第 18話 グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネの婚約者と剣の房
後書きで予告した話数に誤記がございましたので後書きの話数のみ、変更しました。
本文と前書き部分に変更はありません。
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第17話で予告の第18話『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネと黒鷲騎士団の見学』ができましたので、新規で割り込み投稿します。
黒鷲騎士団を見学するところまで入らなかったのでサブタイトルを『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネの婚約者と剣の房』に変更しました。
相変わらず、ヒルデブラントとルーカスとギーゼルベルトの三人が中心となっています。
黒鷲騎士団、応接の間。
ルーカスはさらに話題を変える。
「あぁ、そうだ。ギーゼルベルト」
「何でしょう?」
「一つ、聞いても良いか?」
「はい……」
ギーゼルベルトはルーカスに目を向けた。
「卿の妹の婚約者のことだ」
「ブラウンフェルト卿ですか?」
ルーカスはそのまま続ける。
「あぁ。そのブラウンフェルト卿の態度はずっとああいう感じなのか?」
「閣下、どういうことです?」
ギーゼルベルトはルーカスの質問の意図が分からない。
「婚約者に対していつもああいう態度なのか?」
「え?」
ルーカスは感じたままを告げ、本題に入る。
「ヒルデブラントのように婚約者が遠方にいるなら仕方がないとしても、ブラウンフェルト卿は帝都勤務で婚約者も帝都にいる。本来であればブラウンフェルト卿が婚約者の辺境伯令嬢に会いに行くのが普通だぞ」
「そ、そうですね」
ルーカスとギーゼルベルトは沈黙する。
「ブラウンフェルト卿は休日、何をしているのだ?」
「…………そ、それは…………」
ギーゼルベルトは答えに詰まり、しばらく沈黙する。考え込むが堂々巡りだった。ギーゼルベルトは顔を上げ、ルーカスを見据える。
「閣下。確かにブラウンフェルト卿は私と同期であり、妹の婚約者でもあります」
ギーゼルベルトは思い悩む。しばしの間、黙しつつ言葉を続けていく。
「私とブラウンフェルト卿は勤務時間が合うことが少ないのです」
ギーゼルベルトは思っていたことを明かした。
ルーカスは持っていた勤務表を確認する。
「…………確かにそうだったな。すまない」
「いいえ。こちらこそすみません」
ギーゼルベルトは思わず、ため息を吐く。
「ブラウンフェルト卿とは妹を通して交流があるかと云うと、そういう訳でもないのです」
「そ、そうか?」
「はい。こちらから話しかけることはありますが、彼とは会話が続きません。彼から声をかけられることも少ないのです」
「……そうか」
「そういうことで、私は彼が休日に何をしているか分かりませんし、休日の予定も把握してないのです」
「…………そうか、すまない」
「いいえ、お役に立てず申し訳ありません」
ルーカスはしばらく考え、ギーゼルベルトにある打診を行う。
「ギーゼルベルト。これからでも妹君のことでブラウンフェルト卿に会う都合があるだろう。勤務時間をなるべく合うようにすることも可能だが、どうだ?」
ギーゼルベルトはルーカスの言葉に目を合わせる。
「閣下。申し出はありがたいことですが、今まで通りでお願いします」
「それで良いのか?」
ルーカスはギーゼルベルトに問う。
「はい。今まで通りで構いません」
「そうか?」
「急に変更されてもあちらも困りますでしょう」
「…………そうだな」
ルーカスはギーゼルベルトの言葉から不穏な雰囲気を感じていた。
ギーゼルベルトは考え込む。会話が途切れ、沈黙が訪れる。
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「あの……よろしいでしょうか?」
後ろから声が聞こえる。入り口に立っていた騎士だ。
ルーカスは騎士に向き、訊く。
「何か言いたいことがあるのか?」
「はい。ブラウンフェルト卿についてです」
「分かった。そういうことなら、そのまま続けてくれ」
騎士は姿勢を正す。
「ブラウンフェルト卿は婚約者から剣の房を受け取っていますし、受け取っているはずです」
一気に注目を集めた騎士だ。
「まぁ、普通に考えるとそうだろうな」
ルーカスは騎士の発言を肯定する。
「私は直接ブラウンフェルト卿から、剣の房を見せつけられたことがあります」
「自慢されたということか?」
「はい。色合いがとても美しく、丁寧に編み混まれていました。ブラウンフェルト卿はその房を常に着けていると自慢しておりましたよ」
騎士はしばらく考え込み、ヒルデブラントに目を向けた。
「……ただ、ブラウシュタイン卿の持つやわらかな色を使った剣の房とはまるで別物でしたがね」
ルーカスとヒルデブラントも騎士を見据えた。
「ヒルデブラントが持つ剣の房と作り手が違うとは言い切れないだろう?」
「…………確かにそうですかね……」
騎士は疑問を払拭できないでいる。
「辺境伯令嬢も婚約者のブラウンフェルト卿に剣の房を幾つか贈っていることだろう」
名が挙が上がっている辺境伯令嬢のエルネスティーネはギーゼルベルトの後ろで頷きつつ、ギーゼルベルトの袖を掴んでいた。
ルーカスは騎士に向け、告げる。
「婚約者から貰った剣の房はもったいなくてつけることができないと悩む騎士もいるようだから、憶測でものは言わぬことだ」
ルーカスは騎士を諭し続ける。
騎士は表情を曇らせ、声に出す。
「申し訳ありません。失念しておりました」
「分かったのなら良い――」
騎士が続けようとした。
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ルーカスと騎士、二人の会話を遮るように扉の音が鳴る。
「失礼します」
声が聞こえると同時に扉が開き、別の騎士が入室してきた。
「閣下」
姿を見せた騎士は部屋を見渡し、言葉を足す。
「ローゼンフェルト辺境伯閣下、副団長。ご依頼のありましたブラウンフェルト卿について追加の報告です」
「あぁ、申してみよ」
ルーカスは入ってきた騎士に目を向ける。
騎士は姿勢を正す。
「ブラウンフェルト卿の件ですが、念のために勤務表も確認し直しました。本日は間違いなく休日となっております。休日出勤しているという記録もありません」
「そうだな。そちらは私も確認している」
騎士は持っていた書類に目を通す。
「ここからは追加分の報告です。再度範囲を広げて確認して参りましたが、ブラウンフェルト卿の姿を見た者も声をかけられた者もおりませんでした」
ルーカスはため息を吐く。おもむろに立ち上がり、声を出す。
「追加の調査、ありがとう。あとはこちらで対応する。二人とも下がって良い」
「はっ」
二人の騎士は一礼し、退出していった。
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ルーカスはしばらく沈黙を続け、思い悩む。調査結果を報告するべく、振り返る。
「ホーエンブルク伯爵閣下、伯爵夫人。グランツフェルト辺境伯令嬢。お待たせした上、肝心の婚約者がこちらにいないということを改めてお伝えしなければならないのが、事実のようです。誠に申し訳ありません」
ホーエンブルク伯爵夫人はルーカスに合わせ、その場で立ち上がる。グランツフェルト辺境伯令嬢も続く。
「こちらも突然訪ねた訳ですから、お構いなく」
ホーエンブルク伯爵夫人はルーカスに告げた。
ルーカスは打開策に悩む。
「そういう訳にもいきません。ご希望の見学場所がございましたら、こちらで手配いたしますので仰ってください」
ルーカスは思案を巡らせていく。ヒルデブラントに目を向けつつ、少し眺めていた。
「辺境伯令嬢を案内するとなると、気軽に任せられない。ヒルデブラント」
ルーカスはヒルデブラントに声をかける。
「…………ルーカス?」
声をかけられたヒルデブラントはルーカスを見返す。
ルーカスはしばし沈黙し、言葉を紡ぐ。
「すまないが、見学先の案内を引き受けてくれないか?」
ヒルデブラントは考え込む。
「ルーカス。……騎士団を案内するのは構わない。順路は私が在籍していた頃と同じで良いのか?」
「あぁ、基本的には変わらない。金鷲騎士団にはそう伝えておくから、こちらを頼む」
「分かった」
ルーカスはホーエンブルク伯爵に目を向け、声をかける。
「ホーエンブルク伯爵閣下。辺境伯令嬢の婚約者ブラウンフェルト卿の代わりにこちらのブラウフェルト卿に騎士団の案内を任せてもよろしいでしょうか?」
「後で問題になりませんか?」
ルーカスは軽く咳払いをし、告げる。
「閣下。婚約者が所在しているにも拘わらず、その婚約者を差し置いて他の者が案内することになるならば問題となりますが、肝心の婚約者が休日のため不在です。こういった場合は仕方がありません」
ルーカスは事実を告げた。
「もしも後日、ブラウンフェルト辺境伯家やブラウンフェルト卿より今回の件で何か問い合わせがございましたら、ありのままをお伝えください。それでも苦情が続くようでしたら、案内を任せた副団長の私が引き継ぎます。ご連絡いただければこちらで対応いたしましょう」
「もしもの場合はよろしくお願いします」
ルーカスは話を変える。
「ホーエンブルク伯爵夫人。つきまして、婚約者の在籍する黒鷲騎士団の案内でよろしいのでしょうか?」
「えぇ、一度訪ねてみたいと考えておりましたの」
ヒルデブラントはルーカスに声をかける。
「ルーカス。一つ、良いか?」
「何だ? ヒルデブラント」
「黒鷲騎士団は婚約者に案内させた方が良くないか?」
「そうか?」
「それもそうだが、今度があるか分からないぞ?」
ルーカスはヒルデブラントの言葉を受け入れ、後見人のホーエンブルク伯爵夫人に確認する。
「伯爵夫人」
「確かに今度があるか分からないとのことでしたね。案内はお任せします」
返事を受けたのはホーエンブルク伯爵だ。
「それでは他に見学先のご希望はございますか? 場所によってはこちらで調整しましょう」
ルーカスはホーエンブルク伯爵夫妻に訊く。
ホーエンブルク伯爵夫人は沈黙を破る。
「実はこちらを訪ねる際に辺境伯令嬢が庭園を散策したいと申しておりました」
「庭園の散策も希望でしたか」
「えぇ。こちらの庭園は素晴らしいと聞いておりましたのですが、本日は休園と知り残念に思っておりましたの……」
ホーエンブルク伯爵夫人はため息を吐き、ぼやく。
「休園というと皇帝の庭のことですよね」
「えぇ」
「ホーエンブルク伯爵夫人。辺境伯令嬢の婚約者であるブラウンフェルト卿が案内しようとしている庭園まで私どもは分かりませんが、こちらにある幾つかあるお薦めの庭園を案内しましょう」
「あの……。庭園は休園と聞きましたが?」
辺境伯令嬢のエルネスティーネはヒルデブラントに訊く。
「えぇ、確かに皇帝の庭園は休園ですよ」
ヒルデブラントは念のために持ってきた許可証を取り出した。
「事前に許可は取ってありますので、こちらを提示すると休園している庭園の散策ができます。条件つきですがね」
ヒルデブラントは持っていた特別許可証をホーエンブルク伯爵に見せる。
「こちらが使えるはずです」
ホーエンブルク伯爵と伯爵夫人は許可証に記されていた内容に驚きつつ、訊く。
「特別許可証のようですが、よろしいのでしょうか?」
「確かにこちらは私が婚約者を案内するために取っていた物です」
ホーエンブルク伯爵が許可証に記されていたを見ると確かに数十年前に発行されたものだった。
ヒルデブラントはルーカスに声をかける。
「ルーカス」
「何だ?」
「辺境伯令嬢の兄君、グランツフェルト卿を少々貸してくれ」
ルーカスはヒルデブラントに目を向け、訊く。
「ギーゼルベルトをか?」
「あぁ。辺境伯令嬢も騎士の兄がいた方がより安心できるだろ」
「分かった。ギーゼルベルト、そういうことだから、ヒルデブラントと同行するように」
「畏まりました」
ギーゼルベルトも二人に従う。
「その代わり、妹を案内する場所を教えてください」
「あぁ、そうだな。黒鷲騎士団を除いた銀鷲騎士団、金鷲騎士団。少し休憩を挟んで幾つか庭園を案内する方向で考えている」
ヒルデブラントは思案を続ける。
「ルーカス」
「何だ?」
「グランツフェルト卿の日報は見学者対応ということで頼む」
「分かっている」
ルーカスはふたたびギーゼルベルトに声をかける。
「あぁ、ギーゼルベルト」
「何でしょう?」
「今回の案内は表向き、妹の案内を兄の卿が行うことになる。その補佐としてヒルデブラント、ブラウフェルト卿がつく。妹君とはいえ、案内業務を担うことに違いはない。気を抜かぬようにしなさい」
「はっ」
「黒鷲騎士団の案内については、判断に任せる。いずれは自身の婚約者を案内する時に今回の経験は役立つだろう」
「畏まりました」
ヒルデブラントはギーゼルベルトを先行させた。辺境伯令嬢とホーエンブルク伯爵夫妻と侍女を連れ、廊下を歩き出す。
予告した話数に誤記がございましたので話数のみ、変更しました。
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次は下記のサブタイトルを予定しております。
▼第18話 → 第19話
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネと黒鷲騎士団の見学』
(新規追加、作成中/次こそは騎士団の見学コースといきたいところです)
▼第19話 → 第20話
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネと三つの騎士団』
(新規追加予定、作成中)
書いていくとだんだんと長くなる怪と話数が増えていく怪も出没していますm(_ _)m。
混乱している話数の訂正はそのうちしますm(_ _)m




