第 17話 フリードリヒの皇子宣下の儀式と二種類の証
第8話から第14話を追加して第2章を設ける予定です。
第15話から第3章と章タイトルを『フリードリヒと皇子宣下(章タイトルは暫定)』となります。
そのため、この話の話数を下記のように変更します。
第9話 → 第17話
『フリードリヒの皇子宣下の儀式と二種類の証』
(話数変更のみ/本文に変更なし)
話数変更だけで本文を改稿する予定はありませんでしたが、…………言い回しや表現など気になる部分がありましたのでそれらを併せて修正追加変更し、本文を改稿しました。
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第8話の後書きで予告した通り、第9話として
『第一皇子フリードリヒと皇子宣下の儀式』を割り込み投稿しました。
併せて、サブタイトルを
『フリードリヒの皇子宣下と二種類の証』に変更しました。
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一文字下げがされていないところがあったので適応し、中途半端な文章に追加したい部分を思い出したり、ので修正や訂正を加え、改稿しました。
神官長のセリフとして登場する言葉、″ある種の薬″。その薬の効能・効果は、本文中にあるざっくりとした曖昧な表現ということでお願いしますm(_ _)m
フリードリヒは神官の案内で神殿に戻っていた。
準備されていた禊衣に着替え、禊場の入り口に立っていた。
フリードリヒは禊場付きの神官より禊水で満たされた筒を受け取り、飲み干した。
禊場付きの神官は空の筒を受け取り、フリードリヒに促す。
「殿下、お待たせいたしました。禊場にお進みください」
「いつも通りで良いか?」
「はい、順路は変わりません」
「分かった」
フリードリヒは正式な手順で禊を受けるため、順路を進む。
いつもと変わらない光景が映る。フリードリヒは気持ちも新たに持つ。
無事に禊を終えたフリードリヒは宮務官のシュヴァルツフェルトが待つ、控えの間に入る。
宮務官のシュヴァルツフェルトは持ち込んだ箱の蓋をフリードリヒが見えるように開けた。折り畳まれた儀式用正装を取り出す。
フリードリヒは皇子宣下のために誂えた真新しい服に袖を通す。装飾品がいくつもあり、姿を整えた。
宮務官が準備していた姿見の前に立つ。深呼吸をすると大きな鏡に映る姿を眺めた。
「なんだが自分じゃないみたいだな……」
「殿下は殿下ですよ」
「あぁ、分かっているよ」
神官長が控えの間に姿を見せる。
「殿下、こちらをお持ちください」
「あぁ、ありがとう」
フリードリヒは神官長から細長い箱を一つ、受け取った。
「正式には託宣花の儀式を終えられてからですが、幾つか渡しておきましょうか?」
「いや、一つでいい」
「殿下。せめて二つはお持ちください」
神官長はフリードリヒを諭す。
「……二つ? なにか意味があるのか?」
神官長はフリードリヒに目を向けた。
「殿下は後にロイヒテンフェルゼン大公位を授爵し、いずれは陛下のあとをお継ぎになる訳ですよね?」
フリードリヒはしばらく考え込み、頷く。
「今すぐというわけではないけど。今のところはそうだね」
神官長はフリードリヒを諭し続ける。
「殿下の次に繋げるためにも、皇子妃の枠は多い方が良いのです」
フリードリヒは再び考え込んだ。
「面倒だな……」
「殿下。帝国の安泰を願うならば託宣花の儀式では五つ、最低でも二つ。可能ならばよりたくさんの花をお選びいただけると幸いです」
神官長はフリードリヒに無言で促す。
「あぁ、分かった」
フリードリヒは短く答え、しばらく沈黙した。
「………………儀式については善処するよ」
神官長はもう一つ、同じものを手渡す。
「殿下、今お渡しした証は仮のものです。改めて皇子妃託宣の儀式を終えた後に、正式な”妃の証”をお渡しします」
フリードリヒは受け取った仮の証を首に下げる。
「これは皇子妃を迎えるにあたって、私も受け入れる準備を始めなければならない――と、いうことか?」
「さようにございます。そちらの証ですが、表に出して見える状態で使われても構いませんし、もしくは服の中に見えない状態で下げていただいても構いません。その判断は殿下にお任せします」
フリードリヒは証を手に取り、じっと眺める。
「神官長」
「なんでしょう?」
「ところで、この証を表に出しておくとどうなるの?」
フリードリヒは素直に訊く。
「そうですね」
神官長はしばらく考え込む。
「皇子妃の選考が始まると殿下が告知して回っていることになりますね。殿下の皇子妃について、ぼちぼちと始まると周知されることになります」
フリードリヒは神官長の話を黙って聞いていた。
「今までは宮務官だけでしたが、その他大勢の貴族たちも宮内省に絵姿釣書を申し付けることが明白ですね。フリードリヒ殿下の皇子妃候補者として受理されると、正式な手続きに則ってフリードリヒ殿下に届けられる訳です」
フリードリヒはふと気づき、思ったことを告げる。
「今までは正式な手続きを経たものではなかったということか?」
「そういうことです。これからは今まで以上に絵姿釣書の取り扱いには気をつける必要がございます」
「分かった。気をつける」
フリードリヒはため息を吐く。
神官長は続ける。
「その後、頃合いを見計らうように令嬢を連れた貴族たちが殿下に面会を求められたり、抜き打ちで令嬢を連れた貴族に遭遇したり、場合によってはある種の薬を盛られたりしますね。今まで以上に忙殺されること請け合いです」
「ある種……の、薬?」
フリードリヒは気になる言葉に聞き返す。
神官長はフリードリヒに聞き返されるとは思わなかったらしく、しばらく考え込み告げた。
「今の殿下に使われることはほぼありえませんが、もう少しご成長されるとその可能性は大きくなります」
「……そういうものなのか?」
「えぇ。そういった方面について、そのうち皇子教育で習うことになるでしょう。ある種の薬、その薬に関してはその効果を中和するものがございますから、このことは覚えておいて損はございませんよ」
「……あぁ、分かった。そちらも、気をつけるよ」
神官長はざっくりと告げる。
フリードリヒは沈黙し、言葉を絞り出す。
「あとでヒルデブラントに訊こうかな……」
「殿下。皇子妃とある種の薬は、皇子妃を迎えたいと云う言質として取られかねませんので、誰彼と気軽に訊いてはいけませんぞ」
「うん、分かった。訊く相手は選ぶようにする」
フリードリヒは頷く。
「これは、しまっておこう」
フリードリヒはおもむろに服の表に出ている証の部分を持ち、懐に入れた。
「今は皇子として経験と実績を積みたい」
「殿下。皇子妃は急いで選ぶ必要はございません」
「わかっている」
神官長は話題を切り上げた。
「殿下、そろそろ宮殿に移動いたしましょう」
「そうだね」
フリードリヒは神官長のあとに続き、禊場を出る。表玄関に急いだ。
儀式を担当する官吏が第一皇子を迎える準備のため、神殿の表玄関で待っていた。
神官長に連れられたフリードリヒは表玄関に姿を見せる。
フリードリヒは御者の案内で儀式用馬車に乗り込む。
官吏も御者席に座り、神殿を出発した。
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宮殿、宣下の間――――。
ラゲストゥーエ帝国において皇子や皇女の宣下を行う通過儀式、騎士・帝国騎士の叙任式、辺境伯や宮中伯等の爵位叙爵式、勲章などの授与による叙勲式が行われるのが、宣下の間と呼ばれる大きな広間だ。
第一皇子のフリードリヒは儀式用馬車で神殿から宮殿に移動していた。
宮内官の案内で宣下の間に通じる控えの間に通された。
騎士や帝国騎士の叙任式が行われ、続いて爵位の叙爵式が粛々と執り行われていく。
すでに参列可能な主だった貴族や帝国騎士が並ぶ。
武官が左側に列を作り、文官が右側に列をなしている。本日爵位を継承したばかりの貴族も末席に加わった。
宮内官の案内でフリードリヒが扉の前に立つ。深呼吸をする。
儀仗騎士が広間に続く扉を開けた。
入り口に貴族たちの視線が集まる。
式部官が宣下の間に向け、声を出す。
「第一皇子、ヴィリバルト・フリードリヒ皇子殿下のご入場です」
フリードリヒは臆することなく、敷かれた絨毯をまっすぐ歩いていく。指定の位置で立ち止まり、その場で跪拝する。
式部官が声を挙げた。
「陛下のご入場です」
陛下が奥の扉から姿を見せる。
官吏がお盆に書状と皇子冠を載せ、陛下の脇へと歩み寄る。
陛下はお盆に置かれた書状を持ち上げる。
「第一皇子ヴィルバルト・フリードリヒ」
「はい」
名を呼ばれたフリードリヒはその場で立ち上がり、一歩前に出る。
「ヴィルバルト・フリードリヒに皇子宣下を行う。第一皇子に皇子冠を与え、さらに皇子としての身位、ならびに皇子殿下の敬称を周知することとする」
陛下は書状を読み上げ、掲げた。
「謹んで拝受いたします」
フリードリヒは短く言葉を紡ぎ、跪く。
陛下は皇子冠を手に取り、フリードリヒに授けた。
フリードリヒは皇子冠を頭に頂き、陛下のほうを向く。
「私、ヴィリバルト・フリードリヒはラゲストゥーエ帝国に生まれた皇子として帝国の礎となるべく、日々精進を重ねていくことを誓います」
フリードリヒは陛下に視線を送る。
「第一皇子として今後も勉学に励み、その責務を担うことができるよう全身全霊で行う所存でございます。若輩者ではありますが、これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
フリードリヒは言い終えると再び、跪拝する。
陛下は高らかに告げる。
「今をもって第一皇子が帝国の政である公務を行うこと、朕の名において承認する。今後は皇子教育と合わせ、簡単な公務を任せることとする」
陛下は軽く咳払いし、告げる。
「併せて、我が国の皇太子を示す称号である爵位、ロイヒテンフェルゼン大公位については第一皇子から力不足の身で大公位を得るには時期尚早との奏上があり、現状は内示のままとする」
フリードリヒは陛下を見上げ、ゆっくりと深呼吸をする。
「私のわがままを受け入れていただき、誠にありがとうございます。これからも第一皇子として大公の名に見合う経験と実績を得るため、更なる精進を重ねていきたいと存じます」
陛下は侍従長から細長い箱を受け取り、蓋を開ける。
「皇子宣下を終えた第一皇子に、我が国の帝位継承権を示す”皇子の証”を与えよう」
「謹んで拝受いたします」
陛下は侍従長に指示を出した。
宮内官は皇子の証の置かれたお盆を持ったまま、陛下の前で立ち止まると跪く。お盆をフリードリヒに差し出す。
皇子の証は細長い金属の板に緻密な意匠の細工が施され、皇子の紋章が刻み込まれているものだ。身に付けられるよう鎖が付く。
それらは皇子宣下の儀式を終えた皇子に与えられ、皇子の身分を示す証でもある。
各種通過儀式でも使われることでも知られていた。
フリードリヒは立ち上がり、陛下の前で立ち止まる。お盆に置かれた皇子の証の上に左手を翳す。
皇子の証が淡い光を発し、輝き始める。
フリードリヒはその証の上に手を重ねた。皇子の証を通して淡い光がフリードリヒを包み込んでいく。吸い込まれて消えていった。
フリードリヒは皇子の証から手を離した。鎖を手に取り、首にかける。長く下がる皇子の証はいつの間にか、ちょうどよい長さになっていた。
式部官は高らかに声を発す。
「本日行われるすべての儀式が終了しました」
陛下は広間に並ぶすべての人々を見渡し、手を挙げる。
「陛下が退出します」
陛下は踵を返し、奥の扉ヘ向かう。
侍従が出迎え、扉を閉める。
式部官は扉の音をを確認し、新たに告げた。
「フリードリヒ殿下の退出です」
フリードリヒは皇子冠を載せたまま、立ち上がる。皇子冠を落とさないよう、慎重に歩く。フリードリヒは入って来た扉を目指し、絨毯を戻る。
儀式騎士によって扉が動き、音を立てて開いた。
フリードリヒは立ち止まることなく、そのまま廊下へと進む。
フリードリヒの退出により、宣下の間の扉が閉まる。
儀仗騎士はフリードリヒの姿を見送った。
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第一皇子フリードリヒの護衛騎士であるヒルデブラントは宣下の間で武官の列に加わっていた。
ヒルデブラントは儀式を終えると職務に戻る。
宣下の間に通じる廊下でフリードリヒを出迎えた。
「フリードリヒ皇子殿下」
「……あぁ、ヒルデブラント。いままでの通りの呼び方で良いよ」
ヒルデブラントはそれを受け、いつもの呼び方に戻す。
「それでは、フリードリヒ殿下。この度は皇子宣下の儀式、お疲れ様です」
フリードリヒはヒルデブラントを見上げる。
「あぁ、儀式はいつまでも慣れないな」
「殿下。場数を踏むと慣れますよ」
「そういうものか?」
「はい」
フリードリヒは深呼吸をし、ため息を吐く。
「これからも頼むよ」
「畏まりました」
フリードリヒはヒルデブラントを連れ、私室に戻っていく。
次話は第10話として投稿済みですが、話数を下記のように変更します。
第10話 → 第18話
『陛下への謁見願いと拝謁伺い』
(話数変更のみ/本文に変更なし)
話数の変更だけで本文を改稿する予定はありません。
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第10話については、サブタイトルを
『陛下の謁見願いと拝謁伺い』
として投稿済みです
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次は
『第 10話 ローゼンシュタイン公爵と陛下』
『第 11話 フリードリヒと始まる皇子妃選考』
の予定ですが、サブタイトルは変更するかもしれません。




