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【12】護衛の憂鬱。上

「ソフィ様、本当によろしかったのですか……?」


「もちろん!」


 ラシェルは荷物を馬車に積んだあと、私にそう問いかけた。あんな可愛い姿を見たのだ、むしろこちらがありがとうと言いたいところである。

 次はどこへ行きますか? とラシェルが聞く。すると、ふと空腹を感じ、昼が近いことを思い出す。


「お腹すいた……かも」


 口に出したら余計にお腹がすいてきた気がする。ラシェルを見ると、何故疑問形なのですかと苦笑いしていた。とりあえずどこかでご飯を食べようと言う話になり、お店を探そうとしたところで、どこからかいい匂いが漂ってきた。


「いいにおい!」


「あぁ、屋台ですね。ですが昼食には向いてないと思います。あそこは串に鳥と野菜を刺して焼いたようなものが売っているのですが、普段ソフィ様が食べているようなものではなく庶民向けのものですので……」


「やきとり! たべたい!」


 ね、早く行こと言い、いいにおいの漂う方へと歩いていく。ラシェルが慌てて追いかけてくる。現代で屋台といえば、お祭りのときくらいしか見ないが、ここでは違うのだろうか。何かやってるの? と聞けば、特に何もやっていないと返ってきた。


「店を開くのは資金と人員が必要です。それに、領地の検査が入りますので、平民の殆どは店を出さず、こうした屋台で出すのです」


「なるほど……」


 まあ、言われてみればそうよね、と納得する。現代でも、土地を借りて店を建てて、それだけで店を運営できる訳ではない。食品衛生から防火管理から、アルバイト探しまでやらないと店を出せない。初期費用がかかるし、店を出すにはこうして屋台で徐々に知名度と資金を増やして出すしかないか。


「それで、どちらにされますか? 鳥だけの串と野菜が入ってるものと二つあります」


 ラシェルが屋台を指さしながら聞いてくる。どうしようかなと考えたが、どうせだし二つとも食べたいと答えた。


「分かりました。買ってきますね」


「ソフィも行く!」


 ラシェルのあとを追い、二人で並ぶ。メニューを見ると、焼き鳥のほかに芋を焼いたものとスープがあった。ぴょんぴょんとジャンプして屋台を見る。焼き芋はさつまいもだろうか。じゃがいもだったら食べたい。


「他にも気になるものがありますか?」


「おいもは、どんなの?」


「ポテトサラダやフライの芋を焼いたものです」


 よし、じゃがいもだと心の中でガッツポーズをしたあと、ラシェルにそれも食べると言った。


「いらっしゃい、お嬢ちゃん。どれか決まったかな?」


 店主が声をかけてくれる。ラシェルが食べる分もね、と伝えると焼き鳥を二本ずつと芋を一個と店主に伝えた。


「じゃあ、全部で銅五枚だね」


「あ、ソフィ、金貨しか持ってない。金貨だったら一枚で足りる?」


「きっ、金貨はダメですよ!?︎」


 そう言って、ラシェルが銅貨を五枚差し出し、私がそれを受け取って、それを払って代わりに焼き鳥と芋を受け取った。


「銅が五十枚で銀一枚、銀が五十枚で金一枚ですので……金で渡すと屋台の人が困ってしまいます」


「わかった、気をつけるね」


 そう言って近くのベンチに腰掛けた。ラシェルに焼き鳥の半分を渡し、私の分を手に取る。ぱくりと口に含むと、じゅわっと甘みが広がった。皮はパリッとしていて、身は柔らかく、肉汁が溢れる。そしてなにより、香ばしさがたまらない。


「美味しい!」


 思わず笑顔になって言うと、ラシェルが良かったですと微笑む。その顔を見て、私はまた一口頬張った。



 昼も済ませ、この後どうしようかと話しているところだった。目の前を数人の男たちが通り過ぎる。何となく目を向けると、そのうちの一人がこちらをチラッと見た気がした。


(ん?)


 だが、そのまま過ぎ去っていき、私もその人たちから目を離す。何か用があるのかと思ったが、特にそんな様子もなく去っていった。


 少しだけ首を傾げつつ、ラシェルの方を向く。ラシェルはきょろりと辺りを見回していたが、私と目が合うと笑顔を向けてくれた。

 しかし、次の瞬間。ドン!! という音が聞こえ、咄嵯にラシェルが私を抱き寄せて伏せる。突然の音と衝撃にびっくりしていると、今度は悲鳴が上がった。

 え、なに、と戸惑う間もなく、ラシェルに手を引かれ、その場を離れた。


 混乱しつつ、走りながら後ろを振り返る。すると、さっきの人達がいた場所から煙が立ち昇っていた。ラシェルは人混みを避け、建物の間を縫っていく。どこに向かっているのだろう、と思っているうちに、どこかの建物の中に入り込んだ。


「な、なに、なにがおきてるの?」


 息を整えてから、ラシェルに問う。ラシェルはその質問に答えず、窓の外を睨んだまま動かなかった。


「なんで、こんなところに……」


 ラシェルの顔が曇る。どういうことなのかと聞こうとしたところで、外から爆発音のような大きな音が響いた。驚き固まっていると、バタバタと足音がこの部屋へ近づいてくる。


「ソフィ様は決してここから動かないでください、私がなんとかしますので」


 そう言ってラシェルは近くにあった箱の中に私を押し込んだ。小さく開いた隙間から様子を伺う。ラシェルは剣を持ち、扉の前で構えていた。


 ガチャリとドアノブを回すような音とともに勢いよく扉が開かれ、入ってきた男達が一斉にラシェルに襲いかかる。

 ラシェルは臆することなく彼らに切りかかり、彼らの攻撃を避けて相手の急所を突き刺していく。一人、二人と倒れていき、残るはあと三人となった。


 その中の二人が同時にナイフを取り出し、ラシェルに突き立てようと飛びかかる。ラシェルはそれを一歩引いて避け、一人の足を払いバランスを崩させ、もう一人にぶつけさせる。ラシェルは二人の武器を叩き落とし、懐に入り込むと、首に手刀を落とし、意識を手放させた。


 そして、最後の一人と対峙し、お互い距離を詰める。残った男は先程までの者とは違い、体格が良く、隙がない。そしてその男はニタニタと笑いながら口を開いた。


「おうおうラシェルちゃん、今度はガキのお守りかい? 近衛騎士サマはなんでもやるんだなぁ」


「……」


「おー怖いねぇ、だんまりかよ。まあ良いや、俺ァ別にあのガキを殺しに来たわけじゃねェ」


「……目的は」


 ラシェルが静かに聞くと、男はニヤッと笑みを浮かべ、言葉を続けた。


「ンなもん分かりきってるくせにいちいち聞くなよ、お前を殺しに来たんだよ。あのガキを人質にでもしようかと思ってたが……上手いこと隠しやがって」


 男が舌打ちをしながら言い放つ。人質……やっぱりあの時の視線の主はこの人だったのか……。どうしてそんなことをするのか分からないけど……とにかく今は逃げないと! 逃げて助けを呼ばないと。私は必死に頭を動かして、脱出できるルートを探した。窓から出るにしても高さがあるし、そもそもここは二階だ。


 それに、私はすごい魔法も男を倒せる力もない。私がここから出て加勢しても、そのまま隠れていても、どちらにしても足手まといになるだけだ。どうにか、バレずに外に出る方法は。


 ぐるぐる考えていると、また外が騒がしくなってきた。まだ残っている人が他にもいるようだ。それに気付いたラシェルは焦ったように、男の相手を続ける。


 どうすれば、どうしたらいい!?︎ このままではラシェルが負けてしまうかもしれない。考えろ、考えろ私。

 そしてふと、カバンの中の石の存在を思い出す。リルヴェートさんから貰った魔法石。そうだ、これなら。私の魔力自体は弱くない。魔法があんまり上手く使えないだけ。だから、魔法石と組み合わせて一瞬でも奴らの気を引けたら。


 ただ問題はタイミングだった。今ここで使ってしまうには危険すぎる。もしこれが発動する前に捕まってしまえば終わりなのだ。ラシェルが押されているこの状況で使うのは難しい。


 なんとか、チャンスを作る方法を考えなくては。私は息を殺して考える。どうすれば、ラシェルを助けられる。

 するとその時、ラシェルが何かに気づいたようで、後ろに飛び退いた。


「なっ、なんだ!?︎ 急に光り出して……」


 男もラシェル同様、眩しいものから目を庇うようにして、目元を押さえる。私も驚いていると、入口のドアが勢いよく吹き飛んだ。

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