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偽りの帝国騎士と白雪百合と白雪薔薇の巫女 ―リューティエスランカ帝国建国物語秘話―  作者: 陵 棗
第  章 フリードリヒと消えた白雪百合の行方(フリードリヒ編)
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第   話 神殿の儀式、託宣花と禁忌の花


 前話『フリードリヒと皇子妃託宣花の儀』の後書きで予告の『神殿の神域と禁忌の花』ができましたので、投稿します。


 予告していた次話は『フリードリヒと神殿の庭園』でしたが……、

 諸事情(一人の神官が俺を出せ!と叫んでました)により、次話の次話で予告の『神殿の神域と禁忌の花』になりました。


 サブタイトルを『神殿の儀式、託宣花と禁忌の花』に変更します。


 サブタイトルはもしかしたら、変更するかもしれません。


 

 ’21(R03)年02月13日  禊場。


 神殿の禊場。



 神官長は選ばれることがなく水盤に浮く託宣花を眺める。

 複数の花が水面を漂う。


 奥から神官がやってくる。


「神官長。こちらのお花ですが、どういたしましょう?」

「女神の祭壇に戻しておくように」

「畏まりました」


 儀式の所作に則り、水盤に残された花は再び祭壇に奉られる。

 指示を受けた数人の神官は幾つもの水盤を運び出していく。

 神官長はすべての花が運び出されたことを確認する。


「神官長、運び終えました」

「ご苦労様」



 第一皇子フリードリヒは苦言を呈し、ローミィを連れて禊場を退出していった。


 神官長は側仕えを伴い、禊場をあとにする。

 長い回廊を抜け、歩く。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 神官長の執務室。


 神官長は帝都の神殿を統括しているともにラゲストゥーエ帝国にある支部神殿を統括する支部神殿長だ。


 神官長を含めた神官は主に神殿の左側にある建物で仕事を行い、住居空間もそちらにある。

 神官長執務室は神殿の左側奥に位置し、その一角を占めていた。

 神官長は執務室の扉を開け、部屋に入る。


 執務机は窓を背にするように置かれ、机の上には整理された書類があった。壁際にはいくつもの本棚が並び、多くの本がある。壁には大陸の地図がかけられ、各国にある主要神殿の位置が記されていた。

 執務室の隣には賓客用の応接室と並ぶように側仕えの部屋があり、通路を隔てた奥に個人用の私室と寝室が与えられている。


 神官長は執務机に歩み寄り、椅子に座った。届けられた未処理の書類に目を通し、処理済みの箱に置く。

 引き出しから儀式用に誂えられた料紙を取り出した。羽筆を持ち、ある花の名前を記す。

 書き終えた料紙を眺め、神官長はため息を吐く。


 第一皇子のフリードリヒが“皇子妃(ツェレモニー・)託宣花フォン・プリンツェシンの儀式(オーラケルブルーメ)“で選んだ花は白雪薔薇ヴァイスシュネーローゼ白雪百合ヴァイスシュネーリーリエの二つ。

 その一つが問題だった。神官長は腕を組み、考え込む。


「白雪百合……か……。困ったな」


 神官長は呟き、新たな料紙を取り出す。儀式についてありのままを書き込む。


(今回の儀式はたぶん……フリードリヒ殿下の年齢から候補者を絞り混むところまでは進まないだろう)


 ため息を吐く。


(皇子妃についても、まだ枠決めの段階だ。今はこの二種類で大丈夫だろうと思うが、今後のことを考えると一度、陛下に奏上してみる必要があるだろうな……)


 神官長は儀式の結果を認めた上質な料紙を封筒に入れ、神印封蝋(しんいんふうろう)を施す。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 執務室の静寂を打ち破るように音がなり、三回響く。

 神官長はその音に気づくと顔を上げた。


「入れ――」


 その言葉を受けるように壮年の神官が入室してくる。


「失礼致します」


 神官は扉を閉め、部屋の中央まで進む。


「お呼びとのことですが、何か問題でもございましたか?」


 神官長は両手を組む。


「今回、儀式の花を取り纏めたのは貴殿だったかね」


 神官長はおもむろに神官を見据えた。

 神官は重苦しい雰囲気を感じる。が、意気揚々として答える。


「は、はい! 今回の儀式に際し、託宣花の取りまとめを行いましたのは私にございますが、”皇子妃託宣の儀”の進行に何か問題でもございましたか……」

「問題がないのなら、そなたを呼び出したりはしない」


 神官長は即座に返す。しばしの間、沈黙する。


「神官長?」


 神官は神官長を待つ。

 神官長は重苦しい雰囲気を破り、話す。淡々とした言葉だ。


「一つ聞くが、託宣花に何か手心を加えなかったか?」


 神官は神官長の言葉に驚く。


「私はただ、選定にふさわしくない花が一種類紛れ込んでおりましたので、その花を二つ取り除いただけです」


 神官は言い分を述べた。


「その外した花をどこに置いたのだ」


 神官は威圧に負けずに前に出る。


「神官長。どこに置いたとしてもべつに構わないのではないですか! 神聖な場にふさわしくない花が紛れ込んでおりましたので、水盤から処分……」

「処分だと?」


 神官長は神官を見据える。


「捨て、いえ。……通路の奥に取り除いておきました」


 神官は謂れのない疑いを向けられながらも説明を続けていく。


「その花を外した時、何か手心を加えなかったと聞いているのだ」


 神官は神官長の顔を見る。


「私はき、禁忌の花を儀式から排除しただけです」

「今回、それらを外したのは問題だったな。どの花も精細を欠いておった」


 神官は形振り構わず、必死になる。


「神官長。精細を欠いていたのは禁忌の花だからでございます。なんと言われようが、この神殿から禁忌の花を排除すべきです」


 神官は神官長に苦言を呈した。

 神官長は神官の言葉を遮る。


「儀式の花は一輪、一種類。なぜ一種類で二輪取り除いたのだ」

「それは……禁忌の花が二輪あったからです」

「貴殿が取り除いた花は禁忌の花ではないぞ」

「私が取り除いたのは絶対に禁忌の花です」


 二人の言い分は平行線が続く。

 神官長は立ち上がり、机にあるものを並べる。


「お前が取り除いた花はどの花も禁忌の花ではない」

「いいえ! 神官長、私が取り除いたのは禁忌の花です!」


 神官長は右手で拳を作ったまま、机を叩く。


「儀式のために集められた花を禁忌の花という理由だけで、()()()()()()によって外されたということが問題なのだ」

「……神官長、私は禁忌の花を取り除いただけです。それがなぜ問題になるのです――」


 神官は決して引くことはなかった。

 神官長は神官を見据えたままだ。しばらく沈黙を守る。


「そなたが捨て置いた花が誰の加護を受けているかに気づいていないのだな……」


 神官長は言い終えるとため息を吐く。


「そなたが捨て置いた花はローゼンシュタイン公爵家の紋章にも使われている薔薇などが含まれていた」


 神官長は立ち上がると花瓶に生けていた白い花を持ち、机に置く。


「これらは白薔薇(ヴァイスローゼ)白雪薔薇ヴァイスシュネーローゼと呼ばれるものだ。神殿に祀られている数柱の女神様のために、ローゼンシュタイン公爵家から定期的に奉納されている花だぞ」


 神官長は神官に目を向けた。

 神官は上げられた名に気づく。


「ロ、ローゼンシュタイン公爵家……」


 神官長は椅子に座り直し、腕を組む。


「――――――その意味は分かるな。そなたはこの間、公爵閣下の目の前で公爵家の花を禁忌の花呼ばわりしたのだ」


 神官は肩を震わせ、沈黙する。

 神官長は腕を組んだまま、ため息を吐く。


「神殿の神域に咲くすべての花は、女神様の加護が授けられ、春の女神や花の女神に捧げられる。その花は禁忌の花も含まれるのだ」

「神官長、それでもです」

「我が国では確かにあの花は禁忌の花として伝えられているが、ここ神殿の神域だけは免除されているのだ」


「春の女神に捧げられる神殿祭祀の花は決まっている。エーヴァルトの勅令以前から変わることがない」


「確かに我が国ではエーヴァルトの勅令が発布されたことで神殿を含めた主要地域で禁忌の花を駆逐追放したことがあったのだ。次の年は春の女神だけではなく、豊饒の女神様と豊穣の女神の二柱もお隠れになった」


「神官長……」


「――――――それがどういうことを意味するか、聞かなくても分かるだろう。神殿が除外されていることの重要性について、理解していなかったのだな……。勅命でも神殿の神域は対象外と認められてもいる」


 神官長は別の引き出しから質素な料紙を取り出し、呼び出した神官の名を記す。


「女神様に捧げられている花や神殿の庭園に咲く花を大事にしない神官が行う儀式が続くなら、このまま姿を隠すと神託があった」


「し、神官長! 今まで通り、私の言葉を聞き入れください」


「――否だ」


 神官長は机の上に置いてあった振鈴ベルを持つと降る。


「複柱の女神様から、そなたに最後通牒が出ておるのだ」


 鳴り響く鐘の音は合図となる。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 奥に続く扉が開き、二人の神殿付護衛騎士が駆けつけた。

 神官長はおもむろに告げる。


「すまないが、そこにいる神官の身柄をただちに確保せよ」

「はっ」

「処遇を決めるまで懲罰房に収監を――」

「畏まりました」


 護衛騎士は神官の捕獲に動く。


 神官は突然現れた護衛騎士に驚き、後退る。


「禁忌の花は神殿には相応しくない! 私は正しいことを言ったまでだ!」


 今までと同じ言葉を繰り返した上で、今までの鬱憤を晴らすように暴言を撒き散らす。


 神官長は冷静に告げる。


「数柱の女神から、事実上の解雇通知が出ている」


 神官長は机に置いてあった書状を神官に見せた。


「帝都の神殿では国の行く末を担う重要な儀式やそちらで使われる多くの花を取り扱う。当神殿で神官職として出仕させ続けさせる訳にはいくまい」

「畏まりました」


 護衛騎士の二人は問題の神官を確保する。


 護衛騎士は確保した神官を引きずり、神官長執務室から退出していく。

 廊下にはむなしく喚き声が響いていた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 神官長は静かになった執務室でおもむろにため息を吐く。振鈴鐘を鳴らす。

 側仕えの見習い神官が姿を見せる。


「すまないが、茶を一杯貰えないか」

「畏まりました。いつものものでよろしいでしょうか?」

「あぁ、頼む」


 側仕えの見習い神官は退出した。お茶の用意を調え、配膳車と一緒に戻って来る。慣れた動作でお茶を淹れ、神官長に差し出す。


「どうぞ」


 神官長は机に置かれたカップを持ち、いただく。飲み終えるとカップを戻す。


「ありがとう」



 神官長は立ち上がると伝令業務を担う神官を呼ぶ。

 まもなく伝令神官が到着する。


「神官長、お呼びでしょうか」

「すまないが、陛下に至急奏上せねばならないことができた。謁見が可能か、確認を取ってくれ」

「畏まりました」


 伝令神官は神官長の命令を受け、下がっていく。





 次話は今度こそ、下記になる予定です。


▼第 話

『フリードリヒと神殿の庭園』

(改稿中/神殿の庭園を散策するフリードリヒとローミィの二人)



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 話数に関しては割り込み追加している部分が確定しだい、あとで入れます。


 書いていくうちに話数が増える怪が出没しております。思った以上に増えています(・・;)。





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