【24】計画開始。
この作品はフィクションです。犯罪、戦争、性差別を助長する意図はありません。作中に登場する人物・団体等は、全て架空のものです。 尚、作中で扱われている行為を実際に行うと犯罪として処罰される可能性があります。
「うぅん……私、どうしたらいいんだろう……」
父から聞かされた戦争の参加要請の話の後、私は少し考えさせてと精霊の授業を中止してもらい、リリーと一緒に部屋に戻った。ふわふわと浮いているリリーを撫でてやると、美味しそうにむしゃむしゃと私の魔力を食べている。
……死にたくは、無い。けど、騎士団が殆ど出動するなんて、よっぽど大きな問題だ。私が居なくても何とかなるかもしれないが、私が居たらなんとかなったのに居なかったら、私はその時どう思うだろうか。
「行かなきゃ、だよね……でも、怖いな。私、リリーのこともよく知らないのに」
「何よ、ご主人様はそんなにヘナチョコ人間だったわけ? 今からでも契約切ってやろうかしら」
「うぇぇぇぇしゃべったぁぁぁ!?!?」
突然聞こえた少女の声に、思わず飛び上がる。目の前のリリーが、失礼ね、喋るくらい出来るわよとしっぽをばしばしと私に叩きつけた。痛い!
「ちょっ、ちょっと待ってよ! え? だってさっきまで何も言わずに食べてたじゃん!」
「さっきまで魔力空っぽで餓死しちゃうところだったのよ。とても喋れる状態じゃなかったわ」
「そ、そうなの?」
よくわからないが、とにかく今は元気になったらしい。よかった。それにしても、なんで高位精霊なのに、リリーのほうから契約を結んできたのだろう。疑問に思っていると、リリーが口を開いた。
曰く、高位精霊は普通の精霊と違って自我が強いため、契約を自分から結ぶことは滅多にないのだという。じゃあ、尚更なんで? と聞けば、私の魔力がおいしいからと言う。なんだそりゃ……まぁいいや。
それよりも、戦争について考えないと。確かに、戦争に行くのは嫌だ。けれど、ここで逃げたらきっと後悔すると思う。でも、やっぱり死ぬのは怖い。ただでさえ一回死んでこの世界に来たのだ。また死んだら、今度こそ本当に死んでしまう。そう考えると、身体が震えた。すると、リリーが呆れたような声で言った。
「はぁ、人間って面倒ね。すぐ死んじゃうんだから。……もし、ご主人様が絶対に死なないって分かるなら、行くの?」
「そりゃあ、行くよ。みんなのこと助けたいのは助けたいけど、死ぬのはこわいから、悩んでるんだもん」
私の答えを聞くと、リリーは大きな溜息をつく。そして、私に手を出せと言った。私はリリーに言われるがまま、手を差し出す。
すると眩い光に包まれ、私の周りに膜のようなものができた。なにこれ、と膜のようなものをつんつんと突っつくと、リリーは口を開いた。
「いまのご主人様の魔力量だったら一回が限界ね。防護服のようなものよ。致死攻撃も、一回だけならなんでも防げるわ」
本来は治癒魔法のために呼ばれたんでしょ? ならそのために魔力温存しておかないとね、とリリーは付け足す。
すごい、こんなことができるなんて知らなかった。
「……で、これだったら行くの? まぁ、アタシからしたら、行かない方がご主人様の魔力食べ放題なわけだから、行かなくてもいいんだけど……。でもま、アナタがずっとそうやってクヨクヨ悩んでると、せっかくのおいしい魔力が台無しになるのよねぇ」
どうするの? と聞かれ、私は考える。
まだ怖いけど、みんなを助けたい。自分の命が一番大事だけど、でも、それと同じくらい、皆の命も大切だ。
そもそも、今の私は神様のきまぐれで、生かして貰っているのだ。たぶん、そう。自己責任の事故で、あっけなく死んだ私を哀れんで、転生させてくれたのだと思う。
私はまだ、何もしていない。私は、私の意思で生きると決めてここにいる。ここで生きていきたいと、そう願った。だから、だからこそ、私に出来ることをしないと。そう思って顔を上げると、リリーは満足そうに笑っていた。
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それから数日後、ジャックスに呼び出されて騎士団の会議室に行った。ノックをして中に入ると、リセリーさんやリルヴェートさん、エルドさんたちがずらりと座っていた。その中には、ラシェルとセドリックもいる。そして、団長の騎士団バッジを付けた人で一人、知らない男の人が端に座っていた。誰だろう、と思っているうちに、エルドさんが口を開いた。
「令嬢、申し訳ございません。こんな、国のことに巻き込んでしまって……」
「ううん、大丈夫だよ。ソフィが出来ることなら、頑張るね」
チラとラシェルを見ると、とてつもなく怖い顔でジャックスを睨んでいた。……やっぱり、ジャックスが高位精霊の件を聞いて、言ってきたのね。
私はセドリックの隣にちょこんと座る。そして、軍事会議が始まった。
「今回はかなり大規模な戦いとなる。企画書に書かれていたのは来月の三日……攻め入られた瞬間に、陛下から戦争宣言が出される。それと同時に一斉に出動だ。軍事騎士団全隊、魔法騎士団A班、B班、近衛騎士団で魔法が使える者、また実戦経験のある者が主に戦うことになる」
エルドさんの言葉に、ジャックスが続けた。
「んで、魔法騎士団のC班、D班は主に救護、治癒魔法専門の後衛だ。応援要請を出した魔法研究所も、九割こっちだ。……あとはそこのチビもな」
ちらっとこちらを見たジャックスの目には、明らかに敵意があった。あとでまた、股間に一発決めてやろうか? そんなことを考えていると、リリーが私の頭を齧る。いたい、ごめんって。慌てて前を向き直り、話に集中した。
エルドさんが地図を見せながら説明する。隣国とは陸続きになっているから、地上戦だ。そして、今回の作戦について説明された。まず、相手の出方を見るために、影が動くらしい。……影ってなんだろう。よく分からないけど、あの一人知らない人がその影の人なのだろうか。またあとでセドリックかラシェルに聞いておこう。
次に、相手が動いたらこちらも動き出す。相手は魔法をメインに使ってくるだろうから、こちらも魔法が使える部隊を中心に編成を組む。
最後に、この国の領土内に入ったところで一気に殲滅するという流れだった。
一通りの説明が終わると、次は具体的な配置場所が決められていく。どこの部隊がどの位置にいて、どういう風に動いていくのかを細かく決めていった。
そして、最後の確認が終わっとき、ふと気になって隣にいるはずのセドリックの方を見てみた。すると、彼は俯いていた。……どうしたんだろう。具合悪いのかな? 心配になり、声をかけようとした時、エルドさんが口を開いた。
――陛下及び皇太子殿下の命を最優先に。
その言葉を聞いた瞬間、どくりと心臓が嫌な音を立てた。……なるほど、このタイミングの戦争計画書。急すぎると思ったのは私だけか。他国からしたら、全然急な話じゃない。
相手の目的は、クロムの身柄の確保か、もしくは殺害か……。どちらにせよ、戦争を起こす理由は十分にある。クロムは、今年聖誕祝祭を迎え、来年はこの世界での成人だ。陛下が政権をクロムに渡すことも可能だ。
それに……私が今知る中で、陛下の子供はクロムただ一人だ。クロムを失っても、陛下を失っても、国は揺らぐ。だから、向こうも必死なのだろう。次の戦争で、全てをかけてくる。
なんとしてでも、勝たなきゃ。私が出来ることはそんなに無いかもしれないけど、リリーと一緒に、助けられる人は助けないと。ぐっ、と前を向く。私に出来ることは、何だってしよう。
そしてエルドさんの話が終わり、解散となった。




