いのか。そうなの? と聞けば、令嬢達は顔を見合わせて、えぇ、と小さく呟いた。
彼女達の話を纏めれば、アズィム子爵は昔から評判が悪く、女性関係が派手だとか、気に入らない相手を陥れたりしているとか、そんな内容だった。アリサリスは溺愛されており、昔から彼女が何かやらかしてもアズィムが全部揉み消してきたので誰も何も言えなかったらしい。
「私、この前アリサリス令嬢とお茶会したのですが……好みのケーキじゃないと言って、侍女が持ってきたものを床に投げつけたんです。もちろんわざとですよ」
一人の令嬢が思い出しながら悲しそうに眉を下げる。アリサリス、めちゃくちゃに悪役令嬢じゃん。その後も次々と令嬢達から聞いた話は酷いものだった。取り巻きの二人の令嬢以外からは嫌われているようだ。
「それで、どうしてアズィム子爵の話を? ソフィ令嬢もアリサリス令嬢に何かされたのですか?」
「えぇ……聖誕祝祭のときに、彼女が私のパートナーに飲み物をかけまして……本人はたまたま手が滑っただけだと言っていましたが」
とりあえず毒の話は省略して説明をする。嘘ではない。実際にあったことだし。
「公爵家にまで手を出すのですね……私てっきり高位の方には手を出さない方だと思ってました」
普通はそうだよね、と心の中で頷く。そもそもあんまり関わらないというのもあるけど、侯爵家であるアリスは知らなかったみたいで、そんなことがあったのですか? とぽかんとしている。やっぱり私はラシェルの件で例外なのかもしれない。その後、他の令嬢からも色々と話を聞いた。今まで面倒だからとお茶会や交流をしていなかったけど、色んな人の話や人間関係を知ることができるから今後はもっと積極的に参加しないと。
空気が重たくなってきたので話題を逸らし、それからはずっと世間話で盛り上がった。そして、お茶会は無事に終わった。
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私は嫌われている相手にも優しくするほど器は広くない。アリサリスには申し訳ないけど、沢山悪事を働いてもらって断罪からの芋づる式でアズィムも捕まえられたらと思っている。
今日はアリサリスとのお茶会当日。天気は曇り。どんよりとした空が広がっている。アリサリスと取り巻き二人、こっちの陣営としてアリスと、彼女の友人であるリュシーが参加している。アリスはいつも通りだけど、リュシーは緊張しているようで表情が硬い。
「ようこそ。今日はあいにくのお天気ですので温室でのお茶会はいかがでしょう? ご案内します」
一旦庭に呼んだが雲が分厚くなってきたので温室へと移動することにした。温室に着くと早速席についてもらう。紅茶は飲みやすいもので、ケーキも無難にショートケーキにした。六歳のときの聖誕祝祭の後にクロムとセドリックの三人でプチパーティをした時に出してもらった、皇室御用達の店のものらしいので味は保証する。これでも何かイチャモン付けられるのだろうかと内心ワクワクしていたが、顔に出すと怪しまれるので平然を装う。
「まあ、公爵家にしては質素なお茶会ですこと」
「あら、そんなこと仰ってはいけませんよ。令嬢は数える程しかお茶会をしていないのですから、基準なんて分かるはずがありませんわ」
アリサリスと取り巻きの一人が嫌な笑みを浮かべながら言う。私とアリスは何も言わずにケーキを口に運ぶ。リュシーは前回のお茶会に参加しておらず、何も知らないせいかおろおろしていた。アリサリスが私を見て鼻で笑う。
確かに私はお茶会をほとんど行っていない。この間みたいに楽しく談笑しながら情報交換……みたいなお茶会は悪くないが、わざわざ好きでもない人たちと時間を割いてまでお茶を飲みたいと思わないのだ。
めちゃくちゃにキレ散らかしたいところではあるが、今回のお茶会はそれ目的じゃないので、ぐっと堪える。
「昔陛下にお出ししてもらったお茶なんです。お口に合えばいいのですが」
ちらとアリサリスたちを見ながらそういうと、彼女はふんと鼻を鳴らした。




