【10】護衛を決めます。
食事を終え、私はエルドさんとファムと近衛騎士団がいる所へ向かった。
「近衛騎士団は、昨日の訓練所とは別のところなんだね」
「ええ、訓練兵は所属関係なく先日の訓練所で、あとは軍事騎士団の一部があの場所でやっています」
「そうなんだ、じゃあ、にーにも訓練兵じゃなくなったら別のところでやるんだね」
そうですね、とエルドさんが言い、しばらくすると近衛騎士団の拠点に着く。団長と少し話をしてきますので、とエルドさんが先にその建物の中に入っていった。
入口付近でファムと待つ。ここは入り口付近だからかあまり人はおらず、閑散としていた。そのままぼけっとしていると後ろから声をかけられる。振り向くとそこには薄紫で長髪の男性が立っていた。
「あなたは……。あぁ、エルドさんが仰っていた方ですね。すみません、待たせてしまって。エルドさんは、中に入っていきましたか?」
「はい、先程団長と話をしに行ってくると」
ファムが答えると、男性は「でしたら一緒に行きましょう」と建物へ案内してくれた。どうやらこの人が団長らしい。エルドさんたちが着ていたコートを着ていなかったのでさっきは気づかなかったが、彼の胸元には金色のバッジがあった。あれは確か、さっき食事をした時にコートを脱いだエルドさんも付けていた気がする。
建物に入ると、ちょうど今戻ろうとしたらしいエルドさんとばったり会った。
「あぁ、外に出ていたんだな、リセリー。こちらはイリフィリス公爵令嬢だ」
「ええ。……ご挨拶遅れて申し訳ございません。リセリー・イデオットと申します。近衛騎士団の団長です」
彼はそう言って頭を下げる。私も自己紹介をして、同じように礼をした。そして顔を上げると、お話は伺っておりますのでと、ある部屋へ案内してくれる。中に通されるとそこは会議室のような場所で、すでに多くの団員が集まっていた。
……なんというか、とても失礼なのは分かっているが顔採用か? と言いたくなるほどのメンツが揃っている。パッと見たところ男の人ばっかりだったが、一人だけ女の人がいた。年齢的には二十代半ばが多いように見えるが、十代っぽい若い人もいる。
「こちらにいるのは過去五年の兵団試験上位五名で、まだ護衛相手が決まっていないものです」
リセリーさんが説明してくれる。なるほど、ここにいる人たちは護衛対象がまだ決まってないのか。私は一番手前にいた人から順に彼らを見る。手前の彼は年齢は十八歳くらいだろうか。茶色の長い髪の毛を一つに束ねており、意志が強そうな瞳をしている。その隣の人は……、とても優しそうだがどこか冷めているようにも見える。そして、その隣は濃い灰色の短髪で、鋭い目が特徴的な男性だ。年は二十後半といったところだろうか。
じっと見ていくが、そもそも顔の好みで護衛を選びたい訳では無いので、リセリーさんに実際の体術を見たいとお願いしてみる。すると、訓練所へ行きましょうと言われそのまま全員訓練所へ向かった。
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「では今回は、簡単に中級魔獣相手の演習ということで。私が魔獣を出したら、順番に倒していってください」
リセリーさんはそう言うと、地面に魔法陣を描いて詠唱する。そこから現れたのは、巨大な黒い塊の魔獣が十二体。リセリーさんの合図と共に一斉に動き出す。そして、十二人がそれぞれ順番に魔獣に攻撃していった。
「す、すごい……」
護衛騎士の実力もそうだが、そもそもリセリーさんもすごい。なにあの魔法、召喚士みたい。そんなふうに思いながら護衛騎士たちの動きを目で追うと、あっという間に全員が魔獣を倒した。
「リセリーさん、魔法すごいんだね。魔獣がいっぱい出てきた!」
「リセリーは元々魔法騎士の団長です。それで私が近衛騎士の団長でした。私が総団長になることに決まって、近衛騎士団の団長が居なくなるので、リセリーが団長になって、リルヴェートが魔法騎士の団長につきました」
「そうだったんだね」
隣で一緒に見ていたエルドさんが説明してくれた。リセリーよりも騎士たちを見てください、と言われ慌ててちゃんと見てたよ! と答える。身体の動かし方を見てすぐに決めた。私が選ぶのは――。
「ソフィ、あの女の子がいい! 一番綺麗で、かっこよかったの!」
「ラシェル……ですか?」
私の言葉にリセリーさんは驚いたような顔でそう言った。
「うん! 強くてかっこいい女の子、素敵!」
「聖誕祝祭の前に女性騎士を選ぶのは……なかなか珍しいですね。こほん、失礼しました。本人に伝えてきます。少し待っていてください」
リセリーさんはそう言ったあと走って行ってしまった。数分後、戻ってきたリセリーさんの後ろには先程の女の子がいた。黒く長い髪を一つにまとめ、紫色の瞳が私をじっと見つめる。近くで見ると綺麗系で可愛い……。でも、さっきは確かに男前な雰囲気を感じた。不思議である。
「はじめまして。ラシェル・ミルニーモと申します。お嬢様に選んで頂き光栄です。精一杯お仕えさせていただきますのでよろしくお願い致します」
彼女は私の前まで来ると、片膝をついて挨拶をした。その姿は様になっており、思わず見惚れてしまった。
「あ、えっと、こちらこそ、よろしくね!」
そう答えると彼女はにこりと微笑んだ。同性なのにぎゅんっっとときめいてしまう。
こうして私は、はじめての護衛と出会った。三日後から、ラシェルが正式に護衛につくらしい。楽しみだな、とウキウキしながら、私はこの建物から立ち去った。