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キック・スタート  作者: かぷせるこーぽ
1章 歪の森
3/28

見習い魔女と森の怪

ークロマツの街 軍港

「一体貴様らは何をしていた!」

テーテュースの甲板に怒号が響く

声の主は側衛騎馬大隊長リカルド・デーニッツ、自他共に認めるエリザベート王女の腹心である。

「申し訳ありません!ですが、まさか泳いで行かれるとは…」

沖合を航行中の魔導戦艦から海に飛び込み、脱走を図るとは夢にも思うまい、推進機に巻き込まれれば一瞬でミンチだ。

「いや、そうだな…流石に沖合から海に飛び込むなどとは、な…私も気が急いていたようだ、済まない。」

リカルド自身、長年戦場を共にしてきたとは言え、未だに王女の行動に度肝を抜かれることは少なくない。その責を王女をそこまで知るわけでも無い海軍の者達に問うのはあまりに残酷だ。

「昨日から乗組員総出で捜索を行っているのですが、事が事ですので公にすることも出来ず…」

一国の王女が出奔等とあってはならないことだ。

しかし、リカルドの懸念は他にある。

英雄にして公正、常に民を思い、また民からも愛されるエリザベート王女を快く思わない者達は多い。

今回のウェスタリア各地の軍営の視察に際して、第二王女が刺客を放ったという噂もある。

それに王女を体の良い駒としてしか見ていない近衞軍上層部の老人連中は、王女が王都に近付こうとすれば己の立場のために間違いを起こそうとするであろう事は想像に難くない。

「貴官らは引き続き市内の捜索を頼む!我々は周辺の捜索に出る」

ーああ殿下、せめてこのリカルドめにお声をかけていただけていれば

 

クロマツの街の北約200km

クロマツの街を出発して約四時間、私とエリーは休憩を兼ねて昼食を食べていた。

私達の今日の目的地は270km先のシラカバの街だ。

おもっていたより距離が稼げていないのはエリーがはしゃぐせいで危なくてアクセルを開けなかった事が大きいが、それでも夕方頃にはシラカバの街につけるだろう。

「ユーコ!バイクは凄いな!まるで風になったみたいだった!」

「エリーってばさっきからそればっかり」

とは言えライダーとしてはここまでツーリングを楽しんで貰えるのは嬉しい所ではある。

「まあYAMADAのバイクは最高だからね」

「YAMADA?」

「このバイクを作った会社」

「会社…工房ということだろうか?」

「まあ、そんなとこかな?」

「そうか!こんな凄いものを作れる工房はドワーフにだってないぞ!」

さっきからこんな調子で完全にハイになっている。

「ちゃんとおとなしく出来るんならもっと飛ばしてあげるけど?」

「何っ!そんなことが可能なのか?!」

「どうする?」

「分かった!おとなしくする!」

実際そうして貰わねば困るのだ。この先、街道は魔の棲む森と呼ばれるエリアに入る。魔物が出るとも盗賊の根城になっているとも言われており、年間を通して多数の行方不明者が出る難所だ。

襲い来るものが何であれスピードを落とすべきでは無いだろう。

「魔の棲む森…か…」

「私も3年ほど前に調査に来た事がある。昔から行方不明者が多かったからな」

色々こき使われていたようだ。一国の王女がする仕事では無いだろうに。

「それで…原因は?山賊?」

エリーは首を横に振る。

「結局何も分からずじまいさ」

それどころかエリーの隊からも行方不明者が出たのだという。そして部隊総出の捜索でも、原因どころか行方不明者の痕跡一つ見つからなかったのだという。恐ろしい話である。

「私の部下にリカルドという男がいるのだがすっかり怯えてしまって、今でも夜の森は苦手だと言っていたよ」

無理も無い、そんなオカルト話…いや、ドラゴンだなんだの居るこの世界ではよくある事なんだろうか?

「悪霊じゃあ!悪霊の仕業じゃあ!」

「やれやれ、何を馬鹿げたことを」

エリーが呆れたように言う。やはりこちらでも幽霊は迷信ー

「死霊の類がいたのなら私が切り伏せているさ」

では無い様だ。そう言えばエリーは死霊の王リッチーを倒したとかいわれているんだった。

不気味だ。明るいうちに抜けられれば良いのだが…


ー魔の棲む森

「聞いてないですよー!おかしいですよー!!何でですかー!!!」

鬱蒼と茂る森の中をゆく街道に叫び声が響く

「誰かー!たーすーけーてー!!」

姿無き追跡者から全速力で逃げる彼女が跨がるのは箒

迫る気配は猛スピードで真横を抜ける。

「やばっ!」

驚いた彼女はバランスを崩し地面へと衝突した。


ー魔の棲む森 南端より約70km地点

「やばい!引っかけた?!」

追い越しをかけた瞬間に魔女が箒から落ちた。

咄嗟に急制動をかけ、魔女の元に向かう。

「いや、驚いて勝手に落っこちただけのようだが…」

駆け寄ると、息をしている。それどころか掠り傷程度しか負っていない様である。つくづく異世界人のフィジカル恐るべしである。

「目を回しているだけのようだ、命に別状はなさそうだが…」

「放っておくわけにもいかない…よね」

言うなれば狼狽事故である。こちらにも非はある。

「仕方ない、今夜はこの辺りで野営しよう」


「ここは…」

魔女が目を覚ましたのは事故から三時間後、日が傾き始めた頃だった。

「起きた?大丈夫?」

「あなたは…」

「私は遊子、物見遊子」

彼女は首にかけていたゴーグルを掛ける。どうやらメガネのようだ。

「あ、ご丁寧にどうも…私はミシェルです、雪冠の魔女の弟子のミシェルといいます。」

自然と心を通わせ、その力を借りて様々な能力を行使するという女性たち、魔女

大きな街なら一人は必ずいる魔導師と違って、彼女らは人里離れた場所に暮らすという。

かといってそこまで珍しいものでも無く、里人と物々交換をしたり、街に買い物に来たりとちょくちょく見かける事もある。近隣に医者のいない村落では医療行為を魔女に頼っている場所もあるそうで、特に薬学に長けているそうだ。

「その…ごめんなさいっ!!」

「ええっ?!」

私は地面に頭をこすりつけた。土下座だ。何よりもまずは相手に謝罪の気持ちをぶつけること、全てはその後だ。…あれ?こっちの世界に土下座ってあるのか?

「その…何をなさっているんでしょうか…」

無かったようだ。学校で教わってないぞ

「その、土下座と申しまして…私の国では最上級の謝罪方法です」

「私達が君を追い越そうとしたときに驚かせてしまって、君が箒から落ちてしまったんだ。申し訳ない、心から謝罪する。」

「そそ、そんな恐れ多いです!私が鈍臭かっただけですからぁ!おおお王族の方にそんなぁ」

「私の国では狼狽事故と言いまして今回の様な場合は私に責任がー」

ん、待てよ?王族?

「今王族って」

勢いよく体を起こす

「ひっ!」

「重ね重ね驚かせてしまい誠に申し訳なく」

「あ、まって!そのままで良いですからぁ!」

再び額を地面に擦りつけようとした私をミシェル氏が必死でとめる。

「えっと、そちらの方…王族の方ですよね?」

「なぜそう思われたのですかな?」

エリーが尋ねる。ミシェル氏が寝ている間にもそんな話しはしていない筈だが。

「その…マナの流れに紋様が…」

「マナ?」

ミシェル氏が言うにはマナとは万物に流れるエネルギーの様なものだという。気や気配、雰囲気といった形でしか一般人には知覚出来ないが、その実マナの流れは万物のそれぞれに異なっているそうだ。

この国の王族のマナの流れには独特の紋様が顕れるのだそうで、魔女はマナの流れを視るが故に、エリーが王族だと気が付いたということらしい。

「その…男装されているようですしもしかして隠してらっしゃいました?」

そして性別も見抜く。

「あああっ!ごめんなさいごめんなさいっ!!その、あの、余計なことを!」

自爆芸…そんな言葉が頭に浮かぶ

「いや、構わない…しかし凄いなマナを読む…か」

「いえ!そんな!」

ミシェル氏がちらりとこちらを見る。

「あ…済みません、その…」

「何でしょうか」

「その…あなたのマナが…少し変わっているというかその、色が…」

「色?」

「は…はい、その、マナにはそれぞれ特有の色があって、そちらの王族の方は綺麗な銀色ですし、私は緑と水色の縞模様といった具合なのですが…あなたのマナは…その…透明なんです」

「それは…珍しい事なのかい?」

少なくとも自分は見たことも聞いたことも無いとミシェル氏は言う。なので、最初は姿は見えないのに声だけ聞こえると思ったそうだ。

「それはユーコが異界から来たのが関係してるのかもしれないな」

「えっ!異界から来たのですか?」

「あ、はい」

ミシェル氏が物珍しそうにこちらを見る。そんなに珍しくも…いや珍しいな、こちらに来るのは政府関係者と15人の有資格者だけだし、しかも私以外の全員がポータルのあるハルニレの街と王都位しか行かないのだから。

「ちなみに…マナが透明だとなんかよくない事があったりします?」

「そうですね…他の例が無いので断言は出来ないんですけど…魔法は使えないと思います」

ちょっとがっかりなニュースだ。折角剣と魔法の異世界に来たのだから使えたら嬉しいな、ぐらいには期待していたのだが

「私達の魔法も魔導師さん達の魔法も自分の持つマナの色と同じ色を持つ精霊の力しか使えないので…例えば銀色だと(かな)の精霊、水色は文字通り水の精霊、緑は木の精霊といった具合で」

「ちなみに透明な精霊っていません?」

「すいません、いないんです」

ミシェル氏が言うには私達が肉眼で見ているのと同じ色もあれば視覚的には感知出来ず、言葉で説明しようのない色もあるが、私以外の万物のマナ、そして精霊には色があるのだという。

「あとは、紋様を読むことができない事でしょうか?」

「あ、私は王族では無いですよ?」

「えっと、紋様は王族の方に顕れるもの以外にも、その人が持って生まれた天賦の才を示すものや、病気になると体に顕れるもの、あと男女の相性を示すものなんかもあるんですよ?」

例えば、とミシェル氏がエリーの方を注視する。

「最近右肩が凄く凝ってませんか?」

「おお、凄いな、そう通りだよ」

「それと…ああっ!凄い!はっきりと剣の紋が出てます!頑張って修行すれば千年一人の剣豪になれますよ!」

「まあ、そうだろうね」

「だがはっきりと言葉にして貰うと嬉しいものさ」

私達のやりとりに、ミシェル氏は不思議そうな顔をする。

「えっと、それ凄く珍しいものなんですよ?私達魔女でも天賦の紋自体見たことの無い人の方が多い位で…」

そう言えば、エリーはまだ名乗ってなかったことを思い出す

「ミシェル氏、彼女、エリザベート王女です」

「ああ、済まない名乗りが遅れた。私はエリザベート・ドゥ・ウェスタリア、ウェスタリア王国の第一王女だ」

「し、し、しろ…」

「しろ?」

「白銀の軍姫…」

「白銀の軍姫…エリーの事?」

「ああ、照れ臭い呼び名だが北のノルディア地方ではそんな風に呼ばれているよ」

ノルディア地方、確か鉱山が多くて武具作りが盛んな地域だ。ファンタジー小説の常連、皆大好きドワーフも多い地域だと聞く。

「確かに、銀細工みたいな綺麗な髪だもんね」

「ありがとう、だがユーコの夜空の様な黒髪もとても素敵だよ」

「よせやい、はずいってぇ!」

髪の毛と言えば、ミシェル氏のフワフワの赤毛、触ったら気持ちよさそうだなぁ

ん?そう言えばミシェル氏固まっているようだが

「申し訳ありませんでしたっ!」

ミシェル氏が勢いよく地に伏せる。見事な土下座だ。この順応性、異世界人のフィジカル恐るべし…いや、これは違うか

「おおお王女様とはつゆ知らず、ご無礼を!」

確かに、王族とて外戚も含めれば物凄い数だったはず。どこまでマナから読み取れるのかは定かでは無いが、まさか一国のお姫様がこんなとこうろついてるとは思わないよなぁ…

「ミシェル、顔を上げておくれ?」

エリーが優しく言う

「今の私はあくまで旅人ヘンリー・ザッカーバーグ、何も気にする事は無いよ」

「ですが、その、私沢山失礼な事を…」

「気にする事無いですって、エリーはそんなこと気にする子じゃ無いですから」

言いつつ、そう言えば私も大概失礼な態度だと思うが、エリーが嫌がる様子も無いので気にしない事に決めた。

「もし君が気になるというのなら、私と友人になってはくれないか?友人同士であれば何も気兼ねする必要は無いだろう?」

「私と…王女様が…?」

「君がいやで無ければ…ね」

「そ、そんな…嫌だなんて!その、宜しくお願いします」

イケメンに生まれ変わったらあんな風にナンパすればいいのか、いやぁ、為になる。

「その…ユーコさん」

「はい、私です」

「私とお友達になってくれませんか…?」

あ、かわいい…!美しさでいったらエリーに軍配が上がるが、二人がクラスにいたらモテるのはミシェル氏の方だろう。庇護欲をそそられるこの感じ、まるで仔犬の様だ。

「私と…ですか?」

「はい、お友達になれたら王女様に対するみたいに、親しく接してくれるかなって…」

多分凄くいい子なんだろう。

「分かった、それと王女様じゃ無くてエリーって呼んであげて?友達なんだから」

「人前ではヘンリーで頼むよ」

「それじゃあよろしくね、ミシェル」

「はいっ!」

ミシェルと握手を交わす。むず痒くもあるが暖かい気分だ

「そう言えばずっと気になっていたんだが」

エリーが言う

「ミシェルはこんな場所で一体何をしていたんだい?」

「あ、それ私も気になってた!あんな低空飛行する魔女初めてみたし」

大抵魔女は地上から100m位をフワフワと飛んでいるものだ。ミシェルは地表すれすれを飛び、スピードも尋常じゃ無く速かった。多分80km/hぐらい出ていた筈だ。そんな速度で飛ぶ魔女なんて聞いたことも無い。

「あーーーーっ!!」

ミシェルが叫ぶ

「ににに逃げないと、は、早く!」

「落ち着いて、ミシェル」

「ゆっくりでいい、事情を教えてくれないかな」

ミシェルは周囲を見回し、少し落ち着きを取り戻した様だ。マナを見たのだろう。

「その、お二人はコノカミって知ってますか?」

「いや、聞いた事が無いな」

「えっと、お伽話のコノカミ様の贈り物のこと?」

「そうです、そのお話に出てくるコノカミです」

「よく知っていたね」

「まあ、こっち来るときに習ったからね」

コノカミ様の贈り物は東部エストリアナ地方に伝わる民間説話、お伽話の類だ。

主人公は貧しいが心優しい爺さんというよくあるパターン

ある日彼が森へ行くと雷で折れた大木を見つけた。爺さんはそれを気の毒に思い、藁とロープで手当をしてやった。

それから毎日爺さんは森へ通い、大木の世話をした。

ある日いつものように世話をしていると上から綺麗な首飾りが落ちてきた。

きっと誰かの落とし物だろう、探しに来て無くなっていたら困るだろうからと爺さんは目立つ場所に首飾りをおいて家に帰った。

しかし、次の日もその次の日も煌びやかな煌びやかな宝物が落ちてくる。

ある日、流石におかしいと感じた爺さんは大木に尋ねる。これはお前がくれたものなのか、と。大木はゆっくりと肯く様にその幹を揺らした。

爺さんは、流石お伽話の主人公である。では遠慮無く、と宝物を持ち去るような事はせずに、きっとこの木には神様が宿っていると、祠を建ててそこに宝物を納める。そしてコノカミ様の祠として毎日お参りすることにした。

ある日、街に働きに出ていた爺さんの息子が領主に認められて騎士に序されたのを皮切りに、爺さんの家には次々慶事が舞い込んでくる。

きっとこれはコノカミ様のお陰だと、爺さんは村の者にも教えてやることにした。コノカミ様のありがたい御利益の話を

それを聞きつけたのはこれまたありがちな強突く張りな地主の男

彼は真夜中森に入り、祠を壊して宝を奪い、きっとまだ他にもあるはずと、コノカミ様の周りの地面を掘り返しはじめる。

それに怒ったコノカミ様は地主の男を丸呑みにした。後に残されたのは壊れた祠と宝物だけ

翌朝それを見つけた爺さんは大層悲しみ、宝物を持ち帰ってお金に変え、そのお金でコノカミ様の為に今度は立派なお社を建てた。

その後、地主の家は没落し、爺さんの家は益々栄えて末永く幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし

「あのお伽話は自然の恵みと怖さ、慎ましく謙虚に生きる事の大切さを伝える寓話って聞いたけど」

「はい、東部は私達魔女の精霊信仰から派生した自然信仰の盛んな土地ですから。ただ、このお話が出来た頃は民間でも精霊信仰が行われていたそうで、現代では人々が忘れてしまった者達の事も語られているんです。」

「私が言った自然って部分をコノカミと入れ替える…いや、重ねるって言った方がいいのかな?」

ミシェルが肯く。

「済まない二人とも全く話についていけないんだが」

「要は、コノカミってのが本当にいて、優しくするといいことあるけど、いじわるすると喰われるぞ、がおーってこと」

「な…なるほど?」

あの顔はいまいちよく分かっていない顔だ

「あくまでお伽話ですから正確には少し違うんです。本物のコノカミは人間のすがる神というよりは自然の摂理としての神と言うべきでしょう。」

なんか神道の神様みたいだ。さしずめ、お人好し爺さんから見たコノカミ様が和霊、地主から見たコノカミ様が荒霊と言ったところだろう。

「実際は、多くのマナを取り込んだ木は全て、樹齢で言えば概ね千年程度でコノカミになって大地から土と金と水のマナを取り込み森を豊かにする木のマナにして、森へ行き渡らせる様になるんです。」

「それがコノカミの恵みの部分ってこと?」

「はい、ただコノカミは負のマナを一度に多く取り込むと、近くを通る生き物を吸収するようになります」

「負のマナっていうのは?」

「例えば、豊かで美しい自然を思い浮かべるとき、頭に浮かぶのは自然と正のマナに満ちた景色になると言われています。爽やかな風、澄んだ空気、透き通った川の流れ、青々と茂る草木、暖かな日差し…即ち万象が流転し円環の如く循環し続けるところに正のマナは満ちるんです。」

「ってことは、負のマナは淀み、滞り、澱になって固まった所に出来るってこと?」

「理解が速くて助かります。普通の量ならコノカミは負のマナを浄化できますが、一度に大量の負のマナを取り込むとコノカミにとってもそれは猛毒になり、大量の正のマナを取り込もうとします。」

「それで生き物を取り込む様になる?」

「はい、人も動物も高度に調和のとれた大量の正のマナに満ちていますから…ただ、コノカミが生き物を取り込むのは万物の循環を乱してしまう行い、本来であれば一度大地を経るべきところを直接取り込むことで歪が生じ、コノカミは木であるべき己を失って負のマナを撒き散らして手当たり次第に生き物を襲う負のマナそのものの化け物に変わります。私達はそれをイミカミと呼んでいます」

「そしてイミカミがまき散らした負のマナで森の他のコノカミもイミカミに変わる」

なるほど、確かにこれは慈悲深い人の神ではなく、機能としての大自然のシステムとそのエラーというべきだ。慈悲も容赦もあったもんじゃない

「ついてこれてる?」

「いや、とっくに諦めた。チンプンカンプンだよ」

潔さは一級品だ

「素直でよろしい。で、そのイミカミがこの森にいる…と」

今あえてこれだけの説明したと言うことは、要はそういうことなのだろう。

「はい、さっき私が逃げていたのがそれです」

「誰も君を追ってはいなかったが?」

確かに私達の前にはミシェルしかいなかったが…

「負のマナそのものの化け物ってつまりそういう事ね」

「どういう事だい?」

「エリー、マナの流れ見える?」

「成る程、理解した」

負のマナの塊であるイミカミは私達の目には見えない

「それではより近くにいた私達が襲われなかったのはどういう」

「私達の箒は風の精霊の力を借りて飛ぶんです。ぱっと見はただのお掃除用具ですけど、これ自体が風の精霊と同じ色のマナで満ちてるんです。私のマナと箒のマナ、そして風の精霊のマナ、きっとイミカミにとって私の方が美味しそうだったんでしょう」

イミカミは大量のマナに引き寄せられるということのようだ。

「そして、私が箒から落ちた後はおそらくあれが」

ミシェルが指し示したのは私の相棒YAMADA SX-500

「あれは強い火と金のマナを持っていますおそらくそれを嫌って退いたのでしょう。」

五行思想と同じで相性みたいなものがあるんだろう。確か金は木を切り倒して、木は火を生む燃料になるだったか。

「まあ、でもそれなら心配無いんじゃない?私達と一緒にいればイミカミも手を出せないだろうし、向こうがびびってる隙に森を抜ければ安全でしょ?」

エリーも同意する。

「襲って来ないと言うのなら遠慮無く退散させて貰うべきだろうね、この先のシラカバの街には王国軍の部隊もいることだし」

だが、ミシェルはそれらを否定する。

「イミカミは獣と同じ位の知性を持っているんです。さっきは驚いて退散しましたけど、こちらが襲って来ないと分ければ向こうから来ると思います。…それに、その、さっきからずっと遠巻きにこちらを窺っているようですし…」

私達には見えないものが見えている彼女には、きっとこの森はずっと危険な場所として映っているのだろう。その小さな肩が小刻みに震えている。

「多分、もうどうしようも無いんです…」

絶望しきった様子のミシェル、だがまだ彼女に聞いていないことがある。

「ねえ、魔女はイミカミが出たって分かったら普通はどうするの?」

「え…?えっと普通は大勢の魔女が大本のイミカミの木を浄化します。注意を引いてる隙に薬を打ち込んで動きを止めて、浄化の魔法を使うんです。」

やはり対抗策はあった。無ければおかしいのだ。それが無ければこの世界はイミカミに呑み込まれているはずだから

「最後に一個確認なんだけど、その薬って用意できる?」

「はい、一個だけ持ってます」

「そんなら、ちょっと足掻いてみない?」

二人に私の考えを話す。

「いやいやいやいや、無理ですってたった3人ですよ?!そんなの出来る訳ないですってば!」

要はこの三人で浄化する計画

「いや、二人の話を聞く限り可能だと私は思う」

よく、時代劇とかで聞いた剣の達人は目を瞑っていても相手の気配を察知して闘えるという話…気配とはマナで、イミカミがマナだとすれば、エリー程の達人であればイミカミの動きに対応出来る筈だと私は提言したのだ。

そしてその隙に私が薬を打ち込む。浄化はもちろんミシェルにしか出来ない。

「それにいくらエリーさんが注意を引いたって、魔女じゃないユーコさんがどうやって近付くんですか?木に近寄ったら気付かれて殺されちゃいますよ!」

もちろん、私は平和な日本人だ。戦ったりなんだりっていうのは専門外、ファンタジー力ゼロは重々承知だ。だから、私には出来る。

「ミシェル、さっき私に言ったこともう忘れた?」

彼女ははっと気が付く。

「透明な…マナ…」

ミシェルはいった。声は聞こえるのに姿は見えないと

物質的な肉体を持たない以上、イミカミは光学的な視覚に頼っている訳では無いだろう。マナを感知して襲いかかってくるということは、魔女の様にマナの流れを視ていると考えるのが自然だ。

ミシェルは俯き、何かをぶつぶつと呟いている。

そして顔を上げ、言った

「行けるかもしれません…!」

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