【26】特訓。
「では、前回の続きから始めましょう。精霊についてですが、基礎知識は前回お教えした通りです。覚えていますか?」
「うん。魔力を糧に生きてて、召喚するにはそれ相応の魔力が必要で、契約は難しいんだよね」
私がそう答えると、ケニーさんはそうです。と言ったあと、説明を続けた。
まず、精霊と魔法には属性がある。火、水、風、土、光、闇、無の七つだ。火と水、風と土、光と闇はお互いに打ち消し合う関係で、お互いが苦手とする。無はいずれにも当てはまらないため、どの属性とも相性がいい。苦手も得意もないと言った感じだ。物理攻撃と合わせるとかなり強いが、使い手が限定されるのが難点である。
また、自身の特化属性は生まれつき決まっているもので、基本は変えることはできない。私は珍しく全属性扱うことが出来るが、特化をあげるとすれば風だろう。セドリックも父も、風特化である。だからちょっぴり、土系の魔法は扱いにくい。そういえばセドリックの入団試験の最後の相手は土を扱っていたな、と思い出す。だからあれほど苦戦していたのだろう。
大抵精霊と契約するときは、自身の特化属性の精霊が多い。その方が魔力を精霊に与えやすいからだ。私は例外で、リリーのほうから契約を結んでくれたから、私の特化属性ではない。リリーは治癒魔法がメインの光特化である。
ここまで何か質問はありますか、と聞かれ、首を横に振る。
「令嬢が契約した精霊の彼女は光特化ですね。……まあ、高位精霊なので、ある程度の魔力があれば他の属性も使いこなせるでしょうが」
そこまで言って、ケニーさんはにっこりと微笑みながらリリーを見た。
「当たり前でしょ! アタシをなんだと思ってるのよ」
「もう、リリー、私の髪の毛食べないでよ」
ぷんすかと怒っているリリーに苦笑しながら、私は自分の髪を手で押さえた。
「契約は基本的に契約者が死ぬか精霊が消えるか、魔力が枯渇するか精霊が飽きるか……まあ、つまりは精霊の気分次第ですね。ただ、令嬢の場合、身体の目立つところに契約の証があるので、簡単には切れないと思います」
と、言われて腕を見る。服である程度隠せばするが、確かに目立つところだなと改めて思う。
「ちなみに、リリーは治癒魔法以外だと何が使えるの?」
私は気になってリリーを撫でながら聞いてみる。すると、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「アタシは全部使えるわ。ただ、攻撃魔法はそこまで得意じゃないの。身体強化系や精神干渉系、防御系はそこらの精霊のなかでもたくさん使えるわよ」
ふふん、とリリーは胸を張る。すごいねという気持ちを込めて頭を撫でると、もっと褒めなさいとでも言いたげに目を細めた。そんな私たちを見て、ケニーさんがくすっと笑う。そして、咳払いをして、話を続けた。
「今日は実際に精霊と魔法を使ってみましょう」
そう言うと、ケニーさんは、まずお手本を見せます、と彼女の契約精霊を呼び出した。
「シーリー、水魔法を」
「はーい」
ケニーさんの言葉に応えるように、精霊の周りに水の玉が現れて、それがゆっくりと形を変えていく。やがてそれは大きな水球となり、ぱしゃっという音とともに弾けた。
「このように、精霊と意思疎通を図りつつ、指示を出していきます。魔力の放出量に気をつけてください。今回は先程くらいの簡単なものから始めましょう」
ケニーさんはそういったあと、今度は人差し指を立てて、それを空に向けた。すると、さっきと同じように、上空に大きな水球が現れる。しかし、大きさが全然違う。直径三メートルはあるだろうか。ぽちゃん、とその水が地面に落ちると同時に、巨大な音が鳴り響く。驚いて音のした方を見れば、地面が少しえぐれていた。
あれ? これ結構ヤバくない……!?︎ 私が冷や汗を流していると、ケニーさんがこちらを振り返った。どうですか、やってみますかと言われ、私はごくりと唾を飲み込む。いやいやまてまて、これをリリーにやらせるの?!
「えと、その、おうち、壊れちゃわない……?」
「心配いりません。魔法をかけてあるので、すぐに修復できます」
ほら早く、と急かされ、仕方なく私は両手を前に突き出して集中する。大丈夫かな……。不安になりながらも、頭の中でイメージを浮かべる。
「うーんと、これくらい? リリー、水出せる?」
「へっっったくそね、その魔力量だとこの家潰れちゃうわよ!」
すると、私のイメージしたサイズよりもさらに一回り大きいサイズの水球が現れた。……はい、やりすぎました。私が呆然としている間にも、リリーはどんどん大きくしていく。
「す、ストップストップ! ごめんストーーップ!」
慌てて止めに入ると、ようやく止まってくれた。助かった。ほっとしていると、ケニーさんが笑いを堪えるように震えていた。……笑ってもいいんだよ。
その後、私は魔力を絞り出すようにして、なんとか普通のサイズの水球をお願いすることに成功した。
「どうですか? 意外と難しいものでしょう。特に令嬢のように基礎魔力が高いと、加減が難しいんです」
と、ケニーさんは言う。……うん、これはちょっと練習が必要だ。自分で魔法を出すのとは加減が違う。……というか、リリーが凄すぎて私の魔力をのせたら規格外のものが返ってくる。私は魔法が使えるとはいえ、まだ上手くイメージが掴めないから、二年特訓してやっと並以上のものが出せるようになったのだ。魔力の調節はかなり難しい。
「治癒魔法は特に、小規模なものでも一回の魔力消費が高いです。ここでうまく魔力量のコントロールができないと一時間も持ちません」
「そうよ、魔力だって無限にある訳じゃないんだから。アタシもある程度の魔力調節はできるけど、ご主人様に魔力が無くなるとアタシも魔法使えなくなるから」
と、二人が交互に説明してくれる。治癒魔法を他人に使うには膨大な魔力が必要らしい。まあ、そりゃそうだよね。というかリリー側で魔力の調節出来るのかよ。
心の中の突っ込みを見透かしたかのように、リリーは口を開いた。
「アタシは高位精霊だから、契約者の魔力量に合わせて調整くらいは出来るわ。……でも、それじゃあアタシと契約したメリットがないでしょ? すぐに魔力がスッカラカンになっちゃうわよ」
ちなみに今思ってる十分の一くらいの量で充分よ、とリリーが付け足す。
「これが精霊を介して魔法を出すメリットの一つです。少ない魔力で強靱な魔法を出すことが出来るので、長期戦に向いています。今はまだリリーさんに調節を任せている部分が多いので、今日は魔力調節を頑張りましょう」
ケニーさんがそう言う。なるほど、私の魔法を極めた方が早いんじゃないかとか思ったけど、そういうメリットがあるんだ。
私は気合いを入れ直して、練習を続けた。




