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【28】優しさの定義。

「クロム・ソレイユ・ヴィルライト皇太子殿下、並びにセドリック・イリフィリス公爵子息のご入場です」


 会場の入り口で大声が響く。私は会場の隅の方で入場してくる二人を見つめた。白皇子に黒騎士、合いすぎる。

 護衛だとエスコートではなく、後ろを歩くことになっているのだが、今回はセドリックも聖誕祝祭ファンティスタの年齢だから並んで歩いていた。二人が入ってくると、大きな拍手が起こる。


「にーにもクロムも、すごいなぁ……」


「お嬢様のときもこれくらい注目を浴びていましたよ」


 隣にいたラシェルがそう言う。いやいや、絶対これと比べちゃダメでしょ。

 二人はそのまま会場の真ん中の方へ行き、挨拶をした。


 その後は私のときの聖誕祝祭ファンティスタと大差なく進んでいった。音楽が変わり、ダンスの時間になる。


「……ダンスになると、二人は別々になります。一番警戒すべき時だと」


 ラシェルが小さく耳打ちする。わかった、と言おうとした時、私の横からすっと手が伸びてきた。


「お嬢さん、一曲いいだろうか」


「くっ、クロム? 一曲目なのに、ソフィでいいの? 同い歳の子の方が……」


 クロムは首を横に振る。そして、少し屈んで耳打ちしてきた。


「何人かいる。お嬢さんも見ていた方がいい」


「……わかった」


 クロムの手を取り、会場の中央へ向かう。すると、すぐに曲がかかり始めた。

 こんなことになるならダンスの練習もドレスもしっかりしておくんだった。……まあ、今日の目的はこれがメインじゃないから良いけど。


「二時の方向、茶髪に白スーツの男。パルセナに家は置いてないはずだ。それに今年の聖誕祝祭ファンティスタの年齢の子供は居ない」


 くるりとターンしながら、クロムが囁くように言う。身長のせいであまり見えないが、ちらりと一瞬顔が見えた。


「次は七時の方向……黒髪に眼鏡をかけた女、あいつは元々テルニージ国の人間だ。一昨年こちらに来た」


 今度は反対方向に回る。次は、とクロムが口を開いたその瞬間、会場内の空気が変わった気がした。

 先程まで和気あいあいとしていた雰囲気が、急に張り詰めたような感じ、まさか。


 次の瞬間、会場内に悲鳴が響き渡った。会場内が騒然となる。パン、と銃声が耳をつんざいた。

 そして斜め後ろからシュッと風を切る音が聞こえ、咄嗟にクロムの身体を引っ張る。ガン、と壁にぶつかって、ナイフが床に転がった。


「やはり、来たか」


 クロムが舌打ちをする。私は壁際に寄って、ラシェルとセドリックを探した。


 ラシェルはすぐに見つかった。彼女はエルドさんの側にいて、二人とも剣を抜いて構えている。セドリックは、いない。

 私はクロムの手を引いて、建物の出入り口へと走る。


「まて、お嬢さん……」


 扉を開けて外に出ると、そこには黒い服を着た男が三人立っていた。


「っ……リリー!」


「オッケー、任せて」


 私の声にリリーが私とクロムの周りを防御魔法で囲う。パン、とまた発砲音が鳴るが、銃弾は全て弾かれた。


「クロム、にーに見える? 近くにいる?」


「セドリック……っ、」


「令嬢、こちらに居ましたか! セドリックなら今裏口へ逃げた奴らを追っています。私もすぐそちらを追いますから、ここは任せてください」


 エルドさんが駆け込んできてそう言った。彼は喋りながら二人をなぎ倒し、その隙に私はクロムの手を引いて走る。


「はぁ……っ、なに、逃げたらいいの、追えばいいの、どっちよ、……っ」


「お嬢さん……俺のことは構わず、お嬢さんだけで逃げてくれ」


「何言ってんの、よ……っ、クロムと別行動したら、何のために私がいると思ってんの……」


 息切れしながらも、なんとか会場の敷地外に出る。慌てて逃げてきた人達でごったがえしていた。とにかく人混みに紛れようと、必死で足を動かす。


 しかし、その時ドン、と背中に強い衝撃があった。ぐらりと視界が揺れ、地面に倒れ込む。


「お嬢さん!」


 クロムが私の肩を抱くようにして抱き起こす。


「大丈夫、押されてこけちゃっただけ……。リリー、魔力流しっぱなしにしとくから、偵察しといて。私たちを狙ってきてるようなら攻撃して構わないから」


「あはは! ご主人様はこうでなくちゃね。任せて」


 ふわりと浮いたリリーが建物の上に向かって飛んでいく。それを確認した後、私は立ち上がって服についた土埃を払う。そして、振り返ってクロムを見た。

 クロムは眉間にシワを寄せて、苦しそうな顔をしている。


「クロム?」


 どうしたの、と聞く前にクロムに抱きしめられた。そして、耳元で囁かれる。それは、とても小さな声だった。まるで、誰にも聞かれたくないと言うように。

 でも、確かに聞こえたのだ。

 ――すまない、と。


「何言って、」


 私が言い終わるより先に、どんっと身体を突き飛ばされた。そしてクロムが手を伸ばす。すると辺り一面が炎に包まれた。そして火だるまになった男が一人、地面の上を転げ回っている。

 私は驚いて咄嵯に水魔法を男にぶつけた。男は全身びしょ濡れになって、その場に倒れる。

 私は呆然としながら、クロムを見つめた。


 クロムが、笑っていた。


 今まで見たことないような、表情だった。余裕のある笑みでも、歳の割に色っぽい微笑みでも、嘲笑でもない。ただただ、無邪気に笑う子供のように。それが恐ろしく思えた。


「お嬢さん……セドリックを切った男に対して、優しすぎるのではないか?」


「え、……にーに、怪我したの……」


 あの会場内での一瞬、私がラシェルとセドリックを探している間、クロムはセドリックだけを見ていたのか。そして、私が手を引いて会場を出た時にまて、とクロムに言われたのは、セドリックが切られたのを見たからなのか。


「こいつに切られていた。……すまないな、お嬢さんにはこういう所を見せないようにしようと思っていたのだが」


 そう言うと、クロムは懐からナイフを取り出した。そして、躊躇いもなくさっきの火だるま男の胸に突き刺そうとする。

 私はそれを、反射的に止めていた。


「まって、クロム。まだ生きてるから、殺すんじゃなくて、聞き出さないと」


 そう言うと、クロムの動きが止まる。私はそっと倒れたままの男の胸に手を当てた。心臓の音を確認する。……うん、動いている。良かった、死んではいないようだ。


「……お嬢さん、俺はそんなに優しくはない。その手を退けてくれないと、きっと俺はお嬢さんを傷付ける」


 苦しそうな表情でそう言ったクロムをじっと見て、それからもう一度胸に当てた手に力を込める。


「なっ……」


 男の身体に白い光が灯り始める。クロムは男に治癒魔法をかけた私を信じられないという目で見ていた。


「クロム、ソフィは優しい人に見える?」


「……ああ、少なくとも、その男にとっては、優しい人だろうな」


 私は、ふふっと笑い、そして、ゆっくりと手を離す。男はうめきながら目を覚ましたようだった。私はしゃがみこんで、男の顔を見る。

 男は怯えるようにこちらを見て、それからハッとしたように起き上がろうとしたのを私が阻止した。


「ほら、クロム、続きはここじゃなくて、地下牢とかの方がいいんじゃない?」


「は……?」


 私は男の手に触れ、魔法を詠唱する。ゴゴゴと音を立てて、男の手に土でできた手錠がかけられた。土魔法は苦手だから、あとでエルドさんにでも渡してちゃんとした手錠をかけてもらおう。

 男がぎょっとした顔で自分の手首にかけられた手錠を見つめる。


「ソフィ、死ななかったら、何回でも治せるよ。……まあ、完璧にとは、限らないけど」


 私がニッコリ笑って立ち上がると、クロムがぽかんとしていた。

 そして、次の瞬間大きな声で笑った。本当に楽しそうな笑顔だった。


「はっ……俺が思っていた以上に、お嬢さんは大人なようだ」


 大人、という単語にピクリと反応してしまいそうになるのを必死に堪え、私はへらりと笑った。



 火だるま男を誰か騎士団の人に引き渡そうと辺りを探すと、ちょうど他の犯人を捕まえたらしいエルドさんたちと会った。

 クロムはセドリックの姿を見て驚いた顔をしていたけれど、すぐにいつもの涼しい表情に戻っていた。


「にーに! エルドさんと、ラシェルも。無事でよかった」


 男を引きずりながらセドリックの元へ駆け寄る。頬から一筋、血を流していた。

 私は慌てて治癒魔法を唱えようと手を伸ばす。しかし、それより先にクロムがセドリックの頬に触れた。そして、そのまま身体を引き寄せる。


「クロム……?」


「セドリック、心配したんだぞ。あまり無茶はするな」


 そう言って、クロムが微笑む。私は思わず伸ばしかけた手を引っ込めて、二人の様子を見つめた。


「……騎士団に入った以上、多少のことは覚悟の上だよ。怪我を恐れてたら、クロムのことは守れない」


 治してくれてありがとう、とセドリックは言い、それから私の方を向く。その表情には、どこか申し訳なさそうな色が浮かんでいた。


「ソフィも、ごめんね」


「……ううん、ソフィ、何も出来なかったから」


 引きずっていた男をとりあえずエルドさんに渡し、私はセドリックのそばに行く。セドリックは困ったように微笑んで、それからクロムを見た。


「ごめん。クロムを守るために、騎士団に入ったのに……」


「いいや、お前が無事ならそれで良い」


 そう言ってクロムは微笑んだ。さっき見たような表情ではなく、いつものような表情だった。

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