第 13話 グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネの婚約者と帝国騎士の異名
一部、字下げが行われていない部分がありました。その部分の字下げを行い、併せて本文の言い回しに追加修正を行いました。
この改稿による大きな変更はございません。
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第12話のあとがきで予告の第13話ができましたので割り込み投稿します。
サブタイトルを
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネと帝国騎士の異名』
から
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネの婚約者と帝国騎士の異名』に変更します。
呼び出された帝国騎士は誰か?
黒鷲騎士団兵舎。
ローゼンフェルト卿は周囲の騎士に声をかけ、辺境伯令嬢の婚約者であるブラウンフェルト卿を探すよう指示を出す。
ホーエンブルク伯爵と伯爵夫人、グランツフェルト辺境伯令嬢と二人の侍女が騎士団にある応接の間に通され、辺境伯令嬢の婚約者を待つ。
ローゼンフェルトは二階の応接の間に向かう。
「お待たせして申し訳ございません。辺境伯令嬢の婚約者、ブラウンフェルト卿を探しております」
ホーエンブルク伯爵夫人はローゼンフェルトに声をかけた。
「面会予約もなく突然押し掛けたこちらも非がございますので、お気になさらずに」
「もうしばらくお待ちください」
幼さの残る若い騎士がホーエンブルク伯爵と伯爵夫人、辺境伯令嬢と侍女にお茶を提供した。
しばらくして扉が鳴る。騎士が入室してきた。
「失礼します。ローゼンフェルト辺境伯閣下」
「なんだ?」
「閣下にお客様がお出でになられております」
「すまないが、あとにしてくれ」
騎士はそれでも続ける。
「閣下。ブラウシュタイン卿、黒鷲のヒルデブラントのブラウフェルト卿がお越しです」
ローゼンフェルト卿が顔を上げ、騎士を見上げる。
「ヒルデブラントか?」
「はい。そのブラウフェルト卿にございます。閣下をお待ちです」
「すまん。そちらに行く」
ローゼンフェルトは立ち上がる。ホーエンブルク伯爵と夫人を向く。
「伯爵閣下。辺境伯令嬢の婚約者が来ているらしいのですが、本当に婚約者かどうか、我々が確認して参りますので少々お待ちください」
「すまんが、よろしく頼む」
ローゼンフェルトは応接の間をあとにした。
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騎士の案内で執務室に戻ったローゼンフェルトはヒルデブラントの姿を確認する。
ヒルデブラントは主不在の執務室でローゼンフェルトが来るのを待っていた。
ヒルデブラントはルーカスの姿をみる。
「ヒルデブラント。何か用かい?」
「ルーカス。用があるのはそちらだと思うぞ」
ヒルデブラントはルーカスを見据え、言葉を続けた。
「ヒルデブラント?」
ルーカスはヒルデブラントの言葉を聞き返す。
「こちらで私のことを呼んでいると、数人の知り合いに話しかけられた。急げと言われたのだが、私に何か用かい?」
ルーカスもヒルデブラントの来訪の理由が見えないでいた。
ヒルデブラントは沈黙しているルーカスにぼやく。
「それにだ。こちらに私の婚約者が来ているから会いに行けとも言われたぞ」
「あぁ……、すまん。今一つ、情報が錯綜しているようだな」
ルーカスは頭を抱える。考え込み、ため息を吐く。
ヒルデブラントはしばらく沈黙し、告げる。
「ルーカス。用がないのなら、私は戻るぞ」
「……ヒルデブラント。少し待っててくれ」
ルーカスはヒルデブラントを呼び止めた。
「なぜだ?」
「ところで確認するが、婚約者の名は?」
ヒルデブラントはルーカスの問いに不意を突かれる。
「なぁ、ルーカス。……それは唐突に聞く内容なのか?」
「すまんが、必要なことだ。答えてほしい」
ルーカスはヒルデブラントを諭す。
ヒルデブラントはルーカスの問いに答えていく。
「分かった。私の婚約者はエルネスティーネと云う名だ。それが何かしたのか?」
「確認したまでだよ。婚約者はグランツフェルト辺境伯家のリヒャルダ・エルネスティーネ嬢で良いのか?」
ヒルデブラントはルーカスの告げた婚約者の名を聞き、否定していく。
「いいや、違うな」
「本当に違うのか?」
ルーカスはヒルデブラントに訊く。
「あぁ、令嬢の父である辺境伯名が違うし、令嬢の名も若干異なる。私の婚約者ではなく、別人だと思う」
「…………そうか」
ヒルデブラントは婚約者についてぼやく。
「確かに婚約者が来ていると聞き、私も婚約者に会えるかもという淡い期待はしたよ…………」
ヒルデブラントは抱いていた想いを告げ、ため息を吐く。
ルーカスは漂う雰囲気に気まずさを感じた。
「ヒルデブラント。…………それはすまん」
ヒルデブラントは婚約者について名を明かす。
「まぁ、確かにエルネスティーネという名は同じだ。ただ、私の婚約者はモルゲンネーベル辺境伯の令嬢でゾフィー・エルネスティーネという名だ」
「やはり別人か」
「あぁ、それにモルゲンネーベル辺境伯閣下から辺境伯令嬢がこちらに来ているとは聞いていない」
ヒルデブラントは遠くを見つめると何故かため息を吐く。
ルーカスはヒルデブラントに目を向ける。
「ヒルデブラント?」
「いや……、何でもない。忘れてくれ」
「そうか?」
「あぁ」
ヒルデブラントは沈黙し、天井を見上げる。
ルーカスも静かに考え込む。
「そうか、そういうことか。ヒルデブラント、もう少しだけ待ってくれないか?」
「それは良いが、ルーカス。ここに呼ばれた理由を教えてくれないか?」
「あぁ、そうだな」
ルーカスは紛らわしいもとになった顛末を明かしていく。
「困ったことに若い帝国騎士が″黒鷲のヒルデブラント″という、異名を自称し周囲に騙っているらしい。自分がその″黒鷲のヒルデブラント″だと」
ルーカスはため息を吐く。
ヒルデブラントは目を見張り、告げる。
「私は帝国騎士の異名は誰が名乗ったとしても構わないと思っているよ」
ヒルデブラントも釣られるようにため息を吐く。
「ヒルデブラント、それはこちらが困る。今回のように若い騎士が名を馳せる異名を告げたことで、婚約者の令嬢が訪ねて来ても肝心の婚約者に会えずじまいとなる。その一方で、異名を持つ帝国騎士にも不都合があるだろう」
ヒルデブラントもルーカスが言うことの重要性を理解した。
「あぁ、そういうことか――――」
「そういうことだ。毎回、異名絡みで黒鷲騎士団に呼ばれても困るだろう」
ヒルデブラントは髪をかきあげ、困惑する。
「それはそうだな」
ルーカスとヒルデブラントはしばらく沈黙した。
ヒルデブラントは腕を組み、考え込む。
「――――ただ、異名を欲すれば面倒ごとも併せてついてくる」
「あぁ、そうだな」
ルーカスも頷く。
「確かに異名には面倒ごともついて回る……」
二人は再び沈黙した。
ルーカスは静寂を破り、本題に入る。
「ヒルデブラント」
「何だ?」
「少し、付き合ってくれ」
「それは良いが、私は辺境伯令嬢の婚約者ではないから喜ばれないと思うぞ」
ルーカスはヒルデブラントに目を向け、言葉を続ける。
「ヒルデブラント、それはそれだ。この際、黒鷲騎士団で多くの騎士が″黒鷲のヒルデブラント″と思っている帝国騎士は誰か――。ということをあちらの方々にも知ってもらった方がいいだろう」
「今後のためにか?」
「あぁ、そういうことだ」
ルーカスは例の婚約者が見つからないことを思い出す。
「もう一つ、実はこちらが本題なのだ。辺境伯令嬢の婚約者、ブラウンフェルト辺境伯の令息グスタフ・ヒルデブラントが見つからない」
「探しているというからには、こちらに来てはいるのだろう?」
「おそらく」
「……はっきりとはしないのだな?」
「あぁ、呼び出せる地位と立場にいる人物に当たってみたが、誰も呼び出してはいないそうだ」
「誰も呼び出してはいないというのに騎士団からの呼び出しとは珍妙なこともあるのだな……」
ルーカスはため息を吐きつつ、ヒルデブラントを見る。
「本人がこちらに呼び出されたと婚約者に告げたらしい」
「ルーカス」
「とりあえず、誰が呼び出したのかは不明だ。ブラウンフェルト卿を探し回っているうちに、変化して異名を持つヒルデブラントに伝わったのだろう」
「そういうことにしておこう」
ヒルデブラントも納得することにした。
ルーカスはヒルデブラントを促す。
「辺境伯令嬢と後見人であるホーエンブルク伯爵夫人が待つ応接の間に急ごう。今後のためにも紹介だけしておく」
「分かった」
ルーカスはヒルデブラントを連れ、ホーエンブルク伯爵夫妻と辺境伯令嬢が待つ応接の間に向かう。
第14話は『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネと婚約者に贈った剣の房』のサブタイトルで投稿済みです。
下記予告はあくまでも初回投稿時の予定であり、話数増える怪が出没しているので予告通り長くなっています(;ŏ﹏ŏ)。
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次の第14話は新規で追加予定の
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネが贈った剣の房と庭園散策』
(辺境伯令嬢と婚約者が持っているはずの剣の房)
第15話は
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネとブラウシュタイン公爵家』
(庭園を散策していた辺境伯令嬢とハプニング)
第16話は
『グランツフェルト辺境伯令嬢ヴァレンティーネと婚約者ノルデンフェルト辺境伯令息』
(別名:ノルデンフェルト辺境伯令息の不安)
第17話は
『グランツフェルト辺境伯令嬢エルネスティーネと同行者』
(辺境伯家に戻ってきたエルネスティーネ)
第18話は
『グランツフェルト辺境伯の困惑』
(公爵家からの来客)
(この話からブラウンフェルト辺境伯家の意図(仮)として章立てするかもしれない……)
第19話は
『ブラウンフェルト辺境伯令息グスタフ・ヒルデブラントと婚約者?』
(別名:もう一人のヒルデブラント)
第20話は
『グスタフ・ヒルデブラントと帝国騎士の異名″黒鷲のヒルデブラント″』
(別名:異名を名乗るなら面倒後とも覚悟せよ)
第21話は
『グスタフ・ヒルデブラントと黒鷲騎士団』
(別名:呼び出されたの理由)
第22話は
『グスタフ・ヒルデブラントの憤り』
(別名:とりあえず、愚痴?)
え~っと思ったよりも長くなっていますm(_ _)m。
混在している話数の訂正は割り込み投稿を終えてからにしますm(_ _)m




