第 話 フリードリヒと禊の間
前話『フリードリヒと受け損なっていた通過儀礼』の後書きで予告の次話『フリードリヒと禊の間』ができましたので投稿します。
サブタイトルは変更するかもしれません。
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第12話になっていますが、話数は不確定のため下記のように変更します。
【旧】第12話 → 【新】第 話
本文に変更はありません。
神殿において正式な手順で禊を行うために使われる禊場。
そこで一角を占める禊の間ーー。
フリードリヒとローミィの二人は神官長の案内でたどり着く。
禊の間には禊を行うための水路が幾つも張り巡らされ、両側に連絡用の通路がある。
数人の神官が行き来していた。
禊水路は奥にある広間に続いている。
導入口には女神の彫像が一柱置かれていた。女神が持つ水甕から滔々と湧き出ている。
禊水路に水が流れ込み、そのままの勢いで流れていく。
数人の神官が禊水路に入り込む水量を調整していた。
フリードリヒとローミィは禊水路の導入口にたどり着く。
一人の神官が水位の確認のため、フリードリヒを待っていた。
「殿下、この量でよろしいでしょうか?」
フリードリヒは神官の足元を見る。
「これ以下にすることは難しいか?」
「はい、調整しましたが、これよりも下げることはできませんでした」
「そうか、ありがとう」
「それでは殿下、お願いします」
「あぁ」
神官は二人の動向を見守る。
ローミィはフリードリヒを見上げ、禊衣の裾を引っ張った。
「にしゃま、おはにゃあるにゃ」
「ここにもあるけど、見に行くお花畑は別の場所。そこに行くための手順、禊を行う場所の一つだよ」
ローミィはフリードリヒを見上げ、訊く。
「もうしゅこし?」
「そう、もう少し。普段は簡単な禊を行う、簡易禊場を使うんだけどね」
「かいにゃ?」
「そこが空いていなかった」
フリードリヒはローミィに目線を合わせる。
「この水路を奥の広間に向かって歩き、身を清めると禊は終わりかな」
「みしょぎ~」
フリードリヒは奥にある広間を指し示す。
ローミィもその先を見つめる。
「禊を終えたらお花畑にいこうね」
「おはにゃみゆ!」
フリードリヒは立ち上がった。
ローミィはフリードリヒを見上げ、フリードリヒの禊衣の裾を持つ。
「にしゃま、ここにょにゃか。あるくにょ?」
「そうだよ」
フリードリヒは水路に足を入れた。その後にローミィを抱えて降ろす。後ろで控えていた神官に声をかける。
「この先の水量は妹に合わせて私が微調整する。奥で着替えと何か拭くものを準備していてくれないか」
「畏まりました。奥でお待ちしております」
神官は一礼し、奥へと向かう。
フリードリヒはローミィの手を取り歩き出す。
「大丈夫かい?」
「にしゃまと、いっしょ。たいじょぶ」
ローミィはフリードリヒを見上げ、笑顔で応える。
水路は奥へと続く。フリードリヒはローミィを連れ、順路の通り歩いている。
しばらく進むと丸天井に角形をした広い空間が現れる。
水路は円形の水盤に繋がっていた。同じ大きさの水路が放射状に接続されている。
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天井を支える支柱にはアウローラ神話に登場する女神の彫像がある。
存在感を示すように鎮座する大地の女神。
縁を司る結婚の女神。
豊かな実りをもたらす豊穣の女神、肥沃な大地をもたらす豊饒の女神。
豊かな実りをもたらす花の女神。豊かな彩りをもたらす花の女神。
季節を司る女神で春の女神エオスティーネ・夏の女神アエスティーナ・秋の女神エウポリアーネ・冬の女神ヒエムスティーナ。
大地を潤す泉の女神、月の女神。
神殿が造成された時に禊の間も設けられ、職人の手により女神の彫像や装飾などが施された。
女神像は統括神殿庁の神殿区域にある女神像を基に作られた。
天井画はたくさんの種類の花が描かれ、女神に捧げられている。
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ローミィは顔を上に向け、しばらく見とれていた。
「にしゃま。めがみしゃま、きれいにゃ」
「あぁ、そうだね」
水盤の中央には鷲の彫像が鎮座している。
フリードリヒは一柱の女神像に向き、見上げた。
「中央にある鷲の像を取り囲むようにたくさんの女神がある」
「めがみしゃま。みんにゃ、きれいにゃ」
「そうだね」
フリードリヒは女神像を見渡して、一柱の彫像に目を止める。ずっと心に感じていたものの、正体に気づく。
「あぁ、そうか……。どこかで会ったことがある気がしていたと思っていたら、ここの彫像だったのか……」
「にしゃま?」
ローミィはきょとんとしてフリードリヒを見上げている。
フリードリヒは女神像に目を向けた。
「……にしゃま、にゃにみてるにょ?」
「春の女神の彫像だよ」
フリードリヒは女神の彫像を指し示す。
ローミィもフリードリヒが見ている彫像に目を向けた。そのまま眺めていた。
「めがみしゃま……。かあしゃまみちゃい」
「そうかい……?」
ローミィは続けた。
「かあしゃま。めがみしゃまみちゃ、くるくる。くるくる」
「女神様を見て、くるくるかい」
「くるくるにゃ~」
フリードリヒはローミィの頭を撫でていた。
「くるくるもお花畑も後でね」
「あ~い」
フリードリヒは立ち上がるとローミィを連れ、幾つかのある水路の一つに向かう。
しばらく歩くと狭い水路から再び、広く開けた広間に出る。
水路はそのまま奥へと続き、水音が部屋に響いている。
水路は奥の広間で禊槽の一つに流れ込んでいた。長方形が二つ組み合わさった形状で水を湛えている。
フリードリヒは以前の記憶から禊槽が深いことを知っていた。
「うーん……。大人用の深い禊槽では溺れそうだな……」
フリードリヒはローミィを見つめ、身長と禊槽の深さに悩む。
「それではお二人一緒にどうぞ――」
神官長がフリードリヒに声をかける。神官と二人が来るのを待っていた。
フリードリヒは驚きつつ、思わず突っ込んだ。
「おい。身を清めるために体を沈める必要があることは分かるが……、私の体力では禊槽からローミィを抱えたまま這い上がるのは無理だぞ」
神官長は腕を上げ、指し示す。
「殿下。大人用のこちら側からではなく、あちら側にある階段から禊槽にお入りになられればよいかと。浅いところに踊り場がございますから、そちらで身を沈めていただけるとよろしいかと存じますよ」
「……そうか。それもそうだな」
フリードリヒはローミィの手を取り、神官が示した階段があるところまで歩く。二人で禊槽の中にある踊り場まで降りていった。
そこでフリードリヒは頭まで沈めて身を清める。
ローミィもそれを真似て頭まで入る。
濡れたままの二人を出迎えたのは真新しい布と禊衣を持った神官と巫女だった。
「にしゃま。おはにゃぱたけ、こにょあと?」
「そう。もうじきかな」
禊を終え、身支度を整えた二人は控えの間から出る。
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しばらくの後、神官長が迎えに来た。
「殿下、お花畑に行く前に儀式をお受けいただきます――」
フリードリヒは悩む。
「神官長。そういえば、儀式で皇子妃を決めるというが、具体的に何をどう決めるのだ」
神官長は奥にいた神官に指示を出す。
神官が託宣花の儀式が行われる部屋にフリードリヒに移動するよう促した。
フリードリヒはローミィの手を取り、歩いていく。
部屋の中央には丸い平桶がたくさん置かれている。
別の神官が水を張っていた。たくさんの花を抱えた神官が水盤に花を挿す。
ローミィは生けられている花に興味津々だ。水盤に吸い寄せられていく。
「おはにゃしゃん、いっぱい……」
水盤の回りをゆっくりと動いている。
「にしゃま、おはにゃ。くるくる、くるくる~」
儀式を受けるフリードリヒはローミィのことを遠くから見ていた。
神官長がフリードリヒのそばに歩み寄る。
「殿下、それでは儀式を始めましょう」
「神官長。その前に訊きたいことがあるのだが……、訊いても良いか?」
フリードリヒは神官長を見上げ、訊く。
「どのようなことでございましょう?」
「水盤のそばにいるローミィを私が連れて皇子妃託宣の儀式に挑むとどうなる?」
「殿下、妹君であれば特に問題はございませんが……、何か問題でもございますか?」
「説明が面倒だったから、妹で通したが――」
フリードリヒは一度沈黙し、おもむろに言葉を続けた。
「神官長。実は妹ではない――」
「殿下、そのことはとても重要なことです。事前にお知らせいただき、誠にありがとうございます」
神官長はフリードリヒの言いたいことに気づき、助言する。
「何だ?」
「殿下が意図せず妹君として連れて来られたローミィ様ですが、皇子妃託宣の儀式において選ばれるのは花だけではないということをお忘れなきよう願います。お相手の将来をも左右することですから自重していただけると……幸いです」
「すまん」
フリードリヒは神官長の忠告を聞き入れる。
「神官長。儀式は後からでもできるだろう?」
「殿下。後からでも構いませんが、いずれはお受けになっていただけるのでしょうか?」
「あぁ、いずれは受けるつもりだ」
フリードリヒは水盤を眺めるローミィに視線を送り、神官長を向く。
「すまないが、ローミィに気のすむまで見せてからでも良いか?」
「……畏まりました」
神官長とフリードリヒは暫しの間、待つ。
次話は下記の予定です。
▼第 話
『フリードリヒと皇子妃託宣花の儀式』
(改稿中/皇子妃は選ばれるのか?)
▼第 話
『神殿の庭園と奥院』
(改稿中/フリードリヒと庭園)
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話数に関しては割り込み追加している部分が確定しだいあとで入れます。
話数が増える怪は神出鬼没で、思った以上に増えています(・・;)。




