【30】決戦の日。
ファンティスタから二日後。恐らく、今日が戦争の日だ。
昨日クロムに火だるま男の拷問はどうするの? とそれとなく聞くと、お嬢さんが治癒魔法をする程ではないと言われたので、結局詳しいことは聞けずじまいで日が過ぎてしまった。私もセドリックも警備が厳重になっていたから、きっとクロムはもっと厳重だっただろうし、騎士団の人にでも任せたのかなと勝手に納得している。そんなことを考えていると、馬車が止まった。
私は慌てて扉を開けると、目の前には軍服を着た人達が立っていた。彼らは私たちを見ると、敬礼をして話しかけてくる。
「お待ちしておりました」
「今日はよろしくお願いします」
セドリックがさっきの人達に挨拶する。私もぺこりとお辞儀をした。すると、一人の男性が近付いてきて、私の顔を覗き込む。
「よう、チビ女。相変わらずポックリ死にそうな面してんなァ」
「ジャックス……」
はぁ、とため息をつきながらジャックスを見る。相変わらず目つきと口の悪さが尋常じゃない。
「ジャックス団長、今日の流れはどのような感じでしょうか」
めちゃくちゃに嫌そうな顔をした私を見かねたセドリックが彼にそう尋ねると、ジャックスはああ、と言って説明を始めた。
「陛下サマと皇太子サマの警備に普段の護衛、近衛騎士団と軍事騎士団の一部が回ってる。俺らは国境を見張りして、攻めてきたら煙弾を撃つ。それを確認したら皇宮から戦争宣言が出されるから、そっからは適当に戦う」
彼はそれだけ言うと、じゃあ行くぞ、と言い残し、先に行ってしまった。私たちは顔を合わせて苦笑いしながら、彼の後に続いた。まあ、詳しい話はエルドさんが来たら聞こう。
暫く歩いていると、何人かの騎士団の人たちが馬に乗って私たちを追いかけてきた。
「おい、ジャックス。勝手に行くな」
「あァ? 馬で大勢ぞろぞろ行ったら向こうにバレんだろうが」
「エルド総団長! 本日はよろしくお願いします」
ジャックスの後ろを歩いていた騎士団の人がエルドさんを見て、大声で言った。その声を聞いた他の騎士たちも、一斉に姿勢を整えて頭を下げる。
「ああ、皆、頼むぞ。リルヴェートたち魔法騎士団はもう少ししたら合流する。魔法研究所の方たちもリルヴェートと一緒だ。……令嬢は、魔法研究所の方と共に治癒魔法をメインによろしくお願いします」
「うん、分かった。ソフィ、がんばるね」
私が胸の前でぐっと拳を握ると、エルドさんは微笑んでくれた。そして、馬をおりたエルドさんとジャックスは立ち去っていき、私たちも後に続く。
「でも、本当にあの計画書通りに来るのかなぁ。だって、ソフィたちが見たってのは、向こうも分かってるでしょ?」
前から疑問に思っていたことをふと口にすると、エルドさんが口を開いた。
「いえ、鳩は撃ち落ちしましたが……計画書を見たあとは、似た鳩にまた括りつけて飛ばしました。さすがに、向こうに見たことを悟られると、こちらが不利になるので」
なるほど、確かにそうだ。向こうに別の鳩だと悟られていなければ、そのまま計画書と同じように来るか。
一応、これがバレていた時のために今日来なくても暫くは国境付近と皇宮の警備は強化するみたいだ。
ある程度歩いたところで、リルヴェートさんとリセリーさんが待っていた。後ろに、黒い服を身にまとった人達が数人いる。……そこに、見覚えのある顔が見えた。
思わず足を止めてじっと見つめると、向こうもこちらに気付いたようで目が合う。そして、驚いたように目を大きく開いた。
「お姫様……? どうしてこんなところに」
「えっ、ラルーク? そっちこそどうして……」
「僕は研究所に要請が来たから、所長たちと一緒に来たんだけど……。あれ、お姫様、いつの間に精霊と契約したの?」
「あ、それはね」
ラルークにリリーと契約したことをかいつまんで説明する。すると、彼はすごいねえ、と感心するように言って笑っていた。
「高位精霊……ということは、お姫様は治癒魔法メインで呼ばれたんだね」
「うん。ラルークは? 一応、研究所の人達と魔法騎士団の一部は後衛で救護メインでいるって聞いたけど」
「僕も救護メインだけど、魔法は全般使えるから、攻撃されそうになったら援護するよ」
向こうは魔法が強いから、こっちの治癒魔法使いを狙ってくるかもしれない、とラルークは付け足した。二人で少しの間話をしていると、男の人がラルークを呼んだ。
「ラルーク、総団長から陣形を貰った。……ん? そちらの少女は」
「所長、ありがとうございます。こちらは……この前の街の襲撃の時に、会ったことあるのですが、覚えてないですか?」
「あー……あぁ、あの時の。お前がお姫様って呼んでる子か」
この前の、というには結構経ってると思うけど……と心の中で突っ込む。ラルークと最後にあったのは私のファンティスタの前だし、二年は経ってる。所長と呼ばれた男の人とは会話すらしてないし、分からないのも無理はないかな。
私は軽く会釈をして、自己紹介をする。
「あっ、ソフィっていいます。治癒魔法で呼ばれて……」
すると、所長さんは私の名前を復唱した後、思い出したかのように手を打った。
「あぁ、イリフィリス家の令嬢か。二年前のファンティスタで女性の護衛を付けていたと有名だったな」
へぇ、そんなふうに噂になってたのか。知らなかった。
私とラルークが話している間に、セドリックはエルドさんたちと話し込んでいた。ちらとそちらを見たが、何を話しているのかまでは分からなかった。そして、私たちとセドリックやエルドさんたちはそれぞれ自分の持ち場につくべく別れた。
国境の見張り場付近にジャックスとエルドさん、ラシェルとリルヴェートさんたちの実戦戦闘員、少し離れたところで私やラルークたち魔法研究所の人達、リセリーさんや魔法騎士団の一部の人達が救護や遠戦を担当する。そして、皇宮から戦争宣言が出されると同時に、戦争が開始となる。
持ち場について暫くしたとき、煙弾が空高く上がった。そして、別方向からまたもう一つ、煙弾が上がる。
陛下の戦争宣言が、出た。それを合図に、戦争が始まった。




