第 話 フリードリヒの皇子教育と部屋に飾る白い花
前話の『花の精霊と幼い女の子』で予告の次話ができましたので、投稿します。
投稿にあたり、サブタイトルを『フリードリヒと宮廷園丁長』から『フリードリヒの皇子教育と部屋に飾る白い花』に変更しました。
同日。
宮廷園丁と娘が北離宮に向けて出発した頃、宮殿では第一皇子のフリードリヒが皇子教育の授業中だった。
フリードリヒの私室では初老の男性が教鞭を取り、フリードリヒの前に立つ。
初老の男性は何冊もの本を持ち込んでいた。
「であるから、我が国は帝都を囲うように領土があるわけです」
前に立つ初老の男性は第一皇子のフリードリヒに向け、いろいろと話を続けている。
「――――殿下。私の話を聞いておりましたか?」
「聞いていたよ」
「それでは初代の皇帝陛下はどなたです?」
男性は質問をぶつけた。
フリードリヒは初老の男性を見据え、答える。
「御名はフリードリヒ一世陛下。通名はヴィリバルト・フリードリヒだろう」
男性は即答され、驚いていた。
フリードリヒはため息を吐く。
「私の名は畏れ多くも初代皇帝陛下の通名から戴いている。忘れる訳がないだろう――――」
フリードリヒはため息を吐いた。
「一年くらい前にも同じことを訊かれたぞ」
「そうでしたか?」
「あぁ」
男性は軽く咳払いをした。改めて質問を考え込む。
「殿下。それでは、初代の跡を継いだ二代目の皇帝陛下はどなたでしたか?」
フリードリヒはおもむろにその名を告げた。
「二代目はハインリヒ一世陛下」
「よくできました。それでは通名は分かりますでしょうか?」
フリードリヒはこれも即答する。
「ハインリヒ一世の通名はアルブレヒト・ハインリヒ。初代皇帝陛下の第二皇子だ」
初老の男性は感心している。
「それでは初代皇帝陛下の第一皇子は分かりますか?」
「第一皇子の通名はジークフリート・ローレンツ。爵位ではロイヒテンシュタイン大公殿下として名を連ねている」
フリードリヒは続けていく。
「我が国の帝室大公の中で、群を抜く歴史を持つ爵位として名を知られている二つの爵位、ロイヒテンフェルゼン大公、ロイヒテンシュタイン大公。初代は二つとも第一皇子のジークフリート・ローレンツ殿下」
初老の男性は持ってきた歴史書を開き、しばらく沈黙する。
フリードリヒも男性に併せて黙した。
初老の男性はフリードリヒに訊く。
「殿下。お教えいたしましたか?」
「読んだ歴史書に記されていたよ」
フリードリヒは読んでいた本を取り、掲げた。
初老の男性はしばらく沈黙し、告げていく。
「殿下。時間にまだ余裕はございますが、本日の授業は終わりにしましょう」
フリードリヒは立ち上がり、礼を告げる。
「ありがとうございます」
「次の授業は、一週間後の予定です。それまで予習も忘れずにお願いしますよ」
「分かりました」
初老の男性は授業に使った教本などを箱に入れ、退出していった。
フリードリヒは椅子に座り、天井を眺める。早く終わったので時間をもて余した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
フリードリヒは庭園を散策していた。
昨年に人事異動した元宮務官に遭遇し、追いかけてくる彼らを撒く。
巧く撒いたフリードリヒは休憩で使っている建物に隠れた。皇子だと分かる装飾品のついた上着を急いで脱ぐ。置いてある長持ちから質素な上着を取り出し、羽織る。脱いだ上着を長持ちにしまう。
表に出たフリードリヒは辺りを見回した。建物移動用馬車を見つけ、空いている空間に潜り込む。
しばらくして動き出した馬車は整備された道を進み、ある場所で停車した。
フリードリヒは馬車が止まったことを確認すると急いで降りた。時間を置かず、馬車から離れる。
遠くの方から馬の嘶きが聞こえ、馬車の車輪の音が響く。減速することなく馬車は近づいてくる。
「どけろー!」
馬車を操る御者は道の中央にいた人影に怒鳴り声を発した。
フリードリヒはあわてて道の端に逃げる。
馬車はすぐ側を通過していった。
フリードリヒは座ったままだ。しばらく、地面に座り込んだ状態で呆然としている。
(…………馬車が暴走してくるとは……思わなかった)
フリードリヒは我に返り、おもむろに立ち上がった。服についている埃を払う。フリードリヒは落とした物がないか地面を見回し、荷物入れも確認する。その後、髪の毛をかきあげた。
(とりあえず…………。馬車が通る幅のある通路ではなく、ゆっくりと動ける散歩順路を歩くか……)
フリードリヒは散策路へと歩き出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
北離宮にある女神の泉庭。
一人の園丁が道具箱を持ち、花壇の手入れを黙々と続けている。
フリードリヒは歩きながら花壇を眺め、歩いていた。その場に立ち止まり、腰を落として花を見つめ、そこに留まると時間を忘れてじっと眺めている。
しばらくすると立ち上がった。周囲を見回して、誰かを探すそぶりをする。
離れた花壇に座って作業する男性の姿を見つけた。男性が立ち上がり移動しようとしているのが分かり、フリードリヒは急いで駆け寄る。
「あ……あの……。お仕事中にすみません。宮廷園丁さん」
園丁は人の気配に気づき、手を止めた。声の聞こえた方を向くと少年に目線を合わせる。
「私に何かご用ですか? フリッツ様」
「はい。あの……園丁さん。今日も庭園のお花を少し貰っても良いですか?」
「えぇ、そちらはもちろん構いませんよ」
園丁はあることに気づく。
「服に土ぼこりが付いているようですね……」
「あ、大丈夫。少し前に馬車とすれ違ってね。ちょっと転んだだけ」
「道具を使って払いましょうか?」
「あ、お願いします」
園丁は仕事道具から小さな箒を取り出す。フリードリヒの見えない位置に付いていた埃を丁寧に払う。
「背中までは見えなかった。ありがとうございます」
「どういたしまして」
フリードリヒはお礼を告げた。
園丁は埃を払っている最中に衣服に触れ、誂えられた布地の良さに気づく。一見すると下位貴族の子息に見えるフリードリヒが身に纏う服装の違和感を覚えつつ、園丁は話を戻す。
「どのようなお花をお望みですか?」
「ど、どのような……」
フリードリヒは考え込む。
「今日も白いお花をください」
フリードリヒは園丁がお花を出してくるのを待っていた。
「…………白いお花ですか」
今度は園丁が考え込んでいる。
「そうですね。今の時期はお披露目の祝賀行事に併せて、大輪の華やかなものから小輪で清楚なものまでいろいろと咲き揃っておりますよ」
フリードリヒは思案中だ。
「そういった大輪や小輪で豪華なものはお披露目の主役となる方々のお部屋を彩るはずですから、そちらに譲ります」
「左様にございますか?」
「はい。僕は自分のお部屋にお花を飾りたいだけなので、ふつうのこぢんまりとしたお花をください」
フリードリヒは精一杯の言葉を紡ぐ。
園丁は男の子に渡す花を決めた。
「畏まりました。ご要望は白いお花でしたね」
「はい」
「淡い色が入っても大丈夫ですか?」
フリードリヒは考え込む。
「今回は白い花でお願いします」
「畏まりました」
フリードリヒは頷く。
園丁は道具箱から剪定鋏を持ってくる。花壇で幾つかの白い花を選び、切り出していく。茎を紐で括り、持ちやすいように整えた。
花束をフリードリヒに差し出す。
フリードリヒは嬉しそうに花をじっと眺めていた。そのあとで園丁を見上げる。
「今日もお花をありがとうございます」
「いいえ。これが我々の仕事ですから構いませんよ」
フリードリヒは受け取った花を抱えている。しばらく花束を見つけていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「とうしゃまーー」
二人の耳に誰かを呼ぶ声が聞こえる。パタパタと足音が近づいて来た。
次の第 話(話数は不明)ですが、
サブタイトル『ローミィと白い花が咲くお花畑』の予定です。
サブタイトルは変更するかもしれません。
話数に関しては話数が確定しだい入れます。




