【7】騎士団と魔法騎士。
練習の邪魔にならないようにと、少し見て撤退を繰り返し、気付けば一周していた。
(うーん……)
何というか、思っていたより地味だったのだ。魔法は確かに派手だが、騎士団の訓練としては地味な方だろうし、剣技の方も同じだ。もっとこう、異世界ファンタジーみたいに派手な必殺技とかあると思っていたのだが……。いや、そもそも私が勝手に期待してただけだから文句を言う筋合いはないんだけど。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと気になるものが目に入った。それは地面に置かれた木箱である。近づいてみると蓋はないようだったが、その中身を見た瞬間、私の目は釘づけになった。
そこにあったものは、大量の魔石であった。しかもただの石ころのようなものではなくて、どれも宝石のようにキラキラしている。
「キラキラ! すごい……」
思わず呟くと、近くに立っていた人が振り返った。背の高い男性の騎士で、茶色っぽい髪の色をしていて、優しげな雰囲気を纏っていた。
彼は私を見ると驚いたような顔をしたけれど、すぐに笑顔になって話しかけてきた。
「こんにちは。この石が気になる?」
「うん。キラキラしてるの、みたことない。宝石とはちがうキラキラ!」
「これは魔法が込められてる宝石なんだ。普通の魔石は見た事ある?」
こくりと首を縦に振る。普通の魔石は、そこらに転がってるちょっと大きい石ころみたいなものだ。
「でも、あんまり魔法詳しくないの」
そう言うと彼は説明を続けた。
「普通の魔石は魔石用の石に魔力を込めたもので、魔力を持たない人が持つと一定の効果を得られるけど、魔力を持つ人が持つと反発して効果を得られない……それは持つ人が自分で魔力を込めたものでもそうなる」
そう言って彼が手に取ったのは、拳大ほどの大きな魔石だった。それを軽く握ると、彼の手のひらの中で光が弾けたように見えた。すると次の瞬間には、光を失った小さな丸い玉になっていた。それを見て驚くと同時に納得する。これが彼の言う反発ということか。
「それを防ぐために考えたのがこれで……宝石に魔力をほんの少しだけ流すんだ」
「石じゃだめなのに宝石だったら大丈夫なの?」
不思議に思って尋ねると、彼は優しく教えてくれた。なんでも魔石は魔力を持たない者の為に作ったものだから、それなりに強い魔力を込める必要があった。それに長時間使用すると徐々に効力を失っていき、最終的には元の石ころに戻る。
魔石用の石は魔力を閉じ込めるのも放出するのも簡単で、手で触れたら魔力を持たないものでも一時的に魔力を得られる。しかし魔力を持つ者だと持ち主の魔力と反発して効果を失う。そのため、魔力を持つ者用の魔石としてあげられたのが、魔力の放出が石よりも少なく小さめのもので、なおかつ微力な魔力でもできる限り長時間もつ宝石だったらしい。
「宝石の中で魔力が反射して、魔力が逃げにくい。少ない魔力を入れた普通の石だと、もって数時間ってとこだけど、これだと一ヶ月以上は効果を発揮できる。……これでも、まだ普通の魔石よりは短いんだけど」
なるほど、と感心しながら聞いていた。こんな違いがあるなんて知らなかった。やっぱり魔法のある世界は面白い。
「すごい! 難しいのに、こんなにいっぱい」
「これは魔法騎士の人たちと作ったんだ」
「あなたがつくったのもある?」
「うん、俺が作ったのはこれと、その緑の丸いやつだよ」
私は指差された先の石にそっと手を伸ばした。近くで見ると、ますます綺麗だ。太陽の光に反射して、まるでエメラルドグリーンの海の中のような輝きがあった。キラキラと輝く石を見つめていると、メティスが私の方へ来る。どうしたのかなと思いそちらを見ると、ちょうど今休憩に入ったらしいセドリックが後ろにいた。
「にーに!」
「ソフィ、来てたんだね。魔法石を見てるの?」
「おや、イリフィリス令嬢だったのですね。これは失礼しました。自己紹介もせず、つい語ってしまいました。私はリルヴェートと申します。魔法騎士の団長です」
リルヴェートさんがぺこりと頭を下げる。別にさっきみたいな砕けた口調でいいのにな、と思ってそう伝えると、少し間を置いて分かりました、と微笑んだ。
「ね、それより、これは魔石じゃなくて魔法石っていうんだね」
私は宝石を指さしながらそう尋ねる。
「ああ。魔法の宝石……ってことで、魔法石。魔石との差別化のためだよ」
そうなんだ、と相槌を打ちながら改めて眺めてみる。
魔法石は本当に色々な色があって、見ているだけで楽しい。赤とか青はもちろんのこと、緑に黄色にオレンジに紫、中には偏光色もあったりして可愛い。私が夢中になって見入っていると、後ろでくすっという笑い声が聞こえた気がして振り返る。そこには口元に手を当てて笑うセドリックがいた。
なんだろう? と思っていると、欲しそうな顔してると小さく呟いた。はっとして顔に手を当てる。頬をみょんと伸ばして、戻す。
その姿が面白かったのか、セドリックとリルヴェートさんは二人とも笑っているようだった。なんか恥ずかしくなってふいと目を逸らす。
「気に入ったのあげようか?」
リルヴェートさんが私にそういった。うーんと数秒考えたあと、口を開く。
「つくるの難しくて大変なのに、もらえないよ。それに、こんなにいっぱいあったら迷っちゃう」
そう答えると、彼はふっと微笑んで、じゃあ、と先程の緑の物を手に取った。
「これは俺が作った試作品で魔力もいつまでもつか分からないから、実際に使うことはないかなって思ってたんだけど、そんなもので良かったら、受け取ってくれるかな?」
じっ、とリルヴェートさんを見る。気を使わせてしまったみたいで少し申し訳なくなったが、ここで断るのもそれはそれで申し訳ないなと思い、ありがとうと手を出してそれを受け取った。
「にーにとおなじいろなの」
そう言ってにぱっと笑う。リルヴェートさんは目を細めて微笑んで、二人は仲がいいんだねと私の頭を撫でた。
そのあと三人で少し話をしたあと、セドリックは練習に戻って行った。私もリルヴェートさんにお礼を言ってその場を去った。
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兄の邪魔をせずさらっと見て帰ろうと思ったが、先に見つかってしまったのでどうせならセドリックの練習姿をよく見ておこうと兄のいる方へ向かう。休憩前に見た時は魔法の練習をしていたが、今は体術系のようだった。格闘技をしてる人や、木刀を使っている人がいる。
兄の姿を探すと、ちょうど相手と向かい合って構えたところだった。真剣ではなく刃のない剣なので、普通にしていたら怪我をする心配はない。しかし、それでも当たれば痛いし、悪意持って魔力を込めたりしたら殺傷能力だってある。だから、ちゃんとした訓練場以外では基本的に武器の使用を禁止しているそうだ。
私は邪魔にならないように端っこの方で見学することにした。
セドリックがゆっくりと息を吐いて、すぅと吸った瞬間、一気に相手の懐に飛び込んだ。一瞬の出来事に、私は目をぱちくりとさせる。
セドリックはそのまま流れるような動作で、相手の背後に回り込み首筋に剣を突きつける。相手が降参のポーズを取ると、セドリックはふうと一仕事終えたかのように額の汗を拭き、こちらを見た。
目が合うと、セドリックはにこりと笑って手を振ってくれた。私は慌ててぶんぶんと手を振る。それを見た兄はすぐにまた練習に戻った。
ふと、私の隣に誰かが座る。
「まだ十三なのに、素晴らしい才能です。数年もしたらリルヴェートを追い越してしまうかもしれませんよ」
「エルドさん! にーに、すごいんだね」
「えぇ。それに、判断能力や統括力も問題ない……私が総団長の席を譲る日も遠くないかもしれません」
そう言ったエルドさんは、なんだかとても嬉しそうだった。




