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偽りの帝国騎士と白雪百合と白雪薔薇の巫女 ―リューティエスランカ帝国建国物語秘話―  作者: 陵 棗
第  章 フリードリヒと消えた白雪百合の行方(フリードリヒ編)
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第   話 フリードリヒと北離宮(ノルデンルフトシュロス)


 前話の『陛下の伝言は、有無を謂わさぬ呼び出し』で予告の次話、サブタイトル『フリードリヒと北離宮』ができましたので投稿します。



 投稿にあたり、サブタイトルを下記のように少し変更しました。



 

【旧】

『フリードリヒと北離宮』



【新】

『フリードリヒと北離宮ノルデンルストシュロス



 サブタイトルは変更するかもしれません。

 

 ’20(R02)年12月26日 修正



 フリードリヒはローミィを連れて庭園から移動している。

 フリードリヒはローミィを抱き抱えたまま、目的地に向かう足を確保するため、北離宮ノルデンルフトシュロスに急ぐ。

 フリードリヒはローミィに声をかける。


「ローミィ。高いのは怖くないかい?」

「あい。おはにゃしゃん、いっしょ!」


 フリードリヒは一安心した。

 ローミィは流れていく景色に目を奪われている。いつもより高い視点にわくわくしてもいた。


「にしゃま」

「なんだい?」


 フリードリヒはいったんローミィを下ろし、休憩した。

 ローミィはフリードリヒを見上げる。


「おはにゃしゃん、もしゅこし~?」

「もう少し待てるかい? そこに行けば、たくさんのお花が見れるよ」

「もしゅこし?」

「そう。もう少し、ここから歩くかい? また高くても良いかい?」


 フリードリヒはローミィに()く。


「ありゅきゅ。とい?」

「少し遠いかな」

「にしゃま、ありゅきゅ」

「疲れたら、教えてね」

「あい!」


 フリードリヒはローミィの手を繋ぎ、北離宮に向け再び歩き出す。


 離宮の建物が見えて始めるとフリードリヒは辺りを見渡していた。

 北離宮の趣は質素ではあるが、大公宮とも呼ばれていただけに荘厳さも持ち合せていた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 離宮の建物が見えてくるとフリードリヒは表玄関ではなく、裏にある通用口へと向かう。


 フリードリヒは外で仕事をしていた宮務官に声をかける。


「クライン。仕事中にすまないけど、神殿まで馬車を出せないか聞いてもらえないかな?」


 クラインと呼び掛けられた宮務官は手を止め、声のする方を向く。


「馬車ですか?」


 声の主に驚き、慌てて姿勢を正す。


「これはフリードリヒ殿……」

「ク、クライン! クライン!」


 フリードリヒはクラインに被せるように声を出し、ローミィの後ろで必死に制止している。


 ローミィはきょとんとして、二人を見上げていた。


「にしゃま~? どちちゃにょ~?」


 何かを察したクラインは咳払いしつつ、改めて続ける。


「殿、……いえ。フリードリヒ様。馬車の件は神殿に確認を行いますので、いつものお部屋でお待ちいただけますでしょうか?」

「それは構わないよ」

「それではお時間をいただけますでしょうか?」

「あぁ、頼んだよ」


 フリードリヒはクラインを見送る。

 ローミィを連れ、通用口から北離宮に入った。


「にしゃま~」

「なんだい?」

「ここ、はいっていいにょ?」

「今日は私と一緒だからね」

「そにゃにょ?」

「そだよ」


 フリードリヒとローミィの二人は会話をしながら廊下を歩いていく。フリードリヒは迷うことなくいくつもある客間の一つに向かう。


 扉を開けると置いてある長椅子にローミィを座らせ、隣に座った。

 ローミィはフリードリヒを見上げる。


「にしゃま、おはにゃぱたけ。いく?」

「これからお花畑に馬車で行くよ」

「おうましゃん」

「そう。お馬さん」

「もう少し待ってね」

「あ~い」


 しばらくすると扉を三回叩く音が聞こえ、別の宮務官が入室してくる。


「失礼致します。フリードリヒ様はいつものでよろしいでしょうか?」

「あ……、そうだね。今日はハチミツ入りの暖かい飲み物を二つ、頼むよ。そのうちの一つは人肌くらいのぬるめでね」

「畏まりました」


 しばらくすると女性の宮務官が荷台に飲み物と軽食を載せ、二人に出していった。


 フリードリヒはローミィに飲み物が入ったを渡す。

 ローミィは受け取り、フリードリヒを見上げる。


「いいにょ~?」

「気をつけて飲むんだよ」

「あ~い」


 フリードリヒは口をつけ、飲む。要望どおり、ぬるめの温度だ。

 ローミィも飲み物を運ぶ。ふーふーと息を吹き込み、飲む。


「おいち」

「熱くないかい?」

「あーい」


 フリードリヒとローミィが飲み物を飲み終えた頃、宮内官のクラインがやってくる。


「フリードリヒ様」

「なんだい?」

「そちらのお嬢様を少しだけお預かりしてもよろしいでしょうか」

「……何か問題でもあるのかい?」


 クラインは続ける。


「表神殿の庭園と神殿奥院にある庭園。二つとも神殿が統括する神域にございます」

「そうだな」

「お嬢様のお姿では門前払いの可能性もございます」

「そうか、そうだったな」


 ローミィの服は布地は上質なものだが、飾りなどの華美さが除かれていたために質素過ぎた。

 ただ、大切に使われていることがわかるほどあちらこちらに補修の跡があり、継ぎ接ぎだらけだ。


「…………神殿の庭園も神域だったな。分かった。クライン、服装は任せるよ」

「それでは殿下もお着替えいただけますでしょうか」

「分かった」


 フリードリヒは立ち上がり、ローミィに声をかける。


「ローミィ、お花畑に行くために少し服を変えようか」

「にしゃま?」

「私も服を着替えるからもローミィもお着替えだよ」

「ふきゅ?」

「そう、服」


 ローミィはきょとんととしていた。


「にしゃま?」


 クラインはローミィに目線を合わせる。


「大丈夫ですよ。お兄様も着替えた上でローミィ様を待っているそうですよ」

「おきがえしゅりゅにょ?」

「はい。お着替えですよ」

「あ~い」


 クラインはちょこちょこと歩くローミィを抱き上げ、待っていた別の宮務官に引き渡す。

 ローミィはその宮務官に抱えられ、連れられていった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 応接間に残されたフリードリヒは立ち上がる。


「クライン」

「例の場所から殿下の服を一式引き取って参りました」

「すまない」


 クラインはフリードリヒに服を預けた。


 服を着替えを終え、飲み物に手を伸ばしている。時間をもて余しつつ書棚から本を取ると、長椅子に座り読み出す。




 暫くしてローミィの支度が終わり、女性の宮務官に連れられて戻って来た。

 長椅子ではフリードリヒが数冊の本を並べ、読み耽っている。


 ローミィは床に下ろしてもらっている。


「フリードリヒ様、ローミィ様の準備が整いました」


 宮務官はフリードリヒに声をかけるが返答がない。


「フリードリヒ様」


 声に気づいたフリードリヒが顔を上げた。


「あぁ……、すなまい」


 ローミィは歩み寄り、フリードリヒを覗き込む。


「にしゃま。にゃに」

「本を読んでいたよ」

「にゃんにょほん?」

「我が国、ラゲストゥーエ帝国の歴史」


 フリードリヒは本を戻し、表紙を見せた。


「そう。初代皇帝フリードリヒ一世陛下が即位する前から、今までの歴史について記されたもの」


「フリー……ドリヒ、いっしぇいへいきゃ」


 ローミィはフリードリヒを見上げた。


「おにたみょ、フリー……ドリヒ。へいきゃのにゃみゃえ……とおにゃじにゃにょ?」


 フリードリヒはローミィの頭を撫でる。


「……そうだよ。畏れ多くも初代皇帝フリードリヒ一世陛下の御名ヴィリバルト・フリードリヒと同じ名前だよ」


 フリードリヒは暫く沈黙する。

 ローミィは着ている服をじっと見つめた。


「にしゃま、ふく」

「似合っているよ」

「ローミィ、きちぇちぇ、いいにょ?」

「あぁ、良いよ」


 フリードリヒはローミィの疑問に答える。


「お花畑に行くためにちょこっと寄らなければならないところがあって、そのために服をね」


「いいにょ?」


「そう。家では誰も着る人がいなくて、古着屋に卸すものから何点か許可を得ているこちらに置いてあるそうだよ」


 ローミィは笑顔になった。


「にしゃま、くるくるしちぇみょ。いい?」

「くるくる?」


 ローミィは長椅子から降りて、その場で回って見せる。


「くるくる」


 フリードリヒは思い出す。


「あぁ。そういえば……妹も新しい服を着た時にその()()()()をやっていたな」


 ローミィがお辞儀をしようとしているのに気づいたフリードリヒは立ち上った。


 転びそうになったローミィを抱き止める。


「くるくる、楽しいかい?」

「はい」


 ローミィは笑顔で頷く。

 ふわふわと光るものが精霊の姿をになっていく。ローミィのまわりで同じように白い服の裾を持ってくるくると舞う。


『くるくる』

『お披露目の舞踏会~』


 一柱の精霊に続き、他の精霊たちも舞う。


『……楽しいかい?』


 精霊たちは驚き、動きを止める。しばらく沈黙し、フリードリヒに近づく。


『………………私たちが見えるの?』

『あぁ、見えるよ。君たちは花に宿る精霊かい?』


 精霊の声が合わさり、大きくなっていた。


『はい! 私たちは……とある百合(リーリエ)の精霊なのです!』


 ふわふわと(ただよ)う精霊たちはお披露目の白い衣装をまとっているようだ。

 フリードリヒは精霊の舞いを眺めている。


『百合の精霊か……。お披露目の舞踏会、今年は五日後のはずだよ』


『五日後……』


 精霊たちは肩を落としてふらふらと浮いている。


『見たい。どうしても見たいです~』


 精霊たちはフリードリヒの回りに集まり、訴える。


『お披露目の舞踏会に参加するには、帝国宮内省が発行する正式な招待状が欲しい。それが決まり』

『お披露目の舞踏会、見・た・い』


 精霊たちはふわふわと漂っている。


 フリードリヒは考え込む。


『う~ん。正式な手段ではなく私たちの年齢だと、舞踏会の大広間上の隠し部屋や隠し通路辺りから、宮務官に見つからないようにひっそりと覗くくらいしかないかな……』


 精霊たちは目を輝かせている。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 扉が三度叩く音が聞こえ、女性の宮務官が入ってくる。ワゴンに菓子と飲み物を運んできた。

 フリードリヒはローミィを長椅子に座らせる。


「新たにお持ちしました。お二人です」

「……ローミィみょ、いいにょ?」

「どうぞ」


 ローミィはコップに手を伸ばしていたが、取れないでいた。


 フリードリヒが飲み物を取り、手渡す。


「ありちょ」

「焼き菓子も食べるかい?」


 フリードリヒは小皿を取り寄せた。

 ローミィは手に取った一枚の菓子を口に運ぶ。


「おいち」


 笑顔を見せるローミィはもう一枚と手が伸びていた。

 フリードリヒはローミィのほうを向く。


「美味しいかい」

「おいち」


 フリードリヒも残っていた一枚を食べる。


「……これは、隣国ブルーメエルト帝国からの献上品で、来客用にお裾分けされたものだね」

「おしゅしょわきぇ……?」


 ローミィはきょとんとしている。

 フリードリヒは考え込む。


「う~ん、簡単にいうとお土産のようなものかな」

「おいちでしゅ」


 ローミィは頬張る。

 フリードリヒはローミィの頬につく菓子を布で拭き取っていた。


 いくつの間にかローミィが長椅子でうとうととしている。そのまま睡魔に誘われていく。


 宮務官が空になった食器を下げるために出入りしていた。

フリードリヒは声を抑え、クラインに声をかける。


「クライン。焼き菓子、余っていたら少しもらって良いか」

「構いませんよ。後で食べれるように何枚か包んでおきましょう」


 クラインは一度下がり、紙に包まれた物を持ってきた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらくすると別の宮務官がやって来る。フリードリヒのそばで声をかける。


「フリードリヒ殿下、神殿から迎えの馬車が到着しました」

「あぁ、ありがとう」


 ローミィは長椅子で眠っていた。


「ローミィ様は私どもが運びましょう」

「あぁ、すまないけど頼んだよ」


 フリードリヒは頷く。立ち上がるとクラインの顔を見上げた。


「そういえば、クライン。通用口で名を呼ばれた時に遮ってすまなかった」

「敬称を遮った事情は察しましたので大丈夫です。こちらのお方もご一緒に神殿に参られるというわけですね。お兄様?」




「あぁ、まぁ……。クライン、細かいことは突っ込むな。正確には神殿の庭園が目的地だ。離宮の庭園でお花畑を見せるとこの子に約束したから、起こさないよう馬車に運んでほしい」


 宮務官のクラインはローミィを抱き上げ、馬車に運ぶ。

 フリードリヒも包み紙を忘れずに持ち、馬車に乗り込んだ。




 御者はフリードリヒたちが乗り込んだのを確認すると、馬車の扉を閉めた。車輪に噛ませていた馬車止めを外し、御者席に乗り込む。手綱を持つと慣れた動作で馬車を操り、神殿に向け馬車を走らせた。





 次話は下記を予定しております。



▼第 話 

『フリードリヒと禊、そして通過儀礼』

(改稿中/ローミィともに神殿へ)



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 話数に関しては割り込み追加している部分が確定しだいあとで入れます。


 話数が増える怪は神出鬼没で、思った以上に増えています(・・;)。



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