54、神主を脅す
俺は神主の方を向き直った。
俺の目も牛人に負けず劣らず赤かっただろう。
ひぃーっと、神主は声にならない悲鳴を上げる。
俺は近寄るなり、爪先で思いっきりみぞおちを蹴りあげた。
神主は身体をくの字に折り、何かを吐く。
さらに神主の横面を真横に蹴りぬいた。
うつぶせにふっ飛んだ神主は、頭を抱えてうめき回る。
下半身の袴は脱げ、汚らしい性器が露出していた。
それを思いっきり踏みつける。
彼は気絶した。
そして守り刀を抜いた。
今度こそ息の根を止めてやる。
宇田川があわてて俺の手を止めた。
「やめろ!宮元」
「止めるな!」
俺は叫んだ。
柴崎も前に回って、俺の腕を押さえる。
「冷静になれ!ここでコイツを殺すと、この地域全部の豪族が敵になるんだぞ。それに海月さんの一族が殺される事になる。そうならないために、ここまで来たんだろうが?」
俺は叫んだ。
「もう龍神祭りなんてどうでもいいだろう。どうせここまでやったからには、明日の祭りは中止だろう。このまま海月を連れて逃げればいい!」
宇田川が言った。
「何があっても龍神祭りは延期しないと言ってただろう。コイツはやらざる得ない。それにここで海月さんを連れて逃げて、彼女の一族が皆殺しにあったら、怨まれるのはオマエだぞ!」
それでやっと、俺は自分を押さえる事ができた。
「海月?」
彼女の方に近寄る。
まだ目の焦点は会ってないが、大分正気に戻ったらしい。
「大丈夫?」
彼女は麻薬か何かを少し飲まされたらしい、疲れたように笑うと
「大丈夫、宮元さんこそ平気なの?」
と聞いてきた。
俺は彼女を優しく抱きしめると、持ってきたケミカルライトを渡した。
「これを川の中に入ったら、真ん中で折り曲げるんだ。そうするとこの棒が光るようになっている。俺が水中を泳いで助けに行く。その時に目印になるんだ。その間できるだけ息を止めて我慢してて」
彼女の手にしっかりと握らせた。
彼女は、俺の顔とケミカルライトを交互に見て
「ありがとう、私のために。信じてたわ、きっと助けに来てくれるって」
「明日も必ず助けだす。待っててくれ」
彼女はコクンとうなずいた。
大粒の涙が流れだす。
「おい、神主が意識を取り戻し始めてるぜ」
柴崎が言った。
俺は神主の方に歩いていき、むき出しの性器に守り刀を浅く突き刺した。
悲鳴を上げて飛び起きる。
俺は言った。
「おい、オマエ。これ以上この娘に手を出したら、その時こそ命は無いからな。わかったか!」
すかさず柴崎が、俺の言葉に覆い被せるように言った。
「俺達は龍神様の家臣の者だ。おまえが立場を利用して、龍神様の花嫁を汚す行為に我慢しかね、こうして罰を下しにやってきた。重ねて申し付けるが、この娘に二度と手を出すでないぞ!」
驚いた神主はしきりに許しを請い、額を床にこすりつけた。
これでもうコイツは、海月に手を出さないだろう。
アソコは踏みにじられて赤むけている上、小刀で切れ目を入れてやったからな。
もしかすると一生使い物にならないかもしれない。
神主と牛人を外に出し、念のため海月に部屋の中から閂をかけさせた。
俺達は神社の外に向かう。
ふと宇田川に聞いてみた。
「そういえば宇田川、オマエ石の棍棒みたいので殴ったけど、何で殴ったの?」
「これだ。社の前に飾ってあった」
それは腕ほどの太さもある、石で掘られた男性器だった。
砕けて先の部分だけになっている。
柴崎が言った。
「子供を授かるように、神社にこういうのはけっこう多いんだよ」
俺達は笑いながら塀の外に出た。
外に出ると夢丸が、手下十名を引き連れてやってきていた。
さっきまでの経緯を話すと夢丸は憤慨して、これから中に入るという。
将門の名代として、巫女の館を護衛すると言うのだ。
俺達は夢丸に礼をいい、手下浦のキャンプに向かった。
後から夢丸も来ると言う。




