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【61】ヒロインは誰。

 一悶着あったがそのままパーティは終わり、屋敷へ戻る。途中話が終わったらしい父とベルク陛下が会場に来て、クロムがかいつまんでマルリードの件について説明をしてくれた。

 父は一瞬驚いたように目を見開いたが、そのあと少し考え込んだような表情を見せ、何か怖いことはされてない? と聞かれたので首を横に振った。


 翌日マルリードの件で父に呼び出される。朝食を食べ終わったあと父の部屋をノックして入ると、椅子に座るように促された。昨日の一件について詳しいことを聞かれたので答えられる範囲で答えると、しばらく黙り込んでしまった。


「……ごめんなさい、いくらなんでもやりすぎた……」


 少し俯きながらそう呟くと、父は何かを考えながら言葉を零していく。


「ソフィが怒るのも仕方ない、事実無礼なことを言ったのはマルリード卿の方だし……ただ、ソフィがしたのは褒められることではない」


 父の言葉にこくりと頷く。勘当でもなんでもされるつもりで腹は括ってきたが、次の言葉は想像していなかったものでぽかんとしてしまった。


「ソフィは、人の上に立つべき人間はどんな人だと思う?」


「えっ……と……うーん……、人を見る目があって、人の使い方が上手い人、とか……?」


 突然の父からの質問に戸惑いながらも自分の思う答えを口にする。すると父はふっ、と微笑んだ。


「まあ、簡単に言えばそうだね。仕事が完璧でも人の使い方が下手な人は上には立てないし、人を見る目が無かったら元も子もない。ソフィはどうだ?」


「私は……」


 そう問われて言葉に詰まる。特化魔法を習得出来ない時点で人の上に立つつもりなんて無かったし、考えたこともなかった。


「ソフィは勉強が得意でセドリックと比べても圧倒的に知識も豊富で、魔力量もある。優しいし、人のことをよく考えられると思う。……ただ、人の使い方……動かし方が、あまり上手くはない」


 じっと父を見る。まだ難しいと思うけどね、と付け加え、また話を続けた。


「優しいだけでも、厳しいだけでも、人は上手く使えない。社交界はマウントとプライドのぶつかり合いでもあるから、これからソフィが今より社交界に出るようになったら、マルリード卿みたいな人は沢山出会うと思う。パパはソフィの味方だけど、みんながそうとは限らない。そういう人たちをどう上手く使っていくのかが重要になってくるよ」


 そう言った父は私に向き直って、真っ直ぐに見つめてくる。確かに父の言う通り、貴族としての立ち回り方をもう少し考えて動かなければ。私が俯いていると、ぽんっと頭に手を置かれた。


「公爵家の人間として……教養と実力があるだけでは駄目だ。立場と力で人を支配するのは簡単だけど、それじゃいつか破綻してしまう。人間関係には正解がないからこそ、日々の言動には気を配らないといけない」


 そう言って父は私の頭を撫でた。気をつけます、と呟くと、これからたくさん練習すればいいよと返ってくる。

 もう成人も間近だ。いい加減社交界に顔を出さないといけないのもそうだが、子供のしたことで済まされる歳ではなくなる。家を継ぐ継がないに関わらず、公爵家の人間として、常に人の上に立つ意識を持たなければならないと、そう気付かされた気がした。……やっぱり悪役令嬢ルートはごめんだ。こんなにも私のために話をしてくれる父がいて、優しい兄と母がいて。私はこの家族が大好きだ。だからこそ、家族に迷惑をかけないようにしないと。そんなことを考えているうちに話は終わり、私は自室へ戻った。



「今日はアーレント伯爵のお茶会で、午後は聖誕祝祭(ファンティスタ)のダンスの練習です。準備しましょう」


「はぁい……」


 メティスに言われ、伸びをしながら返事をする。ここ最近は来ていたお茶会の招待状の消費期間である。午前はお茶会をして、午後は聖誕祝祭(ファンティスタ)用のレッスンやマナーの再確認など、やることが多くて大変だ。

 今日はアーレント伯爵……サレニア主催のお茶会だ。サレニアとは何度か会っていたが、今日は向こうの家なので久しぶりにケニーさんと会うかもしれない。精霊のことを教えてもらった時以来だからちゃんとしたお礼もしたいなと思いながら着替えを済ませ、馬車に乗り込んだ。

 屋敷へ着くと、庭へ案内される。そこには五人の令嬢と、サレニアが座っていた。


「令嬢、お久しぶり。忙しいのに来てくれてありがとう」


「サレニア、久しぶり! 招待してくれてありがとね」


 二人で挨拶を交わした後、他の令嬢達とも挨拶を交わす。私と同い歳は一人……アメリシア侯爵家のアリスだけで、後はみんな歳上の令嬢だった。サレニアは交友関係が広いんだなとお茶会の面子を眺める。出された紅茶を飲みながら、みんなと雑談をしていた。

 しばらくすると話題は昨日の戴冠式のことになり、私に話が振られる。


「ソフィ令嬢は戴冠式に出席されたのですよね?どんな感じでした?」


 アリス嬢が目を輝かせながら聞いてきた。そうか、侯爵だけど私と同い歳……十五で未成年だから出席してなかったのか。


「両陛下がご入場されて……宣言の挨拶をしたあとクロム……陛下が冠をベルク陛下から受け取っていましたわ」


 私が答えると、周りの令嬢達はうっとりしていた。クロムもベルク陛下もかっこいいもんね、気持ちはとても分かる。


「実は私、クロム陛下のことお慕いしておりまして……。叶わないとは分かっていますが、それでも戴冠式は一目見たかったです」


「あら、そうだったのですね! アリス令嬢はまだ婚約者もいらっしゃらないし、侯爵家だしチャンスはあるのでは? それにしても、クロム陛下は素敵な方ですよね……」


 そう言ったシリーナという伯爵令嬢の言葉にアリスはえっ!?︎ と驚いた後、少し顔を赤らめて首を横に振る。ほかの令嬢たちも、クロムのあれがいいだこれが素敵だと言い合っている中、私は苦笑いを浮かべていた。


(まあ、確かにクロムはイケメンだよね……憧れる気持ちも分からなくもない……かも)


 浮いた話を聞かないし、クロムの脳内はセドリック>女の子なんじゃないかと思うくらい恋愛に興味がなさそうだけど。

 いっそセドリックの婚約者や好きな人が現れれば変わるかもしれないが……どうだろう。


 ふと視線を感じそちらを見ると、アリスと目が合う。彼女は私の方をじっと見つめていたが、すぐに逸らすと、別の令嬢たちと話を始めてしまった。

 そんなこんなでお茶会は無事に終わり、サレニアにお礼を言って屋敷へ戻る馬車に向かう。途中、声をかけられて振り向くとアリス嬢が立っていた。

 私に声をかけてきたアリス嬢は、何故か緊張しているような表情をしている。何か用かなと思いつつ、とりあえず要件を聞くことにした。


「アリス嬢? どうされましたか」


「その……ソフィ令嬢は、クロム様とどのような関係なのですか!」


 アリス嬢は真剣な眼差しで私を見据えたあと、そう尋ねてくる。クロムとの関係と言われても……友人? セドリックの友達? それともただの知り合いだろうか。

 考えてみたが特に思い当たらなくて、とりあえずお兄様経由で知り合っただけだよ、と伝えた。するとアリスは安心したように胸を撫で下ろしている。


「そうでしたか……。そ、その、大変烏滸がましいのは承知の上で申し上げますが、宜しければ……協力、して頂けませんか?」


 そう言いながら、アリスは恥ずかしそうにもじもじと指先を合わせ始めた。……なるほど、割と本気で好きなのか。


「協力……は構いませんが、恐らくアリス嬢が思っているほど陛下と仲良くありませんよ? 私もお兄様が居ないとなかなか会う機会がないですし……」


 私がそう言うと、アリスはそれでも構いません! と力強く返事をする。まぁ、別に断る理由も無いから協力しておこう。


「なにか協力出来ることがあれば、仰ってください。私もなるべく努力しますので」


 そう伝えると、アリスはありがとうございます! とお辞儀をしてその場を離れた。馬車へ向かい乗り込み、ぼんやりと窓の外を眺めながら先程のことを思い出す。


(協力……ねぇ……。でも、アリス嬢……可愛かったし、もしかしたらこの世界のヒロインとかなのかも……ここが何の世界なのか分からないけど)


 家族に迷惑をかけないためにも、悪役令嬢ルートはやっぱり回避したい。ここは積極的にアリスの協力をすべきだろう。別に私はクロムのことが好きな訳でもないし。取り敢えず、まずはアリスと仲を深めていこう。そう決意して、屋敷へ戻った。

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