第 話 フリードリヒと神殿の庭園散策
誤記脱字等を見つけたので、本文の修正を加えつつ改稿しました。
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前話『神殿の儀式、託宣花と禁忌の花』の後書きで予告の『フリードリヒと神殿の庭園』がようやくできましたので投稿します。
サブタイトルを『フリードリヒと神殿の庭園』から『フリードリヒと神殿の庭園散策』に変更しました。
サブタイトルはもしかしたら変更するかもしれないです。
フリードリヒは禊場を出るとローミィを連れ、庭園に向け歩いていた。
ローミィの目の前に色鮮やかに咲く幾種の花が広がる。
ローミィが花に見とれていく。
フリードリヒもその場に止まる。
しばらくするとローミィはフリードリヒを見上げた。
「にしゃま。もしゅこし、みちぇ、い~?」
「どうぞ」
ローミィはある花壇に歩み寄る。
花壇に咲く花がローミィを出迎えた。
『おはにゃしゃん、こちわ』
『こんにちは。ローミィ様、お父様にはお世話になっております』
『とうしゃま、ここもくる?』
『はい、この時期にお越しになられます』
『とうしゃま、にかわてありがちょごじゃいましゅ』
『ここ。ふみゅひちょ、いにゃい?』
『ローミィ様、こちらは大丈夫ですよ』
『にゃにょ?』
『えぇ、大丈夫です』
ローミィはいつものようにたくさんの花たちに声をかけていく。
精霊たちとのふれあいに満足したのか、ローミィがフリードリヒのもとに戻ってきた。
「にしゃま~、いっぱいおはにゃしゃん。あいしゃつしちゃ」
「花たちもローミィに会えて嬉しいそうだよ」
「あい。ローミィみょ、うれし」
ローミィはフリードリヒを見上げた。
「にしゃま。いきちゃいおはにゃぱちゃけ、ここ?」
「ここもたくさんのお花が咲いているけど、ローミィに見せたいお花畑はもう少しだよ」
「おはにゃしゃん、いっぱい? おはにゃぱちゃけ、いっぱい」
「あぁ、向こうもお花でいっぱいだよ」
「にしゃま、いく~!」
フリードリヒはローミィの手を取り、目的地のお花畑を目指し、歩き出す。
二人はゆっくり歩いていた。
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神殿は主に二つの職務から成り立っている。
大きな割合を占めるのが神殿業務。そして、皇帝陛下や皇妃陛下を含めた帝室成員を通過儀式。
神殿は神官棟と巫女棟の二つ、禊を行う禊場、奥院がある。
神官棟には男性が、巫女棟には女性が出仕している。
それぞれの棟は中央にある玄関と玄関広間、禊を行う禊場で繋がっている。
神官と巫女、それぞれに重要な神職を担う。
神殿には女神の祠を祀る神域、奥院がある。
神殿とは別に女神たちを祀る祠と女神に捧げられた庭園と園丁詰所が置かれていた。
手入れを行う者も禊を行った園丁が担当している。
神殿祭祀や帝室祭祀などで使われる幾種の花もここから集められることが多い。
神殿で禊を行わないと見ることのできない神域に、庭園があった。
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フリードリヒはローミィを連れてある場所に行こうと歩いていた。
騒がしい声が聞こえて来る。しだいに近づいてきた。
フリードリヒは無用な騒ぎに巻き込まれないようにローミィを促し、物陰に隠れる。
しばらくして数人の少年が姿を見せた。
「かったりいなぁ。禊」
少年たちは禊を終えた姿のようで禊衣をまとっている。
「あぁ、めんどくさい。もっと簡単な禊でいいのにさ」
「そうともいえん。簡単なやつだと誰か分からんやつと一緒に受けなければならなくて面倒だぞ」
一人の少年が考え込み、ため息を吐く。
「そうか、それも面倒だな」
別の少年が話題を換える。
「そういや、聞いたか?」
「何をだ?」
「第一皇子のことだよ」
「第一皇子、……フリードリヒ殿下のことだよな?」
少年は皇子の名前を確認する。
「そうだよ。僕の兄が宮内官で、殿下に持ち込まれる大量の絵姿釣書を見たらしい」
「大量?」
「箱にいっぱいだ」
「マジ?」
「毎日のように持ち込まれるらしい」
少年たちは大量の絵姿釣書を想像していた。
一人の少年がぼやく。
「殿下。選んだのかな?」
「宮務官の兄がぼやいていた。殿下は一人も選ばなかったと……」
別の少年が怪訝な顔を見せた。
「ひ、ひ、一人もかっ?」
「一人もらしい」
少年は詰め寄る。
「なぁ、殿下ってさ。僕たちよりも自由に絵姿釣書から選べる身分のはずだろう?」
「よ、よ、選り取り見取りだよなぁ?」
別の少年も驚き、さらに声を挙げる。
「一人も選ばないのかよ!」
別の少年は叫ぶ。
「うらやましい」
「一人も選ばないのかよ! 選ばないのなら、一人くらい僕らにくれーー!」
少年たちはそれぞれに叫び、ため息を吐く。その後、それぞれに言いたいことだけ言うと立ち去っていった。
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フリードリヒとローミィは物影から出てくる。
フリードリヒは座ったままで少年たちが過ぎ去った方向に目を向けた。
しばらく空を見上げ、ため息を吐く。
「それほど、持ち込まれる絵姿釣書がうらやましいのか…………。くれてやるから持っていけ……」
フリードリヒは愚痴を溢す。
「私に複数の妃を娶るほどの甲斐性はない……」
フリードリヒはため息を吐く。しばらくして不意に声が聞こえてくる。
「にしゃま~? どちちゃにょ~?」
ローミィはきょとんとしている。首を傾げ、フリードリヒを見上げた。
「にしゃま~? どちちゃにょ~?」
フリードリヒは心配そうな表情を浮かべ、こちらを窺うローミィに気づく。
「ローミィ。何でもないよ」
フリードリヒはローミィの頭を撫でる。
「そうにゃにょ?」
「あぁ。少し、愚痴りたくなっただけ」
「ぐち~?」
「そう、愚痴」
ローミィは顔を傾げ、フリードリヒに訊く。
「にしゃま」
「なんだい?」
「えしゅがちゃ、ちゅりしょ。みちゃくにゃいにょ?」
フリードリヒは考え込む。
「……まぁ、そうだね。一日で一通や二通くらいならなんとも思わないが、毎日のように大量に届くとね…………」
フリードリヒはため息を吐く。毎日のように届く絵姿釣書を思い出してしまい、気落ちする。
「しょにゃにょ~?」
ローミィはフリードリヒの顔を覗き込む。
フリードリヒは沈黙したままだ。
ローミィはフリードリヒに声をかける。
「にしゃま。げきだしゅ!」
ローミィは落ち込むフリードリヒの頭を撫でていた。
「にゃでにゃで~」
フリードリヒはローミィに目を向ける。
「ローミィ。ありがとう」
「おはにゃしゃんみょ、心配していりゅ」
ローミィはフリードリヒに白い花を見せた。
二輪の花は淡く光り、ゆらゆらと揺れている。
「ローミィ。不甲斐ない兄だが、ありがとう」
フリードリヒはローミィの頭を撫でた。
「ローミィ。彼らの言葉は覚えなくても良いからね。この話題は終わりにして、いくつか庭園を観て回ろうか」
「あい~!」
ローミィは頷き、笑顔で応じる。
フリードリヒはおもむろに立ち上がり、禊衣の埃を払う。
ローミィも同じように小さな手を動かした。
フリードリヒはローミィの手を取り、歩き出す。
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フリードリヒとローミィの二人はしばらく歩く。
散策路に点在する花壇があり、色とりどりの花が植えられている。
赤色、緋色、深紅色、紅色、橙色等の色は鮮やかだ。
とくに目を惹くのは大輪品種。八重咲きの花や漏斗状に咲く花もあり、鐘状に幾も花をつけるものもある。
優美な香りをまとう花も負けずに鎮座し、競い合うようだ。庭園はまさに百花繚乱の如く華やか――――。
「おにた。おはにゃ、いっぱい」
フリードリヒだけではなく、ローミィも目を奪われた。
しばらく二人は時間を忘れて見とれている。
フリードリヒはそれを眺めていた。
ローミィはフリードリヒを見上げ、抱きついた。
「おにた、おはにゃしゃん。ありがと!」
「ーーどういたしまして」
ローミィはフリードリヒに声をかける。
「にしゃま~。きてもい?」
「なんだい?」
「ここ。ひ、ありゅ?」
「ひ?」
フリードリヒはローミィに聞き返す。
「ローミィのおうち、ちちゃいひ、ありゅ」
ローミィは探しているひについて少しづつ、言葉を繋げていった。
「おうち、ちちゃいひ、ありゅ。かあしゃま、いっしょ、いのにゅにょ」
「……ひに祈る」
フリードリヒはしばらく考え込み、その単語から導き出した場所がある。
「ローミィ。もしかしたら慰霊碑のことかい?」
「あい~」
ローミィは頷く。
「とうしゃま、ひ、ありゅ。いのにゅ」
フリードリヒは確信したが、幼いローミィが祈る理由が分からないでいた。
「慰霊碑に祈りを捧げたいということかな?」
「あい!」
ローミィは両手を挙げる。
「ここの神殿にある慰霊碑はローミィのお家にある物とは違うと思うよ。我が国の歴史のなかで起きた災害や戦災、いくつかの慰霊碑が刻まれた大きな慰霊塔だよ」
ローミィはフリードリヒを見上げる。
「にしゃま、ひ。おきにゃにょ~?」
「そうだよ」
フリードリヒはローミィに目を合わせていく。
ローミィはちょこんと座ると両手を合わせる。
「ローミィ、いのりゅ」
フリードリヒはローミィに併せ、膝をつく。
「そうだね。…………私も一緒に祈ることにしよう。それでは慰霊塔に行こうか」
フリードリヒはローミィの言葉に促され、思い立つ。ローミィを連れ、目的地に向かう。
次話は下記のどちらかになる予定です。
▼第 話
『園丁と謁見予約』
(改稿中/帰ってこない娘を心配する父と有無を言わせぬ謁見予約)
▼第 話
『フリードリヒと神殿の慰霊塔』
(改稿中/ローミィの懇願)
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話数に関しては割り込み追加している部分が確定しだい、あとで入れます。
書いていくうちに話数が増える怪が出没しており、思った以上に増えています(・・;)。




