【4】パーティです。私が主役。
馬車に揺られて数十分。いや、家でやるんじゃないんかいとか思いはしたが、着いてみるととてつもなく広くて綺麗な会場だった。母は会場の中で色々準備をしているみたいで、父とセドリックが会場前で待っていた。
「ソフィ! 待ってたよ。いつも可愛いけど、今日はうんと可愛いよ」
「パパ、おまたせ! にーにも、ソフィ、かわいい?」
「……あぁ。これ、ドレスと同じレースなんだね、似合ってるよ」
セドリックは少し会わないうちにかなり大人びたようだ。確かまだ、今年で十三だった気がするけど。初めて会った、まだ七歳程のセドリックを思い出してなんだか子の成長を見守る親のような気持ちになってしまった。今は私の方が歳下だが。
「そうなの、おそろいなの!」
ふふん、と自慢げに言うと手を差し伸べられる。なるほど、エスコートしてくれるのか。
「ソフィ、会場に入ったら何を言うか覚えてる?」
「うん! 『ソフィの誕生日パーティに来てくれてありがとうございます。みなさんたのしんでください』だよね、こうやって、ぺこってやるといいって、ファムが言ってたの」
セドリックの手をほどきドレスを持ってぺこりとお辞儀をしながら言う。緊張しないように、といいまた差し伸べてくれたセドリックの手を取り私は会場へ向かった。
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「ソフィ・イリフィリス公爵令嬢と、セドリック・イリフィリス公爵令息のご入場です」
誰かのアナウンスで私とセドリックが会場入りする。あ、私って公爵だったんだなんて思いながら歩いていると周りにはたくさんの人が居た。こんなに来ていると思っていなくて、急に緊張が高まる。セドリックの手をぎゅっと握ると、ちらりと私を見て大丈夫だよ、と小さく呟いた。父の隣に立ち、挨拶を待つ。
「本日はようこそおいで下さいました。この度めでたく六歳になった娘の晴れ姿を皆に見せることができ、嬉しく思うと同時に感謝致します」
まだ六歳なのに晴れ姿ってなんだと心の中で突っ込んでいると逆隣にいたセドリックが前から見えないところで私をつんつんと突っつく。そして私は口を開いた。
「えっと、ソフィの誕生日パーティに来てくれて、ありがとうございます。みなさん、いっぱい、たのしんでください!」
ドレスの端を持ち、ぺこりと頭を下げる。パチパチと拍手の音が聞こえ頭を上げると、にっこり微笑んだ。
その後みんなと一緒に挨拶回りをしていたのだが、父は忙しいらしくあまり一緒に回れなかった。その代わり母と回ったあと、セドリックと共にたくさん回った。兄ももうすぐ誕生日なのだそうだ。
ひと通り挨拶が終わると、あとは自由にしていいとのことだったので、私は疲れたので休憩してくると言い残し、セドリックの元を離れた。
テーブルの上に置かれたたくさんのケーキやお菓子をフォークで順に突ついていく。どれもこれも美味しかったが、特に真ん中に置かれたいちごのものがとても美味しい。もっと食べたいなと思い手を伸ばすと、横から伸びてきた手に取られてしまった。驚いてその人物を見ると、そこには金髪で絵本に出てきそうなほどに整った顔立ちをした少年がいた。彼は私のことをじっと見下ろしている。誰だろうと首を傾げると、彼はハッとして慌ててさっき手に取ったものを私の皿の上に置いた。
「すまない。お嬢さん」
「ううん、だいじょうぶ」
私が答えるとほっとしたように胸を撫で下ろす彼。そんな彼に問いかける。
「あなたはだあれ? パパのおともだちかしら?」
「俺はセドリックの友人だ。名前は……」
「殿下、ここにいらっしゃったのですね。妹を……あれ、ソフィ」
たたたと駆け足でセドリックが私たちの所へ向かってきた。そして耳をうたがう。いま、殿下って言ったよね……?
「セドリック、殿下なんてよそよそしい呼び方はするな。いつも通り、クロムでいい」
「はい、……クロム様」
「様もいらん。……全く、お前は律儀なやつだ」
「いくらソフィが主役とはいえ、きちんとした場なので」
……やっぱり聞き間違いじゃなかった! クロムと呼ばれた人は王子らしい。彼はまじまじと私を見る。すると今度はセドリックの方を見た。
「セドリック、お前の妹君はとても可愛らしいな」
「そうでしょう、僕の自慢の妹ですよ」
誇らしげにするセドリック。可愛いと言われちょっと照れてしまう。まあ二人は勝手に話させておいて、私は皿に乗ったものを食べようと、テーブルに置き、フォークで刺して口に入れた。うん、やっぱりこれが一番美味しい。
もぐもぐしながら二人の様子を伺っていると、二人が同時にこちらを向く。
「ソフィ、こちらは皇太子のクロム・ソレイユ・ヴィルライト様。僕と同い年で、今年十三になる」
「はじめまして、お嬢さん。挨拶が遅れて申し訳ない」
「あっ、えっと、はじめまして、こんにちは。えーっと、でん……?」
「クロムでいい。堅苦しいのは苦手なんだ」
「んー、じゃあ、クロム!えへへ、おともだち、はじめてなの!」
ニコッと笑って言う。六歳児だったら、これくらいの無礼は大丈夫だろうと内心焦りながらも挨拶した。いくらセドリックと皇太子が仲良いとはいえ、たかだか私の誕生日パーティに来ると思ってなかった。
この国の皇族は、『太陽』の皇族と呼ばれている。炎属性の魔法に長けていて、皇族特有の未来予知魔法が使える。そんな皇族の中でも歴代最高の魔力を持つとされる超有能皇帝、ベルク・ソレイユ・ヴィルライトの一人息子、クロム・ソレイユ・ヴィルライト――。
それが目の前にいる男の名前である。とまあ、ここまで三原色侍女たちの受け売りであるが。現皇帝陛下の息子ということで、次期皇帝候補でもあるのだけれど、そもそもなぜそんな人とセドリックが仲良しなんだろう。公爵家の長男である兄が騎士団に入り命をかけてでも守りたいと思うほどの、何かきっかけがあるのだろうか。
「ねね、にーにとクロムは、なんで仲良しさんなの?」
「ああ、それは……」
クロムが言いかけた時、会場の入り口の方がざわつき始めた。何事だろうとそちらを見てみると、入り口近くに立っていた騎士たちが声を揃えて叫んだ。
「ベルク陛下がご到着されました!」
声を聞き、ぽかんとしてしまう。仮にも、私が主役の誕生日パーティだよね?なんでこんなに大規模な皇帝出席パーティになってるの?
「父上が来たようだ。俺は戻る」
「また後で会おう」
そう言ってクロムと兄は去って行く。残された私は呆然としているばかりであった。




