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【40】解除魔法。

「先日は急な連絡失礼しました。来てくださってありがとうございます」


 数日後、魔法研究所に向かうと所長さんが出迎えてくれた。私は挨拶を済ませ、早速用件を聞く。


「ううん。それで、依頼って?」


 私が聞くと、彼は真剣な表情になって、 机の引き出しから紙を取り出した。その紙には、複雑な魔法陣が三つ描かれている。


「この前の禁忌魔法の解除方法で……これで大丈夫なのですが、治癒魔法が使える者の魔法の精度でかなり解除に時間の差がありまして……」


 所長さんが申し訳なさそうな顔で言った。私は少し考え込む。


(……つまり、私の魔法だと早く済むってことかな)


 私は小さく笑って、わかった、と返事をした。所長さんが安心したように頭を下げる。


「ラルークがメインでやっていますので、また細かいことはあいつに聞いてください」


 所長さんはそういって、別の部屋に案内してくれた。ラルークとほか数人がそこで禁忌魔法にかかった人たちを治療している。


「お姫様、来てくれたんだね。ありがとう」


 ラルークが私を見てひらひらと手を振った。他の人も私の方をちらりと見て、会釈してくれる。私は軽く頭を下げて、それから彼らの方を見た。たくさんの人が布団の上で寝かされていて、ラルークのそばにも男の人が寝ている。彼は、ぼんやりとした目つきで虚空を見つめていた。


「もう一ヶ月くらい経つけど、大丈夫なのかなぁ」


「これでももう三分の二くらい終わったんだよ。お姫様も来てくれたから、予定より早く終わりそう」


「残りの人の数もそうだけど、それより体調とかは……」


「あぁ、その辺は大丈夫。意識がこっちにないだけで、みんな生きてるし、ちゃんと衰弱しないように魔法かけてあるから」


 ラルークの言葉を聞いて私はほっと息をついた。治癒魔法で体力の回復をしながら、ラルークが書いた魔法陣を使って解除の魔法を同時に行う。研究所の人たちは二人ペアになって禁忌魔法にかかっている人を担当しているようだった。


「僕がやってるのを見てて。お姫様だったら精霊に魔力を流しながら、お姫様は解除の方の魔法をして精霊の方に治癒魔法をしてもらうと一人でも出来ると思うよ」


「うん、頑張るね」


 ラルークが手本として実際に魔力を込める。三つの魔法陣が光り、右手で魔法陣、左手で治癒魔法をかけると、ラルークの前で寝ていた男性がゆっくりと起き上がる。


「どう? 分かった?」


「うーん……あんまり……なんとなく……?」


 私は曖昧に答えて首を傾げた。


「実際やってみたほうが分かるかもね。僕が見ておくから、一回やってみてよ」


「うん、分かった。リリー、よろしくね」


 私がリリーの名前を呼ぶと、ふわふわと頭の上に乗っていたリリーが下に降りてくる。リリーが珍しく喋らないのに疑問を抱きながら見ていると、あ、と思い出す。そういえば、リリー、ラルークの魔力が嫌な臭いするって言ってたような。


「……ねえリリー、その、臭い、大丈夫……?」


 ラルークに聞こえないようにそっと耳打ちをする。すると、しかめっ面になったリリーがぼそりと呟いた。


「……前よりはマシよ。でもまぁ、くさいのには変わりないわ……。はぁ、アタシ、頑張れるかしら」


 ふらふらと覚束無い足取りで男性のところまで歩いていったリリーをそっと撫でてやる。そして、ラルークから貰った魔法陣の紙を手に持った。


「えぇと……リリーには魔力を流して治癒魔法をしてもらって、ソフィはこの魔法陣に魔力を込めたらいいんだよね」


「うん。やってみて」


 私は一度深呼吸をしてから、紙に描かれた複雑な模様の上に手を置いた。目を閉じ、大きく息を吸って吐いてを繰り返す。そして目を開けて、言われた通りに魔法陣に魔力を込めていくと、紙の模様が淡く輝き出した。

 しばらくそれを続けていると、魔法陣の光がどんどん強くなっていき、やがて目の前の男の人が光に包まれる。


「さすがだね」


 隣で見ていたラルークが私の頭をぽんぽんと撫でる。男に視線を移すと、彼はゆっくり体を起こして、辺りを見渡していた。彼の目が私を捉えると、ぱちりと瞬きをする。


「イリフィリス令嬢……? こ、ここは……」


「成功してよかった。詳しい説明は、所長さんがしてくれるらしいから、あそこの部屋で休んでてね」


 無事に元に戻ったようで、男の人は困惑したような表情を見せつつ、私が言った通りに部屋へ向かった。

 一度やって見て、なんとなく感覚が掴めた気がする。この調子で続けていこう。私は次の人の元へ向かい、魔法をかけていった。



 禁忌魔法にかかっていた人たちの治療が終わったのは日が落ちて暫く経ってからだった。治療中に何回か休憩を挟んだけれど、それでも疲労感が残っている。


「お姫様、こんな遅くまでごめんね。今日は送っていくよ」


 ラルークが申し訳なさそうに眉尻を下げて言う。私は苦笑しながらありがとう、と言った。

 二人で研究所を出て馬車に乗る。私よりもリリーのほうが疲れてしまったみたいで、私の頭の上ですやすやと眠っている。数回撫でてやったあと、残りの魔力をリリーに渡した。


「もっと早くから手伝っておけばよかったね、ラルーク一人だと大変だったでしょ?」


 ほかの人たちが二人がかりでやっていた解除魔法を一人でやっていたのだ。かなりの重労働だっただろう。心配になってそう聞くが、ラルークはそんなことないよと答えた。


「まぁ……僕が起こしたことだし、僕が責任とらないとね。さすがに間に合わないかもって思ってお姫様に依頼したけど……まさか、今日中に全員終わるとは思わなかったよ。本当にありがとう」


「ううん、全員終わって良かった。……でも、ラルークちゃんと休めてた? あの数ずっとやってたら、すっごい疲れちゃうよね……」


「うん、この前お姫様と星を見に行った日に休んだよ」


 あの日しか休んでなかったのかな、と心配になったが、あまり突っ込んでも気をつかって休んだよ、と言いそうで何も言わないことにした。

 それからしばらくは無言の時間が続いた。街の景色が流れていくのを見ながらぼんやりしていると、不意にラルークが口を開いた。


「……お姫様って、魔法は誰から教わったの?」


「ソフィは魔法学の家庭教師が家に来てて……うーん、名前、なんだっけなぁ」


 頭の中でぐるぐると思考を辿る。あ、思い出したと名前を言えば、ラルークはふぅんと相槌を打った。

 その様子に違和感を覚えて首を傾げる。すると、ラルークが少し考え込んだような顔をしたあと、口を開いた。


「お姫様、せっかく魔力量も多くて全属性使えるのに、無理な魔法の使い方してるから……やり方が合ってないのかなって思って」


 ラルークの言葉にきょとんとする。魔法のやり方なんて他に習ったことがない。そんなこと考えたこともなかった。


 確かに、私は未だに魔法の感覚を上手く掴めていない。……事実、特化魔法もまだ習得出来ていないし。私は今までの自分の魔法を思い出しながら、ラルークの話を聞く。

 私の魔法は発動までに時間がかかりすぎる。それは多分、魔力コントロールが出来ていないからだと言われたことがある。


 私は無意識のうちに、かなり焦っているのだろうか。早く魔法を習得したいと思っている? ……それはそう。でも、そんなに無理な使い方をしてるとは思ってなかった。ただ、魔法に詳しいラルークが言うから、本当にやり方があっていないのだろう。でも、だからといってどうすればいいのかわかんないし……。

 私が黙り込んでいると、ラルークは口を開いた。


「今度僕が教えようか? せっかくいい素材を持ってるんだから、お姫様のやりやすい魔法の使い方も一緒に探していこうよ」


 ラルークの提案にぱちりと瞬きをする。


「いいの?」


「もちろん」


 じゃあお願いします! と言うと、ラルークは任せてと言って微笑んだ。そしてしばらくすると、屋敷へ到着する。


「じゃあ、また日にちとか色々、公爵家へ手紙で送るよ。一応家族の人に聞いておかないといけないしね」



 わかったと返事をして、馬車を降りる。そのままひらひらと手を振って、ラルークを乗せた馬車が去っていくのを眺めていた。

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