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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
9/68

9、拒絶

翌朝、俺は早くからベッドの中で目を覚ましていた。

と、いうよりあまり眠ってない。

昨晩はあまりにも色んな事があった。赤川と吉岡のキスシーン、秋田の告白、そして夜の浜辺で出会った白拍子の海月。

しかも彼女の言った道理に合わない言葉。

彼女の言葉通りなら、彼女は平安時代の人という事になる。

でも俺は現代人だ。

彼女が平安時代からやってきたか、俺達が平安時代にタイム・トラベルしたかのどちらかだ。

確かにここが平安時代だと考えれば、このきれいな海も空気も全部つじつまが合う。

でもそんな事がありうるのだろうか?

もう一つ、こちらの方が可能性は高いと思うのだが、これは何かのアトラクションで、彼女は役者か何かだという事だ。

変わった設定だけど、現実にはタイム・トラベルよりはマシな考え方だろう。

あと思いたくはないけど、彼女は精神異常かなにかで、自分を平安時代の人間だと思いこんでいるという場合だ。

でも彼女はそうではないと俺には思えた。

柴崎が寝返りをうった。

もうこれ以上1人で考えている事はできない。柴崎なら何か知っているかもしれない。

吉岡と宇田川を起こさないようにそっとベッドから起き、柴崎を軽く揺さぶる。

うるさそうに顔をしかめ、こちらを見る。

「なんだよ」

「ちょっと話がある。起きてくれ」

柴崎は腕時計を見ると

「まだ6時前じゃねぇか、後にしてくれよ」

と俺に背を向けた。

「まだみんなに聞かれたくないし、最初におまえに確認しておきたいんだよ」

しぶしぶ柴崎は起きてきた。外に出て中央テラスのテーブルに座る。

「なんだよ、話って」

俺は昨日の出来事を話した。

柴崎なら何か知っているかと思ったのだが、彼も何も知らなかった。

そこに吉岡と宇田川も起きてくる。2人にも話した。

柴崎は「おまえ、その子にからかわれたんじゃないの?」と言う。

吉岡は黙っていたが

「いや、もしかするとそういう事もありうるかもしれないぜ。俺も何かここはおかしな点があると思っていた」

と言い始めた。

宇田川がそれを受けて

「うーーん、オマエの話だけじゃ何とも言えないけど、そう考えると話が繋がるかもな。もちろん、その子が精神錯乱という可能性も捨てきれないけれど。結局、その子にもう一度会ってみるか、柴崎の兄さんに会って話を聞いてみるしかないんじゃないか?」

とメガネを押し上げながら言った。

柴崎の兄さんには会えるかどうかわからないけど、そう話がまとまった所で朝食を取ることになった。

いつも何かと準備で遅い女子をそのままにして、俺と柴崎はフロントで斎藤さんを呼んでもらった。

吉岡は当然別行動を取りたいだろうし、園田もチャンスが必要だろう。

 斎藤さんが来るとさっそく、柴崎の兄さんに合せてほしいと頼んだ。

斎藤さんは困ったような顔をして

「どうしたの一体?」と聞く。

俺は何となく昨夜の事は言わない方がいいような気がして

「いえ、みんなでここはどのあたりなのか気になったので、聞いてみようと思って」

と答えた。斎藤さんは俺の顔を探るような目で見て

「うーん、柴崎さんのお兄さんは、大事な仕事の最中で会えないわ。ここには政府や財界の要人も大勢来ているし、何かと忙しいと思うの。だからその事は帰ってからゆっくり聞いて」

といなされる。

昨日から斎藤さんと一緒に泳ぐ約束を取り付けていた柴崎は、すぐにでも一緒に海へ行きたそうだったが、それはとりあえず午後からにしてもらった。

自転車を借りてまた東の端に言ってみた。

昨日と同じように崖を登ってみると、番小屋と兵士が見える。

俺は言った。

「もしここが平安時代だとしたら、あの兵士はリゾートから出る客を監視しているだけじゃなく、外からの盗賊なんかの侵入も防いでいるんだろうな」

宇田川もうなずき

「向こう側の兵士は平安時代の防人ってところだな。服装はいかにもそれっぽいけど。でもこれだけじゃ、ここが平安時代だなんて決めつけられないぜ。俺はまだどちらかというと、これはアトラクションの1つか、宮元が見た女の子が精神異常って説を取るけどね」と言う。

「それじゃあ、あの白拍子の一座のいる場所に行って、聞いてみようぜ」

俺は反対されたことにムキになり、崖を降りていった。

今度は別のスタッフを見つけて聞いてみる。

「昨夜の夕食で、ディナーショーに出ていた白拍子の人たちに会いたいんですが?」

そのスタッフも怪訝な顔をして

「白拍子の人?あの人たちは外部よりお呼びしている劇団の人達なので、今はリゾート内にいません」

と言って去ってしまった。

もうこの中にはいないのか・・・心にポッカリ穴が開いたような気がした。

もうあの白拍子の海月って子には、二度と会えないかもしれない。

そう思うと、どうしようもなくやるせなくなってきた。

なんでもっとあの時に、色々な事を話しておかなかったんだろう。後悔が胸をよぎる。

考えてみると、昨日の夜から俺は後悔ばかりしている。


コテージに戻るともう正午近くになっていた。

蜜本と秋田2人で退屈そうにしていた。

「あ、みんな、どこ行ってたのぉー。つまんなかったー」

と蜜本が言う。

「アカは吉岡君と2人でどっか行っちゃった。ソノちゃんはわかんないしぃ」

園田のことが少し心配だったが、俺にどうする事もできない。

秋田がいつの間にかにじり寄ってきていた。

「昼から2人でどっか行こうか?」

俺は生返事で「ああ」とか言ったけど、心は他の事を考えていた。

もしかしたら美月は従業員用の宿舎にいるかもしれない。午後はそっちに行ってみよう。

昼食はカフェテリアでパスタを食べる。

柴崎は斎藤さんが来るので浮かれている。

俺は斎藤さんが来ると引き止められそうな気がしたので、トイレに行くと言ってみんなから離れた。

単独別行動を取るつもりだ。

従業員用の宿舎は俺達のコテージの真北に当たる所、リゾートとパインコート駅の両方に隣り合った位置にある。

パインコート駅はフロントの真北の位置だ。

自転車に乗ってリゾートの一番外側を周回している道路を越えると雑木林なので、そこで自転車を降り草むらに自転車を隠す。

雑木林をぬけていくと簡単な柵があり、その向こうに従業員用の宿舎が見えた。

別にここには厳重な番小屋はない。

宿舎の様子を見た後、入り口を探そうと思って雑木林の中から周囲を回って行くと、途中で木製の高い塀に囲まれている所を見つけた。

ここには警備員がいる。

警備員が腰のトランシーバーを取って何か話すと、宿舎の中に入って行った。

今がチャンスだ。

俺はすばやく門の中に潜りこんだ。

しかし、木の格子になっている門には鍵がかかっている。

ぐずぐずはしていられない。俺は3m近い門をいっきに登り越えた。

木の影にいったん隠れて様子を見る。

大丈夫みたいだ。

この塀の中は大きな農家くらいで300坪ほどの広さだろうか。建っている家も板ぶきの平屋で農家屋敷のようだ。

井戸の近くで様子をうかがっていると、中から赤い着物の女の子が出てきた。

海月だ!

俺ははやる心を押さえて、そっと木の影から出て声をかける。

「こんにちは」

海月はビクっとして、思わず桶を落としそうになった。こちらを向く。

「あ、こんにちは、いきなり後ろから声をかけられるから、ビックリしました」

彼女も俺を見てにっこり微笑んだ。

「よかった、まだ居たんだね。もう帰ったってホテルの人から聞いたから」

海月はちょっと顔色を曇らすと

「え、うん、まだ私達も仕事があるから・・・。」

と語尾を濁した。

俺はその様子をあまり気にせず

「もう会えないのかと思ったよ、昨晩のあれっきりじゃ寂しいと思ってね。もっと海月さんと話がしたいと思って」

海月はあたりを気にしていた。

「私達、お客様とは個人的に話したりしないように言われているの。誰かに見つかったら怒られます」

と言うので、俺は仕方なくここから引き上げる事にする。

「わかった。それじゃあ今夜はどう?昨日と同じ場所で会えない?」

海月は突然怒ったように

「ダメ!今晩はダメ!」

と強い調子で言った。

昨日と違って、海月が俺をうとんじているように感じられた。

「何か用事があるの?」

彼女は最後に静かにこう言った。

「きっと、もう会わない方がいいと思います」

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