第 6話 フリードリヒと持ち込まれ続ける絵姿
話数を第5話から第6話に変更しますm(_ _)m。
話数のみ変更で本文の変更はしないはずでしたが、本文の言い回しなど気になる部分がありましたので追加や修正を行い、本文の改稿もしました。
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第4話の後書きで、次は……、
『第5話 フリードリヒとローゼンシュタイン公爵』と予告しておりましたが、都合により2話ほど、増えますσ( ̄∇ ̄;)
闊歩……、いえ。割烹でつぶやいたとおり、若干修正を加えました。
絵姿を大量に持ち込もうとする宮務官は減っていった。
大量に運び込むことを諦めた宮務官は代わりに少数の絵姿を隠して持ち込むようになる。
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それから数日後。
今日も宮務官が一人、巻物を携え廊下を歩いていく。
フリードリヒは私室で長椅子に座り、本を読んでいた。
扉から音が聞こえ、扉が開く。宮務官が部屋に入ってくる。
「殿下、失礼します」
宮務官はフリードリヒの姿を探していく。
「フリードリヒ殿下、こちらにおいででしたか」
「なんだい?」
長椅子に座っていたフリードリヒは声のする方を向く。宮務官の姿を見たフリードリヒは読んでいた本を置く。
「お届け物にございます」
「……お届け物?」
宮務官は長椅子まで歩み寄り、フリードリヒに巻物を差し出す。巧妙に隠されたそれは一通の絵姿釣書だった。
「こちらにございます」
フリードリヒはため息を吐く。
「……宮務官。何度持ってこられても、ムダだよ。私は受け取れない」
「殿下、後生ですから受け取ってください」
フリードリヒはしばらく、沈黙した。
「宮務官、何度も言うが、受け取れない。受け取る訳にはいかない」
「私は殿下のためを思って、こちらの絵姿を薦めているのです!」
宮務官はフリードリヒの言葉のすぐあとに続ける。必死だ。
「殿下。受け取ってくださるだけでも構いません」
宮務官は殿下に詰め寄る。
フリードリヒは宮務官を見据えた。ため息を吐き、長椅子に座る。
しばらく、沈黙が続く。
フリードリヒは再び、ため息を吐いた。
「宮務官。私に陛下の命を破らせたいのか?」
「いったいどう言うことです?」
宮務官は驚き、黙した。
フリードリヒは宮務官を見上げる。
「陛下に絵姿釣書を受け取らないように、と言われている。だから、すべて断るしかない――――。それでも私に受け取れというのかい?」
「そ、それでもです」
宮務官は言葉につまりながら、諦めない。
「分かった」
フリードリヒはため息を繰り返した。おもむろに告げる。
「持ち込まれた絵姿釣書は然るべきところに持っていく」
宮務官はフリードリヒの言葉を聞き、笑みを浮かべる。
「殿下、分かってくださるのですね!」
宮務官はフリードリヒの言葉が持つ意味に気づいていないままだ。
「それではこちらの絵姿のお方と、殿下の話を進めたいと思います」
宮務官はフリードリヒの言葉で言質を取れたと思い、すこぶる機嫌が良い。持っていた絵姿釣書をフリードリヒの目の前に置く。
「殿下。それでは絵姿釣書は置いておきますね」
宮務官は笑みを浮かべ、足取りも軽い。意気揚々と扉に向かう。
「宮務官。早まるな」
フリードリヒは静かに告げ、立ち上がる。
「…………勘違いするなよ。この置かれた絵姿釣書だけではない。今後持ち込まれる物の対応も陛下にお願いする」
フリードリヒは言い切った。
宮務官は驚きのあまり言葉に出る。
「どういうことです?」
「言葉のままだよ」
フリードリヒは冷静に対応していく。
「絵姿は陛下に渡す」
「殿下! お待ちください」
宮務官はあわててフリードリヒを追う。
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フリードリヒと宮務官、二人の動きを止めるかのように扉が三度叩かれる。
「フリードリヒ殿下、失礼します」
声とともに扉が開き、騎士服の男性が入ってくる。
「ヒ、ヒルデブラント?」
フリードリヒは入室してきた男性に目を向け、声を挙げた。
「殿下。申し訳ありませんが、陛下がお呼びにございます」
「あぁ、分かった。今、行く」
フリードリヒはヒルデブラントに視線を送る。
「ヒルデブラント。すまないが、そこの忘れ物を取ってきてくれ」
「畏まりました」
ヒルデブラントは応接卓に向かい、置かれた一通の絵姿釣書を持った。
宮務官は突然のことに驚く。
「殿下。お待ちください! お渡した絵姿をどちらに持っていくのですか」
「さきほど陛下に任せると言っただろう」
「殿下!」
フリードリヒは歩き出す。
「ヒルデブラント、行くぞ」
フリードリヒは扉を開け、部屋を出る。
ヒルデブラントは部屋に残った宮務官をフリードリヒの部屋から出るように告げ、扉を閉めた。
「閣下。そちらの絵姿をお返しください」
ヒルデブラントは宮務官を見据えた。
「宮務官。陛下から殿下に持ち込まれる絵姿釣書について、今後は私ども護衛騎士が回収しても良いと通達がありました」
「……殿下は拝見することはないと言うことですか?」
「未開封のまま回収ということなりますゆえ、そういうことになるでしょう。こちらは私が預かります。それでは――」
ヒルデブラントは言い終えると踵を返し、フリードリヒを追う。
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フリードリヒは廊下を歩いていた。
ヒルデブラントはフリードリヒに追い付く。
「ヒルデブラント」
「何でしょう?」
「頃合いを見計らって来ただろう」
フリードリヒはヒルデブラントを見上げる。
「分かりますか?」
「あぁ、分かるよ。それで、陛下に呼ばれたというのは嘘か?」
「いえ。そちらは事実です」
ヒルデブラントは即答する。
フリードリヒは呼ばれた理由を考え込んだ。
「そうか。急ぎの用かな……」
「分かりかねます」
「そうか」
騎士服姿の男性がこちらの方へ駆け寄って来る。
「閣下。お探ししました」
男性に閣下と呼ばれたのはヒルデブラントだ。声の方を向く。
「なんだ? シュライエルマイヤー」
「閣下のご署名をいただきたい書類が執務室に届いております」
「それは急ぎのものか?」
「はい、閣下の承認で動く書類です」
ヒルデブラントは少し考え、フリードリヒに声をかける。
「殿下、少し寄り道してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないよ」
思い出したようにシュライエルマイヤーに声をかける。
「シュライエルマイヤー、私もこのあと用事があってな。署名を終えた書類は誰宛に届ける予定だ?」
「閣下、尚書宛にございます」
「そうか、その足で届けるか……」
ヒルデブラントはシュライエルマイヤーを呼び止める。
「すまないが、この巻物――。フリードリヒ殿下に持ち込まれた絵姿釣書を侍従長に渡してもらえるか?」
「畏まりました」
ヒルデブラントはシュライエルマイヤーに持っていた絵姿釣書を渡す。
シュライエルマイヤーは受け取った。
「必ず、侍従長に直接渡すように頼む」
「侍従長に、ですね」
「あぁ。それとフリードリヒ殿下付き宮務官にこの絵姿について見せてほしいと要求されたら、適当にはぐらかしておいてくれ」
「閣下。……この絵姿はもしかしなくとも?」
フリードリヒはため息を吐いている。
ヒルデブラントはシュライエルマイヤーに絵姿釣書を見せた。
「あぁ、先ほど殿下に持ち込まれた絵姿釣書だ。釣書にある家紋からみると名のある上位貴族の令嬢のものだろう」
シュライエルマイヤーはなにやら事情を察したようだ。
「分かりました。私の実家の名を使い、宮務官が見向きもしないだろう身分の令嬢として通します」
「頼む。それでも見たいと要求された場合はどうする?」
シュライエルマイヤーは絵姿を指し示し、告げた。
「閣下、その時はこの絵姿釣書を普通に見せるだけです。そのための物ですからね」
「それもそうだな。開封済みの絵姿はそのまま陛下に持ち込み、陛下の勅旨をつけて宮務官の実家に送るということか……」
「そういうことです。絵姿を見たいという言葉は、縁談を受ける気があるという言質を取れますので」
「……そういうものなのか?」
フリードリヒは二人の会話に割って入る。
「そういうものですよ。邪道ですが、宮務官に絵姿を開封させ、そのまま縁談を押し付けるという方法もあります」
「……ん、分かった。頭の片隅に入れておこう」
フリードリヒは考え込む。
「殿下、参りましょう」
「あ、あぁ」
ヒルデブラントはフリードリヒを連れ、金鷲騎士団にあるヒルデブラント個人に与えれらた執務室に向かう。
シュライエルマイヤーは侍従長に会うために急いだ。
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先ほどフリードリヒとヒルデブラントに皇子の部屋から追い出された宮務官は廊下にいた。
その場に佇む。しばらく頭を抱え、宮務官は考え込む。呟く声が聞こえてくる。
「……まずい、まずい……。まずいぞ」
宮務官はしばしの間、沈黙をする。考えを巡らせる。
「実に……まずいぞ」
宮務官はこのまま考えあぐねていても時間がもったいないことに気づく。廊下を急いで絵姿釣書を持ち込んできた依頼主のもとに向かう。
宮務官は長い廊下をひたすら歩いていた。
目の前に騎士服を着た男性が細長い巻物を持っているのを見つけ、驚く。
「閣下?」
宮務官は前を歩く騎士服の男性に声をかける。
騎士服の男性は声に振り向くことなく、歩いていく。
「申し訳ない。そこのお方」
騎士服の男性がようやく足を止める。
「なにか私にご用でしょうか?」
「お持ちの巻物はどちらから」
宮務官は騎士服の男性の前に回り込み、巻物を指し示す。
騎士服の男性が巻物を見る。
「この巻物ですか?」
「はい。確認できますでしょうか?」
「こちらは私の実家、シュライエルマイヤー辺境伯家に持ち込まれた巻物にございます」
「……シュライエルマイヤー辺境伯家ですか?」
「えぇ」
宮務官は疑いの目をシュライエルマイヤーに向けていた。
「絵姿を確認させていただけませんか?」
「宮務官。申し訳ないが、こちらはお見せできませんよ」
「シュライエルマイヤー卿。そこをなんとかなりませんか」
宮務官は令嬢と聞き、引く気がない。
「それでは宮務官。あなたがこの縁談を受けてくださるのでしたら、こちらの絵姿をお見せいたしましょう」
宮務官はシュライエルマイヤーの言葉に驚く。
「え、……縁談ですか?」
「えぇ。縁談をお受けになるなら、絵姿釣書にある家名と令嬢の名前をお教えいたしますよ」
シュライエルマイヤーは持っていた絵姿釣書を差し出す。
「そのための絵姿です。私から、宮務官のご実家にお話を通しましょう」
シュライエルマイヤーは告げた。
宮務官は青ざめている。声をかけたシュライエルマイヤー卿から縁談を進められるとは思っていなかったためだ。しばらく考え、告げる。
「シュ、シュライエルマイヤー卿。お待ちください。申し訳ありませんが、実家に黙って縁談を受ける訳には参りません。絵姿を見せてください、という話は忘れていただけるとありがたいです」
「分かりました。こちらも忘れましょう」
シュライエルマイヤーは宮務官の言葉を受け、話を切り上げる。絵姿釣書を持ち直す。
「それでは私は急ぎますので、失礼」
シュライエルマイヤーは踵を返し、急いで向かう。
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その場に残された宮務官はほっとし、安堵していた。声をかけた騎士から、まともに縁談を薦められると思わなかったためでもある。
用事を思い出した宮務官は急いで移動していく。
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金鷲騎士団詰所。
ヒルデブラントはフリードリヒを連れ、執務室にいる。
机に置かれた書類に署名を行ったヒルデブラントは提出する書類を持つ。フリードリヒを連れて廊下を歩いていた。
「ヒルデブラント。シュライエルマイヤーに渡した巻物は?」
「あれですか。普通の巻物ですよ」
「そうか……、普通のね」
「そうです」
フリードリヒはとりあえず、納得した。
少し遅れてシュライエルマイヤーが合流する。
「閣下、遅れて申し訳ありません」
「問題はなかったかい?」
「はい。一応、例の巻物も持ってきました」
「すまないが、署名はしてある。尚書に持っていってくれるか?」
「はい、こちらは例の巻物です。宮務官に絵姿を開封するならこの縁談を薦めると告げてみたら、やはり引きました」
「……だろうね」
二人は持っていたものを交換する。
シュライエルマイヤーは急ぎ、書類を提出に向かう。しばらくすると戻って来た。
ヒルデブラントは宮務官が持ち込んだ絵姿釣書を持っていた。
廊下の先には陛下の執務室がある。
部屋の前では侍従長とシュライエルマイヤーが待っていた。
「殿下、ブラウフェルト卿。陛下がお待ちです」
侍従長はヒルデブラントに告げる。
「殿下に持ち込まれた絵姿をお渡しください」
「こちらです」
侍従長はヒルデブラントから絵姿を受け取る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
陛下の執務室。
侍従長が三人を部屋に通す。
陛下は手を止め、書類を置く。座っていた椅子から立ち上がり、応接卓に向かう。
陛下は三人に座るように促す。
「とりあえず、フリードリヒに持ち込まれたという絵姿を見せてくれないか」
侍従長は問題の絵姿釣書を陛下に渡す。
「陛下。こちらにございます」
絵姿釣書を受け取った陛下は釣書にある家紋を見て、ため息を吐く。
第4話の追加により、投稿済みの話数に変更があります。
第6話 → 第7話
『フリードリヒと未開封の絵姿』
第7話 → 第8話 → 第15話
『フリードリヒが公爵に贈った誕生祝いと花言葉が持つ意味』
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当初の予定より、少々……話数が増えています。
次は『第 6話 フリードリヒと皇子宣下』、『第 7話 フリードリヒとローゼンシュタイン公爵』(二つとも作成中)です。