【11】天使か聖女か女神様。
「ソフィ様、失礼いたします。ラシェルです」
「ラシェル! おはよう、今日はね、せっかくだからお出かけしようと思って。一緒に行こ!」
あれから三日後、ラシェルが正式に護衛として付くようになった。護衛と言っても、私はまだお出かけもあまりしないし、勉強も魔法学も基本家で全部やるから、出かける時とかパーティに呼ばれた時だけ一緒に行動するといった感じだ。今日はせっかくこの屋敷に来てくれたから、一緒にお出かけしようと思ってラシェルを部屋に呼んだ。
「分かりました。すぐ出られますか?」
「ラシェルが大丈夫だったらすぐに出られるよ。ルーが下に馬車用意してくれてるみたい」
「では行きましょう」
ラシェルはそう言って私の少し後ろを歩く。三原色侍女たちは私が小さい時から一緒にいて、少し歩けるようになってからはずっと隣で手を繋いでくれていたから、なんとなく後ろを歩かれるのは寂しい。これが護衛のあるべき姿なのだろうけど、どうにも落ち着かないのだ。
外に出て二人で馬車に乗る。ラシェルは座ったあと、特に何も話さずじっとしていた。しん、と無言の時間が過ぎる中、馬車が動き出す。
「ねね、ラシェル、魔獣と戦ってた時、すごかった! あの剣の動き、どこで教えてもらったの? 騎士団の基本型とは違うよね」
「あれは父に教えてもらいました。父も、騎士だったので」
ラシェルの言葉にそうなんだと頷く。そしてまた、無言になってしまった。それからしばらくして、ラシェルが口を開く。その、と小さく呟いた声を聞き、私はどうしたものかと首を傾げた。
「その……ソフィ様は、父を知って私を選んだ訳では無いのですか?」
不安げな顔で言うラシェルを見て、きょとんとする。私が護衛を選ぶのに、なにか理由があると思っていたんだろうか。
「うん、ソフィ、産まれてから全然お外出てないし、知ってる人なんて会ったことある人くらいだよ。ラシェルは、あのなかで一番動きがかっこよかったから選んだの!」
えへへと笑うと、ラシェルは驚いたような顔をしたあと、変なことを聞いてすみませんと言った。
うーん、と考える。父も騎士で、ということは、二世騎士なことを気にしてるのだろうか。別に親子共に騎士になるなんて、変なことではないと思うけど。それとも、ラシェルが女の子だから、それを気にしてるのだろうか。
たとえば、ラシェルの父がすごい有名な騎士だったとすれば……。父の名を使って入った、とか思われたり、言われたりしたのかな。そうだとすればさっきの言葉の意味も納得出来る。
だが、ラシェルはあの十二人の中で一番動きに無駄がなく、的確に、それに一番早く魔獣を仕留めていた。私は完全に実力で選んだつもりだ。まぁでも、ラシェルが何も言わない以上、ここは黙っておくことにした。
「着きました」
馬車が止まり、御者がドアを開ける。ラシェルの手を取り降りると、目の前には沢山の店が並んでいた。
「街だ! ソフィ、初めて来るの」
わっとテンションが上がる。パーティの時に外へ出たことはあるが、こんな風に全て建物が立ち並び賑やかな街中は初めてだった。
「行きたいところはありますか?」
「うーん……。パパとママに、好きな物買っていいよって言われたから、お洋服とか見ようかなぁ」
「分かりました。ではまず服屋に行きましょう」
私はそう言ったラシェルの手をギュッと握る。さっきみたいに後ろを歩かれると、どこにあるのか分からないから不便だ。それに、やっぱり隣にいてくれた方が安心だ。
「ねぇラシェル、手つないで歩いてもいい? 迷子になっちゃうかも……」
はぐれないようにしないと、と思い言うと、ラシェルは一瞬目を見開いたあと、少し微笑んではいと答えた。
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案内された建物に入ると、そこには沢山のドレスが並んでいた。フリルのついた可愛いもの、シンプルなデザインのもの、大人っぽいシックなものなど、色とりどりの素敵なものが並んでいる。これは、どれが良いのかさっぱりわからない。困っていると、店員さんが近寄ってきた。
「これは可愛らしいお嬢さん。なにか気になるものはありますか?」
「うーん、お出かけ用のドレスが欲しいんだけど、何がいいのかよく分からない。聖誕祝祭に着ていくのも欲しいかも」
「でしたら、こちらのデザインが人気ですよ。今年流行しているデザインですし、お客様のように愛らしくて綺麗なお方ならきっと似合います。もしよろしかったら試着されてみてくださいませ。サイズを合わせますので」
あれよあれよという間に、採寸されマネキン状態になる。ラシェルにどうかな? と聞くと、どれも素敵ですよと返ってくる。正直全部着てみて違いが分からなかったので、どうしようかと悩む。
「お好みのものは無かったですか?」
「ううん、どれも可愛いけど、家にあるのと同じようなやつだから、ちょっと違う感じのがいいかなぁって」
家で用意されているのは、色こそ様々だけどデザインは似たようなものだった。もちろん、着心地だとか素材の違いで微妙に違ったりするのだが、大体は同じようなものばかりなのだ。そんなに同じようなドレスはいらない。どうせすぐ成長して着られなくなるだろうし、勿体ない。
しばらく悩んでいると、ふと思いつく。
「そうだ、ラシェルに似合うドレスをちょうだい。それで、ソフィも似たやつが欲しい! それでね、一緒に着て、ラシェルとお茶会したいな」
「ソ、ソフィ様、私はドレスなんて……」
「ダメ?」
ラシェルの手を両手で掴んで、上目遣いでじっと見る。ラシェルは少し悩んだ後、わかりましたと言ってくれた。
その後、いくつか別のデザインのものも持ってきてもらって、あれでもないこれでもないと散々悩んでいると、一つのドレスが目に留まる。黒と紫の生地のドレス。肩はレースになっていて、フリルとリボンが絶妙なバランスで大人っぽい。スカート部分には、細かい刺繍が施されていてとても美麗だった。ラシェルの髪と瞳に合いそうだ。
私がそれを見ると同時にラシェルもそのドレスを見ていたみたいで、目が合った瞬間お互いに顔を見合わせる。
「これ! ラシェル、着てみて!」
「わ、分かりました……」
ラシェルが着替えている間、他の商品を眺める。こういうのが流行っているんだ、とか思いながら見ていると、カーテンの奥からラシェルが出てきた。その姿に、思わず息を飲む。いつもはきっちりとひとつにまとめている長い髪を下ろし、結んでいた時とはまた違う雰囲気だった。そして、その美しさもさることながら、私の選んだ服を着たラシェルがあまりにも嬉しくて、頬が緩む。天使か聖女か女神様か、とにかくこの世のものと思えないくらいに美しく見えた。あの顔面偏差値、私にも分けて欲しい。
「いかがでしょうか……」
「すっごいかわいい! 天使! めがみさま!」
思ったままに興奮ぎみに答えると、ラシェルの顔が真っ赤に染まっていく。
「ソフィ様の分も、お願いします……!」
ラシェルは着替えてきますとそのまままたカーテンの奥へ消えていった。
「ではお客様は、先程の物と似たデザインの、こちらはいかがでしょうか」
店員さんがさっきのドレスと似た、肩がレースでフリル抑えめの、大人っぽいものを持ってきた。色は黒ではなく、薄い青と白だ。私はそれを手に取り、身体に合わせる。うん、今までにない感じで、結構好みかも。
「これと、さっきのラシェルの分と、ふたつに合う髪飾りを一緒に、支払いはパパ……イリフィリス家につけておいてください」
私は店員さんにそう伝えて、サインを渡す。ラシェルが着替え終わったあと、私たちは店を出た。




