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すこし変わっただけ
木魚と鐘の音が鳴り響く。
ずっとずっと広がっている線香の香り、
鳴り響く念仏を、いかにもな僧侶が唱え続ける。
そこの前にあるのは、おそらく彼であっただろう物の入った棺桶と、黒く縁取られた入れ物の中で、
昔の、私のよく知る彼が笑顔でこちらを見ていた。
彼の両親とは、交流がありこうして葬式に出向いたものの、笑顔が素敵だったおばさんは涙に顔を歪め、物静かだったおじさんは、涙を堪えているのか眉間に皺がよっている。
「この度は、ご愁傷さまです。」
社交辞令を述べ、焼香を行う。
私は、あの時からおかしくなってしまった。
悲しみをもう感じないのだ。
前までは、少しの事で一喜一憂出来た。
それなのに今は、なにがあろうと何も感じない。
ただただ虚無なのだ。
それを認識した時笑いがとまらなかった。
自分がおかしくて、それでもこの悲しみを感じない事が嬉しくて、嬉しくて
世間的には、おかしくなったというのだろう。
それでも私の中では、おかしくなっていない。
そう、
少し変わっただけなのだ。
私の人生の数ページが、
少し変わっただけなのだ。