おやつみたいに愛らしい彼
私は優しい。
私はとっても優しい女の子。
いつも彼のことを考えてあげてる。
いつもそう。とっても優しい子。
でも、欠点もある。それはすぐ怒っちゃうこと。
それを私は自覚している。これだけはどうしても治らない。生まれつきだから、仕方ない。
彼にもつい大声で怒っちゃうことがある。突然不機嫌になっちゃうこともある。
だから、わかってほしいと思って、「ごめんね、私沸点低い子なの。」って言っておいた。先に言っておけば問題ない。これだけは性格だから、どうしようもない。理解してもらうことしか、できない。
このことは、もう二人の間では公認のことになっている。一度、私がすぐ怒ることについて、「冷静になってほしい」って言ってきたことがあった。咄嗟に、「怒らせるようなことを言ったのそっちでしょ?」って言った。それに、「私が普段からどれだけ優しくしてあげてると思ってるんだろう?私に感謝してくれてないのかな?」とも思った。でもこれを言うと大喧嘩になっちゃいそうだから、冷静に我慢した。とにかく、普段我慢し続けてる私にそんなこと言うなんて信じられなかった。
一度は切れちゃったけど、誠心誠意私の気持ちを伝えたら、謝ってくれて、理解してくれた。それに、私が喧嘩を避けるために冷静に我慢していたことも、話したら評価してくれた。
彼は素敵な人だなぁ。それにちゃんと話ができた私もすごいと思う。
私は体調を崩しがちだけど、毎日ちゃんと出勤してる。私の仕事はすごくつらい福祉の仕事なの。私はこれを自分の使命だと思ってる。そもそも、私は福祉の仕事に就くために、すごく勉強してきた。大学もかなりいいところを出てる。就職先もどことは言いたくないけど、官公庁だからとってもエリート!特に、私は現場に出ることに誇りを持ってて、子供の心を自分でケアしてあげたいって思ってる。
子供たちは試し行動をしてしまう。わざと物を壊したりして、どこまで許されるかを試すことで、自分への愛の深さを確認する。愛されてこなかった自分に自信のない子供たちが取る心理行動。
私は試し行動をとってしまうような、愛されてこなかった子供たちと向き合っていきたい。
でもね、先輩たちはとてもひどい。元少年犯の危険な子供を私に担当させたりする。怖いよ。あまりの酷さに泣いてしまった。彼にも泣きながら電話しちゃった。
そのときは深夜に電話しちゃったから、眠かったかもしれないって思った。でも私は極限状態だったから、どうしても電話しなきゃいけなかった。それでも私は翌日謝った。許してくれるだろうな、って思ったら許してくれた。私が極限状態だったのはわかってただろうし、許されると思ってたけど、それでも嬉しい!
こういう小さなことで喜べるのって私は前向きだ。
これは、彼女が手帳の空白ページに綴っていた手記だ。革製の茶色い手帳に、黒いボールペンで書かれている。字は、あまり綺麗ではない。癖字というよりは、文字の線と線が離れていたり、大きさが違ったり、ガサツな文字という印象だ。見慣れた彼女の文字だった。
手帳にはこの手記以外に特に何も書いていなかった。手帳が白紙であること自体は飽き性な彼女らしいことだが、それは指して問題ではない。
彼女はこの手記を読め、と僕に言っているのだろう。
いま、僕の手元にこの手帳があるのは、ポストに投函されていたからだ。可愛らしい薄緑色のラッピングに包まれて、僕のアパートのポストに、この手帳は入っていた。
ことの発端は3週間前だ。彼女は電話で僕に別れを切り出した。僕が彼女の気持ちを考えていない、無神経な発言を続けていたのが原因だという。
それから2週間、僕は深く反省し、傷心を癒すことに努めた。
その2週間で、僕は彼女がとんでもないワガママな女で、僕は試し行動(彼女に教わった言葉だ)に振り回されていることに気がついた。最初は傷心していたものの、2週間経つ頃に僕は、開放感を感じていた。
ちょうど2週間経ったその日、彼女は僕に電話してきて、ご飯に行こう、と言った。彼女は。あえて一旦別れることで、僕が反省する期間をくれたのだという。僕のための別れ話、だったのだそうだ。
僕はその話を即座に断った。
それからすぐ着信拒否して話もしていない。
すると今日、手帳が家に投函されていた。
「まだ僕にチャンスをくれるなんて、懐の深いいい女だなぁ」
手帳と彼女用の枕をゴミ箱に捨てながら、僕は呟いた。
早く引っ越さないとな。とりあえずしばらくは実家にいた方が安全だろう。
伝わってると嬉しいな