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王国の飛行騎士  作者: 神田柊子
第二部

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森への調査

 ナラカムはベールルーベ王国軍の兵士だ。

 所属は国軍だが、配属先は飛行騎士団の西基地だった。

 西基地の近くの漁村に生まれたナラカムは、子どものころから飛行騎士になるのが夢だった。王都の基地で行われる面接会に参加したが、騎士には選ばれなかった。

 第二希望の国軍に入ったが、西基地に配属されたのは幸運だった。

 乗れないけれど、飛行機は見放題だ。

 少し前には『飛行機の女王』が西基地に来ていた。高貴な佇まいに憧れ、ナラカムは休憩時間のたびにこっそり見学に行っていた。

 今はラファエルの貫禄ある姿を見に行くのが楽しみだった。

 ――ちなみに、飛行騎士ではないナラカムはベアトリクスたちの声が聞こえないため、本当の性格を知らない。彼は「ベアトリクス様」「ラファエル様」と呼んで崇拝していた。

 そんなナラカムは、遭難者の身元確認のため、森にやって来ていた。

 森の民と会うには決まった手順がある。窓口になっているのは森と村の境界を守る氏族で、森の奥で暮らす氏族に会うには彼らに仲介してもらわないとならない。

 その窓口の氏族に連絡を取るのにも、直接森に入るのではなく入口付近にあるポストに次回訪問日時を書いた手紙を入れて面会予約を取るのだ。

 ナラカムは、手紙で面会予約なんて貴族かよ、と内心突っ込みながら、手順に従って窓口の氏族に連絡を取った。

 急ぎなので、『明日以降、朝の三刻から夕方の三刻まで、毎日ここで待つ』と書いた。近くの漁村に宿はないため、森の入口で野宿だ。

 無言の圧力が功を奏したのか、手紙を投函した翌日の昼近くに、一人の男が森から出てきた。

 黒髪に濃い茶の瞳。日に焼けていて体格がいい。――西基地で保護されているロビンと同じだ。

 ただ、ベールルーベ王国の北西からメデスディスメ王国の西岸あたりまでは黒髪の人が多く、森の民だけではない。ナラカム自身も家族も同じ色合いだし、ベアトリクスの騎士のサリヤ王女も黒髪だった。

 さらに、森の民は外と交流を断っているのに言葉が通じるのも不思議だった。もともとは同じ言葉を話して交流していたけれど、何かあって別れたのだろうか。ナラカムにはよくわからない。

 ナラカムは森の民の男に、にこやかに笑って話しかけた。

「はじめてまして。ナラカムと言います。国軍の調査で来ました」

 森の民は飛行機が苦手だから、飛行騎士団の名前は出すなと事前に言われていたとおり、国軍と名乗る。――実際にそうなのだけれど、機会があれば飛行騎士団の基地に配属されていることを言って回りたいナラカムは残念に思っていた。

「軍が何の用だ?」

「バセリの氏族の方にお会いしたいのです。繋ぎを取っていただけませんか?」

 ナラカムがその氏族の名前を出すと男は顔をしかめた。

 ジィーネの話が正しければ、この男はジィーネと同じ氏族で、ギィダスの氏族バセリ一家――全員が血縁ではないらしいから『一家』という表現でいいのかわからないが――とは敵対しているはずだ。

「バセリの者とうちは付き合いを断っている。他の窓口を当たってほしい」

 彼は内陸側を指さし、「あちらに三日ほど歩けば別の氏族の窓口がある」と言った。

 門前払いは想定内だ。ジィーネの話の裏を取る意味もある。

「あなたの氏族に、バセリ一家のギィダスという男と面識がある方はいませんか?」

「ギィダスだと? お前、何者だ!?」

 ナラカムがギィダスの名前を出すと、今度は男は激昂した。彼にとっては、バセリ一家よりもギィダスのほうが恨みが強いようだ。

「おっと!」

 掴みかかってくる彼の手首を取ると、ナラカムは捻り上げた。

 唸り声を上げる男に、ナラカムはにこやかな態度を崩さないまま、

「俺は国軍の兵士ですよ。意味わかりますか?」

「やつが何か問題を起こしたってことか……」

 ため息をついた男は、「放してくれ。何もしない」と落ち着いたようだから、ナラカムは彼を解放する。

「問題を起こしそうなやつなんですか? あなたは会ったことがある?」

「いや、会ったことはない。……妹をたぶらかしたやつだ。碌でもないやつに決まっている」

「妹さんはジィーネさんですか?」

 ナラカムが聞くと男はばっと顔を上げた。

「知ってるのか? ジィーネはどうしてる? 元気なのか? 何か事件に巻き込まれているんじゃ」

「いえ、これは形式的な調査です」

 完全に巻き込まれているが、ナラカムはごまかした。

 すると、

「もしかして、戸籍を買うときに軍が調査するのか?」

「戸籍? ジィーネさんは戸籍を買おうとしてたんですか?」

 彼女は戸籍については何も話していなかった。

 二人で森を出奔したその足で心中したんだと思っていたが、戸籍を買って森の外で結婚するつもりだったのか?

 普通「駆け落ち」と聞けば手に手を取って新天地で幸せを目指すイメージだが、彼女が「心中しても離れなければ二人は結ばれる」というようなことを言っていたため、森の民の教えでは「駆け落ち」すなわち「心中」なのかと思っていた。

「子どものころから、漁村の者を通じて金を貯めていたようだ。森を出て戸籍を買って二人で暮らすつもりだと書き置きがあった」

 男は言葉を止めると、痛みを堪えるような顔をした。

「森を出て行った者はもう森の民ではない。ジィーネがどこで何をしようと俺たちには関係ない」

「妹さんなのに?」

「もう妹ではない……」

 男は視線を逸らす。

「話がそれだけなら、もういいだろうか」

 これ以上は何も聞き出せないと考えたナラカムは、「ありがとうごさいました」と礼を言った。

 森に向かって数歩進んだ男が立ち止まる。

「お前は妹に会うことがあるのか?」

「あ、伝言ですか。承りますよ」

「…………」

 ナラカムは無言の男の背中を見つめて待ったが、彼は「いや。いい」と首を振ると、そのまま去って行ってしまった。

 ナラカムは彼の姿が森の木々の向こうに紛れるまで見送った。

 ――森の民の掟はナラカムにはよく理解できない。

「ま、そんなことは俺が考えることじゃないな」

 独りつぶやくと、ナラカムは荷物をまとめた。

 ジィーネは漁村と交流があり、戸籍を買う金もあった。

 素通りしてきた漁村で何か話が聞けるかもしれない。

 ナラカムは騎乗し急いで森を後にした。

 漁村はすぐ近くだ。――というより、森の外から漁村の土地だろう。ただ森周辺は小道があるだけで、ほとんど藪だった。

 村の住居が集まっているあたりに戻ると馬から降り、ナラカムは井戸の側で洗濯をしている女に話しかけた。赤子を背負っている若い女だった。

「ちょっとすいません。そこの森の、森の民と交流がある方ってこの村にいませんか?」

 訝しげにした女だが、ナラカムが兵士だとわかると不安そうな顔になった。

「森の人たちに何かあったんですか?」

 その質問が森の民を心配しているように思えたから、ナラカムは彼女に聞いてみた。歳もジィーネやギィダスに近そうだった。

「ジィーネかギィダスに会ったことがありませんか? これは軍の調査です。知っていることがあれば教えてください」

「は、はい。……会ったこと、あります。ジィーネはずっと友だちでした。ギィダスは妹の夫です」

「えっ?」

 ナラカムは驚きの声を上げた。

「ギィダスはジィーネの恋人じゃないんですか?」

「いえ、ジィーネは他に好きな人ができたからって出て行ったんだそうです。私に相談してくれたらよかったのに……何も言わずに……。ジィーネは二人で森を出るためにあんなにがんばってたのに、心変わりなんて……」

 女は頬に手を当ててため息をついた。

「妹のマニスはジィーネたちのところにしょっちゅう遊びに行っていて、ギィダスとも親しくなってたみたいで……。それで、ついこのあいだマニスとギィダスは結婚したんです。ジィーネと別れたばかりだし、私は正直どうかと思ったんですけど、マニスも幸せそうなんで……」

 ナラカムは内心で、どういうことだ? と首を捻る。

 ジィーネの話のうち、心中に関しては真実だろうと北基地では判断されていた。彼女を保護した漁村の人の話、島で見つかったボートや紐の存在も、裏付けになっている。

 それが、ここにきて覆るのか?

 ――そういえば紐の端は切ったような痕跡があると聞いた。

 しかし、これは初めての大きな手がかりだ。

「妹さんたちはこの村に住んでるんですか?」

「いえ、街に住んでます」

 女――ハリナと名乗った――は、妹夫婦の新居を教えてくれた。

「あの、ジィーネは無事なんですか? 軍の調査って、何なんですか?」

 そう心配するハリナに詳細は教えられないため、軍の施設で働くための身辺調査だとごまかす。

「それじゃ、ジィーネに伝言ってできますか? 私が会いたがってたって伝えてください! お願いします!」

 ハリナは頭を下げた。それが気に入ったのか背中の赤子が笑い声を上げる。

 兄とは違うな、と思いながら、ナラカムは調査が終わったら必ず伝えると請け負った。

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