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偽りの帝国騎士と白雪百合と白雪薔薇の巫女 ―リューティエスランカ帝国建国物語秘話―  作者: 陵 棗
第二章 グランツフェルト辺境伯家の事情(ヒルデブラント編/割り込み追加中)

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第 16話 グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネが作った剣の房の行方


 第 15話で予告の第16話『辺境伯令嬢エルネスティーネが作った剣の房の行方』ができましたので新規で割り込み投稿します。



 


 黒鷲シュヴァルツアードラー騎士団(リッターオルデン)、応接の間。


 ルーカスはギーゼルベルトを見据える。


「ギーゼルベルト。ヒルデブラントの剣の房だが、間違いなくギーゼルベルトの妹君から直接貰ったものだそうだ」

「ブラウフェルト卿が持つ剣の房は本当に妹からの物でしょうか?」


 ギーゼルベルトはため息を()き、ルーカスを見る。


「私にはどうしても分からないのです……」


 ギーゼルベルトは頭を抱え、疑問を払拭できないでいる。ヒルデブラントを見据えた。


「妹の婚約者でもないブラウフェルト卿が、どうして妹が作った剣の房を持っているのでしょうか?」


 ルーカスはギーゼルベルトを諭していく。


「ギーゼルベルト。ヒルデブラントが婚約者のブラウンフェルト卿から盗んだ訳ではない。ましてや掠め取った訳でも奪い取った訳でもない」

「それについては分かります」


 ギーゼルベルトはルーカスに言葉を返す。


「ブラウフェルト卿がそういうことをなされることはないと知っておりますが、どうしても分からないのです」


 ギーゼルベルトは言葉を止め、沈黙した。

 ルーカスがため息を吐き、ギーゼルベルトの代わりにヒルデブラントに声をかける。


「ヒルデブラント。すまないが、ギーゼルベルトにも分かるように説明してやれ」


 ヒルデブラントはルーカスを見据えた。


「ルーカス。私が父から剣の房の持ち主には触れるなと忠告されているとさきほど言ったはずだが、忘れたのか?」

「ヒルデブラント。それは分かっている」


 ルーカスはため息を吐く。ヒルデブラントの前まで歩み寄り、手を肩に置いた。


「実は剣の房のこと、私も気になっていた」

「ルーカス?」


 ヒルデブラントはルーカスに目を合わせる。

 ルーカスはおもむろに話を戻す。


「剣の房は母や妹など身内から貰うことも多い。私もそうだし、そちらは特に問題はない」


 ルーカスはふたたび、ギーゼルベルトに目を向ける。


「婚約者のいない者であれば、剣の房を取り扱う店舗があるからそちらから購入するなり、騎士団から支給される剣の房を使えば良いのは分かるな? ギーゼルベルト」

「はい、それはもちろんです」


 ギーゼルベルトもそれには同意する。


「まぁ、実のところ支給される剣の房には婚約者のいない令嬢から贈られたものがかなりある。なかには贈りたい相手を指定しているものもあった」

「婚約者がいると受け取りにくいものでもありますね」


 ギーゼルベルトも頷く。


「そうだ。もう一つは神殿から寄付されたものもある。どちらも作り手の個性が出ているから、それぞれ微妙に異なっていたりもする」

「そういうことでしたか」


 ギーゼルベルトも騎士団から支給された剣の房を幾つか持っている。

 ルーカスはヒルデブラントに声をかけ、見据えた。


「ヒルデブラント。こうなったら隠しきれないだろう。知っていることを洗いざらい吐け」

「……ルーカス、分かったよ」


 ヒルデブラントはルーカスに応じる。深呼吸し、ギーゼルベルトに目を向けていく。


「グランツフェルト卿リウドルフ・ギーゼルベルト」

「は、はい」


 ギーゼルベルトは名を呼ばれ、顔を上げた。

 ヒルデブラントは言葉を続ける。


「私が辺境伯令嬢の作った剣の房を持っている理由を知りたいのか?」


 ギーゼルベルトもヒルデブラントに目を合わせ、答えていく。


「は、はい。是非にでも教えていただきたいのです」


 ヒルデブラントは知り得た事実を告げる。


「分かった。簡単なこと、辺境伯令嬢の婚約者が剣の房を受け取らなかった。そういうことだ」

「……う、受け取らなかった?」

「そうだ」


 ギーゼルベルトはヒルデブラントの言葉に耳を疑う。しばらくの間、黙した。


「仮に婚約者が受け取っていたら、私が持っているはずがないとは思わないか?」

「…………確かにそうですね」


 ヒルデブラントは動揺しているギーゼルベルトに告げる。


「ギーゼルベルト、良いか?」

「……は、はい」


 ギーゼルベルトは顔を上げ、返事をした。

 ヒルデブラントはさらに続ける。


令嬢(フロイライン)の婚約者が受け取らなかった()()について、私は当事者ではないので答えられない。そちらは直接、()()に聞いてくれ」

「…………分かりました。機会があれば、本人に聞いてみます」


 今度はギーゼルベルトが沈黙する。


「困ったね。どこから話せば良いのか……」


 ヒルデブラントは悩む。しばらく静かになった。


「私が剣の房の持ち主である小さな令嬢(フロイライヒェン)に出会ったのは数十年も前のこと。私が帝国騎士となった頃の話だよ」

「確かに数十年も前だな」


 ルーカスも帝国騎士の叙任式を思い出していく。


「あ~。そういえば、ヒルデブラント。婚約者からは剣の房を受け取ったのか?」

「ルーカス? 突然、なんだ?」

「答えろ!」


 ヒルデブラントはルーカスを見据える。


「あぁ、もちろん受け取っている。帝国騎士の叙任式のあとに辺境伯に連れられた小さな辺境伯令嬢に会い、令嬢から直接いただいた」


 ルーカスは訊いていく。


「どこで受け取った?」

「控えの間だな。叙任式が終わり、婚約者のモルゲンネーベル辺境伯令嬢から剣の房を受け取った」


 ルーカスはさらに突っ込んで訊く。


「そうすると婚約者の辺境伯令嬢からはそこで剣の房を受け取ったのか?」

「あぁ。モルゲンネーベル辺境伯から父の爵位名を呼ばれ、私の名で声をかけられた。その上で受け取ったからこちらは間違いないだろう」

「そうか……。その控えの間には誰か他にいたか?」


 ヒルデブラントはしばらく考え込む。


「同じく帝国騎士になった者と婚約者の令嬢が数組いたはずだよ。誰かと聞かれると困るが……」

「確かにそうだな。同時に帝国騎士や騎士になった多くの者が控えの間にいた」


 ルーカスも思い出す。

 ヒルデブラントは続ける。


「控えの間で婚約者に貰った剣の房を落とさぬよう柄頭に取り付けた。そのことを父に報告するため、近道となっている庭園を抜けようと急ぐ」

「あの通路だな?」


 ルーカスもその場所がどこか気づく。


「あぁ。通路に入るとどこからかともなくすすり泣くような小さな声が聞こえてきて、その声の主を探すことにした。声を辿ってみると物陰に隠れていた幼い令嬢に気づいたよ。迷子かと思って声をかけると令嬢がこちらを見て驚き、声を挙げさらに泣き出してしまった」

「……泣き出した?」

「あぁ、なぜかね」


 ヒルデブラントは当時を思い出していく。


「泣き止むようあやすが、私の姿に驚いた小さな令嬢から名指しで攻められたよ。困ったことにね」

「ヒルデブラント……。何と言われた?」


 ヒルデブラントは考え込む。


「…………一言一句の再現は難しいが、聞き取れた言葉を繋ぐと[ヒルデブラントしゃま、つくったけんのふさ、うけとってもらえににゃかった]。私を見上げた小さな令嬢は言い終えると同時に声を挙げて泣き出してしまった」


 ヒルデブラントは記憶を手繰り寄せていく。


「どうもその婚約者からずいぶんと辛辣な言葉をかけられたようで、令嬢をなだめて泣き止ませるのに苦労したよ。とおりがかった騎士には私が泣かせているように思われ、困惑しつつ落ち着くよう声をかけた」


 ヒルデブラントは当時を思い出し、困惑していく。


「受け取ってもらえなかったという剣の房――。その婚約者に代って私が受け取ることにした。それが、この剣の房だよ」


 ヒルデブラントはギーゼルベルトに剣の房を見せた。

 ギーゼルベルトは剣の房に目を落とす。全体的につたない作りと記憶に残る小さな妹の姿と結びつく。ヒルデブラントに質問する。


「ブラウフェルト卿、すみません。その騎士叙任式って何年のですか?」

「帝国暦で云えば、二〇五八年だよ」

「二、二〇五八年?」


 ギーゼルベルトは帝国暦を訊き、思い出したことがある。


「騎士となった私と婚約者の二人を祝うために妹がその日、父と一緒に帝宮に来てました。婚約者に会いに行った妹がしばらく戻ってこないということがあり、ずいぶんとあわてて探したのを覚えています」

「そうか、すまなかった」






次の第17話は


『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネの騎士団見学と庭園散策』


(新規追加/騎士団の見学、庭園散策まで入るかなぁ……(>_<))




書いていくと話数の増える怪奇が出没しているため、話数が……(∩_∩;)P。




 え~っと思ったよりも割り込み分が長くなっていますm(_ _)m。



 混乱している話数の訂正は割り込み投稿を終えてからにしますm(_ _)m



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