【51】久しぶりの指導。
季節は目まぐるしく変わっていき、あっという間に日々が過ぎていった。気付けば三年が経っていて、私は十五歳になった。……そう、今年聖誕祝祭で、来年から晴れて成人である。
この三年、何があったのかを思い出す。……これといって思い出はないが、強いて言うならちょくちょく社交界に顔を出し、魔法の勉強をし、大人レディ作戦も板に付いてきた感じだ。
私以外の出来事といえば、クロムの戴冠式が予定通り行われず、今年の聖誕祝祭前というかなりの大幅延期になった。戴冠式二日前に、皇后であるロレティ陛下のご懐妊が発覚したのだ。今までクロム以外になかなか子を授かることが出来ず、クロムがもし亡くなったら後継者をどうするかと問題になりつつあったため、国民全体が大喜びし、それはもうお祭り騒ぎとなった。戴冠式にはロレティ陛下のご挨拶も組み込まれているのだが、身重の体で立って大丈夫なのかということで、三年の延期が発表された。ご懐妊の翌年、無事に男の子を出産され、アランと名付けられた。今は一歳と少しで、クロムの次の皇帝候補である。
そんなこんなで色々ありあっという間に過ぎていった日々だが、私はひとつの問題に直面している。……そう、パートナー問題だ。ラルークにパートナーを頼もうと決めた翌日、彼から手紙が来て魔法の研究で忙しくなるから向こう一年は会えないとのことだった。それから新しい皇太子の誕生で国中が慌ただしくなったり私の予定などなどですれ違いにすれ違いを重ね、つい半年前にやっと会えたかと思えばパートナーになってほしいと伝えるのをすっかり忘れてしまい、言えずに終わってしまったのだ。そして今に至る。
今日は久方ぶりの魔法指導の日である。ラルークも私も忙しく、結局半年も開いてしまった。……正直、もう魔法はある程度使える。さすがに十五年もこの世界で生きていると魔法について理解できるようになった。ただ、あいも変わらず特化魔法は習得出来ないので、もう半ば諦めてはいるが、最後まで足掻こうということでラルークに頼んだのだ。
しかし、それにしてもラルークと会うのは半年ぶりなので緊張する。さっきから何度か鏡で確認しているが、それでも落ち着かない。半年前は、会うのが二年半ぶりだったというのと、大人レディ作戦後初めて会うというのと、たまたま毎年ある現代の夢を会う少し前に見てしまい色々混ざりに混ざって数日寝込んだ。今日はそれに比べると大分マシだが、やはり緊張するものはする。……いや、それよりもまずは、ちゃんと聖誕祝祭のパートナーになってほしいと伝えないと。深呼吸をして、気合いを入れた。
ラルークは約束の時間ぴったりに来た。門まで迎えに行くと彼は私を見て目を丸くした。やっぱり似合わないかな? 確かにこのドレスはちょっと大人っぽすぎたかもしれない。彼の反応を見て不安になる。
久しぶり、と声をかければ、ラルークはハッとしたように手を振り、笑顔を向けた。
「久しぶり。……半年前会った時も思ったけど、少し会わないうちにかなり大人っぽくなったよね。そのドレス、似合ってる」
「そうかな? ありがとう」
緊張しているせいか少し恥ずかしくなり視線を外すと、視界の端でラルークが首を傾げていたのが見えた。
とりあえず中に入ってもらい、いつも講習に使う中庭へ向かって歩いていく。この半年であったことやお互いのことを話しているうちに、到着した。
「よし、じゃあ始めようか」
「うん! よろしくね」
私がそう言うとラルークは微笑んでうなずいた。
・
「よし、今日はここまでにしとこうか。結構魔力もつかっちゃったし、疲れたでしょ」
ラルークの言葉に私はため息をついた。結局今日も特化魔法は使うことが出来なかった。ラルークが言うには、あともう少しらしいのだが……。
今日はいつもと違い、丸一日予定を開けてくれていたみたいで、いつもより時間をかけてやったせいで魔力をかなり消耗した。もうお昼の二時を過ぎている。ポカポカと暖かい陽の光を浴び、ふぁ、と小さく欠伸が出た。
「やっぱり、魔法、難しいなぁ……」
「でも、最初に比べてかなり成長したよ。特化魔法以外は無駄がないし、魔法の質も格段にあがってる」
ラルークはそう言って私の隣へきた。
「少し休む?」
「ううん、今寝ちゃうと夜寝られなくなっちゃうから……。それに、お腹空いちゃって……あんまり休む気になれないというか」
私はそう言いながら苦笑する。今までは、魔力を使いすぎた日は少し仮眠をとってから部屋に戻っていたのだが、今日は朝ごはんをあまり食べなかったからか眠さより食欲が大変なことになっている。ラルークは私の言葉を聞いてくすりと笑うと、 それなら、と言って立ち上がった。
「新しいアフターヌーンのお店が出来たの、知ってる? ここからだと近いよ。馬車で五分もかからないんじゃないかな。お姫様がしんどくなければ、行ってみない?」
ラルークの言葉にほんの少しだけ考える。アフターヌーンなら、ファムたちに頼めばここでも出来る。……が、どうせならその新しく出来たらしい店に行ってみてもいいかもしれない。
「うん、行ってみたい!」
私が答えるとラルークは嬉しそうに笑って私の手をとった。そのまま立ち上がるように促され、歩き出す。
近くにいたメティスに馬車を出すように頼み、私たちは街へ向かった。




