第 20話 ローゼンシュタイン公爵の帰郷手続きと陛下の呼び出し
第19話の後書きで予告の第20話がようやくできました(>_<)。
『ローゼンシュタイン公爵と帰郷手続きと陛下の呼び出し』を投稿します。
話数の抜けている第18話『異名を持つ帝国騎士の訓練』は現在作成中で難航しております。
できあがりしだい割り込み投稿する予定ですので、話数はこのままになります。
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次話の第21話、『ローゼンシュタイン公爵とまだ見ぬ孫への贈り物と花の精霊』を作成していて、帝都にいる描写部分の本文をこちらの後方にに移動しました。
本文の追加したのに併せて、もともとあった本文側に追加と修正を加え改稿しました。
第一皇子フリードリヒ、皇子宣下の儀式が無事に終了した数日後、ローゼンシュタイン公爵は公爵領へと戻る手続きを行っていた。
公爵は陛下の私用領域にある執務室に呼ばれ、侍従長の案内で部屋に通される。
公爵と陛下は中央に置いてある長椅子まで歩み寄り、座った。
「陛下、お呼びにございますか?」
「あぁ。帰郷の手続きを行っているということは、領地に戻るのか?」
「えぇ、陛下と殿下より拝領いたしました懐剣と花束を孫に届けるため、一度帰郷することにしました」
公爵は帰郷する理由を明かす。
陛下は公爵に視線を送る。
「……置き場所に困るものを贈ってすまないな」
公爵は長椅子から立ち上がり、陛下のそばまで歩み寄る。その場で跪拝した。
「陛下。この度は誠にありがとうございます。生まれてもいない孫に至高のお二方より格別の栄誉を与えて頂き、恐悦至極に存じます」
「公爵。朕の贈り物は息子のついでのようなものだ。そう畏まるな……」
「――陛下」
陛下は公爵を見下ろした。
公爵はしばらく間を取り、続ける。
「陛下。領地で問題がなければ、二ヶ月ほどで帝都に戻って参ります」
陛下はしばしの間、沈黙した。公爵に告げる。
「公爵。とりあえず、座ってくれ」
公爵は立ち上がり、長椅子に戻る。座席に腰を落とす。
陛下は控えていた侍従長に合図を送る。
まもなく侍従が小型の運搬車にお茶を載せ、運んでやって来た。
陛下と公爵、二人の前に置く。
侍従は用事を終え、退出する。
陛下は立ち上がる湯気をしばらく眺め、公爵に目を向けた。
「陛下」
「公爵、まずは冷めないうちにいただこうか。せっかく持ってきたもらったからな」
「そうですな」
二人はお茶を飲み終えた。
陛下はしばし深呼吸をし、話を切り出す。
「帰郷のついで……というのは変だが、長期の休暇を前倒しに取らないか?」
公爵は陛下の言葉に驚く。
「陛下。私は休暇を取るのは構いませんが、他に何か理由でもございますか?」
陛下は考え込み、ローゼンシュタイン公爵を名前で呼ぶ。
「あぁ、公爵。公爵の一人でアルヌルフのことだ」
「アルヌルフという名で公爵の爵位を持っているのは、ブラウシュタイン公爵ジークフリート・アルヌルフですね」
陛下は頷く。
「あぁ。その公爵から、願いという名の要望があってだな……。ずっと宮殿に詰めている者たちへ長めの休暇を与えて欲しいそうだ」
「それで長期休暇の話題が出ているのですね?」
公爵は唐突に話題に上った長期休暇に疑問が浮かぶ。
「あぁ、つい先日。公爵に孫が増えるという話をしたのだ」
「……陛下。まだ孫は生まれません」
「あぁ、それはきちんと伝えた。大丈夫だよ」
「そうですか?」
「あぁ。ブラウシュタイン公爵がしばらく考え込んでため息を吐くのだ。[そろそろ私も孫の顔が見たいよなぁ]と呟いていたよ」
「公爵に孫ですか?」
「あぁ、確かに孫と言っていた」
今度は公爵が考え込む。
「陛下。公爵の子息、辺境伯はまだ独身ではありませんでしたか?」
「そうだ。公爵から結婚の報告はない。辺境伯は帝国騎士である以上、エーヴァルトの勅令を破る訳にはいかんのでな。結婚に関してはより慎重にならざるを得ないだろう……」
「そうですね」
ローゼンシュタイン公爵も現役を退いてはいるが、帝国騎士の一人だった。
「フリードリヒ殿下付き護衛騎士の一人が辺境伯でしたね」
「あぁ。″黒鷲のヒルデブラント″の異名を持つ、ブラウシュタイン辺境伯アーロイス・ヒルデブラント。黒鷲騎士団で活躍していた彼を、息子の護衛騎士として金鷲騎士団に引っ張ったのは朕だ」
陛下はため息を吐く。
「今だに黒鷲騎士団団長のシュヴァルツシュタイン公爵グスタフ・マンフレートから[主力を引き抜かれた]と睨まれているよ」
公爵は陛下を諭す。
「陛下、それはそうですよ。あの時、辺境伯だけではなく″黒鷲のコンラート″や″疾風のコンラート″の異名を持つシュライエルマイヤー辺境伯の子息、伯爵ヴェルナー・コンラートも一緒に金鷲騎士団に人事異動させたからですよ」
「そうだったか?」
「はい。今でもあの二人を黒鷲騎士団に戻して欲しいと懇願しているでしょう」
「あぁ、会うたびに開口一番だ」
公爵はひとまず、話題を戻す。
「陛下。彼の異名は伊達ではないですな」
「あぁ、異名持ちの実力は違うからな」
二人は再び黙した。
公爵はしばらくして話題を続ける。
「ところで陛下。二人を引き抜いた本当の理由はなんでしょう?」
陛下は公爵を見据えた。
「分かるだろう――。第一皇子のフリードリヒを帝国騎士にするための布石の一つ。ロイヒテンフェルゼン大公のことも考えた上で何人か移動させた」
「陛下。他に適任者がいたのではありませんか?」
陛下はため息を吐き、愚痴をこぼす。
「黒鷲騎士団に任せたら、いきなり最前線に連れていかれかねない。銀鷲騎士団は帝都周辺の警備要員であり、気軽に宮殿に呼び出す訳にはいかない。金鷲騎士団では新たに皇子の護衛を任せられる人員が不足していたから、引っ張った」
陛下は引き抜いた理由を明かす。
「陛下。それでは黒鷲騎士団で不足しているのでは?」
「帝国騎士叙任式を終えた者を黒鷲と銀鷲に数人配属させた。二つの騎士団は訓練と実戦経験を叩き込んで育てることができる」
「そうですね。訓練と言われ、赴いた先でぶっつけの実戦。盗賊の討伐や不穏な地域での問題解決だったと云うことが何度も……」
公爵も経験者、遠くを見る。
「…………ただ、金鷲は宮殿で行われる儀式の儀仗と帝室構成員の護衛を担う。特に皇太后や皇妃、皇子妃や皇女、幼い皇子の護衛を担当させる者は特に個人の身辺を調査する。高位貴族がその者の身元を保証した者でなければならないが、…………特にあの分野に問題がある者はどれほど優秀でも除外させる」
公爵もそれには同意する。
「確かに帝国騎士が″エーヴァルトの勅令″を守らないことは重大な問題です。護衛騎士はそれなりに実戦経験も必要ですからね」
「あぁ、フリードリヒもようやくその道に進もうとしている」
二人はしばらく、沈黙する。
侍従が頃合いを見計らうようにお茶を入れ換えに来た。
温かいお茶が二人の前に提供され、湯気が立ち上がる。
陛下がお茶の入ったカップを手に取り、一口含む。
公爵も手に取り、いただいた。
しばらく会話もなく沈黙が続く。
公爵はおもむろに話題を続けた。
「陛下。数日前のことですが、辺境伯が殿下を連れて金鷲騎士団の訓練場に姿を見せたそうな。その噂を聞き付けた帝国騎士らが集まったそうですよ。稽古をつけてもらえる格好の機会は逃すなと云うことでしょうか……」
「それはそうだろう」
「稽古から、実戦形式の訓練に化けたそうですがね。あの場に居合わせたのは文官の侍従に宮内官や宮務官だけではないようで、女官や侍女たちも加わって賑わっておりましたよ」
陛下は辺境伯ともう一人の帝国騎士が剣を交えている様子を思い浮かべる。
「金鷲と黒鷲の騎士服は目立つからな。少ない娯楽になったのではないかな」
「えぇ、確かに娯楽でしたね。辺境伯は黒鷲騎士団で同期の帝国騎士に乗せられて仕上げは模造剣ではなく、通常の剣を使い交えていたようです」
「そうか、それは惜しいものを見逃したな」
陛下はもの悲しい顔色を見せる。
「陛下。またの機会がございましょう」
「あぁ、その次があると良いな」
公爵と陛下は再び、黙した。
「その訓練も白熱したものだったということだが、辺境伯本人は相変わらず″若気の至り″と云う一言ですませておる」
「あの年齢でそういわれると困りますね」
陛下はさらに話題を変えていく。
「あぁ。そういえば、辺境伯の婚約者は決まっていたよな?」
「えぇ、公爵から婚約者が変わったと聞きませんので、モルゲンネーベル辺境伯令嬢ですよ」
公爵はさらに続ける。
「帝国北東部に領地を持つ辺境伯家の一つでモルゲンネーベル辺境伯ローレンツ・ギーゼルベルトの第二子で名をゾフィー・エルネスティーネと申していました」
「モルゲンネーベル辺境伯家の令嬢か……。」
陛下は考え込む。
「謁見の儀式では清楚な雰囲気をした令嬢で舞踏会では辺境伯に伴われていたな」
「モルゲンネーベル辺境伯領とブラウシュタイン公爵領。確かに領地の位置関係を考えると、気軽に会いに行ける距離ではないな……」
陛下と公爵は壁にかかる大陸の地図に目を向けた。
「モルゲンネーベル辺境伯領は北東部にあり、グリューネヴァルト王国とグランツフェルト王国、王国、三つの国に接している。帝国の要所、その一つです。一方のブラウシュタイン公爵領は皇帝直轄地から南西部。場所的には真逆の位置にありますから、辺境伯としても気軽に会いに行こうとはできないのでしょう」
陛下もそれぞれの領地を地図上で確認する。
「モルゲンネーベル辺境伯も重要な用件でなければ、帰省しにくいと云う」
「そうですな。陛下、モルゲンネーベル辺境伯にも帰省してもらい、例の件の調整をお願いしてみてはどうでしょう?」
陛下は公爵の提案に考え込む。
「……それも、そうだな。ブラウシュタイン公爵のためにもそうするか」
陛下は励振鈴を鳴らし、侍従長を呼び出した。
「陛下。お呼びにございますか?」
「すまぬが、モルゲンネーベル辺境伯を呼んでくれ」
「畏まりました」
侍従長はモルゲンネーベル辺境伯の謁見手続きに向かう。
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公爵は贈り物について訊くことを思い出す。
「陛下。孫が生まれた暁には陛下から拝領した物を公にしてもよろしいでしょうか?」
「それは構わない。許可しよう」
「ありがたき幸せにございます」
「あぁ、そうだ。息子の贈り物は、今後も内密に頼む」
「――御意」
公爵は窓の外が夕闇に染まりつつあることに気づく。おもむろに立ち上がる。
「陛下。今日は遅くなりましたので、出立は明日に」
「すまないな。留め置いて悪かった」
「こちらこそにございます。陛下に謁見が叶い、恐悦至極に存じます」
「ゆっくりしてくると良い」
「えぇ。それでは――」
公爵は退出した。侍従の案内で部屋に戻る。
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ローゼンシュタイン公爵は陛下との謁見を終えた。その足で最終調整に行く。
扉を数回叩く音がする。まもなく宮内官が入室した。
「閣下、頼まれていた物をお届けに参りました」
「あぁ、ありがとう。飾り棚の空いている場所に置いてくれ」
宮内官が指示された場所に花瓶を置き、一礼すると部屋をあとにした。
公爵は手を止め、飾り棚に歩み寄る。
退出したのを見計らうかように一柱の精霊が姿を見せる。花がほんのりと輝き、次々と淡い光が現れた。
『いちゅいくにょ?』
『いくにょ~?』
花の精霊たちは花の上でそわそわしている。
公爵は精霊たちの問いに答え、花瓶を持つ。
『明日には出発しますよ』
精霊はふわふわと移動している。
『いちゅ、あえましゅ? おはにゃのあるじ~』
公爵は行程を思い浮かべ、考え込む。
『そうですね。馬車で二週間ほどですかね』
『にゃがいでしゅにゃ~』
花の精霊たちは集まって要望を告げていく。
『おみじゅ、わちゅれにゃいでくだしゃい』
『ときどきおしょとみょおねがいしましゅ!』
『ときどきふわふわみょおねがいしましゅ!』
精霊たちは花の上を漂う。
公爵は考え込む。
『新しいお水に新鮮な空気と風。そして、こういう感じでときどき姿を見せる。』
『はいにゃ~。おはにゃ、』
『大丈夫ですよ。出立は明日、それまではこちらでゆっくりしてください。明かりは消しても良いですか?』
『はいにゃ~』
花の精霊たちはふわふわと浮き、淡い光を放っていた。
公爵は明かりを落とし、部屋を退出する。
私室に置かれた花束はいまだ枯れることなく、生き生きと姿を留めていた。
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次の日。
公爵家に仕える従者と御者の男性は馬車に荷物を詰め込み、出発の準備を行っている。
公爵も旅装束に身を包み、護身用に剣を携えた。
飾り棚に置いていた花瓶に入る花束を忘れずに持つ。
「閣下。馬車の用意ができました」
「今行く」
公爵は部屋を出て、正面玄関に出る。御者の案内で乗り込む。
公爵は車内にある飾り入れに花瓶に挿す。剣を置く。
御者の男性は馬車の扉を閉め、車輪止めを外す。御者席に乗り込み、馬車の室内に通じる小窓から公爵に声をかける。
「旦那様。出立の準備が整いました」
公爵は御者の声に気づく
従者も御者に続く。
「閣下、公爵領に先触れを送りました」
公爵は指示を送る。
「二人とも分かった。それでは出立してくれ」
「畏まりました」
御者は馬車の手綱を操り、馬に合図を送る。馬が走り出し、馬車がゆっくりと動き出す。
護衛騎士が馬を進め、先導する。
公爵を乗せた馬車の一団はローゼンシュタイン公爵領に向け、出発した。
儀仗騎士の守護する門を抜ける。しばらく南に進む。
いくつかの大きな街道があり、西のローゼンシュタイン公爵領やロイヒテンシュタイン大公領に向かう薔薇街道に進路を変えた。
次は、
『第 21話 ローゼンシュタイン公爵とまだ見ぬ孫への贈り物と花の精霊』
(サブタイトル変更/分離しました)
『第 22話 モルゲンネーベル辺境伯の憂いと動かぬ婚約者』
(追加,別名は陛下の呼び出し)
『第 23話 ヒューレンベルク宮中伯と巻き込まれた総秩寮長のぼやき(別名,侍従長に持ち込まれた絵姿釣書の行方と宮内官たちの苦悩)』
(話数変更)
『第 24話 ブランデンフェルト辺境伯の狙い』
(話数変更)
の予定で作成中です。
話数が増える怪……は続く(>_<)/~~




