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【55】ラルークの推測。

***


 夜中、宿屋にて。


「ラルークもベッドで寝なよ、私、寝相いいから……」


 ベッドの上でふわ、と小さく欠伸をしたソフィを見ながら、ラルークは先程彼女が言った言葉を脳内で反芻した。


(一緒に寝るってこと? 信用してくれてるのは嬉しいけど、僕も一応男なんだけど……)



 いくら意中の相手とは言え、さすがに手を出すような真似はしないが、それでも年頃の男と一緒にベッドで眠るというのはどうかとラルークは思った。

 どう返答していいのかわからず黙っていると、ソフィは真ん中に枕を二つ置き、それからラルークの手を引いた。ソファで寝ると言えば意地でも起きそうな彼女を見て、なんとも言えない表情になる。おやすみ、と小さく呟いた声を聞き、諦めてラルークも布団に入った。

 しばらくしてちらとソフィの方を見れば、規則正しい呼吸音が聞こえてくる。


(……お姫様が気になって寝れない)


 ラルーク自身もそこそこに疲れているはずなのに、瞼を閉じてもなかなか眠れない。数回深呼吸をして気持ちを落ち着かせようと試みるが、隣にいるソフィのことを考えるとまた余計に目が冴えてしまう。寝返りをうち、彼女の寝顔を盗み見るととても穏やかな表情で眠っていた。


 ラルークがソフィのことを好きになったのは、いつからだろうか。初めて会ったのは九年前……ラルークが十四、ソフィが六歳のときである。まだ幼かった彼女は、ラルークの特化魔法を純粋に褒め、すごいと言ったのだ。

 彼の特化魔法(星読み)はあまり魔法能力としては強くない。皇族の特化魔法である未来予知のように正確ではないし、未来に起こる可能性があるものが見えるだけで、その未来は当人の選択ひとつでガラリと変わる。義父であるランドンはさすが貴族と言うべきか、子爵とはいえそれなりの特化魔法を持っている。ラルークは幼い時からほんの少しの劣等感を抱いていた。

 初めてソフィと会った時はまだ好きではなかったと思う。世間知らずなお嬢様といった印象と、瞳が綺麗なお姫様みたいな子だと、そんな風に思っていたはずだ。一体何時から好きになったのだろう。再会した時だろうか? ……いや、その時もまだ、そこまで意識していなかった気がする。では、いつからか……。

 しばらくしてラルークは考えるのをやめた。恋というのは未知数で、考えるだけ無駄というものだ。


 自分もそろそろ寝よう、と再度深呼吸をして瞼を強く閉じた時、隣からうっ、と小さな声が聞こえてきた。驚いて横を見ると、少し前まで穏やかな表情で眠っていたソフィが苦しそうにしている。額には汗を浮かべ、眉間にシワを寄せていた。

 長時間の魔法の使用と雨に打たれたせいで体調が悪くなったのだろうか、そっと彼女の額に手を当てると、少し体温が高いような気がする。宿屋の主人を呼んできた方がいいだろうか、それともそばにいた方がいいのだろうか、考えているうちに魘されていたソフィの表情は少し落ち着いてきた。

 濡れタオルでも持ってこよう、とベッドから出た時、彼女の口から途切れ途切れに声が漏れる。


「……やま、な……し…………ほし……」


(……ヤマナシ? 星?)


 聞き慣れない言葉に思わず首を傾げる。ただ、先程よりも穏やかで幸せそうに眠るソフィにほっとした。


「う……ん……なが……よかっ……」


 またしても聞きなれない単語を呟いた彼女は、しばらくしてまた険しい表情になる。それも、さっきよりも酷く苦しそうで、聞きなれない単語に気を取られて濡れタオルを忘れたラルークは少し焦りながらもソフィのそばに寄る。

 魘される彼女みてやっぱりタオルを持ってこようと背を向けた時、彼女が勢いよく起き上がった。


「っ……はぁ、はぁ……」


 背中越しに聞こえる荒い息遣いに振り返れば、肩を上下させながら必死に酸素を取り込もうとしている姿が目に入った。声をかけようとすると、ソフィがばっとラルークの方を見た。


「お姫様……、相当魘されていたけど、大丈夫?」


「うん、大丈夫……ごめんね、起こしちゃったみたいで」


 彼女は微かに表情を歪め、小さくため息をついた。


「そうだ……水でも飲む? 温かいのがいいなら紅茶でも……」


「ありがとう……お水、ほしいな」


「わかった」


 ラルークはベッドから降り、水差しからコップへと水を注ぎ彼女に渡せば、彼女はゆっくりと飲み始めた。

 髪が汗で張り付いている。今度こそタオルを持ってこようと視線をソフィから逸らすと、身体拭いてくる、と彼女はベッドから立ち上がる。あっ、と思った時にはふらりとよろめいていて、慌てて支えた。


「僕がタオル持ってくるよ。お姫様はここで休んでて」


「……ごめんね、何から何までありがとう」


(……全然、なにも手助け出来てないけど)


 お礼を言うソフィに苦笑して、気にしないでと答える。そして、彼女をベッドに寝かせるとラルークは部屋から出て行った。

 タオルを置いてある場所まで歩き、はぁとため息をつく。自分が情けない。


(結局、何も出来なかった……。あんなに苦しそうな顔していたのに)


 ラルークは手に取ったタオルの一枚を水に浸し、固く絞る。数枚の乾いたタオルと共にソフィがいる寝室へと向かった。タオルを渡したあと彼女から身体を背ける。


(……魔力の過剰消費、それとも……)


 大きな病気、だろうかと考えて心の中でため息をつく。……ソフィの立ち位置、容姿、性格全て問題ないのに未だに居ない婚約者。数年前の戦争のときに感じた、歳に見合わない覚悟の強さと自己犠牲、周りを見る能力の高さ。もしかしたら、と嫌なことばかり考えてしまう自分に腹が立ちつつも、ラルークは頭を振った。

 彼女は、幼い時から病を悟っていたのかもしれない。誰かと会う時はそれを隠し、一人の時や侍女たちと共にいる時は、素の自分だったのだろうか。……そういえば戦争の時、普段の一人称ではなく、私と言っていた。緊急時に出るということはきっと半年前に会った時からではなく、あの戦争の時よりずっと前から私と言っていたのだろう。何も無いのにわざわざ自分を偽る必要は無い。ということは、と考え、ラルークはまたしても頭を振った。


「……雨も降って、朝からずっと魔法を使っていたから、体調崩しちゃったのかもしれないね。……ごめんね、僕がもっと早く気付いていれば」


「ううん、大丈夫。時々あるの、こうして夜中体調悪くなるの……多分朝には熱出てると思うけど、ラルークのせいじゃないから心配しないで。それより、一緒に居てくれて安心した。ありがとね」


 ラルークはソフィの言葉を聞いて眉を寄せた。……もしかしたら、本当に、病なのかもしれない。

 覗きは趣味ではないが彼女の運命の星を見よう、と心に決める。身体を拭き終わったソフィを寝かし、ラルークはじっと彼女の表情を見つめた。

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