第 2話 花の精霊(ブルーメ・フィー)の贈り物と懇願
第1話の後半部分にあった話を分離し、第2話として独立させました。
サブタイトルを少し変えましたm(_ _)m
閉め忘れた窓から薄暗い部屋に月明かりが差し込む。
室内には日の当たらない廊下側の壁一面に書棚があり、びっしりと本が並ぶ。
飾り戸棚や窓際にある書き物机が見える。中央には休憩用の長椅子と脚長卓の家具が置かれていた。
天井から吊り下がる大型の円形燭台で明かりを取っている。小型の壁掛け燭台がいくつか設置されていた。
人の気配はなく、ひっそりとしている。
扉の奥には寝室があり、天蓋付き寝台が存在感を出している。
手持ち燭台などの調度品が並ぶ。寝台脇に小型の飾り棚がある。花瓶には淡い色を基調とした数種の花生けられ、部屋を彩っていた。
脇机に置かれた花瓶にも窓際と同じ花がある。
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奥にある広い寝台では男の子、第一皇子のフリードリヒが真ん中で眠っていた。枕もとには読みかけの本がある。
どこからともなく現れた光は小さく輝き始め、しだいに強くなる。部屋のなかをふわふわと漂い、ゆらゆらと動いていく。
淡い光は寝台の花瓶に引き寄せられ、花の回りでくるくると舞う。しばらくすると花に吸い込まれていった。
八重咲きの花びらを象った白い衣装に軽やかな羽衣をまとった花の精霊が光のなかから姿を見せる。
精霊は気配を辿り、男の子の眠る寝台へと動く。枕もとに降り立つ。
『――――どうか、今後も私たちをお助けください』
月明かりに照らされた精霊は跪き、天を拝む。
精霊は人の気配に気づき、花瓶の後ろに隠れる。
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廊下に響く足音はある部屋の前で止まった。そこは第一皇子フリードリヒの部屋だ。
扉が開き、姿を見せた二人の騎士が手持ち燭台で部屋を照らし出す。
部屋の中を確認した男性たちは扉を閉め、部屋を後にする。
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静寂が戻ってきた部屋では、花瓶の後ろに精霊が隠れていたままだ。
ちょこんと精霊が顔を見せる。何度も見回したあと、ゆっくりと出てくる。浮き上がり、花瓶に生けられた花に吸い込まれていく。
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再び、花瓶の上に淡い光が集まり出す。それらは白い衣となり、小さな姿を象った。花を思わせる精霊はぴょこんと姿を見せる。光をまとったまま部屋を漂っていた。
『だいじょうぶ……?』
もう一柱の精霊が別の花瓶に気づく。引き寄せられるように花の上でくるくると回る。
『大丈夫』
『……?』
『ここに私たちの宿主もある。大丈夫!』
隣の寝台で眠る男の子のそばでふわふわと漂う。
枕もとに降りた精霊は何かを感じていた。
『このお方なら、大丈夫!』
『……ほんとう?』
『傷ついた私たちのこと、助けてくださったお方です。大丈夫!』
精霊は必死に告げる。
精霊は男の子の耳もとに立ち、囁く。
『これからも私たちの宿主様とお花をお助けください』
『どうかお願いします』
精霊はその場で祈りを捧げた。どこからともなく呼び出した一輪の花を置き、姿を消す。
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部屋で眠っていたフリードリヒは目を覚ます。
「…………?」
耳元で複数のささやく声とくすぐるような何かの気配を感じたからだ。
指で合図を送り、消えていた手持ち燭台の明かりを灯す。照らされた室内には誰の姿もなく、窓から差し込む月明かりだけだった。
しばらく考え込む。悩んだが、気のせいかと思い、再び合図を送り燭台の明かりを落とす。掛布を被ると瞼を閉じる。
フリードリヒは枕もとに置かれた花には気づかない。
置かれた白い花は朝までしおれることなく、そのままの姿を保っていた――――。
脱字訂正を行ったあと、更に推敲しました。




