62、逃走
俺はベレッタを向けた。
柴崎が叫ぶ。
「よせ!ミズハだ!」
ミズハが1頭の馬を引き連れて、こっちに駆けてくる。
俺達の前で停まった。
「乗って!!牛人と兵隊が追いかけてくる!」
ミズハの後ろに宇田川、柴崎と吉岡が馬に乗る。
俺は言った。
「俺と柴崎が乗ってきた馬が、このすぐ先にある。俺はそこに走っていく。みんなもそこに行って海月の事を見てから先に行ってくれ!俺もそんなに遅れないはずだ」
柴崎たちはうなずいて馬を走らせた。
俺は川の方に戻り、高くなっている場所から様子を見てみる。
なるほどミズハの言った通り、正面から牛人と神主が乗った舟、川上と川下から兵士が乗った舟が追いかけてきている。
おおよそ20人はいるだろう。
俺は踵を帰して、最初に馬をつないだ所に走った。
茂みを抜ければすぐだ!
みんな待っていた。
海月までだ!
俺は怒鳴る。
「先に行けって言ったろ!」
柴崎が怒鳴り返す。
「彼女がイヤだって言うんだ。仕方ねえだろ。オマエもすぐに来ると思ったし。」
俺は馬にまたがる。
海月も俺の後ろに飛び乗った。
これでミズハと宇田川、柴崎と吉岡、俺と海月と、3頭の馬に乗ることになった。
突風で海月の編笠が飛んだ。
その時だ。
近くで見ていた農婦がわめいた。
「巫女様だ!生贄の巫女様だ!川に沈んだはずの巫女様がここにいる!こいつらが連れだそうとしているんだ!だれか、ここに巫女様がいるよ!!」
回りに散っていた村人達がどよめきだした。
マズイ。
俺達は馬を飛ばした。
早くゴムボートの所へ行かないと。
村人達が俺達の行く手を遮ろうとする。
柴崎が叫んだ!
「どけぇ!百姓ども!どかねぇと踏み潰すそ!!」
俺達は前をふさぐ人をかわしながら走る。
追っ手はもう川の方から、俺達に向かって走り始めている。
その時、吉岡が叫んだ!
「ちくしょう!無線機が使えない!!」
「何でだ?」
と宇田川が聞き返した。
「わからない。でもウンともスンとも言わねえんだ」
どうしてこうツイてないのだろう。
せっかく途中までうまくいっていたのに。
しかし後半は全て裏目に出ている。
「仕方ない。ともかくゴムボートの所に急ごう!ヤツラはすぐそこまで来ている。」
俺はそう言うと馬を急がせた。
ゴムボートのある最終脱出ポイントは、そんなに遠くはない。




