【70】似てる。
(セドリック、戻ってくるの遅いな……)
ぼんやりと少し前に部屋を出たセドリックを思い出す。ラルークがいるから早く戻ってきて欲しいとかそういうのではないが、客人が来たというのが気になったのだ。
持ってきてもらった食事を全て食べ、特にすることもないのでラルークと魔法の話でもすることにした。ラルークもセドリックに私をみておいてと言われていて戻ってくるまで帰るに帰れないだろう。コップに入った水を一口飲み込めば、ラルークも手元の紅茶を飲んだ。
「そういえば……毒とかで本人が死んじゃった時、リリー……契約してる精霊ってどうなっちゃうんだっけ? 前にケニーさんに教えてもらったけど……」
確か契約者が死ぬか精霊の気まぐれで契約は終わるって言ってた気がするけど、私の場合はリリーの方から契約されてるからどうなるんだろう。契約者本人の魔力が減ると精霊にも影響するし、毒とかだと精霊にも影響するのだろうか。
うんうんと悩んでいると、ラルークはそれはね、と答えてくれた。
「基本契約は契約者が死ぬと自動的に終了するけど……下級精霊だと、魔力が枯渇したタイミングで契約者が死んじゃうと、消えることもあるね。お姫様の精霊は高位精霊だからそんなことはないと思うけど」
あとは、とラルークは続ける。ラルークの説明によると、精霊は特に毒とかの影響は受けないようだ。ただ、魔力に対して何かされたとき……例えば、誰かの魔法で魔力を封じられたりすれば、精霊も魔法を使えなくなるらしい。魔法の発動のトリガーが契約者にあるため、精霊自体が魔力を持っていても魔法を発動できない状態になるみたいだ。
「なるほど……。ラルークって、精霊についても詳しいんだね」
「魔法と精霊は大きく分けると別物だけど、詳しく調べる上で切っても切れない関係だからね」
ふぅん、と相槌を打つ。ある程度魔法について理解出来たとはいえ、まだまだ知らないことは多いみたいだ。ラルークとの会話が楽しくなってきたところで、扉がノックされる。返事をすると、セドリックが入ってきた。
「すみません、遅くなってしまって……。あ、ソフィ、全部食べられたんだね。よかった」
セドリックはラルークに声をかけたあと、机の上に置いた空の食器を見て安心したような表情を見せた。
「おかえり。大丈夫だった?」
私が聞くと、セドリックは苦笑しながら答える。
「うん……さっきクロムが来てね、倒れたことは知ってたんだけど、どういう状況だったのか教えて欲しいって言われたから、話してたんだ」
「えっ、クロムが?」
私は驚いて思わず聞き返した。まさかクロムが来るとは思わなかった。セドリックが倒れたとかなら分かるけど。
「顔見たいって言ってたけど、呼んでも大丈夫そう? まだ目覚めたばっかりだし後日にしてもらう?」
セドリックの言葉に少し考える。体調も万全とは言えないし、正直あまり会いたくないという気持ちはあるが、わざわざ来てくれたのに追い返すのは申し訳ないという気持ちもある。大丈夫だよ、と伝えると、セドリックはじゃあ呼んでくるねと部屋を出た。
少ししてまた部屋がノックされる。返事をすると、クロムとセドリックが入ってきた。
「お嬢さん。目が覚めたと聞いて、見舞いに来た」
クロムはそう言うと、彼の侍女を呼び花を渡してくれた。サイドテーブルの花瓶に飾ってもらうと、クロムもベッドの方へ来る。私のそばに居たラルークは立ち上がり、頭を下げた。
「挨拶はいい。プライベートで来たんだ、顔を上げろ」
「……恐れ入ります」
クロムが声をかけると、ラルークは再び礼をして元の姿勢に戻った。クロムは顔を上げたラルークをじっと見て、微かに眉を顰める。
「……お前がお嬢さんの聖誕祝祭の……」
「ラルーク・ハルベルトと申します」
クロムはラルークの名乗りを聞くと、僅かに目を見張った。そして数歩、彼に近付くと更にまじまじと見る。
「…………似てる」
「えっ?」
クロムの呟きにラルークは声を漏らした。私も心の中でなにが? と思ったところで、クロムは小さく呻き頭をおさえた。
「クロム、どうしたの?」
「……ああ、すまない、なんでもない……予知が今」
私の声掛けに反応して、クロムはハッとしたように私を見る。予知が見えたらしく、彼は黙り込んでしまった。少しして、クロムは目を閉じ大きく息を吐く。
「急に押しかけて悪かった、すまないが予知で気になることがあったから俺は戻る。……また、見舞いに来よう」
「あっ、うん。来てくれてありがとね、お花も、ありがとう。気をつけてね……?」
突然立ち上がりそう言ったクロムに少し困惑しつつも、私はお礼を言う。クロムはちらとラルークを見るとそのまま部屋を出ていった。なんだか様子がおかしい気がするが、予知を見た時はいつもこんな感じなのだろうか。
私は首を傾げつつ、ラルークとセドリックを見ると、二人とも微妙な顔をしていた。
***
同時刻、部屋の外にて。
(……似てる。あの瞳、あの雰囲気)
ソフィの部屋を出たクロムは早足で玄関へ向かう。廊下を歩く途中、すれ違う使用人が頭を下げている。しかしクロムはそれには構わず歩いていく。
屋敷を出ると、クロムはすぐそばに停めてある馬車へ乗り、皇宮へ帰るよう指示を出した。
道中、先程見たラルークの顔を思い出す。赤い瞳に黒い髪、特別珍しいものではないし、記憶の中にそういった容姿の者がいたわけでもない。でも、どこか既視感を覚える。
(あれは……幼い時に見た、前皇妃の肖像画に似ている気がする。それに名前……)
クロムはラルークという名を見たことがあった。それも幼い頃の記憶だ。名前も、見た目も、特に目立つものはない。それなのに、何故かやけにイライラする。
予知を見たせいだろうか、とクロムは考える。ズキズキと痛む頭をおさえてため息をついた。




