未確認歩行物体
その女性はなにやら、おかしなものを頭につけていた。
女性の頭よりもひとまわり大きく、水色の丸い円柱である。遠目からみると非常に滑稽である。近寄ってみると、それはゴミ箱であることがわかった。水色のゴミ箱の下部がヘルメットになっており、そのヘルメットからは黒い皮のベルトが付いていた。ベルトを頭の下でとめることにより、頭上にゴミ箱を固定しているのだ。それにしても意味がわからない。私は毎日この時間に中学校から帰っているが、こんな人は一度も見たことがない。夕暮れ時の商店街はそれなりに人が往来している。周囲の人は気付いていないのか、それとも無視しているのか。まったく気にも留めていない。好奇心に負けた私は、思い切ってその女性に声をかけることにした。
「すいません。」
女性が振り向く。
「はい。」
あまりに自然であるため、私は驚いた。
「その頭の上にあるものは何ですか。」
女性は一瞬止まり、困ったような顔を浮かべながら呟いた。
「今、少し時間ありますか。」
学校からの帰りなので、現在特に用は無い。優しそうな女性だったこともあり、少しならば大丈夫という旨を伝えた。
「そこの喫茶店に入ろうか。」
並んで歩き出したとき、なんだか気恥ずかしかった。周囲の人は私達のことをどのように見ているのだろう。年齢の差から、もしかしたら姉妹と思われているかもしれない。私は一人っ子であり、兄弟や姉妹に憧れている。しかし、頭にゴミ箱を乗せている姉は嫌だなと感じた。
二人並んで喫茶店に入店する。入店する際に入り口でゴミ箱がぶつかり、女性がよろめいた。困ったようにはにかみ、奥の席へと進んでいく。それをみて、ゴミ箱は実際に存在しているということに軽い驚嘆を覚えた。
「あなたもお気づきの通り、私は宇宙人です。」
着席した瞬間、女性は口を開いた。
いやいやいや、宇宙人って何?こっちはゴミ箱の話を聞きたかったんだけど。
「今、この宇宙にはゴミが増え続けています。」
おっ、それっぽい話が来た。
「地球人は宇宙的に見てもエコの意識が強く、優秀と言えます。」
うん。うん?
「私たちは宇宙船宇宙号の住人です。一人一人がゴミ問題に取り組むべきなのです。」
カッコイイことを言うが滑稽だ。なんでゴミ箱頭に乗せてんだ!そこの説明!
「だからあなたも、地球人代表としてゴミ問題を常に意識してね。私が言いたいのはしょれだけ。」
噛んだ!しょれだけて!いや、それだけて!ゴミ箱の説明!
そして女性と別れ帰路につく。
あの人はなんだったのか。かっこいいこと言ってたけど。
宇宙人って不思議。