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【3】月日は流れ。勉強にパーティです。

 赤ちゃんというものは、あっという間に成長するらしい。


 私はそれなりにしっかりとした言葉を話せるようになってすぐに、家族に手紙を書きたい(意訳)とルルリエに伝えると、三歳くらいになったらお勉強を始めましょうと言われた。いや、文字だけでいいんだけど……と思ったが、ルルリエ曰くきちんとした人に文字も勉強も教えて貰った方がいいとのことだったので、大人しくその日を待った。


 そして迎えた家庭教師だったが、私の想像していた以上にしっかりとした教育が行われる。せいぜい文字の読み書きとある程度の座学くらいだと思っていたが、テーブルマナーから貴族の会話術まで、この歳からこんなことやらせるのか? と思うほどの量だった。まあでも、食って寝て遊ぶだけの生活も飽きてきていたから、勉強の時間がとても楽しく感じた。

 ある程度の学力がついた所で、魔法学専門の家庭教師が付く。実際に魔法を使ってみよう、というものだ。魔力に関しては魔力適性検査でしっかりあると判断されていた。

 雑学に関しては前世の記憶があるから若干チート状態だったが、魔法という未知の存在は習得にかなり手こずった。一ヶ月練習しても、せいぜい魔力の暴走を抑える程度しか伸びなかった。文字なら、一ヶ月で一通り覚えて文章もかけるくらいだったのに。


 魔力はそれなりにあるらしい。なんなら同年代と比べて高いくらいなのに、どうもコツが掴めずに日々が過ぎた。半年ほど経った頃、家庭教師がイリフィリス家の特化魔法をやってみましょうと言った。イリフィリスというのは、私の家の事。そして特化魔法というのは、魔力を持って産まれた人は親と同じ魔法を得意とすることが多く、他者にはなかなか使えない魔法を特化魔法として使える家系がそれなりに高い権力を持つ……というこの世の仕組みである。私の家の特化魔法は空間移動魔法。セドリックは私くらいの歳には簡易的なものは扱えたらしい。


 しかし、私はどれだけ練習しても特化魔法は習得出来なかった。こうして魔法の練習と勉強を繰り返す日々が二年ほど続き、私はもうすぐ六歳になろうとしていた。




「ソフィ、入るよ」


 コンコンと自室のドアが叩かれる。……いや、声が聞こえるってことは、もう既に室内へ入ってきているのだけれど。


「パパ……」


「最近ずっと勉強と魔法の練習で大変だろう。少し息抜きでもしないか?」


 私が特化魔法を習得出来ないのは既に父も母も知っていた。どれだけやっても、数メートルでさえも移動できない。父が直接教えてくれる日もあったが、どれも上手くいかなかった。


 その間他の魔法は一通り習得した。ゲームであるような、苦手属性……たとえば、炎属性のキャラは氷属性に弱い、みたいなものはこの世界にもあるのだが、私は一つ一つの威力は弱いが、どの属性の魔法も扱うことが出来た。家庭教師は、きっと基礎魔力の高さでカバー出来ているはずと言っていた。


 父は少し前に、特化魔法が引き継げないなら、この家は継げないと言った。でも、基礎魔力がしっかりしていて、ある日突然才能が開花する可能性もあるから、あまり気にしすぎないようにと私を励ましてくれていた。多分今日は、その時に言っていた近いうちに息抜きでもして、リフレッシュしようということについての話だろう。


 ただ、私は悔しくて悔しくて仕方なかった。その他座学に関しては有難いくらいに前世の記憶で恩恵を受けているとはいえ、小説や漫画の世界のようにチート出来る訳では無い。ほんの少し、前世の記憶があるしチートだって出来るだろうと思っていた私が恥ずかしくて、情けなかった。


「ソフィ、パパみたいになれないの? にーにも出来るのに、ソフィだけ……」


「前も言っただろう、いつ開花してもおかしくないんだよ。人の成長スピードなんてそれぞれだ。セドリックは魔法や体術に関しては人より早く習得出来たけど、勉強はソフィのほうがしっかり出来ている。たまには魔法も勉強も忘れて、ゆっくりしよう」


「うん、パパ、ありがとう……」


「それで、息抜きになるかどうかは分からないけど、もうすぐ六歳になるだろう? 今までは家の中だけでしていたが、今年は他の人たちも呼んでパーティをしようと思っているんだ。ソフィに近い歳の子たちもいるし、どうだい?」


 ……それはつまり、私のお披露目会ということだろうか。確かに、貴族というのは自分の子供に対して、社交界デビューさせる前に顔合わせを兼ねてお茶会を開くことがあるらしい。貴族の子供として生きる以上、いつまでも家で引きこもり生活を送れるとは思っていない。

 だからといって、そんな急に……。息抜きにならないのでは、と内心思いつつも父の誘いを受けることにした。近い歳の子たちと仲良くしといて悪いことは無いし、面白い子がいたらラッキーくらいの気持ちで行こう。


 ・


 そして当日。私は朝早くから起こされ、ドレスを着せられた。今日のこれはとても豪華なもので、レースがふんだんにあしらわれていてキラキラしている。

 髪もセットされて編み込みハーフアップにしてもらい、まだ六歳なのに少し化粧も施された。そして私は初めて自分の顔を鏡でまじまじと見ることになる。そこには、お人形さんのような女の子がいた。薄桃色のふわっと広がったプリンセスラインの可愛らしいドレスを着ていて、頭の上にちょこんとお揃いのレースがついたヘッドドレスを付けている。まるで絵本の中から出てきたようだった。自分で言うのもなんだが、普通に可愛いなと思った。


「キラキラ……! ねね、ソフィ、可愛い?」


 椅子から降りてくるりと一回転。じーっと三原色侍女(ルルリエ、ファム、メティス三人がいる時は心の中で三原色侍女と呼ぶことにした)を見つめると、三人は「勿論です!」と声を合わせて言った。


 あれくらいの可愛さならこの程度のあざと発言は問題ないだろう。これからあざとかわいい作戦で生き抜いていこう。そんなことを思っていると、三原色侍女たちは口を開いた。


「まあ、天使様かしら」


「妖精かも知れませんわよ」


「どちらにしても、愛くるしいことに変わりありませんわ」


 うっとりとした表情を浮かべる彼女たちを見て、思わず頬が緩む。


「みんな、ありがと!」


 ぎゅっと抱きつくと、三者三様に喜びの声を上げた。


「さあさあ、そろそろ行きましょうか」


「そうですよ、馬車の準備は整っております」


「行きましょう、お嬢様」


「はぁい」


 そして私は生まれて初めての外出をするのであった。

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