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【46】無詠唱魔法と図書館。

 翌日、約束の時間ぴったりにラルークはやってきた。今日は何をするの? と聞けば、無詠唱魔法の練習だと答える。隣でぼんやりと聞いていたセドリックがえっ、と小さく声を漏らすのが聞こえた。


「無詠唱魔法って、練習で何とかなるものなんですか? 生まれつきの特性だと思っていたけど……」


「練習すれば使えるようになりますよ。普段から詠唱してた人はそっちの方が威力は強くなるけど……不意打ちとかには有効な手段ですね。騎士団にいるなら、イリフィリス卿も知ってて損はしないと思いますよ」


 是非一緒にやりましょう、とラルークはにこやかに笑いかけた。セドリックは少し迷っていたようだったが、結局一緒にやることになった。

 当たり前といえばそうなのだが、セドリックもラルークもお互い敬語で、私に対してだけタメ口なのがなんだかちょっと面白くて思わずふふ、と笑ってしまえば二人に不思議そうな顔をされた。ラルークのほうが年上だが爵位は下だし、セドリックは家族とかクロム以外基本敬語で話すしそうなるのも分かってはいたが。

 そんなこんなでラルークの指導のもと練習すること数時間、最初は中々上手くいかなかったがコツを掴んだのか次第にスムーズに魔法を発動できるようになっていく。セドリックも同じようで、二人でああでもないこうでもないと言いながら試行錯誤を繰り返していった。ラルークは時々私たちの様子を伺いながら的確なアドバイスを送ってくれて、魔法学の講習が終わる頃には二人とも無詠唱魔法を使えるようになった。


「まさか半日で習得できるとは……。ハルベルト卿は、教えるのが上手なんですね」


 セドリックが感心したようにラルークを見やる。ラルークは二人の飲み込みが早いんですよ、と言いながら笑顔を見せた。

 ラルークは魔法に長けているだけではなく教え方まで上手い。セドリックはラルークの教え方が良かったのか、もともと素質があったのか、あっという間に覚えてしまっていて、あと数日練習したら無詠唱でも普段の魔法の威力で出せそうだ。私も習得出来たが、かなり威力は劣る。……やっぱり魔力量と全属性持ちに頼りすぎていると実感した。もう少し私の中で魔法についてうまく咀嚼(そしゃく)出来ればいいのだけれど。

 午後は騎士団で練習があるからとセドリックは先に戻った。ラルークもそろそろ帰るね、と立ち上がる。


「いつもありがと、気をつけてね」


「お姫様も元気でね。……あ、そうだ、申し訳ないんだけど、来週から少しの間来られないんだ。研究所で調査に行くんだけど……いつ戻ってこられるか分からないから」


「そうなんだ。どこに行くの?」


 いつ戻って来るか分からないような調査ってなんだろうと思いながらもそう尋ねると、彼は困ったように眉を下げた。


「ミリアードの一部の地区で魔獣が異常発生しているらしいんだよ。それの調査だけど……少し厄介みたいでね。駆除も兼ねてるから、もしかしたら騎士団も来るかもね」


「ミリアードってことは、結構ここから離れてるね。……うーん、なんか、にーにも忙しくなるって言ってたような……一緒に行くのかなぁ」


 私は首を傾げる。ラルークは私の頭を撫でると、どうだろうね? と苦笑する。騎士団で魔獣を相手するなら魔法騎士団だろうし、そうなったらセドリックも行きそうではあるが、なんせ宮廷騎士団と掛け持ちになってしまったからよく分からない。もし二人とも行くなら寂しくなるなと考えていると、ラルークはまたすぐに戻ってくるよと微笑んだ。



 数日後、ラルークが言っていた通り魔法研究所と魔法騎士団の合同調査が行われることになったとセドリックから聞いた。彼は空間移動魔法が使えるから騎士団本部には報告で時々戻ってくるみたいだが、屋敷には戻らないらしい。すぐに終われば一週間くらいで戻ってくると言って遠征の準備をしていた。

 しばらく退屈になりそうだなと部屋で本を読みながらぼんやりと考える。ラシェルとお出かけでもするか、それとも部屋にこもって勉強するか……。お出かけといっても何か欲しいものがある訳でもないし、勉強も正直魔法学以外は現代で勉強してる内容より簡単なものばかりで面白くない。どうしようかとうんうんと悩んでいると、近くにいたファムがそうだ、と口を開いた。


「そういえば、マリヘルトと皇宮の境辺りに、国立図書館があるのですが、行ってみますか?」


「国立……ってことは、結構大きい?」


「ええ、この国の中では一番大きい図書館ですよ。禁書庫や重要な書物が置いてある所には入館証が必要ですが、一般書物庫なら出入り自由ですので、ご興味があればいかがですか?」


 ファムの提案に、確かにいいかも、と呟く。今まではこういう本が読みたいとファムたちに頼んで借りに行って貰っていたが、自分で探せるならその方が早いかもしれない。それに、小説とかも読みたいし。

 早速行こうと外出の準備をする。ドレスに着替えて馬車を出してもらい、図書館へと向かった。


 図書館は想像していたよりも大きかった。国立だが現代の日本みたいに無料で入れる施設ではないみたいで、入り口で入館料を払って中に入る。庶民でも行きやすい料金設定だからたくさん人がいるかなと思っていたが、この時間はあまり利用者がいないみたいで館内は静まり返っていて、人の気配が少ない。

 受付カウンターの人に聞くと、地下二階が閲覧禁止の書架になっているとのことなのでそこ以外をじっくり見て回ることにした。何かあったら呼ぶからとファムに伝え、別行動をとることにする。まずは小説コーナーに向かうことにした。日本の図書館と同じような感じの作りだ。棚を端から見ていく。ファンタジーが多いのは、ここが異世界であるからだろうか。……とりあえず一冊ずつ手にとってパラリとめくってみる。中はやっぱり日本語とは似ても似つかない文字で、読み書きの勉強をしたとはいえ読むのに少し時間がかかってしまう。ぼんやりと本を読んでいるとはっ、と閃いた。


(そうだ、そろそろ私も十二歳だしあざと可愛い作戦をやめなきゃって考えてたんだよね。でも急に変えると変だしなとか思って考えるのを後回しにしてたけど……ちょっとおとなっぽい本を読んだ影響で大人なレディに憧れて変えていくって感じだったら、変じゃないかも)


 そうと決まれば、そんな感じの内容の本を片っ端から探そうと近くで踏み台を借りて上の方の本もパラパラと読んでみる。物語系がいいだろうか、それとも現代でいうティーンズラブ系の恋愛小説? この歳で官能小説はさすがになと色々考えながらそれっぽい本を手に取っていく。ここの最大貸出冊数は五冊までらしいので、ある程度読んで残りは借りようと決め、読みふけった。


 さすがに五冊全部小説を借りるのもなと思い、あらすじが気になる三冊だけ手に取り普段読んでいたみたいな魔法学の専門書や歴史の参考書を数冊選んで持って行くことにして、貸し出し手続きをしに行った。

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