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キック・スタート  作者: かぷせるこーぽ
序章 古き港
1/28

恋人達と旅人の聖地

自身も旅ライダーである私が、異世界に行けたら相棒のバイクとともに行ってみたい場所、観てみたい景色を詰め込んだ作品です。

読み終わったらツーリングに行きたくなるような、旅に出たくなるような作品にしたいと思っています。

どうか読んでみてやって下さい!

-クヌギの村から南東160km

小気味のよい単気筒のエキゾーストサウンドを響かせ街道を突き進む一台のバイク

YAMADA SX500、ヤマダ発動機が誇る単気筒ロードバイクの雄

それに跨がる美しいライダーが、そう、私こと物見遊子である。

空は快晴、風は爽やか、何処までも続くフラットダート!

「魂が叫んでいる!もっと、もっと回せと!!」


通称ポータルと呼ばれるそれが、この世界に姿を現したのは今からおよそ十年前

調査の結果、それはこの世界と異なる世界を繋ぐ装置であることが判明した。

政府は陸上自衛隊の普通科中隊を基幹とする各分野の専門家からなる調査隊をポータルの向こうに派遣する。

二週間後、帰還した部隊は異世界の使節団を伴っていた。

そこから幾度かの実務者級会談、閣僚級会談を経ての首脳会談の開催、そして友好条約及び平和条約が結ばれたのは二年後、元号が正化に変わった最初の年であった。

日本と、ポータルの向こうの覇権国家であるウェスタリア王国の間で様々な取り決めが行われたが、特にその中でも相互通行条約と、包括的出入国管理における二国間の枠組みは、衝撃をもって迎えられることになる。

風土、生態系、技術、言語のあらゆるものが異なる両国間相互の行き来に関しては厳しい規定が設けられた。

外交目的でないポータルの利用にあたっては専門の教育機関における三年間の教育と試験への合格が必須であると定められている。

正化8年4月の段階で有資格者は15人である。


正化8年5月20日 

クロマツの街

クロマツの街は漁業の盛んな海辺の街だ。

また、海洋交通の拠点として、貿易港としても知られているようで、非常に活気のある素敵な街である。

私こと物見遊子がこの街に辿り着いたのは、午後の三時頃の事だった。

いつも通り相棒のSXに乗ったまま街に入ろうとしたら、衛兵に止められた。

曰く「今日は人が多くて危ないから乗り物は全面禁止」とのことだった。仕方が無いので、あの子は門のところでお留守番である。

大きな街に着いたらまず行かなければならないところがある。錬金術師の店だ。

錬金術は物質を魔術的手法で組み替える技術の事だそうだ。詳細はちんぷんかんぷんだが、要はファンタジーである。

「ごめん下さーい!」

「あら、ユーコさん、いらっしゃい」

この人は錬金術師のマダム・ジナイーダ、妖艶な雰囲気の漂う大人な美女だ。

巷の噂では錬金術の秘術で1000年生きてるとか、かつて滅びた太古の錬金術大国の生き残りだとか、まことしやかに囁かれていたりもする。

「こんにちは!マダム」

「今日もガソリン?いつもの量でいいかしら?」

「うん、それでお願い!」

この世界にはガソリンスタンドが無い。まあ内燃機関自体が無いのだから当たり前といえば当たり前だが…

その為にガソリンを手に入れる為には錬金術師に作って貰うしかない。

因みに、マダムが錬金術によるガソリンのレシピを発見し、なんとそのレシピを私の行く先で配って良いと言ってくれたのだ。

そのお陰で私は旅に興じる事が出来るのだから、マダムはもう大恩人である。

「そういえば、今日人が多いみたいだけど…なんかあるの?」

「そうみたいね、私も詳しいことは分からないのだけれど、聞いた話しだとエリザベート殿下がいらっしゃるんだとか」

「ウェスタリアのエリザベート王女?」

マダムは肯く

ウェスタリア王国王位継承権三位、物語に出て来るようなホンモノのプリンセスであると同時に、王国の英雄でもあるというエリザベート王女

類い稀な剣技でドラゴンや死霊の王リッチーを倒したとか何とか…異世界人のフィジカル恐るべしである。

強く美しい姫様は王国臣民から高い人気を得ているようで、もはや物語の英雄もかくやというほどに信奉されている。

「うーん、大丈夫かなぁ…私叩っ切られたりしない?」

しかし、穏健派の多いウェスタリア王国の王室において、エリザベート王女は武断強硬のタカ派筆頭であり、最後まで日本政府に対する強硬路線を主張していた人物でもある。

「流石に大丈夫だとは思うけれど…」

分からない、というのが正直なところであるようだ。王女本人にその気が無くとも、今このクロマツの街に集まって居るのは王女のシンパでありその中に対日強硬過激派が混ざって居ないとは言い切れない。

「念のため弾も買っていく?」

「じゃあ18個お願い」

名君の誉れ高い当代の王の治世のもと周辺諸国より格段に安定しているとはいえ、ウェスタリア王国領内には山賊もいれば魔物も出る。最低限拳銃で武装をするのはポータル渡航法に定められた渡航者の義務の一つである。

実際のところ、渡航者学校のカリキュラムで数回撃ったことがある程度なので、役に立つかは甚だ疑問ではあるのだが…

「どれくらいで出来そう?」

「そうね、明日の朝には全部用意出来るわ、それでいいかしら?」

「うん!お願い!」

マダムの店を出た私は、さてどうしたものかと頭を悩ませていた。これだけ人でごった返していては観光も何もあったものではないし、そもそもあまりウロチョロするのも危険だとマダムと話したばかりでもある。

「とりあえず、ご飯かなぁ…」


ークロマツの街から西へ20kmの海上

魔導戦艦テーテュース、ウェスタリア王国が誇る最新鋭の魔導戦艦であり、王族の座乗艦としても用いられる巨艦である。

その甲板上は、反乱でも起きたと見紛う程の騒ぎを見せていた。

王族の行方不明事件である。

「艦長!ご報告が」

そう言ったのは甲板士官

「エリザベート殿下の船室にこのようなものが」

それは一通の手紙

ーテーテュースの諸君、此度の航海ご苦労であった。

非常に快適な航海であったことに心よりの感謝と敬意を示したい。

さて、突然ではあるが、私は一足先にクロマツの街に上陸して物見遊山を楽しもうと思う。

満足したら勝手に帰るので、心配は要らないと関係者に伝えておいて貰えると助かる。

最後になったが貴官らの今後の航海がよきものであることを心から祈っている。

         ウェスタリア王国第一王女 エリザベート


ークロマツの街 日の入り海岸

少し遅い昼食を済ませた私はクロマツの街の外れにある砂浜に足を運んでいた。

日の入り海岸、ここは有名な景勝地でありウェスタリアで一番美しい夕日が観られる場所だと言われている。

この浜から見渡せる湾口部は太陽の帰る場所と呼ばれ、1年を通して夕日はそこを通って大洋の果てに帰って行く。そのことから恋人達の聖地としても名高い。

全く以てロマンチックな事である。

また、太陽が旅を終えて帰る場所ということで、旅人の聖地ということにもなっており、クロマツの街の商工ギルドは恋人達と旅人の聖地として売り出しているのだが、有名なのは恋人達の聖地の方ばかりで、旅人の方はあまり振るわないようだ。

私は旅の安全を祈ってここに来ているのであって、恋人達の聖地等という浮ついたものには全く以て、これっぽっちも興味なんて無い

一応言っておくが、これは僻みでは無い。そう、断じて僻みでは無いのだ。

私は街で買ったストの実の焼き菓子を摘まみながら日没を待つ。

ストの実はイチゴに似た少し酸味の強い果実で、このお菓子はその実を生地に練り込んでさらに丸ごとの果実を中に入れたベビーカステラとイチゴ大福のあいのこの様なものだ。その形から子宝の縁起物として古くからこの辺りの地域で親しまれているのだという。

本当に独り者に優しくない街である。

そういえば日本でもウェスタリアでも旅ライダーが好きな場所って大抵恋人の聖地扱いされている気がする。嫌がらせだろうか?

そんなことを考えながら海を眺めていると、人が海から上がって来るのが見えた。

まだ水も冷たかろうに、やはり異世界人のフィジカルは恐ろしい。

でも、妙に綺麗な人だと気付く。

艶のあるホワイトブロンドの髪を無造作に束ね、均整のとれた体を船乗りの達が着ている様な麻の服で包む。そのアンバランスさえ、まるでそれが正解であるかの様に見えるのは彼女の存在感の成せる業なのだろう。

涼やかな切れ長の目元と、楽しげな笑みを湛えた口元は宝塚トップスターの様な格好良さと少女の様な愛らしさの共存の最適解であるかのようにさえ思える。

多分、私は今、本物のカッコかわいいを目にしている。

「やあ、お嬢さん」

しばらく見惚れていると、それに気が付いたのか彼女がこちらに声をかけてきた。

見た目から想像していたよりは少し低いが、彼女の凛々しさを引き立てるようなよく通る声だ。

「すまないが、何か体を拭ける物をもっていないだろうか?」


眩い太陽が水平線の向こうへと去り、暗い夜空に月と星々が暫しの我が世を謳歌するかのように輝きを見せ始めた頃、私は件の美女とともにクロマツの街の漁港に程近い酒場にいた。

ここはクロマツの漁業ギルド組合長の運営する酒場であり、漁師達の憩いの場でもある。

本来であれば漁師やその関係者以外が訪れる事はそうそう無い店ではあるのだが、とある事件で組合長以下漁業ギルドの面々と仲良くなってからは、私の事を家族のように受け入れてくれる。

エリーと名乗った美女は、着替えを油紙に包んで持ってきていた様で、今は年若い貴族の三男坊の様な格好をしている。

その服は男物ではないのかと尋ねたところ、趣味なのだという。

そして、趣味ついでに「私の事はヘンリーと呼ぶように」と言ってきた。こちらの世界にもオナベの方はいらっしゃるということだろう。

「はい、おまちどうさん」

テーブルに巨大な魚の揚げ物が運ばれてくる。

「あれ?これたのんでないよ?」

「サービスだよ、あのユーコがこんな格好良い彼氏を連れてきたんだ、あたし達からのお祝いさ」

彼女は組合長の奥さんでこの店の一切を取り仕切る女将さんだ。皆からお母さんと慕われている。

「お、お母さん!そんなんじゃないってば!」

「あっはっは、照れちゃって!そんじゃ、ごゆっくり」

違うんだけどなぁ…

所謂LGBTに関しては理解が無いわけでも無いし尊重もしてはいるが、それと私自身の性的嗜好は別問題だ。気持ちは嬉しいのだが、複雑な気分である。

「おう、あんちゃん」

お母さんと入れ替わるように3人の男達がやって来る。

港の三馬鹿馬鹿とは組合長の言葉であるが、妙に私と馬の合う若い漁師の仲良しトリオだ。

きっと賢い私と三馬鹿、異なった者同士の方が仲良くなれるというあれに違いない。

「一体全体どういうつもりだ」

「どういう…とは?」

リーダー格のアルクがヘンリーことエリーに食って掛かる。

「とぼけてんじゃねえよ!俺達のアイドルユーコ姐さんに手ぇ出しやがって!このボンボンが!!」

こいつらもか…頭が痛くなってくる。まあそれだけエリーの男装のレベルが高いということなのだろう。実際お伽話の美しい王子様といった風体ではあるが…

「アレク、そう言うんじゃー」

「姐さんは黙ってて下さい!」

秀才風のネルソンが言う。風であって秀才でも何でも無いが

「貴方にユーコ姐さんを幸せに出来るとは到底思えません、何ですか?その細い腕は」

「おれ、お前、ひとひねり」

大男のウェンスキーが同意するように言う。一人で船を陸に引っ張り上げるような怪力と拙い言葉、少年漫画だったら明らかな噛ませポジションだが、これは漫画じゃないし、エリーだって女の子だ。

「ああもう、3人とも喧嘩しないでってば!」

怪我でもしたら大事である。

「うす、姐さん分かってるっす」

アレクが言う

「おい、あんちゃん、姐さんをかけて腕相撲で勝負だ!」

何故か私を景品に腕相撲大会が始まる運びとなった。

次の話は数日中にアップする予定です!

どうぞよろしくお願いします

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