【48】調査と飲み会。上
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ある夜、ミリアードのとある地区にて。
一人の男が手紙を持って歩いている。そして目的の人物を見つけると、駆け足で近づき声をかけた。
「セドリック、イリフィリス公爵から手紙が届いている」
「父上から……? ありがとうございます」
手紙を受け取ったセドリックは一旦持ち場へ戻り、その後で封を切った。あと数日で屋敷に戻るところだが、手紙を寄越すなんて急用だろうかと不安になりながら読み進めるが、予想外の内容に一瞬ぽかんとしたあと、ふふ、と笑みがこぼれた。
「あれ、セドリック。どうしたの、にやにやして」
「にや……ええと、父上から手紙が来たのですが、ちょっと予想外の内容で……ふふ」
セドリックに声をかけたのは魔法騎士団団長のリルヴェートだ。彼はセドリックが手に持っていた手紙をちらと覗き込んだ。
「へぇ。どんな内容だったの?」
リルヴェートがそう聞くと、セドリックは表情を崩したまま答えた。
「妹が本に影響されて大人に憧れたみたいで……お父様って呼ばれるようになって寂しいって」
急用かと思ったら八割ソフィのことでした、と苦笑いしながら言うセドリックにリルヴェートは思わず吹き出した。
セドリックは普段あまり表情を表に出さない。クールかと言われると少し違うのだが、こういった表情を見るのは珍しくリルヴェートは興味深げに見つめていた。
そんな彼の視線に気付いたのか気付いていないのか、セドリックは目を細めて口角を上げた。
「ソフィ嬢、この間会った時はそんな感じじゃなかったけど……まあ、俺の妹もそれくらいの歳の頃思春期やら反抗期やら、色々あったよ。年頃だね」
リルヴェートはそう言って微笑んだ。セドリックはソフィと出かけた時のことを思い出し、色々と想像を膨らませる。言葉遣いは歳相応だったが、勉強が得意で考え方や行動はどこか大人っぽいところがあった。さらに大人っぽくなったのだろうか。……それに、普段の彼女は反抗期が来なさそうな、素直で良い子だ。ソフィに反抗期が来たら父上が泣きそうだなとセドリックは思った。手紙を読み終え、返事を書こうとして少し悩む。あと二、三日で戻るから書かなくてもいいかもしれない。ただ何かあって戻るのが遅くなったら心配させてしまうかもしれないと筆を取った。
「じゃ、俺は戻るね。また調査終わったら飲みにでもいこうよ」
手紙を書き始めたセドリックを見てリルヴェートはひらひらと手を振ってその場から立ち去る。セドリックが成人した十六のときから、時々飲み会に誘われるようになっていた。手紙を書き終えたセドリックはそれを封筒に入れ封蝋をする。早馬に頼むより自分で届けた方が早そうだなと騎士団本部に置いた魔法陣の座標へ向けて空間移動魔法を発動させた。近くにいた団員に手紙を渡して、またミリアードの調査場へ戻る。
騎士団本部から屋敷まではそこまでの距離ではないが、魔力の消費量を少しでも減らすため屋敷には戻らないことにしてある。空間移動魔法は魔力を多く使うのだ。
セドリックは調査場へ戻ったあとそのまま自身の待機所へ向かう。しばらく道なりに歩いていると、目の前に見知った顔が現れた。
「あれ、イリフィリス卿。どうしたんですか、こんな時間に」
「あぁ……少し私用で出ていたんです。ハルベルト卿も、こんな時間にどうされたのですか?」
声をかけてきたのはラルークだった。彼は肩掛けの鞄を持っており、魔法研究所の待機所の方へ向かっているところのようだ。今日の分の調査は数時間前に終わっており、今は見張りの騎士団以外残っていないはずだが。
「僕も私用……というより、特化魔法の事情で。もう終わったので戻るところです」
ではここで、と歩き出したラルークの後ろ姿をセドリックは見送る。彼の背中が見えなくなった頃、ラルークが向かっていった方向とは逆の方向へと足を進めた。
(あの辺は……何かあったっけ)
しばらく歩いていたが、建物や特別何かがあるといったことはなかった。もうそろそろ戻ろうとセドリックは踵を返す。そして、ちらと見えた空に息をのんだ。
(星……)
辺りに街灯や建物がないおかげか、端から端まで広がる星空が綺麗に見える。セドリックはしばらくその場で佇み、その景色を見つめた。
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「じゃあ、長期遠征お疲れさまということで、乾杯」
カン、とグラスがぶつかる音が響く。セドリックはちらと辺りを見渡したあと、グラスに入った酒を一口、流し込んだ。
てっきりリルヴェートと二人で飲むものだと思っていたら、騎士団と一部の研究所の人たちが集まり、かなりの人数で飲むことになってしまっていた。まぁ、こういう席も嫌いではないのだが、と思いながらセドリックはちびりと酒を口に含む。
合同の打ち上げではあるが、結局騎士団と研究所でグループが分かれてしまい、殆ど騎士団の打ち上げのような感じになっている。研究所の方に視線を移すと、そちらはそちらで楽しそうにしていたのでまあいいかとセドリックは考えるのをやめた。
(飲みはいいけど……父上とソフィが気になる。明日の朝帰るから……屋敷に着くのは夕方くらいになるかな)
騒がしい雰囲気の中、セドリックはそんなことを考えながら周りの話に相槌を打っていた。どうせ打ち上げが無くとも明日の朝出発であるから、早く帰りたいとかそういうわけではない。セドリックは適当に周りに合わせて会話を続けていた。
ある程度時間が経つと、次第に皆酔い始めてきたのか少しずつ静かになっていく。セドリックはふぅと小さくため息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。彼は酒があまり得意ではない。まだ成人してからそこまで酒と向き合うことがなかったというのもあるが、酔って前後不覚になったり記憶が無くなるのが怖くて少しでセーブするようにしていた。
(……ちょっと酔いをさまそう)
セドリックは壁際まで移動すると、窓の外を見ながらふうっと息を吐く。リルヴェートはかなり酒に強い。相当飲んでいたが、セドリックが席を立ったことに気付いたのか彼もセドリックの方へ向かってきた。
「酔った?」
「……少しだけ」
隣に立ったリルヴェートは窓の外を見て、それからセドリックの顔を見た。顔色はあまり変わっていないように見えるが、いつもよりも柔らかい表情をしているように感じる。
確かに普段よりは酒の量が多かったかもしれないが、それでもほかの人たちに比べると全然少ない方だ。弱いのだろうな、とリルヴェートは少し微笑んだ。
「無理しないようにね。もう少ししたら終わりにするから」
そういってまた席の方へ戻っていった。セドリックもそろそろ戻ろうと視線を席の方へ移すと、ばちりとラルークと目が合う。彼はセドリックに向けて手をひらひらと振った。




