【6】お礼の手紙と騎士団見学。
ほとんど貴族がきゃっきゃうふふしながら談笑する会に成り果てていたパーティも無事終わり、終わりの挨拶は私が眠すぎるという理由で(でたらめだが)割愛して解散してきた。馬車に揺られながら家に帰る。ファムの抱っこで目が覚め、ふと空を見上げて、望遠鏡の彼――ラルークのことを思い出した。
彼はどんな人なのだろう。誰か知ってるといいな、と思い後日侍従たちに聞こうと決めた。あと、ちゃっかり聞きそびれていた兄とクロムの友達のきっかけ話もついでに聞いておこう。その日は眠い、と言うと三原色侍女たちがあれよこれよと就寝の準備を済ませてくれ、そのまま気絶するように眠りについた。
朝……というよりは昼にぱちりと目覚める。ふわぁ、と大きく欠伸をすると、メティスがプレゼントを室内に運んでいる途中だった。
「おはようございます、お嬢様。先日のプレゼント、お部屋に運んできました。一通り確認したあとは、皆さんにお礼のお手紙を書きましょう」
「うん、ソフィ、がんばるね」
もはやここまでするなら、もう息抜きという当初の予定は何一つ意味を成してないなと思いながらも、昨日まで会ったことはなかったが頂いた数々のプレゼントは有難いものなので、一つ一つ開封して順に手紙を書く。一通り終えたところで、メティスがお茶を持ってきてくれたので、ペンを置いて休憩にした。
「お嬢様、仲良くできそうな子達はいらっしゃいましたか?」
「うーん……、サレニアって子と、ヨルクって子は、おもしろそうだなぁって思ったけど、それ以外の子は、挨拶とちょっと話して終わっちゃった」
そうでしたか、と言ったあと、メティスは少し間を置いて口を開いた。
「サレニア様は、アーレント伯爵家のご令嬢ですね。ご趣味は刺繍だそうです。ヨルク様は、ハイドフェルド伯爵家のご子息ですよ。剣や乗馬など男の子らしいことがお好きなようです」
「へぇ、そうなんだ」
そんな感じだったんだ、と思うのと同時に、侍従はこんなことまで知ってるんだと感心する。私にはまだまだ知らないことが多いようだ。まあでも、この世界では貴族の子女とはいえ、社交の場に出るのはせいぜい十歳前後からだし、それまでは家庭教師について礼儀作法や言葉遣いなどを習うのが普通である。六歳の私が知る機会なんて滅多にないのだ。
その後、しばらく他愛のない話をしてから、私はまたペンを取った。今日は午後にまた魔法の練習があるだけで、特に外出する予定はない。たまには勉強ばかりではなく、外で体を動かしたいものである。メティスに伝えてみると、少し考え込んだような様子を見せたあと、そういえばと言った。
「セドリック様が去年騎士団に入団したのですが、団長に許可を頂けたら見学でもしてみますか?」
「ほんと!? ソフィ、みてみたい!」
「でしたら連絡してきますね。お手紙書き終わるまでに、大丈夫だったか聞いてきますので」
わかった、と言うとメティスは退室した。そしてそれから三十分後、訓練場に行ってもいいという返事をもらったとメティスが戻ってきたので、昼までに手紙を頑張って書き終えて魔法学の勉強に移った。
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自室に戻り早速お出かけ準備をして外へ向かう。今日も、案の定特化魔法の習得は出来なかった。少し落ちこんでいたが、今から騎士団の練習を見に行くから気持ちを切り替えようと馬車に乗り込んだ。
「あ、そういえば、にーに、クロムのために騎士団入ったっていってたよね、それってどういうことなの?」
昨日のパーティで聞きそびれていたのを思い出し、隣にいるメティスに問いかけた。
「ああ、それはですね、お嬢様がお生まれになる前に、殿下がセドリック様を庇って怪我をされたのです」
「ええっ、そうだったの!?」
全く知らなかった。そりゃあ聞いたことないから知らないのも当然なのだが、驚いてぽかんとしてしまう。
「それがあったのはちょうどお嬢様くらいの歳のときです。その少し前に、ヴィラール様が仕事の件で陛下の所へ行かれた際にセドリック様をお連れしていたようで、そこで殿下とお会いされたようです。そこから仲良くしていたみたいなのですが」
それで、とメティスは続ける。
二人で外にいた時に魔獣が現れたらしい。魔法がありふれたこの世界で魔獣の出現は珍しくない。ランクもそんなに高くなく、当時の二人でも倒せる程度だったらしいが、セドリックが魔獣に攻撃されそうになったのをクロムが庇ったみたいだ。幸い低ランク魔獣な上にクロムの魔力がある程度残っていた状態だったから、お互い大した怪我もなくその後駆けつけた護衛が倒したらしいが。
「そうだったんだ……」
「えぇ。当時セドリック様は、幼いながらに特化魔法も習得していたので、万が一攻撃されたとしてもかわせたはずです。きっと殿下もご存知だったとは思いますが、それでも自分の立場を顧みず庇ってくださり、それに心打たれてセドリック様は騎士団になってもっと強くなろうと決意したみたいです」
いくら兄が公爵家の息子とはいえ、相手は皇太子。セドリックを盾にしてもおかしくないのに、庇って怪我をしたなんて。
「まあそれも、通過儀礼なのですが」
「どういうこと?」
メティスの言葉にこてんと首を傾げる。
「殿下と仲良くしたいという人はたくさんいるでしょう。ですから、その気持ちがどれほどのものなのか、陛下が試していたみたいです」
うーん、と頭をひねる。つまり、どういうことだ。
「うーん……」
「セドリック様は、殿下を置いて逃げようとしたりせず、盾になろうとギリギリまで防御魔法の詠唱をしていました。それで、セドリック様なら大丈夫だとご判断された殿下が庇った、ということですね」
なるほど、つまり兄がクロムを守ろうと、庇う形で防御魔法の詠唱をしていて、その姿を見たクロムがセドリックとなら仲良くしても大丈夫だと思ったのと同時に詠唱が間に合いそうになかったから庇って傷を負った、ということか。
結局のちのち通過儀礼であるということは聞かされたみたいだが、それにしても自分の魔法がもっと極められたら、自分自身がもっと強かったら傷を負わせることもなかった、と思ったセドリックは騎士団に入団することを目標に日々魔法や剣術などの鍛錬をしていたらしい。
きっと、自分が守られたように、兄も立場関係なく誰かを守りたいと、きっとそう思ったのだろう。
「じゃあ、にーに、クロムのこと大切なんだね」
「ええ」
そんな話をしていると、いつの間にか訓練所の近くに着いていた。馬車をおり、少し歩く。
「わぁ……! すごい!」
訓練所にはたくさんの騎士たちがいた。
「イリフィリス令嬢。お待ちしておりました」
「アルファード卿、急な申し出にもかかわらずありがとうございます。お嬢様、こちら、総団長のエルド様です」
メティスが紹介してくれたのでぺこりと頭を下げると、「これは可愛らしくていらっしゃる」と微笑まれた。どう反応すればいいのか分からず、とりあえず笑っておいた。
「セドリックはまだ一年目の訓練兵ですが、魔法の扱いも上手く体術も問題ない。二年後が楽しみです」
「にーに、強いんだね。じゃましないから、色んなところ見てもいいですか?」
「ええ、もちろん。ゆっくり見ていってください」
そして私は、色々と練習場を見て回ることにした。




