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Aランクパーティーを追放された雑用係、勇者一行に拾われて最強に至る——ことを見越して優秀なお前を追放することにした『もう遅い』俺達の話

作者: じジG

「レン。今日をもってお前をパーティーから追放する」


「……は?」


 驚きに口を開いたレンを睨みつつ、俺はこう続ける。


「お前みたいな雑用係、Aランク(うちの)パーティーには、もう必要ない」


 冒険者ギルドに併設された酒場は、普段なら荒くれ者達の大騒ぎが場を満たしているのだが、今は俺達の追放話を聞くべく静まり返っていた。

 だから、レンの野郎の小さな声もよく聞こえる。

 こいつは昔から引っ込み思案で、何かあるとすぐ泣く。いつも声が小さくて、のろまで、ぐずで、どうしようもないガキだった。


 幼馴染の縁で、同じ村出身の俺達がパーティーに入れてやっていたが、それも今日までだ。


「なんで」


「なんで、だぁ?! わっかんねえのかよ、レン! お前は本当に馬鹿だな!」


 斧使いのデオが、レンの細い肩をひっ叩く。衝撃に耐えられず転んだレンを見下ろしながら、神官のトリーが嘲笑った。


「貴方が必要無い、とガノンが言っていたでしょう? 言葉もわからなくなったのですか、レン」


「俺にぶつかられて転ぶような雑魚、必要ねえって言ってんだよ、ガノンは。なあ?」


「お前たち、俺だけのせいにするな。これは三人で話し合って決めたことだろうが」


「ふふ」


「違いねえ!!」


「……そっか。三人で話し合って……」


「お前を追放した後、パーティー名を変更することもな。『若葉』よりは、こいつの方が良いだろう」


 新しいパーティー名を記したプレートを見た時、レンは目を見開いてから、俯いた。


「……わかった」


 レンも交えて決めたパーティー名すら変更する、という通告に、やっと自らの立場を理解したのだろう。

 ふらりと立ち上がると、覚束ない足取りで俺達の席を離れていく。


「まさか彼奴、トリーは引き留めてくれるとでも思ったのか?」


 レンの後ろ姿を見てデオが笑う。


「だったら可哀相な男だなア。言い出しっぺはトリーだってのによ」


「ちょっと!」


 トリーに咎められながらも、デオは笑い飛ばした。

 レンに聞こえたか、聞こえていないかはわからないが、今となってはもう関係ない。


 俺は席に腰を下ろすと、頼んであったジョッキのエールを煽って、飲み干した。


「……っ、ふう…………。やっと、肩の荷が下りたな」


「おい。肩の荷なんて言い方は……おかしいんじゃねえのか」


 俺の呟きを耳ざとく聞いて拾ってきやがったのは、俺達と同じAランクパーティーのリーダーだ。

 今にも俺の胸倉に掴みかかりそうな男。恐らく、レンの薬で助かった類の冒険者だろう。

 となれば、話は出来る。俺は男の肩へ手をやると、耳元へ告げる。


「まあ、座ってくれ。俺達についての話をしよう」


 男にとっては、予想外の対応だったのだろう。困惑した顔で固まる男を放置したまま、俺は周囲に向けて声を張り上げた。


「おい! 今から『神託の少年』の話をしてやろう! 今日、たった今、この瞬間だけの記憶にしてくれ! 冒険神に誓えッ!」


 それは、幾らか横暴な言葉遣いに変えてはいるが、《吟遊詩人》の語り出しの文句であった。

 冒険者たちに娯楽をもたらし、彼等の栄光を広める詩人。この文句を使うことが許されているのは、生まれの職業が《吟遊詩人》である者だけだ。

 しん、と一度は酒場が静まり返る。俺はアイテムバッグからリュートを取り出すと、語り出しに向けて前奏を弾き始めた。


「……これは愉快な話だ。聞かなくては損をするぞ。あの少年には語ってはいけない、秘密の話だ。さあ! この瞬間だけの記憶にしてくれ! 冒険神に誓え!」


 席の前で固まっていた男が我に返り、俺の歌を聞くべく席に着く。


「おう!! 語ってくれ! 語ってやってくれ、あいつの凄さを!!」


 デオが手に持ったジョッキを掲げた。


 追放話ではなかったのか、という周囲の混乱が、デオの溢した誉め言葉によって興味へと変わっていくのがわかる。

 まばらだった声は段々と高らかに、しまいには応、という返答が酒場を満たす。


「では、語ろう。神託の少年と、俺達の苦労を」




————————




 俺達四人が生まれたのは、この国の端っこ、貧しい村だった。

 飢えて死ぬ人も居る程貧しい村だったが、働き手が必要だったから、子供は生まなくてはいけなかった。

 だから、案外『同年代の子供』という存在は居たんだ。それがこの四人。


 レン、ガノン、トリー、デオの四人は家も近く、一緒になって悪さをするクソガキ連中だったが、幼馴染の仲間のことだけはとても大切に思っていた。


 そんな俺達が何故レンを追放したかって? それを今から語るから、大人しく詩に聞き惚れていろ。

 始まりは、10歳の時だ。


 10歳、わかるだろ? 《ジョブ》の神託を受ける歳だ。


 俺はその時、この《吟遊詩人》のジョブを与えられた。トリーは見てくれ通り《神官》だが、デオは何だと思う?

 《木こり》だよ! 俺達は非戦闘職だ。けれど、レンのお陰でAランクにまでなれた。


 あいつの《ジョブ》は、《雑用係》だった。そう、あの雑用係だ。勇者パーティーに一人は居たっていう、あの伝説の!


 羨ましいだろ、《雑用係》つきの冒険は楽勝だったぞ。魔物除けや野営の見張りはスキルだけで出来てしまうし、解体も武器の手入れも一瞬。怪我を治すポーションや魔力の回復薬だって彼奴が自作してしまうから金は貯まる一方で、あとは良い装備を揃えればいい。

 装備のお陰で、《吟遊詩人》の俺は剣士のフリなんて出来たし、デオも斧使いのフリが出来た。

 装備って大事なんだ、お前たちも気を付けろよ。


 まあそれはいい。もっと大事な話をしよう。

 俺達は、元々は冒険に出るつもりなんてなかったんだ。村が魔物に襲われて、親も知り合いも皆死んだから逃げてきた。

 《雑用係》の馬車スキルがなかったら俺達も死んでいただろうよ。遊びに出ていた花畑から、死ぬ思いで、ガキだけで逃げてきたんだ。


 初めの内はそりゃ大変だったが、まあ、《雑用係》が居るんじゃ、すぐに装備も整ってくる。五年くらい経った頃には、もうCランクまで上がってたな。

 ちょうどその頃に、トリーが神託を受けた。


(リュートが鳴る。穏やかな旋律から変化し、悲し気な音が響く)


 『《雑用係》を勇者一行に合流させてください。彼等は魔王との戦いの為に、《雑用係》の力を必要としています』……ああ、そうか、って思ったよ。伝説の職業が、運命に翻弄されない訳がないって。

 レンは、俺達とのんびり魔物狩りなんてしてていいやつじゃない。でも、レンは、俺達を捨てて勇者一行のもとにいくなんて出来るやつじゃなかった。


 俺達は家無し子だ。《神官》のトリーはまだしも、俺は《吟遊詩人》で、デオは《木こり》。しかも剣士や斧使いの真似事ばっかりしてきたから、成人済のこの(十五)歳で職業スキルのレベルはほとんど上がってない。

 定住するのは難しいし、収入も怪しい。《雑用係》の力を借りて冒険者を続けない限り、お先真っ暗の俺達だ。


 だから、俺達は一芝居うった。


 『Bランクになったあたりで、俺が調子に乗って、あいつのことを冷たく扱い始める。それに同調してデオとトリーもそれぞれレンに冷たくし……俺達がレンの力を必要とせず、追い出そうとしている』と、そんな空気を作っていく。

 それから、『Aランクになった瞬間、レンを追放する形で送り出す』。つまり、ついさっきのことだな。


 俺達の苦労の話と言ったが、本当に苦労したんだ。

 レンはどうしようもなく良い奴だから、ちょっとの嫌味やちょっとの嫌がらせじゃ何とも思わない。

 いや、何とも思わないどころか、俺にストレスが溜まっているんじゃないかと心配してハーブティーを調合してくるくらいだ。


 気が弱くて、声が小さくて、マイペースで、頭がよく回って、勇気があって、どうしようもないくらいに優しい。あの男が俺達を見放すレベルに持って行くのは、正直、死ぬほど難しかった。

 今もあまり自信はない。急に『やっぱり君達と居たい』なんて言ってあいつが帰ってこないかひやひやしてる。


(挙動不審に周囲を見回す《吟遊詩人》に、思わず笑いを溢す冒険者たち)


 いや、笑うなよ。本当に苦労したんだ。

 デオは馬鹿だからたまにボロが出るし、トリーなんかは本当はレンにぞっこんだから、あいつが本気で苦しそうにしてるとすぐ泣き出しやがる。単独踏破出来るレベルのダンジョンにレン一人を残してきた時も、トリーは何回振り返っていたか……あっ! おいやめろ、トリー! 椅子揺らすな! 落ちるだろ!


 いや、まあ、周囲二人がこんな感じだから、俺が一番苦労した。胃に穴が空いた。あれ泣く程痛いから気を付けろよ。

 まあ空いた穴はレンの薬で塞いでもらったんだが……その時は、理不尽のつもりで『お前のせいで胃に穴が空いたんだ!!』って言ったんだが、思い返せばあれは事実だったな?


 ……何はともあれ、俺の胃やトリーのプライバシーなどの犠牲を払いつつも、俺達はやり遂げた。


 この街に来ている勇者一行様があいつを拾ってくれれば、神託は成される。


 どうせこの人込みの中で聞いてるんだろ? レンの事を頼む。


 どうしようもなく良い奴だ。ずっと一緒にやってきた、俺達の仲間なんだ。


 この話はレンに伝えるなよ。伝えるなら、旅が終わってからな。あいつの置いてった馬鹿みたいな大金で、この街の端っこに家を買うってことも一緒に頼む。


 お前が勇者の仲間として魔王を倒して帰ってきたら、お前のことを、俺の歌で広めてやるから。



 さあ! 此処で俺の歌はおしまいだ!


 そして————この瞬間をもって、Aランクパーティ『煉瓦の砦(レンガノトリデ)』を解散する!!




————————




「……にしても、なんで皆はあんなに無理をしてまで僕に冷たくしていたんだろう。なんだか頑張っていたから、気付かないふりをして追放されてきたけど……。詰めが甘いなあ、ガノンは。あのタイミングで、四人の名前を入れてパーティー名を付け直したら、僕のことも仲間だと思ってるってバレバレじゃないか」

もう遅い(雑用係にはバレバレなので)




乞食しとこ!! 転生者三人組の父親が主人公の連載小説もやってるので、よかったら見てください!!

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