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【86】言わなきゃ。

「え……っ、ラルークが……クロムの異母兄弟……!?」


 クロムの言葉に驚きの声を上げるとクロムはこくりと肯定を示すよう小さく頷く。

 確かに言われてみると瞳の色は二人とも燃えるような赤で似ている気がしないでもない。でも顔とか髪色とかは全然違う。


「な、なんでラルークだと確信したの?」


 私の問いにクロムは間を置いてから答える。この間……私が聖誕祝祭(ファンティスタ)のあと倒れて、クロムがお見舞いに来てくれた時にラルークと初めて会って、その時に何となく雰囲気が前皇后に似てると思ったらしい。そしてその後調べると前皇后が亡くなった時期とラルークが産まれ養子として引き取られた時期が一致していて、更に深く調べようと接触の機会を図っていたようだ。

 でも雰囲気が似てるというだけで、顔が似ていたわけではないのに何故そう思ったのだろう。疑問に思ったが、私が聞く前にクロムが話を続ける。


「前皇后は聖女の血筋だった。……あぁ、公爵夫人の姉に当たる方だ。夫人には全然似ていないから気付かなかったのだが。……公爵と父上が仲がいいのは、同じ家系の姉妹を婚約者として迎えていたからのようだな」


「えっ、ちょっと待って、それって、お母様のお姉さんが前皇后で……その子供がラルークってことだよね?」


「あぁ、そうだな。……それで、聖女の力や未来予知(特化魔法)を継いでいるか、聞いてみたんだ。そしたらあいつの特化魔法は星読みだとな。知っているか? 聖女は神から託宣を授かるとき、運命の星を見ることが出来ると言われている。あいつは不完全ながら、聖女の力も予知も継いでいる」


 クロムはそこまで言うと一度言葉を切る。私も頭の中で整理しながら考える。そういえば、リリーに聖女の力のことを聞いた時、神降ろしの儀をするのが一般的で、でも人間は脆いから物を通じて力を貰うことがある……と言っていた。その物を通じてというのが、星を通じて行う……星読みのことなのだろうか。

 それにクロムは不完全ながら、と言っていたから、聖女の本来の力のように国全体の予知は出来ず、そのうえ皇族の特化魔法である予知もかなり弱く継いだということだろう。それならラルークの特化魔法(星読み)が現代でいう占いくらい不確定で、でもわざと未来を変えようとしなければ大体は当たるというのも納得出来る。


「あいつは、変化の魔法を使ってわざわざご丁寧に髪色を変えていた。……それについては本人が養父母の髪色に合わせたと言っていたが……変化前の髪色は、前皇后と同じ色だった」


 変化の魔法なんてあるのか、と驚いたが、ふとかなり昔にラシェルと出かけて襲われラルークが助けてくれた時に、ラシェルが変化の魔法がどうのこうのと言っていたことを思い出す。ここまで聞いてやっとラルークがクロムと異母兄弟だと納得出来た。……いや、思うところは色々とあるが、クロムはずっとその事を調べていて、そのクロムがそうだと言うのだからきっとそうなのだろう。


 でもやっぱりどうして今クロムがこの話をしたのかよく分からないでいた。しばらくうんうんと頭をフル回転させる。そしてハッと気付く。


(母の姉の子供ってことは……ラルークって私の従兄!?)


 今期最大の衝撃の事実に私は思わず声を上げそうになるが、なんとか堪えた。しかし驚きすぎて思考が追いつかない。……ということはクロムは、ラルークは従兄だからやめておけという意味でこの話を今したのだろうか。現代では従兄妹同士で結婚や付き合いだなんてあまり居ないが、この世界では血の濃さや特化魔法の相性があるからわりと普通に行われているらしいしやっぱりクロムの思考が読めない。

 私がああでもないこうでもないと考えていると、クロムは大きくため息をついて天井を見上げた。


「俺はあいつが嫌いだ。俺から未来予知(特化魔法)を奪って、皇族の血も、お嬢さんの気持ちも……」


 クロムは眉間にシワを寄せて吐き捨てるように言った。何と声をかければいいのか分からず、私はただクロムを見るしか出来なかった。


「すまないな、他に想っている奴がいるというだけで、こんな話を聞かせて。振られた腹いせをされたとでも思っていてくれ」


 自嘲気味に笑うクロムを見て、胸が締め付けられるような感覚になる。こんな時、私は何を言えばいいのだろう。

 クロムには幸せになって欲しいと思うけど、私がラルークに対する気持ちに気付いてしまった以上、クロムの傍にいることは出来ないと思う。それにアリスがクロムのことを好きだということも知っているから余計にだ。もし色々そういったことがなかったら、ずっとクロムのそばに居ることを選んでいたのだろうか。

 こんな日にすまない、と去ろうとするクロムを慌てて引き止める。……どうして引き止めたのかは、自分でもよく分からない。でも今クロムを引き止めないと、もう二度と会えないのではないかと、何故かそう思った。


「クロム、私の話も、聞いてくれる?」


 私の言葉にクロムは少し目を大きくしたが、すぐにいつもの表情に戻り小さく頷いて椅子に座ってくれた。


「私……確かにラルークのことが好きだけど……。もし私が世界一クロムのことを愛していて、クロム以外と結婚するなら死ぬって言うぐらい好きだったとしても、皇后にはなれない」


 クロムは私の言葉を聞いて、顔を歪める。私はそんなクロムの顔を見ないようにして続けた。


「クロムのこと、大切だからこそ、なれない事情があるの」


 私はそう言ってから、一度深呼吸をして顔を上げる。今までずっと言えなかったことを、これから告げるのだ。心臓がうるさいほど音を立てている。手汗が酷い。

 それでも、言わなくてはいけない。だってクロムは全て私に言ってくれたから。私だけ聞き逃げするなんて卑怯だ。

 微かに手が震えていることに気付き、落ち着かせるためにもう一度大きく息を吸う。


「お嬢さん、辛いなら、わざわざ言わなくても」


 震える手を見たのかクロムが気遣わしげに声をかけてくれるが、私は首を横に振る。大丈夫、とは言えないけれど、ここで黙ったら私はずっと後悔する気がする。


「信じなくてもいいからさ、信じて欲しいとは言わないから……」


 言わないと。私が、この世界の人間では無いことを。

 震える手と声を必死に抑え、私はまた息を吸って、口を開いた。

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