第 15話 グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネが気になる剣の房と兄の来訪
第14話のあとがきで予告の第15話ができましたので、割り込み投稿します。
投稿にあたりサブタイトルを下記のように変更します。
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネと庭園散策』
(新規追加/兄の来訪と庭園の散策)
から
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネが気になる剣の房と兄ギーゼルベルトの来訪』
に変更しました。
え~っと、書いていくうちに長くなるという……Σ(-∀-;)。
黒鷲騎士団、応接の間。
応接の間には二人の帝国騎士、黒鷲騎士団副団長ローゼンフェルト辺境伯と金鷲騎士団第一皇子付護衛騎士のブラウフェルト辺境伯が在室していた。
来客としてホーエンブルク伯爵と伯爵夫人、後ろに伯爵夫人に仕える侍女の姿がみえる。
グランツフェルト辺境伯令嬢はブラウフェルト辺境伯のそばに立ち、辺境伯令嬢付侍女が脇に控えていた。
ブラウフェルト辺境伯のヒルデブラントは剣帯から剣を外し、辺境伯令嬢に剣の房を見せている。その距離はしだいに近づいていく。
しばらく静観していたルーカスはため息を吐き、ヒルデブラントを見据える。沈黙を破るように声をかけた。
「なぁ、ヒルデブラント」
ヒルデブラントを呼ぶ声に反応し、言葉を返す。
「何だい、ルーカス」
ルーカスは距離感に気づいていないヒルデブラントに忠告する。
「婚約者でもない相手と惚気るなよ……」
「……のろけ……?」
ヒルデブラントはルーカスからそばにいた辺境伯令嬢に目を向けた。辺境伯令嬢が思ったより目の前にいることに気づき、少し距離を取る。
辺境伯令嬢は剣の房を見続けていた。
ルーカスは辺境伯令嬢がヒルデブラントの剣の房をゆっくりと見つめていることにある考えに行きつく。
「ヒルデブラント。辺境伯令嬢が剣の房を熱心に見ていることから、おそらくヒルデブラントが会ったという小さな令嬢はそちらにいる辺境伯令嬢ということになるのではないか?」
「……ルーカス。そう思うか?」
「あぁ。手に取り、じっくりと見入っていた」
辺境伯令嬢も頭の上で行き交う声に驚き、ヒルデブラントを見上げた。
「その昔、幼い小さな令嬢から剣の房を受け取ったのだろう?」
「あぁ、受け取ったよ」
ヒルデブラントは頷き、ルーカスを見る。
「ルーカス。父には相手を探すなと言われている」
ヒルデブラントはルーカスを見据えた。
「あぁ、分かった。まぁ、持ち主を守護する力の加護を持つ剣の房は、帝国騎士の命をも左右することもある」
ルーカスはため息を吐き、話題を変えようとした。
「辺境伯令嬢の婚約者は、辺境伯令嬢から剣の房を受け取らなかったということもある意味、事実なのだろう」
「あぁ、事実だよ。さすがに婚約者が剣の房を受け取らなかった理由までは分からない」
ヒルデブラントは辺境伯令嬢の持つ剣の房に目を向ける。
「剣の房は踏まれたような跡が残り土埃にまみれていたが、小さな令嬢が心を込めて作ったと分かるものだった。受け取り手のない剣の房のようだったから、私が貰うことにしたよ」
「その剣の房はどうした?」
「あぁ、剣の房にある加護札が綻びていたこともあって公爵家が使っている馴染みの店に加護札以外部分の修繕を頼んだ。神殿で加護札の修繕と刻まれていた名の変更も併せて行って貰った。内側の見えない場所に公爵家の紋が入っている」
「どこに入れた?」
「加護札だよ」
ルーカスは納得した。
「あぁ~。そういうことなら、ありがたくそのまま使わせて貰え。公爵家仕様になっているなら、尚更だ。剣の房を受け取り、神殿に頼んだ時点で加護はヒルデブラントのものだろう。今さら婚約者が受け取りたいと願い出たとしても問題外だ」
「あぁ、そのつもりだよ」
ルーカスは気になることを思い出す。
「なぁ、ヒルデブラント」
「なんだい?」
「剣の房を受け取った返礼はどうした?」
ルーカスの言葉を遮るように音が響く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
扉を叩く音が聞こえ、扉が開く。一人の騎士が入室してくる。
「お話し中、失礼します。閣下」
騎士は部屋にいたホーエンブルク伯爵と黒鷲のヒルデブラントことブラウフェルト辺境伯に気づく。騎士はローゼンフェルト辺境伯に目を向ける。
「あ、あの……申し訳ありません。ローゼンフェルト辺境伯閣下」
「あぁ、何だね?」
騎士は部屋に来た目的を告げる。
「来客のお方に会いたいと帝国騎士が訪ねてお出でです」
「誰だ? 辺境伯令嬢の婚約者であるブラウンフェルト卿か?」
「いいえ、違います」
騎士は即座に否定し、面会を求めてきた人物を明かす。
「グランツフェルト辺境伯の令息、リウドルフ・ギーゼルベルト殿です」
ルーカスは名を聞き、確認する。
「辺境伯令嬢の兄か?」
「はい。そのギーゼルベルト殿です」
「妹を心配してやって来た訳だな」
ルーカスは納得した。
辺境伯令嬢は名を聞き、違う反応をしていた。
「左様にございます。閣下、ギーゼルベルト殿をお通ししてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない。通せ」
騎士は一度退出し、ギーゼルベルトに声をかけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一声かけ、部屋に入室するギーゼルベルトだ。
「失礼します。グランツフェルト辺境伯が長子、リウドルフ・ギーゼルベルトです。妹が婚約者を訪ねこちらに来ていると聞き、参りました」
ギーゼルベルトの目に飛び込んできたのは、妹のエルネスティーネの姿と隣に並ぶ一人の帝国騎士だ。金鷲騎士団の制服を身に付け、婚約者よりも自然に妹の隣に寄り添う。
ギーゼルベルトが困惑したのは言うまでもない。
「あの……、こちらはどういうことでしょう?」
「なんのことだ?」
ルーカスはギーゼルベルトに訊く。
「私は休日のはずだった妹の婚約者が来ていると聞いて来たのですが……、彼はどこにいるのです?」
ルーカスはギーゼルベルトが来た理由となる人物を探していることに気づく。
「ブラウンフェルト辺境伯の令息、ブラウンフェルト卿グスタフ・ヒルデブラントならいまだに来ていない」
ギーゼルベルトはルーカスの言葉に驚く。
「閣下、婚約者が来ない理由でもあるのですか?」
「ブラウンフェルト卿は休日だ。今日は友人と飲みにいくと出掛けていったそうだ。紛らわしいことにこちらに出勤するような言い回しだったので、卿の妹がこちらに来たわけだ」
「左様にございましたか……」
ギーゼルベルトは妹の婚約者が来ない理由に一応、納得した。金鷲騎士団の制服をまとうヒルデブラントに目を向ける。
「妹の婚約者ではなく、他人がいる理由はなんです?」
ギーゼルベルトはヒルデブラントを見据え、言い切った。
ルーカスはため息を吐き、ギーゼルベルトの警戒心を解こうとしていく。
「ブラウシュタイン卿のヒルデブラントもある誤解と偶然が重なり、黒鷲騎士団に呼ばれて来た。黒鷲騎士団で″黒鷲のヒルデブラント″の異名を出せば、多くの者が彼のことだと思う。おまけに彼にも婚約者が来ている急げとまで言われれば、来ざるをえないと思わないか?」
ルーカスはギーゼルベルトを凝視する。
ギーゼルベルトはヒルデブラントも騎士団に呼ばれて来たことを知った。
「…………ブラウシュタイン卿も騎士団に呼ばれたということですか?」
ギーゼルベルトはヒルデブラントに声をかけた。
「そうだ」
ヒルデブラントは静かに諭していく。
「昔の同僚から懐かしい騎士の異名で呼び掛けられ、私の婚約者が来ているらしいから急いだほうが良いとまで言われる。私としては婚約者が来ている確証はなかったが、念のため騎士団を訪ねた」
「騎士の異名ですか?」
「あぁ、″黒鷲のヒルデブラント″だよ」
帝国騎士でもあるギーゼルベルトは妹の婚約者が騎士の異名を豪語していることを知っていた。
「ほどなくして私を呼んだものではなく人違いだったことが分かる。肝心の婚約者も私の婚約者ではなかった」
ヒルデブラントはギーゼルベルトから目を外し、ため息を吐く。
ギーゼルベルトはその表情を見逃さない。
「それは…………申し訳ありません」
しばらく重苦しい雰囲気が漂い、沈黙が続く。
ルーカスは静寂を破り、ギーゼルベルトを呼ぶ。
「グランツフェルト卿」
「何でしょう?」
「帝国騎士の異名は栄誉だけではなく、幾種の面倒ごとも同時に引き寄せる」
ヒルデブラントもため息を吐き、ルーカスの後に繋げていく。
「異名を求める者のなかには血気盛んで騒動ごとの好きな騎士が多い。自称は身のためにはならない」
ギーゼルベルトは二人の忠告を受け取り、言葉にする。
「いえ、私はブラウンフェルト卿のように異名を自ら名乗りたいとは思いません」
「――――分かっているなら良い。くれぐれも気軽に名乗るものではないぞ」
「はい」
ギーゼルベルトは頷き、肝に命じた。
ルーカスとヒルデブラントは再び、沈黙する。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ギーゼルベルトは深呼吸をした。話題を変えるべく、ルーカスに訊く。
「申し訳ありませんが、聞きたいことがありまして少々お時間をいただけませんでしょうか?」
「誰に何を聞きたいというのだ?」
「妹です」
「あぁ、分かった。聞きたいことは解決すると良い」
ギーゼルベルトは妹のエルネスティーネに目を向ける。話題を変えた。
「エル!」
「お兄様?」
ギーゼルベルトはエルネスティーネをヒルデブラントから引き離す。
ギーゼルベルトがエルネスティーネが婚約者でもない帝国騎士のヒルデブラントが持つ剣の房に触れていることに不快感を持っていた。妹のそばに歩み寄る。
「エル。お前はここで婚約者を待っていたのだろう」
「えぇ」
「なぜ、婚約者でもない帝国騎士と親しそうにしている?」
ギーゼルベルトは妹であるエルネスティーネの肩を持ち、声をかけた。
エルネスティーネは兄のギーゼルベルトを見上げる。
「お兄様? 親しく感じました?」
「そうだ。距離が近い」
エルネスティーネは慌てている。
「お、お兄様! 違うの」
「どこが違う?」
「違うの!」
ギーゼルベルトはエルネスティーネが必死に抵抗することに不信感を抱く。
「お前は婚約者の剣の房を差し置き、他の者が持つ剣の房を見たいのか?」
ギーゼルベルトはエルネスティーネに詰め寄った。
エルネスティーネは声を挙げる。
「お兄様、あの方が持つ剣の房は私が作ったものかもしれないの!」
エルネスティーネは言い切る。
「…………エル?」
ギーゼルベルトはエルネスティーネを見下ろす。
「エル。嘘はいけないな、嘘はね」
「お兄様!」
ギーゼルベルトはエルネスティーネを諭していく。
「あの方、お前が剣の房を見せて頂いていたのはブラウシュタイン公爵家のブラウフェルト卿だ。エル、お前の婚約者ではない」
「お兄様、婚約者ではないことぐらい私にも分かっておりますわ」
ギーゼルベルトは分からないことだらけだ。
「それではなぜ……、今日はじめて会うブラウフェルト卿がどうしてお前の作った剣の房を持っているんだ?」
ギーゼルベルトはもっともな理由をエルネスティーネに問う。
エルネスティーネは兄のギーゼルベルトを見上げる。
「お兄様。実は私もさきほど知ったばかりですわ。理由を聞かれても困ります」
エルネスティーネもギーゼルベルトも困惑していた。
「エル? お前が剣の房を渡したのだろう?」
「お兄様。………覚えていませんわ」
エルネスティーネは思い悩む。
「私はただ…………。ブラウフェルト卿がお持ちの剣の房に見覚えがありましたのから、無理をお願いして剣の房を見せていただいておりましたの」
「どういうことだ?」
「見せてもらってはっきりとしました。私が小さな頃に作った剣の房に間違いないですわ」
「エル? 本当にお前が作ったものかい?」
「えぇ、間違いありませんわ」
エルネスティーネはギーゼルベルトを見上げる。
「お兄様。あの剣の房は私が婚約者のために精一杯の気持ちを込めて、一生懸命に作ったものです」
「エル?」
「婚約者にはもらってはいただけなかったことだけは覚えています。あの時受け取ってくださった方が誰かは分かりませんでしたが、見覚えのある剣の房。つい懐かしく、見ておりましただけです」
ギーゼルベルトはエルネスティーネに聞き返す。
「私は父から無事に婚約者に渡したと聞いていたが、違ったのかい?」
ギーゼルベルトはエルネスティーネに訊く。
「お兄様。しばらくしてお父様が剣の房については婚約者に渡したことにするから、受け取ってくださったお方を探すのはやめなさいと……」
「そういうことか。婚約者のブラウンフェルト卿にはきちんと剣の房を渡したのだろう?」
「ブラウンフェルト辺境伯閣下に婚約者のヒルデブラント様にお渡しするよう、頼みました」
「直接渡していないのかい?」
「会えませんもの」
「あ、会えない?」
ギーゼルベルトはエルネスティーネに目を向ける。
「休日も忙しいのか、いつも外出されているようです。今日も会えませんでした」
エルネスティーネはため息をこぼし、天井を目を向ける。
「確かに剣の房はお渡ししましたよ。婚約者のブラウンフェルト卿が私の作った剣の房を使ってくださっているかまでは、分かりません」
エルネスティーネは憂いのある表情を浮かべ、兄のギーゼルベルトに訴える。
次の第16話は新規で追加予定の
『辺境伯令嬢エルネスティーネの作った剣の房の行方』
(新規追加/剣の房がヒルデブラントに渡った経緯)
第16話 → 第17話
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネの騎士団見学と庭園散策』
(新規追加/今度こそ、庭園の散策)
第16話 → 第18話
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネとブラウシュタイン公爵家』
(新規追加/庭園を散策していた辺境伯令嬢が遭遇したあるハプニング)
書いていくと話数の増える怪奇が出没しているため、話数が……(∩_∩;)P。
え~っと思ったよりも長くなっていますm(_ _)m。
混乱している話数の訂正は割り込み投稿を終えてからにしますm(_ _)m




